ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

ガディマイ祭:動物供犠と人間の業(4)

3.ガディマイ祭の催行
ガディマイ祭は,実際には見ていないので,以下はネット記事などのとりまとめにすぎない。また,祭礼催行方法は,1990年民主化以降,とくに前々回1999年頃から大きく変化し始めたようなので,関連記事にも混乱が少なくない。いずれが事実かにわかには判別しがたいので,様々な情報をできるだけ整理して紹介するにとどめたい。矛盾や繰り返しもあろうが,ご容赦願いたい。

(1)ガディマイ寺院
現在のガディマイ寺院は,1993年(2050年),ケドゥ・チョーダリ・タルーが,バグワン・チョーダリを記念して建立したもの。

それ以前にこの場所に何らかの建造物があったかどうかは不明だが,寺院の側にはココナツを割るための大きな石がある。ココナツは,ダクシンカーリーなど他の寺院でもよく見られる供物であり,バリヤルプルでも,古くは,地元の人々がこの石の上で割ったココナツと幾ばくかの生贄を捧げ,ガディマイ女神の加護を祈っていたのであろう[a]。

そうした古来の素朴な宗教儀式が,1990年の民主化や1993年の寺院建立を転機に大きく変化し,現在のような「世界最大の動物供犠祭」になったのではないかと思われる[b]。

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 ■2050年建立のガディマイ寺院(Himalayan 2009-11-22)/ 女神とココナツ(gadhimai.info)

(2)ガディマイ祭実行委員会
ガディマイ祭も,他の祭と同様,近代化以前は,おそらく地域の村共同体が村の行事として執り行っていたのだろうが,現在は,「ガディマイ祭実行委員会」が組織され,祭の運営に当たっている。

2009年度のガディマイ祭実行委員会は,委員総数1000,小委員会15。2014年度の体制はよく分からないが,実行委員長はラム・チャンドラ・シャハで,近くの村々に村実行委員会が組織されているという[c,d,e]。

実行委員会は,本部がそれぞれの村の実行委員会に協力を要請する。2009年の場合,1村(VDC)当たり動物1000頭(内訳不明)の奉納が求められ,その見返りとして各村には祭の収入から分配金が支払われた。2014年度は,奉納動物をさらに増やし,祭を盛り上げ,収入増を図りたいという[f]。

(3)ネパール政府
ネパール政府は,ヒンドゥー教国家であった頃は,他の祭と同様,ガディマイ祭に関与することにも何ら問題はなかったはずだが,民主化以後,特に2007年の世俗化以後は,この祭を宗教儀式ではなく地域の「文化行事」と見なすことにより,政府として様々な援助を行ってきた。

たとえば祭への政府助成金は,2009年度450万ルピー。他に,寺院周辺(3~6km)の家畜への疫病予防接種,供犠後動物の処理施設の改善など。また2014年度には,動物検疫所も何カ所か設置する予定だという[f,g]。

しかし,このようにして政府が関与すると,ガディマイ祭反対派からの非難攻撃をもろに受け,ガディマイ祭が政治問題化することは避けられない。ガディマイ祭は,今年の参拝者が500万人とも1千万人ともいわれる大行事であり,祭が実施される以上,治安や衛生の面からも,実際上,政府は関与せざるをえない。が,関与すれば政府は非難される。政府にとって頭の痛い難問である。

(4)商業化
ガディマイ祭も,他の動物供犠と同様,つい最近までは宗教儀式として執り行われていたにちがいない。供犠後の水牛の肉も,2009年度ガディマイ祭実行委員会事務局のモティ・ラル・クスワによれば,以前は希望者に無料で配布されていたという(2004年であれば4千頭)。

ところが,2009年度について,彼は「肉と皮を競売し,2千万ルピーの収入を得たい」と言っている。実際にどの程度の収入だったのか分からないが,相当の儲けが出たことは確かなようだ。祭には,他にも見物料や出店料あるいは参拝者からの寄進など様々な収入もあり,これらはバラ郡の開発に当てられるという(f)。

これは,明らかにガディマイ祭の変質。祭の「見世物(ショー)化」「商業化」である。

(5)祭礼の開始
ガディマイ祭は,次のようにして開始される(一部既述)。

マンシール月第2サプタミの日(今年は11月28-29日)の未明,ブラフマ・ババ寺院の大きな菩提樹の下に運び出されたガディマイ女神像の前で,村の祈祷師(ドゥガ・カチャディヤの子孫)が,バグワン・チョーダリの子孫とともに,お祈りを始める。

