ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

「実」より「名」,プラチャンダの連邦制提案

マオイストのプラチャンダ議長が10月15日,民族名結合の州名とするのであれば,10州以下の連邦制でもよい,と語った(Republica,15 Oct)。2013年11月の制憲議会選挙では,マオイストは12州を提案していた。

141015 ■マオイスト12州案(प्रतिबद्धता पत्र)

連邦制は,いうまでもなく新憲法制定への最大の懸案の一つ。連邦を構成する州の数が少なければ,州区画が大きくなり,民族/カーストごとの州をつくれず,相対的多数派の民族/カーストの力が大きくなる。州名も多数派民族/カーストの名前か,民族/カーストとは無関係の,たとえばコングレス提案の「東州」とか「西州」といった民族/カースト中立州名になるであろう。この場合,前者はいうまでもなく,後者であっても,現実政治においては多数派民族/カーストが実際にはヘゲモニーを握ることになる。

世間では,名前など符号にすぎないとか,「名」より「実」だなどいわれることも少なくないが,実際には「名」が「実」を左右する。夫婦同一姓強制への固執がそうだし,会社合併で「三菱東京UFJ」とか「三井住友」のように旧会社名継承にこだわるのも,「名」が「実」を規定すると信じられているからである。その意味では「名」は「実」より重要だ。

ネパール連邦制の議論において,プラチャンダが,州名を複数の民族/カーストの名を結合したものにするなら,州の数は10以下でもよいと述べ,コングレス党の6~7州案に大きく歩み寄ったのも,とりあえずは「実」を捨てるふりをして「名」を取る作戦だろう。被抑圧諸民族/カーストの権利実現をスローガンとして民主化運動を闘ってきたのだから,彼らのメンツ(名前)だけはつぶさないでやってくださいね,と情に訴える高等作戦。

もともとネパールでは,どの民族/カーストであれ,単独で独自の州をつくることは困難なのだから,結合名の州という提案は少数派民族/カーストにも受け入れられやすいものだ。そして,「名」を取れば,いずれ「実」をも取れるという希望も,少数派民族/カーストはもつことができるであろう。さすが策士,プラチャンダ!

しかし,果たして,それでうまくいくのであろうか? 結合名にするとして,では実際に,民族/カーストの名をどう結合するのか。プラチャンダは「キラト-ルンビニ-コシ州」といった例を出しているが,本当にこの程度で済むのだろうか? 

日本には,「三井住友海上あいおい生命」といった長~い社名や「損保ジャパン日本興亜」といった珍妙な社名があるが,いくら長くても珍妙でも丸く収まっているのであれば,それはそれでよい。

しかし,ネパール連邦制は,もっとはるかにやっかいだ。西洋諸国が焚き付けた民族アイデンティティ政治は,民族/カースト名をいくつ連結してみても,とうてい丸く収まりそうにはない。パンドラの箱を開けたツケは,ここでも地元住民に付け回されることになるのであろう。

[参照]火だるまのバタライ博士: マオイスト14州案

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/10/15 @ 20:15