ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 10月 2014

ネパール人「虚偽」難民申請と日本の制度悪

朝日記事「ネパール人留学生,偽りの難民申請,稼ぐため制度乱用」(朝日デジタル10月26日)が,波紋を呼んでいる。要旨は以下の通り。

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ネパール人の留学生や技能実習生らが,次々と難民申請をしている。難民認定申請すると,申請後半年から結果がでる数年後まで身分が保障され,有利な条件で働き,金を貯め,帰国することができるから。

たとえば,ネパール人農業実習生の場合,厳しい長時間労働にもかかわらず,月収は7万円であったが,難民申請後,20万円となった。

このネパール人のような難民申請は,虚偽申請であり制度乱用だが,(1)難民認定に時間がかかりすぎる,(2)外国人労働者雇用制度の不備など,日本の制度にも問題がある。
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以上が朝日記事の要旨だが,この問題については,数年前から様々な指摘がなされてきた。

(1)「難民認定申請:名古屋入管,06年19人 → 11年225人に急増」:ネパール人,スリランカ人,パキスタン人など(毎日2013/1/8)
(2)「難民保護費:相次ぐ不正受給」:愛知県警,ネパール人4人を難民保護費不正受給容疑で逮捕。(毎日2013/2/9)
(3)「難民申請,最多の3260人 13年,認定は6人に減」:難民申請トルコ658,ネパール544,ミャンマー380,スリランカ345(共同2014/3/20)

たしかに,ネパール人難民申請は,急増している。入国管理局によれば,以下の通り。

難民認定申請者(法務省入国管理局「平成25年における難民認定者数等について」平成26年3月20日)
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141029a 141029b

2013年度難民認定6人のうちネパール人が何人かは分からないが,ゼロか,いてもごくわずかであることは間違いない。難民認定基準が厳しすぎるにせよ,現行制度を前提とするなら,ネパール人難民申請の多くが,いわゆる「虚偽申請」ないし「制度乱用」に当たるとみざるをえない。

この現状には,いくつか問題がある。第一に,本当に必要な人の難民申請や認定に支障が出るということ。第二に,労働目的の難民申請に非難の矛先が向けられることにより,日本の外国人雇用制度そのものの不当性が隠蔽される恐れがあるということ。

たしかに,現行の制度を前提とするなら,ネパール人難民申請の多くは,いわゆる「虚偽申請」ないし「制度乱用」であろうが,しかし,これは申請するネパール人の側の責任では,断じてない。責任は,あげて日本の外国人労働者制度(特に技能実習制度)や難民認定制度にある。

悪いのは,日本の制度。朝日記事のように,過度にセンセーショナルな見出しをつけると,誤解を招きかねない。かりそめにも,ヘイトスピーチの矛先をネパール人労働者に誘導し,憂さ晴らしをさせるようなことは,してはならない。

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【参照1】(2015-2-18追加)

曽野綾子の透明な歳月の光  労働力不足と移民 「適度な距離」保ち受け入れを
 最近の「イスラム国」の問題など見ていると、つくづく他民族の心情や文化を理解するのはむずかしい、と思う。一方で若い世代の人口比率が減るばかりの日本では、労働力の補充のためにも、労働移民を認めねばならないという立場に追い込まれている。・・・・
 しかし同時に、移民としての法的身分は厳重に守るように制度を作らねばならない。・・・・
 ここまで書いてきたこと矛盾するようだが、外国人を理解するために、居住を共にするということは至難の業だ。
 もう20~30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった。・・・・
 爾来、私は言っている。 「人間は事業も研究も運動も何もかも一緒にやれる。しかし居住だけは別にした方がいい」 

(産経新聞2015年2月11日付コラム要旨抜粋)

