ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 1月 2014

第二次制憲議会招集

ネパールメディアからしばらく目を離していたら,第二次「制憲議会」が招集され,「立法議会」も開会されていた。ネパール政治は変化が速く,後追いだけでも大変だ。

制憲議会(संबिधान सभा)は,2007年暫定憲法第69条(1)によれば,選管の選挙結果確定発表後21日以内に,首相が招集することになっている。ところが,制憲議会の新憲法制定以外の立法を任務とする立法議会(व्यवस्थापिका-संसद)の方は,暫定憲法第51条(1)により,大統領が招集することになっている。制憲議会と立法議会は同一議会の2側面にすぎないのに,招集者は別。規定からしてややこしい。

それもあって,制憲議会を誰が招集するかで,早速大もめ。レグミ大臣会議議長(選挙管理内閣議長)に対しては批判が多く,招集者はヤダブ大統領にすべきだとか,新たに大統領と首相を選出し、その上で,新首相が招集すべきだとか,大混乱となり,最高裁への提訴も行われた。

この最高裁提訴がどうなったのかは分からないが,結局,制憲議会は,憲法第69条(1)の規定通りレグミ議長が1月11日付けで招集し,初の本会議が1月22日午後3時に開会された。しかし,この初議会は17分後に閉会となり,実質的な審議は何もなかった。特に問題とされているのが,前回制憲議会を今回制憲議会が継承するかどうかを決めなかったこと。主要諸政党は1年以内の新憲法制定を公約しているが,ゼロからの再出発では,その公約を守るのは難しいのではないかと懸念されている。

この制憲議会開会に先立ち,1月20日,大統領の前で最長老のSB・タパ議員(RPP)が就任宣誓をし,翌21日には,タパ議員の下で他の565議員が就任宣誓を行った(内閣指名26,補欠選挙4,欠席5は未宣誓)。ここで興味深いのは,宣誓用語。ネパール語以外に,次の11言語が用いられた(Republica, 22-23 Jan)。

マイティリ13,ヒンディ11,アワディ5,ネワール3,マガール3,リンブー2,グルン2,タルー2,ボジプリ1,キラント/ライ1,マデシ1

一方,制憲議会のもう一つの在り方である立法議会の方は,ヤダブ大統領が1月19日付けで招集し,26日に初本会議が開かれた。しかし,制憲議会・立法議会は,内閣指名制26,2選挙区当選による欠員4がまだ未充足のため不完全である。このうちの内閣指名制は,建前としては,有識者選出や議席をえられなかった諸勢力の公平な代表のためだが,実際には,有力者間の取り引き材料となっており,不透明感がぬぐえない。

こうしたことから,制憲議会の全議員がそろうのは,まだもう少し先のことになりそうである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/01/31 at 21:18

カテゴリー: 選挙, 議会, 憲法

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「戦後レジームからの脱却」の象徴的行為としての靖国参拝と非人道性の烙印

安倍首相の靖国参拝は,日本人に「非人道性」の烙印(stigma)を押しつけるための格好の口実とされている。イルカ漁の「非人道性」非難には何の根拠もないが,靖国参拝の方はそうされても仕方ない行為であり,日本国益を大きく損ないつつある。(参照:イルカ漁非難,その反キリスト教的含意と政治的戦略性ケネディ大使,ジュゴン保護を! )

1.「戦後レジームからの脱却」と靖国参拝
安倍首相の靖国参拝は,彼の唱える「戦後レジームからの脱却」を精神的および政治的に象徴する行為といってもよい。「戦後レジーム」は,英語帝国主義にこびた卑屈な表現だが,正しい日本語で表現すれば,「戦後体制」ないし「日本国憲法体制」のこと。靖国参拝は,その「戦後レジーム」の転覆に向け国民世論を動員することを目的とし,それが恒常化し,さらには天皇の靖国参拝が実現すれば,その時,「戦後レジーム」は事実上終焉を迎えたとみなすべきであろう。

