ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

制憲議会選挙2013(1):イデオロギーとしての選挙民主主義

制憲議会選挙(संविधानसभा सढस्य निर्बचन २०७०)が近づいてきた。投票日は11月19日だというのに,いまだ実施延期も含め,様々な議論があるが,選管は準備を進め,主要諸政党の比例制候補もほぼ出そろい,よほどのことがない限り,おそらく選挙は実施できるであろう。そこで,あとで検索(右欄検索ツール使用)しやすいように,「制憲議会選挙2013」のタイトルの下に,関連記事をアトランダムに掲載していくことにする。

131004a 131004b ■制憲議会選挙啓発(前回)

1.市場社会化と選挙民主主義
選挙民主主義(electoral democracy)については,これまで何回か批判した。冷戦終結(1989-91年)以降,世界は自由競争市場社会化に向け大きく前進した。これは,アメリカを中心とする先進諸国が,選挙民主主義を武器として,戦略的に巧妙に押し進めてきたものだ。途上国は非民主的であり,それゆえ開発が遅れ,紛争が絶えず,悲惨で貧しい。先進国のように豊かになり,よい生活がしたければ,選挙をやり,民主化せよ。これが先進諸国の途上国に対する選挙民主主義のお説教である。

選挙民主主義がいかに欺瞞的かは,途上国の貧困は先進諸国の長年の搾取によるものであることへの反省が選挙民主主義者にはまるでないことを見てもよく分かる。今日の途上国,つまり「後進国」は,先進諸国に侵略され略奪されるまでは,例外なく豊かであった。欧米諸国,そして遅れて日本などが,自分たちは貧しかったので、豊かな「後進国」の富を目当てに軍隊を送り込み,資源や財産,あげくは人間までも強奪し,自分たちの国を豊かにしてきたのだ。

先進諸国は,軍隊で強奪しうるものはほぼ強奪した。次はソフトパワーの出番だ。こうして選挙民主主義が,軍隊により強奪し「後進国」に陥れた地域から先進諸国がさらに搾り取るための次の手段として戦略的に投入されたのである。

むろん選挙民主主義は,先進諸国においては,その欠点や限界が改めて意識され始めている。ところが,途上国においては,決してそうではない。イラク,アフガン,そしてネパールにおいても,先進国押しつけ選挙民主主義は大失敗であった。にもかかわらず,その反省もなく,先進諸国は途上国に選挙民主主義を押しつけようとしている。なぜか? いうまでもなく,選挙民主主義こそは,途上国をグローバル市場に引き込むための最強のイデオロギーであり,先進諸国にとっては――途上国自身にとってではなく――最も有効かつ有益だからである。

選挙は,現代グローバル資本主義のイデオロギーであり,軍隊に代わる現代型搾取の手段として途上国に対して戦略的に用いられている。

2.必要悪としての選挙
しかしながら,難しいのは,選挙民主主義は欠陥と限界を十分意識しておれば,国家社会統合の手段として一定の有効性をもつということ。偉大な貴族保守主義者にして現実主義者のチャーチルが喝破したように,「民主主義は,歴史上存在した他の統治を除けば,最悪の統治である」。悪しき統治だが,われわれには,もはやこれしか選択の余地はない。先進諸国がケシカランのは,自分たちが限界を意識していながら,途上国に対しては,まるで万能特効薬であるかのように純粋選挙民主主義を処方し,押しつけようとする点にある。

下心は,むろん,手っ取り早く途上国を市場社会化すること。先進国企業の市場にしてしまえば,あとは,どうなろうが知ったことではない。これは,かつて軍隊や宣教師を送り込み,地域の伝統文化や言語を奪い,西洋文化や英語・スペイン語などを押しつけ,かくして「文明化」することによって世界を植民地化し搾取したのと,方法においては異なれ,目的は同じである。

3.謙虚な選挙側面協力
われわれは,途上国に対し,そのような不遜な,利己的なことはやってはならない。選挙民主主義は欠陥だらけ。にもかかわらず,選挙以外の選択肢は,今のところ,ない。この冷厳な事実を十分自覚しつつ,途上国の選挙に側面からそっと協力する。純粋選挙民主主義の劇薬を押しつけるなどといった愚行は,いかにその誘惑に駆られようとも自制し,その国,その地域に適した形の選挙に,裏方として,そっとやさしく協力する。自分たちが,数百年かかって不十分ながらやっと手にしたものを,短兵急に,途上国で無菌促成栽培しようなどと高望みしてはならない。

ネパール制憲議会選挙についても,先進諸国は,そのような謙虚な姿勢で臨んでほしいと願っている。

[参照]
穀潰しの選挙民主主義
カーター元大統領:救済者か布教者か?
ガルトゥング提案の観念性と危険性
派兵はNGOの危機,ネパールとアフガン
選挙後体制と擦り寄り知識人
選挙民主主義関係記事一覧

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/10/04 @ 14:20