ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

債務奉公少女,カムラリ

元カムラリが,ダン郡やカトマンズで激しい抗議活動を始めた。ダン郡庁舎前では,6月3日,50人以上が逮捕され,カトマンズではシンハダルバール(政府庁舎)前で抗議していた約70人を警官隊が攻撃し,10名が重傷を負った。
 [参照]年3000円で売られる少女,カムラリ

カムラリ(kamlari)とは,債務奉公少女のことであり,カマイヤ(債務労働者)の少女版。西部のダン,バンケ,バルディヤ,カイラリ,カンチャンプルのタルー族が多く,たいていチョーダリ姓。カマイヤは,「カマイヤ労働禁止法(2002年)」で禁止されたが,元カマイヤ,あるいはカマイヤでなくても地方農民は貧しく,娘を育てられない。そのため,娘が5~7歳になると,借金のカタとして,あるいは食い扶持を減らすため,地主や都市富裕家族の家に奉公に出す。

130606 ■バンケ,バルディヤ,カイラリ,カンチャンプル

カムラリは,奉公先に恵まれれば,実の子に準ずる扱いを受けるが,実際には,そのようなことはまれだ。たいてい酷使され,しかも女の子だから,性的虐待を受けることも少なくない。
 ・食事は,後回し
 ・寝るのは台所か小部屋
 ・休みなし。掃除,洗濯,子守,家畜の世話など
 ・学校へは,多くの場合,行けない
 ・雇用主家族の男性による性的虐待
 ・レイプで妊娠したら,親元へ戻すか強制堕胎
 ・殺害
全体の人数ははっきりしないが,元カマイヤは2万家族,5~18歳の子供は5万7千人位だそうだ(2001年)。この数字からして,カムラリもかなりいると見るべきだろう。

カムラリは,明白な人権侵害であり,禁止する法律はある。「カマイヤ労働禁止法(2002年)」,「児童労働禁止法(2000年)」,「人身売買禁止法(2007年)」など。また,最高裁も,2006年,カムラリ違法判決を出している。しかし,他の場合と同様,これらの法律や判決は名のみで,カムラリは事実上,放置され,表沙汰になっただけでも,この5年間で次のような事件が起きている(Republica,Jun4)。
 ・カムラリの不審死 5
 ・カムラリの妊娠 11
 ・カムラリの失踪 22
警察は,これらの事件についてほとんど捜査せず,家族への補償もない。

このような背景があるところに,この3月27日,ラリトプルのユバラジ・ポウデルの家でカムラリとして働いていたスリジャナ・チョーダリ(12歳)が,台所で焼死した。台所には外から鍵がかけられていたという証言もあるが,警察はきちんと捜査しようとせず,「自殺」で済ませようとした。そのため,元カムラリが怒り,捜査と犯人処罰そして損害賠償,さらには教育,職業訓練など,積極的なカムラリ救済策の実行を要求する抗議運動を始めたのである。

カマイヤやカムラリ,あるいはそれに準ずる奉公労働は,雇用主家族の在り方にも深甚な影響を与える。そのような家族では,主人一家と奉公人は,身分が全く異なるからである。

ネパールの中・上流階級の人々を見て驚くのは,使用人や目下の人々の扱いがごく自然で,うまいことである。「平等社会」の日本人は,頼み事や命令をするとき,おどおどしがちだが,ネパール人の多くは男性であれ女性であれ,そんな気配はみじんも見せない。平常心で,堂々と指図する。初めは,どうしてかなと不思議だったが,いくつかの家族を見て,その謎が解けた。奉公人を使っている家では,たとえ幼児でも,奉公人とは身分が違い,最初から命令し使う立場にある。幼児の頃から,上下の身分関係になれ,日本人のように身構えることなく,ごく自然に目下の者を使う習慣が体得されるのだ。

これは,ネパール社会の基底にある文化の一つだが,カムラリの要求がもっともだとすれば,こうした身分関係を当然の前提とする文化の維持は,もはや困難となるであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/06/06 @ 22:12