ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 8月 2013

国家世俗化とキリスト教墓地問題

キリスト教墓地問題は,一応の決着がついたかに見えたが,いつものように政府の約束は言葉だけで,実行は棚上げらしい。
  レグミ内閣とキリスト教墓地問題
  キリスト教墓地要求,ハンストへ
  キリスト教墓地問題検討委員会発足
  クリスマスと墓地問題
  墓地紛争:キリスト教vsヒンドゥー教
 ▼キリスト教墓地問題一覧

1.深夜の無断埋葬
カトマンズ・ポストのアンキト・アディカリ「拒絶された墓地」(8月23日)によれば,ネパールのキリスト教徒は,墓地を拒否され,死者の埋葬ができず,切羽詰まったぎりぎりの事態に追い詰められている。

ある日,カトマンズで信者2人(男性82歳,女性62歳)が病死したが,カトマンズには墓地はない。そこで深夜,ひそかにジープでヌワコットのトリスリ川沿いの人里離れた森まで運び,すばやく穴を掘り,2人を埋め,急ぎカトマンズに戻った。地元民には,もちろん内緒。

このような方法での信者埋葬は,ヌワコット以外にもダディング,ラウタート,シンドバルチョーク,カブレなどあちことで行われており,時にはスルケットまでも運ぶこともあるという。「よくないに決まっているが,ではどうすればよいのか? 他に方法はないのだ。」(BG.ガルトラジ全国キリスト教連盟[FNCN]議長)

2.ゴティケル墓地の棚上げ
カトマンズ盆地のキリスト教徒が,このような深刻な事態に追い込まれたのは,政府が約束を実行せず,墓地問題を棚上げにしているからだ。

従来,カトマンズ盆地のキリスト教徒(及びキラント諸民族)は,パシュパティ寺院のシュレスマンタク・バンカリの森への埋葬を黙認されていた。ところが,2006年革命の結果,国家世俗化が実現し,これによりヒンドゥー教側もかえってアイデンティティを明確化させていき,2011年1月,「パシュパテ地区開発トラスト(PADT)」が寺院敷地内のバンカリの森への埋葬を拒否する決定を下した。

この埋葬拒否により深刻な事態に陥ったキリスト教会は,2011年4月,ハンストを決行,政府に「墓地問題検討委員会」を設置させた。そして,そこでの交渉の結果,政府はラリトプル郡ゴティケルに2000ロパニのキリスト教墓地をつくることを約束した。ビノド・パハディ委員長によれば,すでにゴティケルの住民やラリトプルの郡庁と郡森林局の同意も得てあるという。

ところが,この約束は実行されないまま,委員会が任期切れとなってしまった。ゴティケル墓地は棚上げ。抗議すると,政府は造るというが,口約束だけ。「もし今度も空手形なら,強力な抗議運動を全国に呼びかける」(ガルトラジFNCN議長)

3.国家世俗化とキリスト教
2006年革命により,ネパールはヒンドゥー教国家から世俗国家に転換した。ヒンドゥー教にとっては,これは大敗北であり,他宗教,とくにキリスト教への敵愾心を強めている。パシュパティの森の墓地問題は,その最も極端な実例である。

キリスト教徒は,全人口の1.4%とされている。少数派だが,バックに欧米のキリスト教会が控えており,世俗化の追い風に乗り勢力を急拡大させている。たとえば,この記事を書いたカトマンズポストのアンキド・アディカリ編集委員は,クリスチャンか否か不明だが,出身校は,聖ザビエル校(カトマンズ)である。

聖ザビエル校は,イエズス会系の学校であり,ネパールには5校ある。カトマンズ校は1988年設立で,いまや大学院までもつ超名門エリート学校。アディカリ氏は,この学校で英文学を修め,ジャーナリストとなったようである。

彼のこのような経歴が,おそらく彼をしてキリスト教会への理解を深めさせ,墓地問題を追わせているのだろう。彼の記事そのものは,問題に即して書かれており公平と見えるが,ヒンドゥー教徒の側から見ると果たしてどうなるか? ここが難しいところだ。

