ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

中印覇権競争とプラチャンダ外交(4)

6.プラチャンダの訪中
(1)中国のネパール接近
中国がネパールをこれまで以上に重視していることは,間違いない。アジア太平洋研究所Wang Hong-wei教授は,こう述べている(ekantipur, Apr22)。

「プラチャンダは,中国新指導者習近平と会った南アジア初の指導者となった。これは,北京が何を重視しているか,よく示している。」人民大会堂での会談は,極めて友好的に進められた。「この訪問は,戦略的に重要なものだと思う。」

ネパールが重要になったのは,四川大学Zhang Li教授もいうように,チベット問題と南アジア進出のためである。「北京は,ダハール訪中を重視している。というのも,ネパールは,チベット問題にとっても,また南アジアへの中国進出にとっても,地政学的に重要だからである。」(ibid)。

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 ■プラチャンダ議長と習近平主席:人民大会堂,4月18日(中国外務省HP)

(2)チベット問題
中国がネパールを重視する直接の最大の理由は,チベット問題である。新華社(4月19日)は,こう伝えている。

「[習近平主席は]ネパール側が,長期にわたり一つの中国政策を堅持してきたことを高く評価した。」

「プラチャンダ議長は,ネパール側が,一つの中国政策を堅持し,習近平氏を総書記とする中国共産党中央の指導の下で中華民族が偉大な復興を実現するという中国の夢が必ず実現できると確信している,と表明した。」

プラチャンダは,このような中国側の「一つの中国」要求を十分理解した上で,すかさずそれを経済援助と結びつける。

「ネパールの繁栄こそが,一つの中国政策を効果的に促進し,チベットにおける中国の安全保障に寄与することになるだろう。」(ekantipur,Apr22)

これを受け,中国現代国際問題研究所Hu Shisheng所長も、こう述べている。

「安全保障と経済発展は,相互に関連づけられることにより,促進される。ネパールを含むこの地域全体が発展すれば,安全保障上の脅威はなくなるであろう。」(ibid)

プラチャンダは,チベット問題対処と引き替えに,ダムや道路や空港の建設,観光開発などへの中国援助を要請したのである。

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 ■豊かで幸せな新チベットと貧しく不幸な旧チベット(在ネパール中国大使館HP)

(3)中印ネ3国協定
さらにプラチャンダは,「中印ネ3国協定」も提案している(The Hindu,Apr27)。

「ネパールは,地政学的位置あるいは地理からして,隣の両大国との協力によってのみ発展し,独立を守りうる。地理に規定されたこの歴史的真理と政治発展を考えるなら,3国協定こそが,3国すべての利益となると,私は考える。が,これはネパールよりもむしろインドと中国にとって,利益が大きいであろう。」

中印等距離外交ということだろうが,ネパールは伝統的にインド勢力圏内であったので,中国からすれば,これは願ってもない提案ということになる。

マオイストは,ヘトウダ第7回党大会において,人民戦争・文革路線からの転進を宣言し,中国接近への障害をなくした。プラチャンダ自身,「中国共産党の今の政策から学ぶべきだ」と明言している(The Hindu,Apr27)。今後,中国援助による巨大ダム建設,ポカラ空港建設,ラサ=カトマンズ=ルンビニ鉄道建設,南北縦断4道路建設,ルンビニ大開発等が具体化していけば,プラチャンダ利権はますます拡大・強化されていくだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/05/10 @ 10:48