【参照】安倍晋三「憲法改正」(2009年06月12日)
 私は平成19年1月の内閣総理大臣施政方針演説で「戦後レジーム」からの脱却を宣言しました。・・・・
 戦後レジームからの脱却を成し遂げるためには憲法改正が不可欠です。・・・・
 まず、憲法の成立過程に大きな問題があります。・・・・
 第二は憲法が制定されて60年が経ち、新しい価値観、課題に対応できていないことです。・・・・もちろん第9条では「自衛軍保持」を明記すべきです。・・・・
 第三に憲法は国の基本法であり、日本人自らの手で書き上げていくことこそが、新しい時代を切り拓いていくのです。・・・・
 これまで憲法改正問題が放置されてきたのは残念ですが、国民投票法の成立によって大きな一歩を踏み出しました。今後も憲法改正に向けて全力で取り組みます。

140126a 140126b(http://www.s-abe.or.jp/consutitution_policy)

2.「非人道的」戦争犯罪
しかし,このような「戦後レジームからの脱却」,とくにその象徴的行為としての靖国参拝は,日本国憲法体制を積極的に評価する内外の多くの人々の目には,日本軍国主義への反省を反故にし,敗戦以前の旧体制への回帰を目指すものと映らざるをえない。

先の「大東亜戦争」において,日本軍が多くの国際人道法(International Humanitarian Law)違反を犯したことは,周知の事実である。そのため,敗戦後,各地の連合国側軍事裁判所において,日本兵数千人が人道法違反容疑で裁かれ,そのうちの約千人が死刑となった。靖国神社には,彼らの多くが,東京裁判「A級戦犯」と共に,合祀されている。

その靖国神社への首相参拝が,日本軍国主義復活への動きととられ,また人道法違反(戦争犯罪)否認への動きともとられるのは,当然と言えよう。首相が靖国参拝をするたびに,「軍国主義」「非人道性」の烙印が日本国民全体に押しつけられていく。

3.ダボスでの挑発発言
安倍首相にも,靖国参拝が,近隣諸国ばかりか世界社会においても非人道的日本軍国主義復活への象徴的行為と受け取られていることは,十分にわかっているであろう。しかし,対外硬(強硬外交)は,旧体制下と同様,現在においても,国民大衆には受けがよい。安倍首相は,大日本帝国時代の対外硬の大失敗から何も学ぼうとはせず,対外硬の甘い誘惑に負け,外から批判されればされるほど,対外硬に傾き,「戦後レジームからの脱却」のための靖国参拝を強行し,正当化しようとするのである。

先日(1月22日)のダボス会議基調講演後の記者会見でも,安倍首相は,靖国参拝について聞かれると,「二度と戦争の惨禍で人々が苦しむことがない世界をつくると不戦の誓いをした」と強弁し正当化した。

しかし,安倍首相のこの説明に,説得力はほとんど無い。現在の日中関係を,あろうことか第一次大戦前の英独関係になぞらえたことともあいまって,日本の好戦性,非人道性を世界に強く印象づける結果となってしまった(朝日1月24-25日)。

4.「美しい国」のアメリカ語隷従
ちなみに,安倍首相はダボス会議基調講演をアメリカ語で行った。”A New Vision from a New Japan.” 一国の元首が,国際会議の公式の場で,母語を捨て,外国語で講演する! 

日本は,事実上,いまでも米国の間接支配下にある。イザとなれば,米軍が自衛隊を指揮下に置き,日本に軍政を敷くことは明白だ。ところが,いまやそれに加えて,日本は魂(言霊)すらも放棄し,精神的にも米国に隷従しようとしている。他ならぬ「美しい国」の首相が,率先して,嬉々として「美国(米国)」にひれ伏しているのだ。

5.歴史修正発言の危険性
安倍首相は,世界社会からは,日本語など商売抜きで断固として守るべきものを守らず,侵略戦争や戦争犯罪(人道法違反)など正当化すべきでも正当化できもしないものを正当化しようとしている,と見られている。首相の歴史修正発言のたびに,好戦性,非人道性の烙印が日本国民に押されていく。たとえばケネディ大使も,1月21日朝日新聞インタビューで,「首相の決断には失望した」と明言し,靖国参拝を再確認した。(この会見では,イルカ漁「非人道性」ツイッター発言も再確認された。)

