ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

カーターセンターと米太平洋軍とネパール(1)

このところ,ネパールにおいてアメリカの動きが活発化する気配が感じられる。一つはカーター元大統領とカーターセンター,もう一つは米太平洋軍。

1.カーターセンター:世界戦略としての人権と民主主義
カーター元大統領は,先述のように,3月29日~4月1日,ネパールを訪問し,制憲議会選挙の早期実施を勧告し,選挙支援と選挙監視団の派遣を申し出た。他国はおそらく熱が冷め,それほど積極的には支援しないだろうから,次の選挙は米国(およびインド)の応援による選挙となる公算が大だ。

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 ■カトマンズ投票所のカーター夫妻/高地敏感地帯の選挙監視員/エベレスト山麓の選挙監視員(カーターセンターHP)

それとの絡みで注目されるのが,カーター人権外交。カーターがネパールで人権尊重を唱えれば,当然,チベット問題に触れることになる。

事実,カーターは,カトマンズで4月1日,中国政府がネパール政府に圧力をかけ,チベット難民を弾圧させている,と批判した。ロイターによれば,チベットからの脱出者は,これまでは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に引き渡されていたが,中国の圧力により,国境付近で「嫌がらせを受けている(facing harassment)」という。曖昧な表現になっているが,実際には,脱出に失敗し拘束されたチベット人は「嫌がらせ」くらいでは済まないだろう。 以前からしばしば指摘されているように,中国官憲はネパール側への越境取り締まりですら,行っているのだ。

ネパール国内のチベット系住民の弾圧も,中国政府の要請(圧力)を受け,日常的に行われてきた。マオイスト政府も,もちろん他党以上に熱心にチベット系住民を弾圧した。この2月13日には,ドルプチェン・ツェリング(25歳)がカトマンズで焼身抗議死を決行したが,ネパール政府は遺体の引き渡しを拒否し,密かに,どこかに埋めてしまった。

このように,チベット問題は,中国にとって,おそらく最も触れられたくない問題の一つであろう。カーターは,そのチベット問題に,ネパールで言及した。短い発言だが,たちまち世界中に配信され,大きな反響を呼んでいる。

人権と民主主義は,いわずと知れたアメリカの”Manifest Destiny”であり,外交の武器でもある。いずれも普遍概念であり,これらを振りかざされたら,たいていの国は恐れ入らざるをえない。中国にとっても,これらは軍事力による威嚇以上に対応が難しく,神経をとがらさざるをえないだろう。

カーターは,中国の目と鼻の先のネパールにおいて,そのチベット問題に言及した。これが,米国世界戦略のための熟慮された政治的発言であることはいうまでもあるまい。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/04/07 @ 20:05