権力乱用調査委員会(1):電力公社捜査
権力乱用調査委員会(CIAA:Commission for the Investigation of Abuse of Authority, अख्तियार दुरुपयोग अनुसन्धान आयोग) は,憲法設置機関(後述)。このCIAAの活動が,このところ目につく。八面六臂,いたるところに踏み込み,権力乱用を捜査し,容疑者を逮捕,特別法廷(後述)に起訴している。
このCIAAの大活躍には,拍手喝采もあれば,権力乱用だとの皮肉な見方もある。他の途上国同様,ネパールも汚職天国。それを正すには,多少強引でも,CIAAのような憲法設置機関による荒療治も必要という意見は,国内外に少なくない。しかし,その一方,現在は議会も正式内閣も存在せず,最高裁判所長官と元官僚が非政党暫定内閣を組織し,国政を担当する例外状況。その正統権力不在のドサクサにまぎれ,CIAAが強権行使を闇雲に拡大していくと,CIAAそのものが専制化する恐れもある。
以下では,昨今のCIAAの活動と憲法上の位置づけを分析することによって,ネパール国家社会の健全な発展のためCIAAはどのような権力監視活動をすべきかについて考えていくことにする。
1.CIAAの強制捜査
この数ヶ月,CIAAは政府諸機関から大学,病院,協同組合(cooperative, सहकारी),そして国内企業から外国企業にいたるまで,権益に関与するところをしらみつぶしに調査している。たとえば――
(1)ネパール電力公社(NEA)変圧器汚職事件
この事件については,私自身,思い当たるところがある。昨年末,カトマンズ郊外の友人宅に行ったとき,照明から冷蔵庫まで家電製品の多くが壊れていた。どうしたのだと聞くと,突然,火花が出て壊れたとのこと。このところ電圧変動や過電流が激しく,こうしたことが時々あるそうだ。このときは,それは大変だなぁ,というくらいにしか思わなかったが,CIAA捜査のおかげで,それはどうやら欠陥変圧器のせいらしいということがわかった。
新聞報道によると,ネパール電力公社(NEA:Nepal Electric Authority,नेपार विघुत प्राधिकरण)は,中国のHSE(Hubei Sunlight Electric)から,この2年間で変圧器1275台を購入した。ところが,変圧器の漏電,発火,爆発が続いたので調査すると,本来なら銅線のところにアルミ線が使用され,そのため故障が続発したことが判明した(Republica,Sep.1)。HSEは,中国湖北省最大の電力関係企業であり,このような粗悪品を輸出するとはにわかには信じがたいことだが,すでに全製品をHSE側に返品したというから,事実なのだろう(Karobar Daily, Aug.24)。
欠陥変圧器は,これだけではない。2006~2012年輸入の変圧器6000~6500台もまた,粗悪欠陥品らしい。 Karobar Daily(Aug.24)によれば,製造元は次の5社。
▼Hubei Sunlight Electric Co Ltd (China)
▼Shenyang Dongneng Electricity Equipment Company Ltd (China)
▼SVR Electrical Pvt Ltd (China)
▼Hubei and Nigwo AUX Hightechnology Company Ltd (China)
▼Sahabhant Electric Company Ltd (Thailand)
発電所不足だけでなく,これらの欠陥変圧器によっても,ネパールはいま深刻な電力不足に陥っている。
CIAAは,こうした欠陥変圧器が長期にわたり大量に輸入されてきたのは,輸出・輸入関係者が共謀し不当利益を得てきたからだと考え捜査を開始,この8月から容疑者を次々と逮捕し,CIAA拘置所に勾留した。そして,8月25日,NEAの総裁(逮捕時)ら幹部22人とHSE(Hubei Sunlight Electric)の4人(うち中国人3人)を,欠陥変圧器2000台調達により4億1千万ルピー以上を横領した罪により,特別裁判所(後述)に起訴した。有罪となれば,NEA職員らは10年,HSE社員らは2年の禁固刑(Kathmandu Post, Aug.26; Himalayan, Sep.1; Republica, Sep.1)。
NEAは,CIAAによる総裁以下幹部職員大量逮捕により,経営危機に瀕していいる。NEAとすれば,予想もしていない非常事態であろう。が,シュリダール・サプコタCIAA報道官は,「それは,われわれの関知せざるところ。政府が何とかするだろう」と冷たく突き放す(Himalayan, Sep.1)。NEAに汚職が蔓延していたことは事実だろうが,それにしてもCIAAの権力行使は強引だ。多少,不自然と見えなくもない。
■電柱とヒマラヤ(キルティプル,2012.11)/高層マンション建設と送電線(パタン,2012.11)
谷川昌幸(C)
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