中国は,もちろん,このようなチャンスを見逃しはしない。駐米中国大使は1月10日,「靖国参拝は中国だけでなく,世界への挑戦だ」と述べ,また駐仏中国大使も1月16日,靖国参拝は「ヒトラーの墓に花を供える」ようなものだと非難した(朝日1月24日)。中国らしい荒っぽい極論だが,世界世論に対して説得力があるのは,明らかに中国の方である。靖国参拝が「戦後レジームからの脱却」と結びつけば,そう受け止められても仕方あるまい。

6.小国日本こそ世界世論を味方に
なんたることか! 超大国中国が世界世論を味方につけようと必死に努力しているのに対し,小国日本は,世界世論を敵に回すことばかりしている。

中国は政治大国であり,広報戦略も巧妙。たとえば,すでに紹介したものだが,下記ネパリタイムズの広告を見よ。制作が中国,ネパールのいずれかは分からないが,広告として実によくできている。(参照:ネパリタイムズ購読おまけ,中国日報とLEDランタン

131214a ■光をともし賢くなろう/ネパリタイムズの購読で中国日報・LEDランタン無料進呈

日本は小国であり,ますます小国化する宿命にある。その日本にとって,世界世論の共感を得られるような議論を構築し,戦略的に世界社会に訴えかけていくことこそが,とるべき賢明な政策であるといってよいであろう。

谷川昌幸(C)

制憲議会選挙2013(32):投票

投票(मतदान)は,秘密投票(गोप्य मत)により行われる[2007年暫定憲法第63条(6)]。投票できる有権者は,18歳以上で,かつ該当の選挙区(निर्वचन क्षेत्र)の有権者名簿(मतदाता सूची)に名前が掲載されている者[制憲議会議員選挙令2070,第38条(1),以下同令による]。

投票は,はじめに小選挙区制,つぎに比例制の順に行う。投票用紙(मतपत्र)の該当箇所に印をつけ,投票箱(मत पेटीका)に投入する。

電子投票(विधुतीय मतदान)も規定されているが[39(5)],どの程度使用されたかは不明。

障害者(अशक्त)の投票介助については,懇切丁寧に定められている。
 ・介助が必要な有権者は,係員に申し出て,自分の選んだ介護者を投票所に同行させることができる[46(1)]。
 ・自分で投票用紙に記入できない者は,係員または自分の指定する者に記入を代行させることができる[46(2)]。
 ・選管は,盲人,障害者,高齢者,妊婦などのため,他の必要な投票介助をする[46(3)]。

140123a ■投票用紙 比例制(部分)

140123b 140123c
 ■キルティプル投票所/正面掲示(党シンボルマークの横に逆卍印をつける) 

【参照】大阪府選挙管理委員会の投票案内
投票所への入場など
投票所には、付添人や介助人、お子さまも一緒に入ることができます。(・・・・) スロープがない場合は係員が介助しますので、お気軽にお申し出ください。投票にあたって手話通訳を必要とされる方は、事前に市区町村選挙管理委員会までご相談ください。(・・・・)
2 点字による投票
 視覚に障がいのある方は、点字で投票することができます。(・・・・)
3 代理投票
 病気やけがなどで字が書けない方は、係員が補助者として投票を記載する代理投票の制度があります。(・・・・)
   (http://www.pref.osaka.lg.jp/senkan/seido/seido-02touhyou.html)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/01/23 at 19:47

カテゴリー: 選挙

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ケネディ大使,ジュゴン保護を!