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産経新聞 曽野綾子さんのコラムへの抗議文

曽野綾子様  産経新聞社常務取締役 飯塚浩彦様

 『産経新聞』2015年2月11日付朝刊7面に掲載された、曽野綾子氏のコラム「労働力不足と移民」は、南アフリカのアパルトヘイト問題や、日本社会における多様なルーツをもつ人々の共生に関心を寄せてきた私たちにとって、看過できない内容を含んでおり、著者の曽野綾子氏およびコラムを掲載した産経新聞社に対して、ここに強く抗議いたします。
 曽野氏はコラムのなかで、高齢者介護を担う労働力不足を緩和するための移民労働者受入れについて述べるなかで、「外国人を理解するために、居住を共にするということは至難の業」であり、「もう20~30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった」との持論を展開しています。
 「アパルトヘイト」は現地の言葉で「隔離」を意味し、人種ごとに居住区を分けることがすべてのアパルトヘイト政策の根幹にありました。また、アパルトヘイトは、特権をもつ一部の集団が、権利を剥奪された他の集団を、必要なぶんだけ労働力として利用しつつ、居住区は別に指定して自分たちの生活空間から排除するという、労働力管理システムでもありました。移民労働者の導入にからめて「居住区を分ける」ことを提案する曽野氏の主張は、アパルトヘイトの労働力管理システムと同じです。国際社会から「人道に対する罪」と強く非難されてきたアパルトヘイトを擁護し、さらにそれを日本でも導入せよとの曽野氏の主張は言語道断であり、強く抗議いたします。このような考え方は国際社会の一員としても恥ずべきものです。
 おりしも、このコラムが掲載された2015年2月11日は、故ネルソン・マンデラ氏が釈放されて、ちょうど25年目にあたる日でした。その記念すべき日に、南アフリカの人びとが命をかけて勝ち取ったアパルトヘイトの終焉と人種差別のない社会の価値を否定するような文章が社会の公器たる新聞紙上に掲載されたことを、私たちはとても残念に思います。
 曽野綾子氏と産経新聞社には、当該コラムの撤回と、南アフリカの人々への謝罪を求めます。また、このような内容のコラムが掲載されるに至った経緯、および人権や人種差別問題に関する見解を明らかにすることを求めます。以上について、2015年2月28日までに文書でアフリカ日本協議会(AJF)へお知らせくださるようお願いいたします。また、貴社のご対応内容については他の市民団体、在日南アフリカ共和国大使館、国際機関、報道機関などへ公開するつもりであることを申し添えます。

2015年2月13日  (特活)アフリカ日本協議会 代表理事 津山直子

The Letter to Sankei-shinbun and Ms. Sono Ayako in English
13 Febrary 2013

Ms. Ayako Sono, the author  Mr. Hirohiko Iizuka, Managing Direcor, SANKEI SHIMBUN CO.,LTD

Ms. Ayako Sono’s column which appeared on the Sankei Shimbun morning edition on 11 February 2015, has inappropriate contents that cannot be overlooked. We, as an NGO which has had concerns about apartheid in South Africa and aspiration for harmonious coexistence of people with various roots within Japanese society, strongly protest against the author of the column as well as against the Sankei Shimbun for running the article.

In the column Ms. Sono, discussed the need to introduce immigrant workers who would provide nursing care for the elderly in Japan and wrote that she felt it extremely difficult to live with foreigners. She also wrote “Since learning about the situation in South Africa 20 or 30 years ago, I’ve come to think that whites, Asians, and blacks should live separately.” (Translation by Japan Times, “Author Sono Calls for Racial Segregation in Op-Ed Piece,” 12 February 2015)

“Apartheid” means “separation” in the local language of South Africans. Separating residential areas according to race was the foundation of apartheid policy. Apartheid was also a labor force management system, in which the privileged race deprived other races of their rights by using them as convenient labor. At the same time this privileged race did not let these races remain in their own areas. Arguing for a separate residential area for immigrant workers, as Ms. Sono does, is synonymous with calling for an apartheid system in Japan. It is abominable to defend apartheid, which has been strongly condemned by the international community as a “crime against humanity”, and to argue for introducing a similar system in Japan. We strongly object to this opinion. It is a shameful act to express such views as a member of the world community.

Coincidentally, the day the column run, 11 February 2015, was a 25th anniversary of the late Mr. Nelson Mandela’s release from the prison. It was very disappointing that we had to find, on this memorable day, a column which negates the significance that South African people fought, risking their lives, for the end of apartheid and the realization of society without racial discrimination.

We demand Ms. Sono and the Sankei Shimbun retract this column and apologize to the people of South Africa. We also demand an explanation regarding the process in which the column went to press, and your view on human rights and racism. Please send us your written response to Africa Japan Forum (AJF) by 28 February 2015. Please be advised that we intend to inform other NGOs, the South African Embassy, international organizations, and various media companies of any response we receive from you.

