ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

カーター元大統領:救済者か布教者か?

1.カーター元大統領の訪ネ
カーター元アメリカ大統領が,3月29-31日,訪ネし,ヤダブ大統領やレグミ議長(首相代行),プラチャンダ(UCPN),スシル・コイララ(NC),JN.カナル(UML),ガッチャダル(MJF)らの党首,そして市民社会の著名なリーダーらと会見した。

多くが歓迎する一方,中には辛らつな批判をする人もいる。カーター元大統領あるいはカーターセンターは,ネパールにとって,救済者か,それともアメリカ教か何かの布教者なのか?

130403 ■カーター夫妻(Carter Center HP)

2.ノーベル平和賞受賞者としてのカーター元大統領
ジミー・カーター(88歳)は,第39代大統領(1977-81)として,またカーターセンター(設立1982年)の活動を通して,世界の平和・人権・民主主義のために貢献してきたとして,2002年,ノーベル平和賞を授与された。

▼ノーベル平和賞授与理由
大統領として,イスラエル・エジプト紛争を調停した。また,カーターセンターは,紛争解決,人権保障,選挙監視,途上国開発に大きく貢献した。「カーター氏は,紛争は可能な限り国際法,人権尊重,経済発展に基づく仲裁や国際協力を通じて解決しなければならないとの諸原則を堅持してきた。」(共同,2002-10-11)

▼秋葉広島市長メッセージ(2002年10月17日)
「被爆地ヒロシマを代表し,貴殿のノーベル賞受賞をお祝い申し上げます。」

3.カーター元大統領とネパール
カーター元大統領は,ネパールについても,特にヒンドゥー教王国崩壊後,関心を高め,選挙実施や人権保障について助言や援助を行ってきた。2008年選挙の時は,選挙監視団を派遣し,報告書を出している。

今回の訪ネに先立って,1月8日,カーターは,カトマンズ・ポスト紙に「ネパール和平には選挙が必要」と題する文章を発表(カーターセンターHPにも転載),次のように述べた。

「残念なことに,選挙が2013年11月あるいは2014年春実施ということになれば,この間12ヶ月以上も,選挙されていない政府がつづくことになる。」そこでーー
  (1)選管人事を進めよ
  (2)選挙準備を進めよ
  (3)有権者登録を進めよ
  (4)選挙の方法を決めよ
  (5)選挙区画の必要な修正をせよ
  (6)選挙実施行政機構を整備せよ

選挙民主主義者カーターの(米国の)面目躍如といったところ。この考えに基づき,今回の大統領や議長(首相代行),各党・各界リーダーらとの会見においても,彼は,カーターセンターからの選挙援助と監視団派遣を提案した。政府や主要諸党は,この申し出を前向きに評価した。

4.救済者としてのカーター
このようなカーターのネパール関与を肯定的に評価し,積極的な援助を期待するのは,たとえば,自らをリベラル進歩派と考えるKC.ゴータム――
  Kul Chandra Gautam, “Jimmy Carter and Nepal,” Republica, Mar27-28, 2013.

2日連載の長い文章において,KC.ゴータムは,カーターとカーターセンターに対し,積極的な介入と支援を,以下のように要請している。

「カーターセンターがネパールに深く関与し,またジミー・カーターが個人的にも我が国の平和プロセスに大きな関心を持たれていることを知り,私はたいへん嬉しかった。カーターの選挙監視,紛争解決,そして『平和を求め,疾病と闘い,希望を構築するために』は,世界的な経験に裏付けられ,信頼されている。そのカーターの賢明な助言は,ネパールにとって極めてタイムリーなものであり有益なものであろう。」

カーターセンターは,卓越したネパール分析を発表してきた。平和プロセス,制憲議会選挙,憲法制定,地方平和委員会,土地改革と没収土地返却,アイデンティティ政治などについて。

「特に,選挙管理委員会に関するレポートと勧告は,洞察に富むものだった。ジミー・カーターが,ネパールをはじめ,世界のいたるところで平和,民主主義,開発を促進するため崇高な努力をされてきたことを,全面的に支持し,深く信頼している。たしかにカーターを偏狭なアメリカ主義者・キリスト教代弁者と見る人もいるが,私には,このような皮相な見方は受け入れられない。カーターは,米政府の政策に反対する立場を幾度か勇敢にとったし,キリスト教会については,少女や女性にたいする差別を正当化したとして,教会との関係を公に拒否し切断した。これは事実であり,私はそれを尊敬している。」

