ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

競争的共存の優しさ:農民とスズメ

下の写真をご覧いただきたい。これはブンガマティの寺院前広場。一面に籾が広げられ,天日干しが行われている。そのただ中に,一人の女性が先にビニールをつけた長い竹竿をもって,じっと立っている。これは,いったい何をしているのだろうか?

130121a ■竹竿を持つ女性(2012-11-22)

あまりにも不思議な光景だったのでしばらく観察していたら,その女性は,籾をついばみにきたハトやスズメを追っ払っているのだということが分かった。とくにスズメはすばっしこいので,このような長い竹竿を持っているらしい。

これは印象的な情景だ。11月中旬のカトマンズ周辺では,いたるところで籾が干されており,見張り番(たいてい女性)がついている。この女性のような個性的な道具をもっている人は少ないが,スズメ,ハト,ニワトリなどを追っ払うのが仕事であることに変わりない。

しかし,これは仕事としては実に不効率,不経済である。籾を干している間中,見張っていなければならない。ちょっとでも持ち場を離れると,すぐ鳥たちが寄ってきて籾をついばむ。事実,いたるところで籾がついばまれているのを目撃した。

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■仏陀の慈愛の下で籾をついばむハトとスズメ / 籾をついばむニワトリ(ブンガマティ,11-22)

いくらネパールでも,ちょっと工夫し,網を張るなどすれば,そのような被害は防止できるはずだ。女性たちも見張り番から解放される。そんな簡単なことも分からないのかな? そう思って,少々,ネパール農業を軽く見ていた。

しかし,浅はかなのは,私の方であった。ネパール農民も,本気になれば,スズメ,ハト,ニワトリの完全シャットアウトなど,簡単に出来るはずである。それは,まちがいない。ところが,彼らはそうはしない。できるのに,しない。なぜか?

もちろん,推測にすぎないが,ネパールの農民は,収穫を鳥たちと分かち合い,共存を図っているのではないだろうか? 籾については,鳥たちと農民は競争関係にある。しかし,鳥たちも生きているし,また,たとえばスズメは害虫を食べ,ニワトリは卵を産み,あるいは人間の食料となってくれる。ハトは,実益はほとんどないが,そのかわり「平和」を伝えてくれる(食用になるハトもいるが)。だから農民は,食べられすぎないように追っ払いはするが,鳥たちの食い分は大目に見ているのだ。

つまり,農民の籾番は,鳥たちとの競争的平和共存が目的であり,農民の生きとし生きるものへの限りなき優しさの発現なのである。

経済的には,このネパール式農業は不効率きわまりない。一日がスズメ追いに費やされ,しかも時々はついばまれてしまう。しかし,その代わり,経済効率を追求してきた私たちが,無慈悲に見捨て,切り捨ててきたものが,ネパールではまだいたるところで受け継がれ,大切にされている。

推測,憶測かもしれない。読み込みすぎかもしれない。しかし,籾をついばむ鳥たちと,それを追い払いつつも容認している農民を見ていると,ほっと心和み,深く癒やされることはたしかである。よそ者の勝手な感傷にはちがいないが,自然との競争的平和共存の時代がかつてあったし,現にいまもネパールにはあることは,まぎれもない事実である。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/01/21 @ 20:19

カテゴリー: 社会, 経済, 文化

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