ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

集団的自衛権閣議決定:ネパールの報道(2)

集団的自衛権閣議決定についてのネパールの報道は,AFP,Reuters,BBCなど欧米系配信と,新華社,中国日報など中国系配信がほぼ同量だが,目立つのはやはり派手な中国系配信記事だ。ネパールの人々は,中国メディアあるいは中国系専門家の目を通して日本イメージを形成しつつある,といってよいだろう。

1.劉強「世界平和を守れ」
ネパールの最有力紙「カトマンズ・ポスト」が7月2日,掲載したのは,劉強「世界平和を守れ」。著者のことはまったく知らないが,中国寄りとはいえ,全体としてはバランスのとれたよい記事だ。要旨は以下の通り。
 ▼Liu Qiang,”Maintaining world peace,” Kathmandu Post,2 Jul.2014.The author is director of International Security Research Center, affiliated to PLA International Relations University.

米国は,米日安全保障条約が中国領・釣魚島にも適用されると明言しているので,中日武力衝突となれば,米国参戦となり,これはこの地域全体にとって破滅的な結果をもたらすだろう。

現在の中日関係は,120年前の中日戦争(日清戦争)前夜のようだ。が,当時と現在とでは,状況がまったく異なる。中国は経済的にも軍事的にも強くなり,諸外国とも協力し,地域の安全保障を構築できるようになった。

ところが,日本は,最近,攻撃的な軍事戦略をとり,軍事力を増強する一方,憲法による自衛隊の制約を取り払ってしまった。といっても,平和主義が抑圧されてしまったわけではなく,むしろ支持拡大の兆しさえ見られる。だから,日本国政府は,かつてのような露骨な軍国主義政策をとるわけにもいかないのだ。

米国は,米日安保を唱えつつも,中国との経済関係を強化しており,したがって日本が対中戦争に向かうのを阻止することは間違いない。一線を越えないよう,米国は東京に圧力をかけるであろう。

世界諸国は,積極的安全保障のために協力し,世界平和の実現・維持を図るべきだ。

以上が,劉強氏の記事要旨。イラストでは,米国は日本側にいるが,あいだには断崖がある。なかなか意味深。よい記事だ。

140705 ■カトマンズポスト挿絵

2.中国日報「日本はパンドラの箱を開けた」
もう一つ注目すべきは,ABCテレビ-ネパールの中国日報記事(無署名,7月2日付)。ABCテレビの放送やネット記事がどの程度の影響力を持っているかはよく分からないが,新華社や中国日報など中国メディア配信記事は,他にもあふれているので,一つの事例として読んでみることにする。要旨は以下の通り。
 ▼”Japan opens Pandora’s box”(China Daily),2 Jul.2014,http://www.abctvnepal.com.np/japan-opens-pandoras-box/#.U7SynPl_ssA

安倍内閣は,集団的自衛権禁止解除と専守防衛撤回により憲法第9条の戦争放棄を骨抜きにしてしまった。冒険主義者・安倍とその右傾自民党の政治的大勝。憲法の改正を迂回し,再解釈することによって,これをやってのけたのだ。

これは,日本の国民と国家に大きな危険をもたらすであろう。日本の安全保障は,格段に複雑でかつ困難なものになった。また,安倍の歴史修正主義も,到底受け入れがたいものだ。

安倍は,平和への「積極的」貢献を唱えているが,実際には,「平和と安全の破壊者」であり,近隣で紛争を引き起こしている。

安倍は,日本を普通の軍隊を持つ普通の国にしようとしているが,いままで,なぜそうできなかったのか,その理由を見ようとはしない。安倍らにみられるような,執拗な歴史修正の企みこそが,普通の国になることを日本に許さなかった,そもそもの理由に他ならないのだ。

安倍は,日本国憲法の再解釈をさらに拡大するかもしれない。集団的自衛権閣議決定は,日本,東アジア,そして世界全体に向け,パンドラの箱を開けることになってしまったのである。

以上が中国日報記事要旨。かなり露骨で中国政府寄りだが,基本的には間違ってはいない。

3.「平和」理念の現実性
中国はもともと文の国であり,しかもいまや金と力の国でもある。その中国が,「平和」の旗印を掲げ,世界世論形成に本気で取り組み始めたら,日本など到底太刀打ちできはしない。政治においては,建前は本音以上にものをいう。

日本国民にとっては,ここが頑張りどころ,憲法第9条の非武装・非戦を死守し,「平和」の旗印を中国以上に高く掲げ続けるのが,実際には現実的であり,賢明である。「平和」の理念を堅持する真の現実主義に立つ勇気がもてず,空威張りの「観念的現実主義」に酔いしれ猪突猛進,無思慮に「パンドラの箱」を開けてしまえば,オシマイ。「剣をとる者はみな,剣で滅びる。」

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/07/05 @ 16:22