ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

制憲議会選挙2013(27):コネとエゴの比例制

制憲議会選挙は2013年11月19日投票が行われ,小選挙区制240議席はほぼ確定したが,比例制335議席,内閣指名制26議席は,まだ未確定。

制憲議会は,比例制選出議員確定後21日以内に招集される。そして,そこで選出された新内閣が内閣指名制の26議員を指名し,これにより全601議員が確定,正式の制憲議会発足となる。先は長い。

1.比例制の理念と現実
選挙後,議会発足までにこれほど時間がかかり混乱するのは,いうまでもなくネパールの比例制に制度的な欠陥があるからである。

比例制(PR=Proportinal Representation)は,小選挙区制(FPTP=First-Past-The-Post)の欠陥を補うものとして,多くの国で,それと併用されてきた。周知のように,小選挙区制では,相対的多数得票者だけが当選するから,大政党に有利であり,小政党が当選者を出すことは困難である。立候補者が多ければ,たとえば30%位の得票率でも当選可能であり,この場合,残りの70%位はいわゆる「死票」となってしまう。ネパールでも,これを非民主的と考え,死票を減らし,多様な民意を正しく議席に反映させることを目標に,比例制が採用されたのである。

ところが,ネパールの比例制(PR)は有権者が立候補者に直接投票するのではなく,全国1区の政党への投票である(下図参照)。そのため,有権者の投じる1票とPR議員選出の間には,多段階の複雑な選考過程が介在する。そして,その選考過程は,あまりにも当然な成り行きだが,実際には不透明な交渉の場,政界ボスたちの格好の草刈り場となってしまっている。

131202a ■比例制投票用紙(見本)

2.当選者名簿作成の難航
比例制の開票はすでに完了し,各党の獲得議席数も確定している。コングレス党(NC)91,統一共産党(CPN-UML)84,マオイスト(UCPN-M)54,国民民主党ネパール(RPP-N)24,マデシ権利フォーラム民主(MJF-L)10,国民民主党(RPP)10,マデシ権利フォーラム(MJF)8,タライ・マデシ民主党(TMDP)7,サドバーバナ党5,ネパール共産党ML(CPN-NL)5,連邦社会党(FSP)5,他32。

このように各党のPR獲得議席数は確定しているにもかかわらず,各党とも当選者名簿の作成が当初の名簿提出期限までにはできなかった。しかたなく,選管は提出期限を3回延長し,12月30日を最終提出期限とした。それでも各党とももめにもめ,提出は各党とも締切ギリギリであった。しかし,それにもかかわらず,マデシ権利フォーラム(MJF)と連邦社会党は,結局,期限までに名簿を提出できなかった。といっても,そこはネパール,各党の当選者枠は無効とはならないし,名簿修正もとりあえず3日間,認められている。(これもまた延長されるのではないか)。というわけで,まだまだ当選者確定とはいかない。

3.コングレス党
この間のPR名簿作成過程は,複雑怪奇,混乱の極みといってよい。まず,大勝し第1党となったコングレス党(NC)。PR獲得議席数は91。当初,このPR議席をコイララ派60%,デウバ派40%に山分けすることになっていたが,ポウデル派が猛反発,33%よこせとゴネ始めた。NC議会委員会のPR議員選考基準は,次のようなもの。
 ・党への貢献
 ・党のために払った犠牲
 ・党政策プレゼン能力
 ・党組織指導力
 ・議員としての資質
しかし,こんな基準など,さじ加減でどうにでもなる。たしかに,12月30日時点での人選には首をかしげたくなるものもある。たとえば,
 ・SB.デウバ氏の妻
 ・中央執行委員某氏の妻
 ・GP.コイララの著名な娘某氏
 ・コイララ家の他の3人
このままもめ続けると,NC再分裂といったことにもなりかねない。

4.統一共産党
統一共産党(CPN-UML)も大勝し第2党となったが,PR議員選考をめぐり大混乱。12月28日のPR議席配分案は,以下の通り。
 ・カス・アーリア 27
 ・マデシ 22(男14,女8)
 ・ジャナジャーティ 25(男12,女13)
しかし,この選考はコネ,派閥優先であり,ジャナジャーティや人望のある有能な若手多数が外され,地域も偏っているとして,また実業家が党幹部に大金を払い議席を買ったとして,激しい非難攻撃を浴びせられている。

5.マオイスト
マオイスト(UCPN-M)は,大敗し第3党,PRは54議席にとどまった。この敗北責任問題もあり,PR議員選考は難航している。マオイストのPR議員選考基準は以下の通り:
 ・小選挙区候補の選挙応援
 ・党活動実績
 ・有能さ,誠実さ
 ・人民戦争負傷者
 ・重要な党活動における負傷者
 ・闘争中の行方不明者の家族
 ・闘争殉死者の家族
 ・小選挙区落選地域
 ・前制憲議会PR選出議員は欠格
 ・公職保有者は欠格
しかし,これらの基準はどうにでも解釈できる。結局,中央委員会ではPR議員選考ができず,党幹部のプラチャンダ議長,バブラム副議長,NK.シュレスタ副議長,PB.ポウデル書記長の4人に白紙委任することになった。中央委員全員が,白紙委任状に署名したというから,みっともないことこの上ない。

ところが,白紙委任された幹部4人もまた分裂,結局,プラチャンダが,事実上独断で選考し,選管に名簿を提出した。バブラム・バタライとNK.シュレスタの両副議長は不同意。3日間の名簿訂正期間内に修正するということらしいが,どうなるか,全く不透明。

PR議員選考をめぐっては,ダディンで12月31日,反対派が党事務所に押しかけ,放火した。また,1月1日には,ビルガンジで,プラチャンダ派とバブラム派が衝突,十数名が負傷した。およそ民主主義とは縁遠い。

6.RPP-NとMJF-L
もっとスゴイのが,国民民主党ネパール(RPP-N)。PR議員選考でもめたあげく,結局,反主流派中央委員20名が選管に新党「ネパール国民民主党(NRPP)」の登録を申請し,党は分裂してしまった。また,マデシ権利フォーラム民主(MJF-L)も,PR議員選考をめぐって大混乱となり,分裂してしまった。党副議長ら反主流派は1月1日,ガチャダル議長ら主流派がカネで買収されPR議員の選考をしたとして,党提出のPR名簿への異議申し立てを選管に提出した。

RPP-NやMJF-Lのような選挙直後の党分裂ともなると,政党へ投票する比例制は,ほとんど意味をなさない。同様の問題は,日本の「みんなの党」分裂についても,ある程度はいえるであろう。

7.簡素で運用可能な選挙制度を
このように見てくると,ネパールの比例制が民意を正しく議会に反映するという主張には,あまり根拠がないことは明らかである。欧米中心の民主化支援は,包摂参加民主主義の理念にとらわれ,アイデンティティ諸集団の正確な比例参加のための選挙制度を設計し,その制度通りの選挙を強力に支援した。が,結果は悲惨の一言に尽きる。机上設計の制度はあまりにも精緻・複雑なため,選挙実施に莫大なカネがかかるばかりか,議員選出過程も実際には不透明なエゴとカネまみれとなってしまったのである。

多文化・多民族のネパールでは包摂参加は避けられないが,制度はもっと簡素で安上がりの,運用可能なものとすべきであろう。簡素・安上がりだと,援助利権もボス利権も少なくなり,民主主義業界には歓迎されないだろうが。

[参照]Republica,28-29 Dec; Himalayan,28-30 Dec; ekantipur, 30-31 Dec.2013,1 Jan,2014

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/01/02 @ 18:43