130831a ■聖ザビエル校(カトマンズ)

キリスト教会側の攻勢は,教育以外でも様々な形で展開されている。たとえば,これはタルー民族への働きかけ。詳細はわからないが,「はじめに言葉があった」と信じるキリスト教のこと,タルー以外にも様々な少数民族の言葉で布教を進めている。

130831b ■Good News THARU

4.宗教対立激化のおそれ
国家世俗化は,一般に,宗教対立の緩和が目的だが,ネパールでは,少なくとも今のところ,それは宗教アイデンティティの強化→宗教対立の激化という逆の結果をもたらしている。

墓地を取り上げ,死者を埋葬させない! これはセンセーショナルな切羽詰まった問題であり,外部からの干渉も招きやすい。対処を誤ると,ネパールは取り返しのつかない深刻な宗教紛争に陥ってしまうだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/31 at 08:48

インドはネパール76番目の郡:Nepali Humor

仏陀はネパールに生まれ,エベレストはネパールにある,したがって,インドはネパールの76番目の郡だ!

ネパールお得意のユーモア。自虐ネタであり,仏教の政治的利用(これはかなりマジメ)でもあるが,内弁慶の日本ナショナリストよりはマシだ。くやしかったら,アメリカは日本の48番目の県だと,アメリカに向かって叫んでみよ。

130830 ■India – 76th District of Nepal

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/30 at 10:00

トニー・ハーゲンのネパール記録映像

トニー・ハーゲン(1917-2003)のネパール調査記録フィルムがユーチューブで公開されている。まさに古き良きネパール。半面の真理であり,懐古趣味にはちがいないが,「進歩」とは何か,「幸福」とは何か,改めて考えさせられる。
 ■Uhile ko Nepal – Nepal of the Past – A Documentary by Toni Hagen

ネットでは,これ以外にも,ネパールの自然や社会に関する様々な映像が続々と公開されている。著作権も何もあったものではない。文章も映像も万人のもの。本来,ネットとは,このようなものであろう。ネット公開情報の急増により,ネパールは,誰にとっても,もはや神秘の国ではなくなった。

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■化膿を切開治療/ウキをつけ荷渡し

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/24 at 14:07

カテゴリー: 情報 IT, 文化, 歴史

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対ネ最大投資国,中国

新華社(8月21日)によれば,対ネパール投資において,中国が最大投資国となった。

ネパール政府統計2012-13によれば,諸外国の対ネ直接投資は193.9億ルピーで,中国がその30.9%を占め,初めてインドを抜き,最大の対ネ投資国となった。
 ▼2011-12年度 インド:38.8億ルピー  中国:10億ルピー
 ▼2012-13年度 中国:59.9億ルピー  インド:25億ルピー

これが大きな意味を持つことは明白。中国にとって,ネパールは南にインドを控えており,経済的にも政治的にも重要性は増すばかり。インドとの軋轢はあろうが,この流れはもはや止められない。

この中国投資でいま注目されているのが,ポカラ国際空港の建設。中国輸出入銀行からの長期低利融資1億4500万ドルを受け,中国の空港(成都双流国際空港など)をモデルに, 中国CAMC(中工国际工程股份有限公司)が施工する。

このポカラ国際空港は,1989年頃から日本のJICAが手がけたが,結局,中国丸抱えで建設されることになった。ルンビニ開発も,もとは日本が手がけていたが,こちらも,バイラワ国際空港建設を手始めに,結局,中国勢が中心となりそうだ。

まさに破竹の中国経済進出。昨日の新華社ニュースによれば,中国は公館もネパール国内に増設するという。日本は蹴散らされても実害は大してないが,インドにとっては,心中穏やかではあるまい。

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 ■ポカラ国際空港フェイスブック

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/23 at 09:12

カテゴリー: インド, 経済, 旅行, 中国

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講演会:ネパールを知ろう!