ケネディ大使のイルカ漁非難は,先述のように政治戦略に基づく発言であり,それ以上の正当な根拠は見あたらない。

もしイルカに限らず動物が保護されるべきなら,それは,不殺生倫理によるか,さもなければ人間のための自然保護を根拠とすべきである。ケネディ大使は不殺生倫理の立場はおとりではないはずなので,とすれば,当然,自然保護を非難の根拠とされるべきである。

これはキリスト教の教えにも合致している。聖書は,人間と他の被造物を峻別する。人間は他の被造物すべてを支配し利用する権利を神により与えられ,その限りで他の被造物を保護する。動物保護の根拠は「人道性」ではなく,人間による自然の有効利用にほかならない。

たとえば,パンダを殺して食べるのを禁止するのは,パンダの「知能が高い」からでも「かわいい」からでもない。もしパンダ猟を禁止しなければ,すぐパンダが絶滅してしまうからにすぎない。「かしこさ」や「かわいらしさ」が同情を呼ぶとしても,保護の目的は,あくまでも神の創造になる自然秩序を維持し,もって人間生存の神与の目的に資することである。

さて,もしそうだとするなら,ケネディ大使が率先して反対の声を上げ,本国政府に申し入れるべきは,沖縄のジュゴン保護である。

いま沖縄では,米軍が日本政府と協力し名護市辺野古の近海を埋め立て,広大な軍事基地をつくろうとしている。もしこれが強行されれば,ジュゴンはむろんのこと,他の多くの貴重な動植物が死滅の危機に瀕する。

神の前での宣誓を慣行とされる国の大使として,ケネディ閣下は,本国政府に対し,ただちに辺野古基地建設の中止を進言されるべきであろう。

また,イルカやクジラの捕獲反対を叫ぶ動物愛護団体に対しては,いまこそ辺野古に結集し,基地建設反対に立ち上がれと檄を飛ばされるべきであろう。

これは,けっして過激な極論ではない。すでにN・チョムスキー,M・ムーア,J・ダワー各氏をはじめ,内外の多くの人々が,辺野古米軍基地建設反対,ジュゴンを守れ,と世界に向け訴えかけている。ケネディ大使にも,ぜひ,この平和の訴えへの支援をお願いしたい。

   140122  ■美しい辺野古の海(Google)

【参照】
International Scholars, Peace Advocates and Artists Condemn Agreement to Build New U.S. Marine Base in Okinawa
   (……) the US and Japanese governments planned to close Futenma Marine Air Base in the middle of Ginowan City and move its functions to a new base to be constructed at Henoko, a site of extraordinary bio-diversity and home to the endangered marine mammal dugong. (…..)
   We support the people of Okinawa in their non-violent struggle for peace, dignity, human rights and protection of the environment. The Henoko marine base project must be canceled and Futenma returned forthwith to the people of Okinawa.
   January 2014
Noam Chomsky, John W. Dower, Michael Moore, Oliver Stone, et. al.

世界の識者と文化人による、沖縄の海兵隊基地建設にむけての合意への非難声明
 辺野古は稀に見る生物多様性を抱え、絶滅の危機にある海洋哺乳動物、ジュゴンが棲息する地域です。・・・・
 私たちは、沖縄の人々による平和と尊厳、人権と環境保護のための非暴力のたたかいを支持します。辺野古の海兵隊基地建設は中止すべきであり、普天間は沖縄の人々に直ちに返すべきです。
    2014年1月
ノーム・チョムスキー,ジョン・W・ダワー,マイケル・ムーア,オリバー・ストーンほか
(http://peacephilosophy.blogspot.ca/2014/01/international-scholars-peace-advocates.html)

Defense Bureau keeps information on dugongs from the public [Editorial, Ryukyu Shimpo, Sep.24, 2013]
   Three times in the past, the International Union for Conservation of Nature (IUCN) has recommended action to save the dugongs. That Japan and the United States continue to ignore this recommendation is sinful in the extreme…..
   That they are prepared to cause damage to the sea in order to build a military base is contrary to the global trend of strengthening environmental protection policies. Government officials should feel pangs of conscience for what they are doing to the sea, which is so valuable and rich in biodiversity.

