「敗北」から学ぶ:龍應台『台湾海峡1949』
9月18日は柳条湖事件(1931年,関東軍自作自演謀略事件)の日。思い立って龍應台『台湾海峡1949』を読んでみた。
●龍應台『台湾海峡1949(大江大海1949)』原著2009年;天野健太郎訳,白水社,2012年
4百頁余の大著であり,読み通すのはたいへんだが,内容は衝撃的。国民党政府軍,人民解放軍,そして日本軍,ソ連軍などが相互に,また住民に対して,何をしたのかが,多くの具体的な証言により,リアルに語られている。目をふさぎ,耳を覆いたくなるが,いまや「戦前(次の戦争の前)」を生きる日本人,特に若い世代の人びとにとっては,必読文献の一つといってもよいだろう。
著者は「本書は文学であって,歴史書ではない」(8頁)といい,事実,資料解釈などに批判もあるようだが,本書の基本的立場は一貫している。冒頭の詩で,著者はこう問いかけている――
彼らはかつて,あんなに意気盛んで若々しかった。しかし,
国家や理想のため突き動かされたものも,
貧困や境遇のため余儀なくされたものも,
みな戦場に駆り出され,荒野に餓え,凍え,塹壕に死体を曝した。
・・・・
彼らは「敗北」で教える―
本当に追求すべき価値とは何なのか。
これは,とりわけ今の「戦前(次の戦争の前)」を生きる日本人への問いかけでもある。それぞれが,それぞれなりに答えるための手がかりは,目を背けさえしなければ,本書のそこかしこに見つかるであろう。
[本書目次]
第1章 手を離したきり二度と・・・・父と母の漂泊人生
第2章 弟よ,ここで訣を分かとう・・・・少年たちの決断
第3章 私たちはこの縮図の上で大きくなった・・・・名前に刻み込まれた歴史
第4章 軍服を脱げば善良な国民・・・・包囲戦という日常
第5章 われわれは草鞋で行軍した・・・・1945年,台湾人が出迎えた祖国軍
第6章 フォルモサの少年たち・・・・捕虜収容所にいた台湾人日本兵
第7章 田村という日本兵・・・・ニューギニアに残された日記,生き残った国民党軍兵士
第8章 じくじくと痛む傷・・・・1949年の後遺症
谷川昌幸(C)
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