Tsuyama Naoko  President  Africa Japan Forum

(http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/archives/sonoayako-sankei20150211.html)

【参照2】(2015-2-25追加)
亀井伸孝「『文化が違うから分ければよい』のか―アパルトヘイトと差異の承認の政治」
 ・曽野綾子氏の産経新聞コラム。「人種主義」と「文化による隔離」の二つの問題点。
 ・文化人類学は、南アフリカのアパルトヘイト成立に加担。
 ・黒人の母語使用を奨励する隔離教育。
 ・「同化」を強要しないスタンスが、「隔離」という別の差別を生む温床。

【参照3】ネパール人夫婦,難民認定(2015年4月24日追加)
愛知県豊川市在住のネパール人夫婦が,2015年3月27日,難民認定された。RPP党員で,マオイストに迫害され,2007年1月観光ビザで来日,2010年難民申請するも2011年不認定。2011年5月,異議を申し立て,これが3月27日認められ,ネパール人初の難民認定となった。
*中日新聞,毎日新聞,朝日デジタル,2015年4月24日。

谷川昌幸(C)

京都の米軍基地(59):地元住民は米軍「大歓迎」

京丹後の地元住民は,米軍基地を大歓迎しているそうだ。たとえば,ジェイソン・E・オルブライト第14ミサイル防衛中隊司令官は,こう述べている。

「わが中隊は,地域社会との極めて良好な関係を持ち,地域社会も中隊の任務を全面的に支持してくれている。」 「地域社会の指導者たちは,わが中隊を喜んで地域社会に受け入れ,発足式にも多くが出席してくれた。」 「私は,・・・・日米同盟を強化するとともに,文化交流や地域社会への働きかけを通してわが国軍人と地域社会住民の生活を改善していきたいと考えている。」(”Activation of 14th MDB Strengthens US – Japan Alliance,” by Sgt.Kimberly K.Menzies,94th Army Air and Missile Defense Public Affairs,October 23,2014)
[駐留軍正式名称]The 14th Missile Defense Battery,100th Missile Defense Brigade,94th Army Air and Missile Defense Command

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米軍は,もともと情報戦に長けており,戦略的に進駐先の世論工作をする。しかも,英語帝国主義の世界制覇により,地元工作は,同時に世界世論工作ともなる。

これとは対照的に,日本は情報軽視文化(沈黙は金!)であり,しかも敗北二流言語の日本語を使っているので,世論工作で米国に勝てる見込みは,ない。

かくて,丹後住民はこぞって米軍基地を大歓迎しているということになる次第。

[補足]ネットの米軍関係ページを閲覧すると,個人情報を盗み取られる恐れがある。要注意!

141026a ■中隊発足式(10月22日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/10/26 at 21:50

京都の米軍基地(58):「売国的」停波合意

下品な言葉は使いたくないが,Xバンドレーダー停波合意は「売国的」「植民地的」と言わざるをえない。ヒドイ!

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 ■米軍経ヶ岬基地,10月22日

1.停波手続
正式の合意文書が手元にないので京都新聞報道(10月23日)に依らざるをえないが,記事によると,レーダー停波手続は次の通り。

(1)ドクターヘリの場合
 要請者(京丹後市消防本部,宮津与謝消防本部またはヘリ運航会社)が,英語で,米軍通信所に停波要請し回答を受ける。
(2)海難救助の場合
 要請者(地元の消防本部と警察)が,英語で,米軍通信所に停波要請し回答を受ける。

2.使用言語は英語
まず第一に問題にすべきは,停波関係者の正式使用言語が,英語(米語)だということ。(停波合意文書正文が英語か否かは不明。)

言語は,繰り返し述べてきたように,文化の基盤であり核である。日本では大部分の国民が日本語を母語としており,したがって日本語がそれに当たることはいうまでもない。(少数派言語の権利尊重は当然の大前提。)

京丹後でも,日本語は大多数の住民の古来の母語だ。人々は,日本語で日々生活し,日本語を使って仕事をしてきた。それなのに,米軍との交渉に,なぜ外国語の英語(米語)を使用しなければならないのか?