ジュゴン情報非公表 普天間撤去は逆転の発想で (琉球新報社説2013-9-24)
 辺野古埋め立てに関しては、国際自然保護連合(IUCN)も過去に3度、ジュゴンの保護を勧告している。日米が勧告を事実上無視し続けていることは罪深い。・・・・
 海を破壊し軍事施設を建設するという発想自体が、環境保護政策の強化を求める世界潮流に逆行している。政府当局者は、生物多様性に富んだ貴重な海を痛めつけることの罪悪を自覚すべきだ。
(http://english.ryukyushimpo.jp/2013/10/05/11911/) (http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-212912-storytopic-11.html)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/01/22 at 17:06

イルカ漁非難,その反キリスト教的含意と政治的戦略性

1.ケネディ大使のイルカ漁批判
ケネディ駐日大使が,イルカ追い込み漁の「非人道性(inhumaneness)」を,ツイッターで非難した。

140120

この発言自体は,「人間」と「非人間」の区別さえしない,お粗末きわまりない感情的非難であり,聖書の教えにすら反する単なる言いがかりにしかすぎない。

それにしても,いったい誰が,いつ,何の目的で,”human”に “e“をつけ,”humane“とし,ご都合主義的にごまかす巧妙な詐術を考えついたのだろう。われわれ日本人は,はるかに論理的な日本語を使う民族であり,こんないい加減なアメリカ語に卑屈に屈服すべきいわれは,みじんもない。

だが,そこは老獪なアメリカ,そんなことは十分わかった上で,長期的観点から戦略を立て,日本にたいし,この文化的非難攻撃を仕掛けているとみるべきだ。

だから,いくら腹が立とうが,感情的に反発しては負け,アメリカ以上の戦略を立て,冷静かつ論理的に,このケネディ大使発言に断固反論し,世界社会の共感を勝ち取っていくべきであろう。

2.二枚舌の戦術と戦略
アングロサクソンは,政治的能力に長けた民族。短期的戦術と長期的戦略を組合せ,二枚舌を巧妙に使い分け,目標を達成する。単線化,単純化しやすい非政治的民族日本人より,はるかに懐が深いといってよい。

たとえば,ヨーロッパの片田舎の不合理で不便な英語を数百年以上かけ「世界共通語」にしたし,敗戦日本には食パン学校給食を強制し,米作中心の日本農業を衰退させた。コンピューターでも,初期段階で,優秀な日本製基本ソフトを政治的圧力により開発継続断念に追い込み,出来の悪かったアメリカ製を普及させ,その結果,いまや日本はアメリカの電脳植民地。そのうち,日本語そのものが,「不公正な貿易障壁」とみなされ,攻撃され,アメリカ語の公用語化を強要されるであろう。(英語帝国主義への屈服の見本が「美しい国」の安倍首相)。

ケネディ大使のイルカ漁「非人道性」攻撃は,この文脈で見なければならない。

3.「動物の平等権」の侵害
米大使のイルカ漁批判は,言い方を変えれば,米国における牛の近代的・合理的・科学的な屠殺は「人道的」であるのに対し,日本におけるイルカの伝統的・文化的な追い込み漁は「非人道的」だ,ということだろう。なぜか? それは,おそらく牛はバカだが,イルカは知能が高く人間に近いから,ということだろう。

私は,小学生の頃,牛部屋の隣で寝起きし,毎日のように牛の世話をしていた。だから,たぶんケネディ大使より,牛には詳しいはずだ。私にとって,牛はたいへん賢く,忍耐強く,平和愛好的で,「女神」のように優しかった。イルカと暮らしたことはないが,おそらく牛は,イルカと同等かそれ以上に賢いといってよいであろう。

しかし,たとえ百歩譲って牛がイルカより少々知的能力が劣るとしても,それをもって牛(や他の動物たち)とイルカを差別するのは,「動物の平等権」の侵害だ。人間の都合で,動物と動物を差別するのは,不当,不公平であり,許されない。

4.生命の尊厳と「人道的」屠殺
これは自明のことであり,アメリカもそんなことは十分わかっている。それにもかかわらず,イルカ漁を非難するのは,別の目的があるからに他ならない。