今回のカーター訪ネの意義を,ゴータムは次のような観点から説明している。
  (1)制憲議会選挙の準備。選挙は民主主義にとって最も重要。
  (2)連邦制を新憲法の中に書き込むこと
  (3)経済発展,法の支配,人間の安全保障の促進
「カーターが,ネパールで会談する人々に,これらの課題について率直に語り,明確なメッセージを与えてくれることを期待する。」

そして,具体的な要望としては――
  (1)制憲議会選挙の監視
  (2)地方選挙の実施勧告。地方選挙は15年間実施されていない。
  (3)人権保障,特に「真実和解委員会」の適正な運営。マオイストや軍にたいする全面免責は認められない。加害者を処罰し,正義を実現するための支援をしてほしい。
  (4)包摂民主主義を促進し,社会的公正を前進させること。
  (5)連邦制の実現。「私は,カーターが,その世界的経験に基づき,ネパール人にこう助言てくれると確信している――すなわち,平等,包摂参加,社会的公正へのわれわれの正当な要求は,アイデンティティ連邦制と同一視されても混同されてもならないということである。」
  (6)経済の発展と平等の促進

130403a ■カトマンズのカーター元大統領(Carter Center FB)

5.布教者としてのカーター
これに対し,カーターやカーターセンターの活動に懐疑的なのが『テレグラフ』の「ジミー・カーター来訪,疑惑の旅」(Telegraph, Feb.18, 2013)

「第39代米大統領ジミー・カーターは,非キリスト教世界へのキリスト教宣教活動で知られている。そのカーターが,2013年3月28日,また訪ネするとネパール外務省が発表した。

ジミーは,2008年制憲議会選挙の時,自ら選挙監視を買って出て訪ネした。その制憲議会は,2012年,憲法をつくることなく解散してしまった。

思い起こしてみよう。カーターは,制憲議会選挙がまだ終了していないのに,ソルティーホテル記者会見において,早々と,選挙は『自由で公平』に行われたと,宣言した。

また,各種報道によれば,1982年設立のカーターセンターは,ヒンドゥー王国崩壊後,ネパールにもその活動を広げ,直々の指導の下で,密かに,この国にプロテスタント・キリスト教を宣教してきた。実に怪しい訪ネだ!

ネパールのコミュナル平和にお慈悲を,ジミー!・・・・

カーターが,周縁化された諸集団の人々とも会い,イエス礼拝を説くかどうかまだわからないが,識者によれば,少なくとも小政党指導者たちに圧力をかけ,新憲法で改宗勧誘を合法化させようとすることは,確かだという。

ともあれ,カトマンズへようこそ。客人は限度をわきまえよ。ネパールは,まだ孤児にはなっていない。」

『テレグラフ』は,『人民評論』と同じく,保守派メディアだから,多少,割り引くとしても,巷にこのようなカーター批判が少なくないこともまた,事実である。

6.外に援助を求める不幸
救済者であれ布教者であれ,あるいはカーターであれ誰であれ,援助を外に求めざるを得ないのは,ネパールの不幸である。援助者が悪人であったり援助策が誤りであれば,こんな悲惨なことはない。しかし,たとえ仮に援助者が善人,援助策が正しかったとしても,これはもともと自立精神を危うくするものであり,たとえ痩せ我慢であれ,可能な限り援助の申し出は断るべきであろう。

幕末維新の日本が,多少,誇れるのは,西洋人を自ら厳しく選考し「お雇い外人」として雇用したこと。幕末日本と西洋との落差は,現在のネパールと先進諸国との落差の比ではないが,それでも福沢諭吉の言葉を借りるなら,「独立自尊」を貫こうとした。のちに日本は本来の「独立自尊」から外れ,視野狭窄,夜郎自大に堕し破滅したが,「一身独立して一国独立す」の気概そのものは,個人にとっても国民と国家にとっても忘れられてはならないことである。

先進諸国は,ネパールの「独立自尊」を尊重できないのなら,援助は断念すべきであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/04/03 @ 22:30