そもそも米軍は,米国益のために京丹後にやってきた,はた迷惑で危険な居候にすぎない。その居候に,卑屈にもペコペコへつらい,自らの魂ともいってもよい日本語を放棄し,カタコト英語であれこれお願いする。あまりにもミジメ,情けない。

停波は,たとえかりに米軍基地の存在を認めるにせよ,もともと丹後住民の当然の権利であり,必要なときは,日本語で,堂々と停波を要求すべきだ。その日本語で伝えられる日本側要求を,英語に正確に翻訳し,忠実に実行するのが,居候たる米軍の当然の義務だ。

異文化間の交渉において,どの言語を用いるかは,決定的に重要だ。京丹後の要請者が,たどたどしい英語で,”Dokutaa-Heli kamu, puliizu sutoppu reidaa! Onegai-shimasu” などと要請しても,米軍側は「ナニ,イッテイルノカ,ワーカリマセン???」とかいって,無視してしまうのが落ちだ。

米軍との交渉に英語(米語)を使えば,交渉の最終解釈権は米軍側に握られる。英語帝国主義への屈服! これをもって「売国的」「植民地的」といわずして何とする。

3.防衛省と京都府の免責
つぎに,停波要請が,防衛省や京都府を介してではなく,地元の消防や警察署あるいはヘリ会社から,直接,米軍に提出されることになっているのも,不可解だ。(自衛隊はバックアップ[10月26日追加])

たしかに,防衛省や京都府を通すと時間がかかり,緊急時に間に合わない恐れもある。しかし,このハイテク時代,情報伝達は瞬時であり,制度さえ整えておけば,遅延はそれほど心配するに当たらない。

が,防衛省(政府)と京都府は,そうはしなかった。なぜか? おそらく,停波を地元関係機関と米軍との直接交渉にしておけば,国家も府も面倒なことに巻き込まれず,責任逃れができるからであろう。

考えてもみよ。相手は世界最強国家の巨大軍隊。こちらは極東の辺境のちっぽけな自治体の,予算も人員もままならない小さな小さな消防や警察か,あるいは民間ヘリ会社。まともに相手にされるはずがない。

4.米国「植民地」としての「美しい国」
米軍基地については,一事が万事これ。米軍はむろんのこと,日本政府も地域住民のことなど,眼中にはない。英語と軍隊の二刀流の達人,米国=美国の帝国主義支配にひれ伏し,いじぎたなくおこぼれに預かろうとしているのが,「美しい国」日本の現在の偽らざる姿である。

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[参考資料:10月26日追加]「経ヶ岬飛行制限区域に係る停波要請手続きについて」(京都府,2014-10-23)
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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/10/25 at 18:37

憲法骨格案提出,またまたまた延期

「憲法に関する政治的対話と合意形成委員会(CPDCC)」(バブラム・バタライ議長)の憲法骨格案提出期限が,またまたまた延期され,11月1日となった。3度目の正直,今度こそ本当に本当の「最後」だそうだ。

また,バブラムCPDCC議長の強い要請で10月21~22日に開催された,豪華ゴカルナ・リゾート3党幹部合宿会議でも合意は得られず,こちらもティハール開けの26~27日に再度会議をもつことになった。憲法より祭が大切。
 [ゴカルナ合宿会議出席]
   NC: デウバ,ポウデル,シタウラ
   UML: オーリ,MK.ネパール,イシュワル・ポカレル
   UCPN-M: プラチャンダ,バブラム・バタライ
141024c141024a141024b ■ゴカルナ・リゾート(同HP)

与野党の対立は,憲法(国家構造)の基本部分に関わっている。この点については,すでに何回も述べたので,それらを参照されたい。

ネバン制憲議会議長は,バブラムCPDCC議長に対し,11月2日の議会に,憲法制定に関する合意項目と不合意項目の一覧を提出せよ,と命令した。1日がCPDCC答申の「最後」の期限だから,制憲議会議長がそう命令するのは当然だが,さて,それでどうなるのか?

NC,UML,RPP-N,RPP,RJなどは,投票決着を主張している。これに対し,マオイストとマデシ系諸党派は,投票決着には絶対反対,「12項目合意(2005)」に従い,あくまでも合意による憲法制定を目指せ,と強硬に要求している。

憲法(国家構造)への合意形成も,投票決着もできない。こんなとき,民主主義はどうするのか? 民主的憲法は民主的には制定できないのか?