ネパール関係の講演会がありますので,ご紹介します。

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講演会:ネパールを知ろう!
「ヨード欠乏症の根絶を目指して」熱田親憙(ネパール・ヨードを支える会)
「ネパールの観光の魅力」上田一彦/シュレスター・ニローズ(国際交流団体未来)
「ネパールで体験したこと」榎井 縁(大阪大学未来戦略機構)
(日時)9月10日午後1時30分~4時
(場所)宝塚市男女共同参画センター(ソリオ2)交流室
(申込先)国際交流団体未来

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/22 at 10:31

カテゴリー: 教育, 旅行

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宝塚のネパール料理店:リバジャ

「リバジャ(रिवाज )」は,いかにもネパールらしい料理店だ。

プジャ」が,タカラジェンヌも集うとウワサされるおしゃれな店であるのに対し,リバジャは庶民向けの店だ。駅から離れた運動公園,河川敷公園の近くにある。レストランとしての立地は,決してよくない。近隣の住民や公園に遊びに来る人びとを顧客にしているのだろう。

昨日,夕食をとっていたら,運動公園での練習帰りらしい女子高校生が数名やってきて,「やっぱ,ネパールの方がうまいネ」などといいながら,わいわい,がやがや楽しそうにカレーを食べていた。プジャのように小綺麗で上品ではないが,いかにもネパール的。頑張って欲しい。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/21 at 09:11

カテゴリー: 文化, 旅行

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京都の米軍基地(16):レイセオン下請以下の参与会意見

京都府の「TPY-2レーダーの電磁波の影響に関する参与会の意見」を見て唖然とするのは,基本中の基本のはずのレーダー性能について,製造元のレイセオン社ホームページを根拠としていることだ。

米国Raytheon社のホームページによると,TPY-2レーダーは・・・・

ネットは北朝鮮でも中国でも,いやド素人の私でも見ることができ,こんなところに最新兵器の重要情報が書かれているはずがない。参与会意見は,そんないいかげんなネット情報を根拠としているのだ。

しかも,確たる根拠がないものだから,科学的良心に従い――将来の責任追及を免れるため――重要部分の記述は,ほとんどが推測となっている。

「ビーム走査範囲は上下左右±約45°程度と推測される。」
「合計90°の範囲をカバーしていくものと思われる。」
「1000Kmぐらいの距離が感知できるのではないかと考えられる。」
「TPY-2レーダーの出力はおそらく数百kwと推測でき・・・・」

私たちは,1万円程度の電子レンジを買うときでも,もう少しましな性能チェックをする。車ともなれば,エンジン出力,燃費,安全装置,インテリアなどを入念に調べ,比較検討する。ところが,参与会は,はるかに高価で危険なXバンドレーダーについて,兵器メーカーの公開ネット情報による推測で安全評価をしている。およそ科学的とは言いがたい。

この程度のことであれば,下請以下の参与会ではなく,直接,レイセオン社ホームページを見た方が,はるかに正確だし,何よりも面白い。まるで劇画未来戦争のようだ。

レイセオン社ホームページ
ミサイル防衛システム(動画3分11秒)
TPY-2レーダー(動画1分16秒)

130819a ■レイセオンのハイテク戦争ビジネス(Raytheon)

レイセオン社は世界最大のミサイルメーカー。2012年度の売上240億ドル,従業員6万8千。

「レイセオンは,すでに8台のAN/TPY-2を販売し,現在,アメリカと他の同盟2カ国の顧客のため3台を製造中である。」
「現在,前線配備型AN/TPY-2は日本,イスラエル,トルコに配備され,アメリカと友好同盟国を防衛している・・・・」

Xバンドレーダーと連動する迎撃ミサイルなど,実際には当たりはしないが,軍需産業にとっては,そんなことはどうでもよい。一台いくらか知らないが,関連サービスも含めると天文学的売上となり,会社を潤す。

過疎地・丹後は,捨て石となり,最新兵器を受け入れることにより,アメリカと日本の政官学軍複合体=「死の商人」の繁栄に少なからず寄与することになろう。

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■ミサイル防衛システム/TPY-2レーダー(Raytheon)

130819d  ■日米兵器開発協力:レイセオン+三菱重工(Raytheon)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/19 at 10:36