ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

魔女狩り禁止法案,提出へ

1.魔女狩り禁止法案
ネパール「女性・子供・社会福祉省(HoWCSW)」は,「魔女狩り取締り・処罰法」の起草作業を終え,法案を立法議会に提出することになった。法案の要点は以下の通り(Republica, 2 Jun)。

・「魔女狩り」の構成要件:「魔女と名指しして,暴力をふるい,誹謗中傷し,黒ずみを塗りつけ,酸をかけ,糞便を食べさせることは,犯罪である。」
・罰則:5~10万ルピーの罰金,5~10年の拘禁刑

魔女狩り行為は,憲法の人権規定違反であり,拷問禁止法(1996年)など既存の法律でも取締り処罰できるが,あえて「魔女狩り禁止法」を制定しなければならないのは,いまなお魔女狩りが横行し,取締り・処罰が十分には行われていないからである。

2.魔女狩り
ネパールではいまでも,身内や村に病気など不幸があると,厄払いのため呼ばれた祈祷師(झाँक्री, jhankri)や親族あるいは近隣の人が,災いをもたらしたのは魔女(बोक्सी, boksi)だと考え,誰かを魔女として糾弾し始めることが少なくない。魔女と名指しされるのは,低カースト女性が多い。

そして,ひとたび魔女とされると,もはや逃れることは困難であり,残忍な糾弾や迫害を受けることになる。たとえば――

・チトワでン2012年2月18日,2人の子の母である寡婦が,魔術により親族の1人を病気にしたとして,祈祷師と親族により焼き殺された。その1か月後,カトマンズで,寡婦が魔術を使ったとして,親族から暴行され,両眼を潰され失明した。(D.Fernandez & K.Thapa, “Legislating Against Witchcraft Accusations in Nepal,” http://asiafoundation.org/in-asia/2012/08/08/legislating-against-witchcraft-accusations-in-nepal/)

・ラリトプル郡で2009年3月20日,小学校女性校長が,魔術により家畜を殺したのは村のダリット女性だと考え,彼女を殺すと脅し,殴りつけ,彼女自身の糞便を食べさせ,反抗したら家族も殺すと脅迫した。(Sujata Paudel,”NEPAL: Witchcraft as a Superstition and a form of violence against women in Nepal,” http://www.humanrights.asia/opinions/columns/AHRC-ETC-056-2011)

こうした事例は,他にもたくさんある。しかも,あまりにも残虐非道で紹介をためらうようなものも少なくない。正確にはわからないが,2011年については下記のような数字が報告されている。

▼D.Fernandez & K.Thapa(上掲論文): 2011年の魔女狩り事件,103件

▼INSEC, “A Study on Violence due to Witchcraft Allegation: 2011” (A Study on Violence due to Witchcraft Allegation and Sexual Violence, 2012)
 2. 魔女狩り被害者数(2011年)
  2.1 被害者総数(年齢別)
   140604a

  2.4 「魔女」殺害数(郡別)
   140604c

3.「魔女狩り」の魔力
魔女狩り禁止法は,これまでに何度も制定が試みられたが,議会混乱のため成立しなかった。今回も新憲法制定問題で議会は紛糾しており成立の見通しははっきりしない。

さらに問題なのは,法の実効性。ネパールでは,憲法や他の法律ですら守られない場合が少なくない。魔女狩りについても,たとえ禁止法ができても,この因襲はすぐにはなくならないだろう。難しい問題だ。

ここで心すべきは,これはネパールだけの問題ではないということ。日本でも,憲法無視は日常化し,「法の支配」も空洞化しつつある。だから「現代版魔女狩り」としての「ヘイト・スピーチ」は野放し状態だし,陰湿な「いじめ」もなくならない。

よほど用心していないと,誰でも時流に流され,無自覚のうちに「現代版魔女狩り」に加担することになってしまうだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/06/04 @ 09:46

カテゴリー: 文化, 人権

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