一般化していえば,近代的・合理的・科学的に――つまり経済活動の一環として――「人道的」に殺害できる動物は,殺して食ってもよいから,大いに食え! ということ。要するに,アメリカン・ビーフを食え,ということだ。

敗戦のドサクサに紛れ,日本にパン食文化を押しつけ,日本を米国産小麦粉の大市場にしたように,日本人にもっと牛を食わせ,米産牛肉の市場を拡大するのが,米戦略なのだ。

しかも,米国において牛は「人道的」に屠殺され,その現場は可能な限り市民生活から隔離されている。私たちは,牛(や他の動物)がこのように「人道的」に殺されれば殺されるほど,私たち自身が彼らの「生命」を食べて生きていることを忘れてしまうのである。

これが,意識されてはいないだろうが,実際には,動物愛護運動の隠された目的のひとつだ。いや,それが言い過ぎだとするなら,少なくともその善意は金儲けのために巧妙に利用されているといってもよいであろう。

5.南アジアもターゲットか?
しかも,狙われているのは,日本だけではあるまい。日本以上のターゲットは,おそらく南アジアの巨大なヒンドゥー教文化圏であろう。

むろん,この地域には,仏教やジャイナ教などの不殺生の幅広い強力な伝統があり,牛を殺して食うことはタブー。しかし,たとえそうであっても,「死」や「(殺すための)暴力」が,こうして,まるで存在しないかのように,きれいに隠されてしまえば,目にするのは単なる食品の一つとしてのパックされた「ビーフ」にすぎなくなる。そうなれば,ヒンドゥー教徒にとっても,牛肉への敷居は,おそらく低くなるであろう。それは商品としてのパック食品であり,したがって消費さて当然ということ。

しかと確かめたわけではないが,ネパールでは,すでに「ビーフ」は日常的に消費される食品の一つとなりつつあるという。

南アジアは,巨大な人口を擁し,なお急増しつつある。その南アジアに,もし牛肉食文化を受け入れさせれば,アメリカや他の牛肉生産国は,巨大なマーケットを手にするわけだ。牽強付会? そうかどうか,あと数十年もすれば,わかるであろう。

他の論点については,下記記事をご参照ください。

【参照】
動物の「人道的」供犠:動物愛護の偽善と倒錯
動物供犠祭への政治介入:動物権利擁護派の偽善性
インドラ祭と動物供犠と政教分離
毛沢東主義vsキリスト教vsヒンズー教
中国援助ダムに沈黙のNGOとマオイスト

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/01/20 at 14:16

特定秘密保護法と一老人の繰り言

講演会「希代の悪法『秘密保護法』を許さない」に行ってきた。

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「戦争は『秘密』から始まる 希代の悪法『秘密保護法』を許さない」
▼講演
 羽柴修氏(弁護士、弁護士9条の会事務局長)「戦争は『秘密』から始まる」
 鳥越俊太郎氏(ジャーナリスト)「希代の悪法『秘密保護法』を許さない」

▼対談
 羽柴修氏×鳥越俊太郎氏
 司会:小山乃里子氏(ラジオパーソナリティー、元神戸市市議会議員)

・日時 2013年1月18日(土)14:00~16:10
・場所 神戸文化ホール(神戸市中央区)
・主催 NHK問題を考える会(兵庫)
—————————————

主催団体のことはまったく知らない。講師や司会者も,お名前を聞いたことがあるくらいのこと。テーマが堅く,しかも入場料千円なので,参加者は少ないだろうと考え会場に行ったら,何と場外にまで長蛇の列,入場者約1000人,あぶれ入れなかった人,数百人以上という。もう少し遅かったら入場できなかっただろう。これには驚いた。

講演と対談はたいへん分かりやすく,問題点もよく理解できた。よい集会であった。

それはそうとして,一つ気になったのが,参加者の一様性。土曜午後というのに,ホールを埋め尽くしたのは老人ばかり,青年層はほとんどいない。これにもまた驚いた。いや,正直に言うと,こちらの方が驚きは大きかった。

