ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

権力乱用調査委員会(3):強権行使の二面性

2.CIAAの強権行使の二面性
(1)広範な調査管轄権
CIAAは,司法と軍を除く国家統治の広範な領域を調査対象としている。前述のように,この数ヶ月だけでもCIAA捜査は各方面に及んでいるが,それに留まらず,今後さらに捜査を拡大していく方針だという。捜査予定の主な部署は,以下の通り(機関名は仮訳)。
 ・土地改革省 ・税務署 ・郡庁 ・交通局 ・武装警察 ・警察 ・ネパールテレコム ・エネルギー省 ・技術職業教育委員会(CTEVT) ・内務省 ・負債裁定所 ・医療委員会 ・工業技術委員会 ・都市開発事務所 ・灌漑省 ・農業省 ・カトマンズ盆地飲料水会社 ・トリブバン国際空港事務所 ・民間航空局 ・農業開発委員会 ・BP.コイララ保健機関,BP癌病院(チトワン) ・ノーベル医科大学 ・トリブバン大学 ・プルバンチャル大学 

130909■CIAA調査対象者(6月末,Himalayan, Jun.30)
(参照)ekantipur, Jun28; Anticorruption Nepal, Jul.1; Himalayan, Jun.30 & Aug.23; Republica, Aug.24; Insight Nepal, Aug.29.

(2)喝采と批判
CIAAの権力乱用摘発は,統治清潔度139位(176国中,2013年度)のネパールにあっては,庶民をスカッとさせるものであり,拍手喝采を浴びている。

CIAAは,この10年ほどめぼしい活動をしてこなかった。たとえ捜査し起訴しても,たとえば2006年2月~2008年11月の36件のうち35件がそうであったように,あれこれ不透明な理由で,その多くが特別法廷において却下され,無罪とされてしまっていた(Karobar, Jul.3)。

ところが,2013年5月,Lok Man Singh Karkiが委員長に就任すると,CIAAは積極的に活動するようになった。カルキ委員長は,就任後すぐ,役得のあるとされる職をまず捜査ターゲットとすると述べ,「脱税や横流しを助長するような役人には一切容赦しない」と宣言した(Insight Nepal, Aug.29)。

このようなカルキ委員長の断固たる態度や,その下でのCIAAの積極的な権力乱用調査活動は,各メディアで賞賛され,たとえばカンティプル紙には「砂漠の慈雨だ」といった声が寄せられた。また日本在住のシャンブ・タパさんも“権力乱用で蓄財した人びとを直ちに捜査し拘置すべきだ”とフェイスブックに書いているという(Khabar,Aug.25)。

カバラ記事はこう結ばれている。「社会的慣習や文化を口実に権力乱用を続けてきた人びとが,CIAAの動きを警戒するようになった。あらゆる部署の腐敗をCIAAが監視し続けてくれるなら,法の支配は確立されるだろう,と人民は期待している」(Khabar,Aug.25)。

しかし,その一方,CIAAの強権行使拡大には批判もある。インサイトネパール記事「CIAAの動きは税務署に風波を立てている」(8月29日)によれば,最近,各役所で権限と役得の多い職からそうでない職への移動希望が続出している。ある職員は,カルキCIAA委員長就任以前に,コネを使い,やっとの思いで役得のある収税関係職に就いたが,事情が一転,またコネを使い,今度は役得のない下位の職への移動を必死になって働きかけているという。このような職員が他にもたくさんいる。CIAAカルキ委員長の腐敗一掃キャンペーンが,役所にパニックをもたらし,役人たちを,仕事そっちのけで,一時避難へと駆り立てているのだ。

このような状態だから,税務調査に当たっても,厳しく調べることができない。もし厳しくすると,恨みを買い,CIAAにあることないこと密告されるからだ。CIAAの活動が税務署員を萎縮させ,結果として,税収の減少となっている(Insight Nepal, Aug.29)。このような士気の減退は,他の役所にも見られる。

また,これまでのCIAAの権力乱用調査は,多くの場合,有力政治家たちには及んでいない。むしろ,CIAAは政党や政治家の争いに利用されがちであった。

結局,これは権力乱用をチェックする権力乱用委員会の権力乱用を,誰が,どのような方法でチェックするか,という問題に帰着する。これは,近代的な「法の支配」や合理的な官僚制の未成熟なネパールにとっては,非常に難しい課題であるといってよいだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/09/09 @ 09:22