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/10/24 at 15:54

Pesticide-free Veg: 無農薬の夢と現実

無農薬野菜は理想だが,現実は,この有様。私は,このような白菜を,時には青虫とともに食べているが,市場では,こんな白菜は絶対に売れない。

スーパーに並ぶ安くて見栄えの良い野菜は,いわゆる「害虫」や「雑草」や病気に強いいくつかの例外を除けば,おそらくすべて農薬まみれであろう(出荷時には残留「許容範囲内」と説明されてはいるが)。都市消費者は,カネを出すのも,青虫や虫食いもイヤなのだから,仕方ない。自業自得。

いまや,自家栽培者と無農薬栽培経費を負担できる人だけが,自然野菜を食べる特権を享受している。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/10/23 at 11:17

カテゴリー: 経済, 自然

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京都の米軍基地(57):レーダー極秘搬入

米軍が21日未明,極秘裏に,Xバンドレーダー本体を経ケ岬米軍基地に搬入した。時間,経路とも一般には全く知らされなかった。軍事秘密だから,当然だろう。軍機とはそういうものだ。
 [参照]TBS News-i, 米軍「Xバンドレーダー」、京都・京丹後の通信所に搬入

ところが,われらが京都新聞は21日朝刊で,早々と搬入経路と時間を,ほぼ正確に報道した。レーダーはトレーラーに載せられ,20日夜,空自小松基地を出発し,陸路を通り,21日早朝経ケ岬に着く,と(同紙1面)。

むろん,陸路を,多数の警官を動員して警戒させ,パトカー先導で,信号を全部青に変えさせ,運搬するのだから,米軍から防衛省,防衛省から京都府や京丹後市に事前通告(17日午後)があったのは,当然だ。が,防衛省は米軍の御用聞き,京都府はその孫御用聞き,京丹後市はそのまた曽孫御用聞きだから,大親分の命令「保安上の理由により,装備の移動方法や予定日時を公表することはできない」(米軍報道官,京都新聞21日)に背くことなど,できはしない。お説ごもっとも,ハチ公以上の忠実さ。

では,京都新聞は,この極秘情報を,いつ,どのようにして入手したのか? レーダー到着は「21日午前4時半ごろ」(京都新聞22日)だから,それ以前に府や市が搬入を公表したとは考えにくい。とすれば,京都新聞は,小松基地出発か経路途中で運搬情報をつかんだか,あるいは府か市から情報リークを受け,21日朝刊で報道したに違いない。もしそうなら,さすが反骨京都新聞,エライ!

が,もし仮にそうなら,この報道は「特定秘密」か「特別秘密」か「防衛秘密」の暴露に当たるのではないか?

あるいは,さらに深刻なことに,これは一般住民自身とも無関係ではありえない。警官厳重警戒の中をパトカー先導で大名行列すれば,だれでも気づく。ましてや丹後の村々は道の狭いところも少なくないから,文字通り軒先,いや枕元を,武装集団護衛の巨大武器が通行したのだ。気付いて当然。そして,もし気づいた人が,“あれは何だ” と不審に思い,ツイッターやフェイスブックで,見聞きしたことを世界中にばら撒いたらどうなるか? 下手をすると,軍事機密に関する何らかの法令違反の嫌疑で取り調べを受けることになるかもしれない。

まさか,この現代日本で,そのようなことはあるまい,とたいていの人は思うであろう。たしかに実際には,Xバンドレーダー関係の報道をしても,あるいは写真を撮ってツイートしても,よほどのことがなければ,取り調べを受けたり逮捕されたりすることは,ただちには無いであろう。

が,「まさか」や「よほどのこと」や「ただちに」は,その恐れがあると,うすうす感じていることに他ならない。そして,権力側には,そう感じさせれば,それで十分なのだ。

Xバンドレーダーは,秘密の塊。武装した米兵や,兵隊より怖い軍属(民間戦争会社職員)により厳重警戒されている。「住民の安全・安心」のために増派される警官が,銃口や警棒を住民の方に向け,やはり厳重警戒につく。Xバンドレーダーは,タブー中のタブーなのだ。

タブーは,さわれば祟りがある。少々近づいても,「よほどのこと」がなければ,「まさか」「ただちに」撃ち殺されることはあるまいが,その恐れがまったく無いということではないし,取り調べや逮捕の恐れであれば,もっともっと現実的なものとして確かに存在する。

