ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

権力乱用調査委員会(8):腐敗防止条約との関係

1.国際法上の義務となった腐敗防止
ネパールにおける不正・腐敗防止は,2011年3月の「国連腐敗防止条約(UN Convention against Corruption)」批准により,国際法上の義務となった。

腐敗防止は,もはや単なる国内問題ではない。自らの伝統文化の重要部分の否定となるが,欧米先進諸国の腐敗概念を全面的に受け入れ,「腐敗防止条約」に署名・批准したのだから,腐敗防止は国際社会に対する法的義務ともなったのである。

その結果,権力乱用調査委員会(CIAA)も,憲法設置機関ではあるが,その権力の正統性の根拠を,正統性の怪しい自国政府というよりもむしろ国際社会の国際法に求めることが可能となった。

換言すれば,国際社会,つまり欧米先進諸国は,国際法を根拠に,ネパールの不正・腐敗問題に強力に介入できることになったのである。

2.腐敗防止条約の批准
国連腐敗防止条約は,2003年10月,国連総会で採択された。署名140カ国。
 (国 名)………….(署 名)…………….(批 准)
 ネパール……..2003//12/10……….2011/03/31
 アメリカ ………2003/12/09………..2006/10/30
 中 国…………2003/12/10………..2006/01/13
 インド………….2005/12/09………..2011/05/09
 日 本…………2003/12/09………….未批准

日本は,まだ批准していない。堂々と日本の意思を貫き,世界に独自性を示している。この条約だけでなく,特に人権等に関しては,日本は,多くの場合,ネパールよりもはるかに遅れている。たとえば,人種差別撤廃条約(採択1965,発効1969)では,ネパールの受諾1971年1月30日に対し,日本は1995年12月15日。世界に冠たる人権小国だ。

131006a ■腐敗防止条約未批准国=赤・橙(UNODC)

3.腐敗防止条約の概要
腐敗防止条約は,前文+71カ条の長大な条約。その要点を外務省がうまく要約しているので,以下,それを転載する。
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条約のポイント
(1)腐敗行為の防止のため、公的部門(公務員の採用等に関する制度、公務員の行動規範、公的調達制度等)及び民間部門(会計・監査基準、法人の設立基準等)において透明性を高める等の措置をとる。また、腐敗行為により不正に得られた犯罪収益の資金洗浄を防止するための措置をとる。
(2)自国の公務員、外国公務員及び公的国際機関の職員に係る贈収賄、公務員による財産の横領、犯罪収益の洗浄等の腐敗行為を犯罪とする。
(3)腐敗行為に係る犯罪の効果的な捜査・訴追等のため、犯罪人引渡し、捜査共助、司法共助等につき締約国間で国際協力を行う。
(4)腐敗行為により不正に得られた犯罪収益の没収のため、締約国間で協力を行い、公的資金の横領等一定の場合には、他の締約国からの要請により自国で没収した財産を当該他の締約国へ返還する。
(外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty164_8_gai.html)
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131006b ■腐敗防止条約概念図(外務省)

4.ポストモダンの腐敗防止条約
腐敗防止条約は,適用範囲の広い条約である。主な対象は公的部門の公務員(自国公務員,外国公務員,国際機関職員)だが,民間部門の腐敗防止もまた,当然,規定されている。

この幅広い分野の腐敗行為を監視するため,腐敗防止条約は,各国が専門機関を設置し,独立性を付与することを定めている(第6,36条)。また,それに加え,「市民社会,非政府機関,地域社会の組織等の公的部門に属さない個人および集団の積極的な参加」をも規定する(第13条)。

このような権力の分割・分有・市民参加は欧米先進諸国の流行であり,腐敗防止条約もその流れに棹さしているわけだ。

しかし,ネパールのような途上国の場合,この点には十分な警戒が必要だ。国家主権が安定し強力な場合,国家が内外の様々な機関や集団の利害を調整し一つの国家意思へと統合する。ところがネパールの場合,外国援助依存であり,しかも現在,まともな正統性をもつ国家機関は一つもない。だから,腐敗防止を目標とするにしても,国家権力の分割弱体化を結果するような方法では逆効果,実際には内外の諸機関・諸組織が,それぞれ目先の成果を狙って勝手なことをやり,かえって混乱を拡大させる。腐敗防止どころではない。

5.ネパールに適した腐敗防止政策
そもそも腐敗防止条約やCIAA法の目標は,「合理的な法の支配」の実現。ところが,そのような「合理的な法」は強力かつ安定した国家権力なくしては制定できず,またその公平な執行には強力で安定した「合理的な官僚制」と司法機関が不可欠である。

腐敗防止条約やCIAA法の目標とするような腐敗防止は,ネパールの伝統文化の重要部分を否定するものである。そのような大きな変革は,ネパールの人々自身が正統な国家権力を確立し,強力かつ安定した国家主権の下で自主的に取り組む以外に成功はおぼつかない。

同じ腐敗防止でも,近代以後の西洋先進諸国と近代以前の(側面の多い)ネパールとでは,方法が異なるはずだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/10/06 @ 22:11