いうまでもないことだが,現在の危険な右傾化に,若い世代の責任はない。現在の社会や政治は,戦中派や戦後第一世代の人々がつくり出したものだ。

未曾有の敗戦の悲惨を背に,彼らは豊かな生活を夢み,「働き蜂」となり,あるいは「社蓄」としてがむしゃらに働いてきた。その結果,物質的な豊かさをそこそこ手にし,そこで生産活動・経済活動の現役から引退し,「老後」生活に入った。しかし,遠からず訪れる死を前に自分の人生を振り返り,あるいは周囲を見回すと,その光景はあまりにも貧しく,殺伐としていることに気付き始めた。

こんなはずではなかった。これで終わりたくはない。老人の多くは,そう考え,失われた時を取り戻そうと焦り,いま,あちこちで意地汚く遊び始めた。駅や空港に行ってみよ。物見遊山旅行の老人どもでいっぱいだ。小綺麗なレストランをのぞいてみよ。老人どもが,小賢しい蘊蓄を垂れ流し,美食をつついている。喫茶店もそうだ。孤独な老人どもが三々五々集まり,ぐだぐだ世間話をし,何とか社交の喜びを手にしてみたいとあがいている。先は短い。何をしても手遅れ,面白いはずはない。焦れば焦るほど惨めになるだけだ。老醜に気づかないのが老人,自業自得なのだ。

これに比べ,「特定秘密保護法」反対集会などへの老人の参加は,すべてとはいわないが,多くの場合,もう少し屈折している。かつて自分たちが多少なりとも権力と闘ったことへのノスタルジー。ただし,惨めに敗北し,その結果,現在があることは,都合よく忘れている。

老人は先が短いのだから,文字通り生命を賭して前線に出て闘えばよいのに,老齢を理由に自分では大して闘わず,その代わり「いまの若者は自分の目先のことにしか関心がなく政治意識が低い」とか「こんな若者ばかりでは日本の将来が心配だ」などといって,都合よく責任転嫁し,自己満足にふけっている。

失われし時を求め遊び呆ける老人と,懐旧にふけり現在と若者に悲憤慷慨する老人。そして,その老人どもにおしみなく経済的支援と精神的慰謝を恵み続けている若者たち。いつの時代にあっても若者は美しく,老人は醜い。老人がいくらあがこうが,未来は若者たちのものだ。死に行く老人にはどうしようもない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/01/19 at 19:05

カテゴリー: 情報 IT, 人権

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制憲議会選挙2013(31):被選挙権

「制憲議会議員選挙令2070」は,被選挙権(立候補者資格)について以下のように定めている。

●被選挙権者(立候補者資格)
 ・ネパール国民[第18条(a)]
 ・満25歳以上[18(b)]
 ・背徳的犯罪(नौतिक पतन देखिने फौजदारी कसूर)で有罪判決を受けていない者[18(c)]
 ・公金から報酬を得る職(選挙等で選任される政治的な職を除く)に就いていない者[18(d)]

●立候補者欠格要件
 ・有権者名簿(मतदाता नामावली)に名前が記載されていない者[第19条(a)]
 ・ネパール政府または政府関係組織の現職職員[19(b)]
 ・選挙違反罪により受けた刑罰の満了後2年未満の者[19(c)]
 ・汚職,レイプ,人身売買,麻薬取引,金銭洗浄およびパスポート悪用の罪で有罪が確定した者[19(d)]
 ・殺人事件に関する裁判で終身刑(जन्मकौद)が確定した者[19(e)]
 ・故意に負債不履行となりブラックリストに掲載されている者[19(f)]
 ・精神障害者[19(g)]

ここに規定されている被選挙権者(立候補者)の資格要件は,かなり厳しいといってよいであろう。事実,選管は11月6日,この規定により,マオイストの比例制立候補者2名の立候補を取り消した。一人は殺人罪で有罪判決を受けていたためであり,もう一人は公金報酬付き公職に就いていたためである。また,他に汚職で4人が欠格とされている。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/01/18 at 19:45

カテゴリー: 選挙

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