このXバンドレーダーの威嚇効果は絶大であり,住民は「安全・安心」を考えるなら,タブーについては「見ざる,聞かざる,言わざる」の自己規制に向かう。当然のことだ。

最後に,中山市長のお言葉を拝聴しよう。文中の「住民」を「米軍」と置き換えて読むと,お言葉の真意がよく判る。

防衛省から17日の午後,搬入期日の情報提供があったが,住民の安全を確保,保全する観点から公表は控えていた。」(京都新聞10月22日,赤色=引用者)

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 ■京都新聞:上左から21日1面,22日社会面,22日1面

【参考資料】中山京丹後市長のコメント 26.10.21(京丹後市HP)
 本日、8時前に防衛省から、経ケ岬通信所へのレーダー本体機材の搬入が完了した旨連絡を受けました。
 引き続き、工事施工において、通学・通勤などの安全をはじめ各般の安全確保・不安解消の対策に万全を尽くし、万一にも不測の事故等のないよう万般の配慮と施工上の管理をお願いする。併せて、改めて、万般にわたる住民の皆さんの安全・安心の確保の引き続きの確実な履行を重ねて要請する。
 (なお、防衛省からは17日の午後、搬入期日についての情報提供がありましたが、京丹後市長としてこれまで申し上げていますとおり、搬入のための輸送過程を含め住民の安全を確保、保全する観点から、当該情報の公表は控えさしていただいておりましたので、ご理解をよろしくお願いいたします。)

[追加2014/10/29]「危険が生じる場合は公開しない」配備情報をめぐって京都府議会で応酬(産経WEST,2014.10.25)
府議会決算特別委員会の総括質疑[10月24日」で、・・・・山田知事は、「防衛省の要請に応じた」と公表を控えた理由を説明。「住民の安心安全が守られることが基準になる。運び込まれる日時がわからないからといって、混乱が起きたのか。情報を公開することで危険が生じる場合には公開しない」と語った。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/10/22 at 12:29

憲法骨格案も課題一覧も作成できず,CPDCC

「憲法に関する政治的対話と合意形成委員会(CPDCC)」(バブラム・バタライ議長=UCPN)は,憲法骨格案を10月16日までに,それができない場合は,投票用課題一覧を17日までに,制憲議会に提出することになっていたが,なんと驚くなかれ,バブラムCPDCC議長は,そのいずれもしなかった,いやできなかった。ネパールでは,紛糾すればするほど,合意形成機関の名前が長~くなり,合意形成期間も長~くなる。(参照:憲法基本合意,また延期

141021 ■バブラム・バラライTwitter

バブラムCPDCC議長は,議会への答申の代わりに,最後の「最後の話し合い」を求め,その結果,今日10月21日と明日22日に,それが行われることになった。コイララ首相と主要3党代表の出席が要請されている。

一方,制憲議会「憲法起草委員会」のクリシュナ・シタウラ議長(NC)は,憲法起草には最低1か月はかかるので,憲法骨格案の答申が11月1日までになければ,1月22日の憲法制定・公布には間に合わない,と警告している。

10月21~22日の最後の「最後の話し合い」がどうなるか予断を許さないが,現在のところ,CPDCC答申が11月1日までまたまた延期される可能性が高い。

それでも答申がない場合はどうするか? NCとUMLは,連邦制,政府形態,司法,選挙制度など,意見の分かれる部分については議会での投票採決を主張している。議会多数を制しているから,当然といえよう。

これに対し,マオイスト(UCPN-M)を中心とする22党連合は,「12項目合意(2005)」などを引き合いに出し猛反対,投票に持ち込めば,街頭に出て実力阻止を図る構えだ。

この点については,すでに指摘したように,合意形成も投票採決も実際には困難な状況だ。(参照:憲法基本合意,また延期

そこで再び注目され始めたのが,10月8日復活した立憲政府の上の政治的「政府」たる「高次政治委員会(HLPC)」(プラチャンダ議長=UCPN)。議会内の正規手続きでは決着をみなければ,結局,議会外の主要諸勢力の手打ちで政治的打開を図る。豪傑プラチャンダならやれそうな気もするが,たとえ成功しても,それは一時的で,民族アイデンティティ政治をいつまでも封じ込めるのは無理だろう。

結局,憲法制定・公布をまたまた延期し現状維持を策すのが,最も現実的な解決策ということになりかねない。厄介なことだ。

* Cf. Kathmandu Post & Nepalnews.com,19 Oct; Ekantipur & Republica,20 Oct.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/10/21 at 11:34