ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

権力乱用調査委員会(6):CIAA法1991(ⅱ)

(3)公的機関と公職保有者
CIAA法で職権行使を規制されるのは,「公的機関」の「公職保有者」である。
                                                   
[1]公的機関(सार्वजनिक संस्थ)
CIAA法は,第2条(ङ)で「公的機関」を次のように定めている。
  政府が,完全に又は部分的に所有又は運営する会社,銀行又は委員会。政府が設立し,完全に又は部分的に政府の統制下にある委員会,組織,機関(प्रधिकरण),事業体(निगम),アカデミー,ボード(वोर्ड),センター,パリサド(परिषद)および他の同種の組織。
  国立の又は運営費のすべて若しくは一部を国家が負担する大学,キャンパス,学校,調査機関および他の学術・教育機関。
  「地方自治体法2055(1999)」により設立された地方機関。
  政府資金により運営される機関。
 ⅰ~ⅳの諸機関が完全に又は部分的に保有もしくは運営する機関。
  ネパール官報で「公的機関」と公布された他の機関。

[2]公職保有者(सार्वजनिक पद धारणा गरेको व्यक्ति)
「公職保有者」は,上記「公的機関」の職務権限を有する者,あるいは「公的機関」に勤務するすべての者(第2条(घ))。 ただし,暫定憲法第120条の規定により弾劾裁判によるとされる憲法設置機関の公職者,および裁判官,国軍軍人らは除外される。

(4)不正行為としての権力乱用
CIAA法の規制対象となるのは,以下のような「腐敗(भ्रष्टाचर)」や「不正行為(अनचित कार्य)」としての「権力乱用(अख्तियार)」である。CIAA法は,「不正行為」を次のように定義している(第2条(छ))。

[1]不正行為(अनचित कार्य)
  権限内のことをしない。権限外のことをする。
  定められた手続きを無視して決定や命令を出す。
  違法な目的のため権限行使。
  裁量権限の恣意的行使。
  他機関の職務の妨害。あるいは他機関に圧力をかけ不正行為をさせる。
  すべき業務をしない。あるいは,自分ですべき業務を他機関に回し責任を回避する。
  手放すべき職務権限を手放さない。
  部下や目下の者を,圧力や利益供与により,自分自身の利益のために使う。
  職権により得た免責,便宜,特権の乱用。

[2]不正行為の告発
CIAAへの不正行為の告発は,公共の利益の侵害の場合は,誰でも,いつでも行うことができる。また,不正行為による被害は,被害者が被害に気づいたときから35日以内にCIAAに訴えることができる(第8条)。

[3]不正行為の告発受理と処分
CIAAは,不正行為告発の受理後7日以内に告発者を召喚する(第8条)。

CIAAは,告発された不正行為について,後述のような方法で調査・捜査し,不正行為の事実を認定したなら,それに関わる機関に対し,不正行為者の処分を勧告できる。

CIAAの勧告を受けた機関は,不正行為者に対する処分を決め,3ヶ月以内にそれをCIAAに通知する。もし処分がなされないときは,CIAAが当該機関に対し,法律の定める処置をとる(第12条)。

(5)腐敗行為としての権力乱用
[1]腐敗(भ्रष्टाचर)
「腐敗」とは,腐敗防止関係諸法令で禁止されている行為をいう(第2条(ज))。上述の「不正行為」については,CIAAは関係機関への通知と処分勧告を行うのに対し,この「腐敗」については裁判所への告訴を行う。

厳格な司法判断を仰ぐという意味では「腐敗」の方が「不正行為」よりも悪質な「権力乱用」ということになるが,実際には,両者の区別は必ずしも判然とはしていないように思われる。

[2]腐敗の捜査と起訴
CIAAは,後述のような方法で腐敗を捜査する。もし捜査妨害があれば,妨害者を勾留できる。勾留は,裁判所の許可により,最大6ヶ月まで延長できる(第16条)。勾留された被疑者の職権は,停止される(第17条)。

CIAAは,捜査により腐敗の事実を確認した場合,検察又は他の該当機関をして被疑者を裁判所に起訴させることができる(第18条)。

(6)CIAAの調査・捜査権限
CIAAは,権力乱用に関する広範な調査・捜査権限を有する。第19条に規定されている主な権限は,以下の通り。
  あらゆる機関または個人のもつ証拠を提出させる。
  被疑者および関係者の取り調べ。
  出頭しない被疑者を警察に命令し逮捕させる。
  被疑者の職権を停止させる。
  被疑者が金融関係の職の場合,国内または国外の関係口座を凍結する。
  被疑者のパスポートの発行停止。
  被疑者の移動の禁止。
  CIAAの調査・捜査活動の妨害禁止。妨害は告訴し処罰させる。
  虚偽の訴えの処罰。
 x 政府のあらゆる機関への協力要請。
 xi 腐敗行為により得た財産の没収。
 xii 外国人容疑者の財産の凍結。
 xiii 公職保有者に,自分名義および家族名義の財産とその取得源を一覧表記させ,提出させる。提出は,就任後60日以内とし,以後は,毎会計年度末から60日以内とする。

(7)CIAAの権力乱用の可能性
CIAAは,暫定憲法第11編でも,このCIAA法でも,広範な権限を認められている。それは,逆に言えば,それだけ取り締まるべき不正行為や腐敗が蔓延しているということである。CIAA法の詳細な規定を見ると,ネパール社会の現状が透けて見えるといってもよいだろう。

しかし,その一方,これほど広範な捜査権限をごく少数の委員から構成されるCIAAに一任してよいのか,という疑問も禁じ得ない。事実,CIAAやその前身の「権力乱用防止委員会(CPAA)」は,国王や政党により,しばしば政敵攻撃に利用されてきた。

特に現在は要注意。議会はなく,内閣も最高裁長官と元官僚からなる暫定内閣にすぎない。当然,チェックは効きにくい。そうしたなか,CIAAは連日のように腐敗を告発し,「大物」を取り調べている。

庶民は,メディアでそうしたニュースを見聞きし,溜飲を下げているにちがいないが,特別機関による強権行使は,一般に権力乱用に走りやすく危険であることは,ネパールにおいても忘れられてはならないであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/09/27 @ 15:42

カテゴリー: その他, 行政, 憲法

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