しばらくすると,ガディマイ女神が目覚め,大きな壺のギー灯明に自ずと灯がともる。そして,この目覚めた女神に,人間の身体の5カ所(胸,舌,目の下,あご,腕)の血と,5種類の動物(ネズミ2,ハト2,ブタ1,ニワトリ1,子羊1ないし水牛1)の生贄を捧げ,また供犠で使用されるククリ刀にもお祓いをする。

これが済むと,寺院近くの広場で動物供犠が開始される(a,h,i,j)。

(6)動物供犠の実行
ガディマイ寺院近くの供犠場広場に連れてこられる動物は,総数20~50万。
 水牛=1万4千(2004年),2万(2009年)
 ヒツジ=5~30万(2009年)

ククリ刀などで動物供犠を実行する係は,200~400人。また,25ルピーを払い入場すれば,誰でも自分の手で供犠を実行できるという。参拝者総数は,100~500万人(2009年)。

以上が事実だとすると,たしかに「世界最大の動物供犠」。寺院周辺が血みどろの修羅場と化すのは当然といえよう(d,h,i,k,l,m,n)。

141117c ■動物供犠の見物(neostuff.com/2014/10/12)

(7)動物供犠の終了
やがて(2日後?),大きな壺の中のギー灯明が自ずと消え,ガディマイ女神は退去,祭の終了が告げられる。ここで動物供犠は停止され,生き残った水牛には耳に印をつけ,次の祭まで飼育される(j)。

供犠後の動物の肉や皮や骨の利用については,前述のように2009年の前回から商業化が進み,カトマンズの商人らに売却し,利益は寺院維持や地域開発に回される。

[参照資料]
 [a] Merritt Clifton, “The Origin of the Gadhi Mai Sacrifice.” http://www.animals24-7.org/2014/03/12/427/
 [b]Shristi Srestha,”Buddha and Bloodbath.” http://www.myrepublica.com/portal/index.php?action=news_details&news_id=83135
 [c]Chahana Sigdel,”Gadaimai slaughter: Bihar, UP asked to check animal flow into Bara,” Ekantipur, Oct.13, 2014
 [d]Rukmini Sekhar,”Gadhimai Festival: Harvest of Blood,” 05 October 2014. http://www.dailypioneer.com/sunday-edition/agenda/for-a-cause/gadhimai-festival-harvest-of-blood.html
 [e]”Gadhimai-fair celebration committee formed,” 03 November 2014,Nepalnews.com
 [f]Dilip D Souza,”The Goddess Beckons,” December 2009,Himal
 [g]”Action plan readied to manage animal sacrifice: Gadhimai festival,” Ekantipur,2014-10-22
 [h]”Gadhimai Festival(Animal Sacrifice) In Nepal.” http://omoewi.blogspot.jp/2013/02/gadhimai-festival-animal-sacrifice-in.html
 [i]”Nepal’s Gadhimai festival draws animal blood and millions of visitors.” http://www.thealternative.in/society/nepals-gadhimai-festival-draws-animal-blood-and-millions-of-visitors/
 [j])Ravi M. Singh, “The Five-Year Animal Sacrifice,” Sep.25.2013. http://ecs.com.np/features/the-five-year-animal-sacrifice
 [k]”Mass animal sacrifice at Nepal’s Gadhimai FestivalTue,” Sep 23, 2014. http://asiaforanimals.com/coalition-voice/latest-news/item/100-mass-animal-sacrifice-at-nepal-s-gadhimai-festival
 [l]”Nepal Must Stop Inhumane Sacrificial Slaughter.” http://action.ciwf.org.uk/ea-action/action?ea.client.id=119&ea.campaign.id=29144&ea.tracking.id=7774353c&utm_campaign=slaughter& utm_source=actionemail&utm_medium=email&forwarded=true
 [m]D.M. Murdock, “‘Tis the season for slaughter,” November 27, 2009. http://www.examiner.com/article/tis-the-season-for-slaughter
[n]”Hindu sacrifice of 250,000 animals begins.” http://www.theguardian.com/world/2009/nov/24/hindu-sacrifice-gadhimai-festival-nepal

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/11/17 @ 12:08