中印覇権競争とプラチャンダ外交(2)
2.中印の覇権競争
ネパールを挟んで対峙する中国とインドが,すでに世界の大国であることはいうまでもない。21世紀は,超大国中印の時代となるであろう。
先に高度経済成長を始めた中国は,いま尖閣,南沙諸島など,あちこちで大国主義的ナショナリズム攻勢に出ているが,これは中印国境においても例外ではない。その一つが,カシミール東部。
日本メディアの報道では,4月15日,中国兵約50人が、突然,カシミール東部の中印実効支配境界線から侵入,約10kmインド側に入ったところにテントを張り,標識を設置した。これに対し,インド側もそこから300mのところに兵を進め,野営地を設置し,にらみ合っている。
しかし,この日本報道は,少し不自然であり,事実に反するようだ。いかな中国といえども,何の口実もなしに兵を進めたりはしない。尖閣の場合も,島購入などを仕掛けたのは石原東京都知事であり,結局,民主党政府が尖閣を国有化した。中国側の警告を無視し,先に大きく現状変更をしたのは日本であり,中国側はそれを絶好の口実に対抗措置――いささか過剰だが――をとっていると見るべきであろう。カシミールでも,先にインド側が不用意に国境付近で兵力増強やインフラ整備などに着手,これに中国側が対抗措置を執ったということのようだ(People’s Review, May1)。
ただし,中国側の大国主義的攻勢は事実としても,国境紛争などの場合,たいていどちらにもそれなりの言い分があり,明快な白黒判定は難しい。できるだけ口実を与えず,それでも紛争となった場合には,相手の意図を慎重に探り妥協により実利をとるのが,現実的である。カシミールにおける中印も,痛み分けで,結局,5月5日夜,両国の実効支配線内に兵を撤収した。
いずれにせよ,中印はいたるところで覇権競争を激化させており,その主戦場の一つとなりつつあるのが,両国に挟まれたネパールなのである。
■南アジアの国境紛争(The Economist, Feb8,2012)
3.中国のネパール進出
ネパールは,伝統的にインド勢力圏内にあり,中国もこれまでは基本的にそれを認めてきた。
ところが,この数年,中国の対ネ政策は積極的な影響力の行使へと,大きく変化してきた。政治家など有力者や要人を次々と中国に招待し,学生多数を留学させる一方,ネパール国内でも孔子学院を展開し,中国フェアなども大々的に開催している。いたるところに中国商品があふれ,あちこちで中国企業がビルやインフラ建設を進めている。すでに中国語は,英語の次に学びたい人気言語になっており,日本語などもはや相手にもされない。
この中国のネパール進出に,インドは神経をとがらせている。産経(5月1日)によれば,ネパール各地の放送局が反インドやチベット亡命者批判の番組を放送し始めたため,インド政府は高出力放送局を設置し対抗せざるをえない事態になっているという。
中印どちらにも言い分はあろうが,全体的に見ると,ネパールにおける中印関係の現状を変えつつあるのは,やはり昇竜,中国である。
■「反印キャンペーン」(India Today, Nov27,2012)
谷川昌幸(C)
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