ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

改宗勧奨: 英国大使のクリスマス・プレゼント

クリスマス準備で浮かれるネパール国民に,スパークス英国大使が,ビッグなクリスマス・プレゼントを贈ってくれた。

1.公開書簡で改宗権保障の勧め
スパークス英国大使は,制憲議会議員宛に公開書簡を送り,これが12月10日付『リパブリカ』紙に掲載された(a)。その中で,大使は議員たちにこうアドバイスをした。

「われわれ[英国政府]は,宗教を変える権利の保障の実現のために,制憲議会議員諸氏が努力されることを期待する・・・・」

この提言は,ネパールにおいては,事実上,ヒンドゥー教からの改宗の奨励を含意する。英国大使が,制憲議会議員宛の公開書簡において,堂々と,新憲法への「改宗権」の書き込みを要請した!!

 141216b ■公開書簡

2.ネパール政府による説明要求
スパークス大使のこの提言は,ネパール側,とくに国民民主党(RPP-N)やコングレス党の反発を招いた。彼らは,コイララ首相やパンディ外相に対し,スパークス大使を呼び,抗議し,善処を求めよ,と要求した。RPP-N支持者は,すでに抗議デモさえ始めている。

ところが,張本人のスパークス大使は,クリスマス休暇(!)で帰国し,不在。仕方なく,ネパール政府は,ハリソン代理大使を呼び出した。

ネパール外務省バイラギ次官代理は,ハリソン代理大使に対し,現行ネパール暫定憲法では改宗働きかけが禁じられていることを説明した上で,ネパールの憲法はネパール国民自身が決めるのであり,この種の内政の微妙な問題についての発言は控えるように注意を促した。

3.英国大使館の釈明
これに対し,ハリソン代理大使は,公開書簡は「悪意」によるものでも,ネパール社会の「調和を乱す」ことを意図したものでもなく,ネパール国民の憲法制定を応援するためのメッセージだった,と釈明した。

さらに英国大使館は,フェイスブック(12月15日付)において,公開書簡非難は誤解によるものだとして,次のように釈明した(b)。

スパークス大使の公開書簡は,長年の友好国からの憲法制定「応援メッセージ」であり,「個人の宗教変更権の保障への言及」も国際人権規約・第18条(思想・良心及び宗教の自由)の規定に沿ったものであって,改宗「強制」を支持するものではない。大使館も館員も,特定の宗教をネパールの議員や国民に説いたり強制したりはしていない。また,世俗主義についても,大使館は特定の立場を説いてはいない。世俗国家か否かは,ネパール国民とその代表者が決めることだ。

大使館は,公開書簡が誤解を招いたことを,残念に思っている。

 141216a ■大使館FB

4.英国外交の常套手段
英国大使館は,大使公開書簡に「悪意」はなかった,非難は誤解によるものだ,と釈明しているが,老練外交大国にしてネパール熟知の英国が,そんな初歩的なヘマをやるはずがない。

英国大使が,制憲議会議員宛公開書簡で「改宗の権利」に言及すれば,たいへんな物議を醸すであろうことなど,誰にでも予想できることであり,明々白々な常識だ。

英国には,前科がある。セカール・コイララ議員(NC)によれば,1990年憲法制定時に,英国使節団は,憲法に「世俗主義」を規定するよう提案した。これに対し,KP.バタライ首相は,ネパールの憲法はネパール人が決める,英国の元首はキリスト教徒だということを忘れないでいただきたい,と反論したという(i)。英国は歴史の国であり,ほんの二十数年前のことを忘れるはずがない。

こうしたことを考え合わせるなら,スパークス大使は,十分わかった上で,つまり「悪意」をもって,「改宗の権利」に言及したと見るべきだ。

むろん,憲法への「改宗の権利」書き込みを提言すれば,たいへんな反発を呼び,非難攻撃されることも,計算の上だ。内政干渉だと非難されたら,国際人権規約を盾に取る,つまり自らのものと巧妙に仮装している建前としての普遍的価値を引き合いに出し,ねじ伏せるわけだ。

そもそも英国は,KP.バタライ首相が反論したとされるように,世俗国家ではない。英国元首(国王/女王)は,英国国教会の首長だ。それなのに,英国大使は,そんなことなどそしらぬ顔で,ネパールには「改宗の権利」や「世俗国家」を押しつけようとする。(実際には,何宗への改宗か!) 建て前と本音の見事な使い分け。英国外交の真骨頂,ここにありといったところだ。

5.英国大使からのクリスマス・プレゼント
スパークス大使は,イエス・キリストの誕生を祝うため本国に帰り,休暇を楽しんでいる。クリスマス商戦たけなわのネパールに,「改宗の権利」というビッグなクリスマス・プレゼントを残して。

 141216c ■ホテルのクリスマス(H.Shanker)

[参照]
クリスマスと布教の自由問題
世俗国家ネパールのクリスマス祭日(再掲)
「布教の自由」要求:キリスト教会
信仰の自由と強者の権利

[参照資料]
(a)Andy Sparkes, “Letter To Sabhasad-jyus,” Republica,2014-12-10
(b)UK in Nepal,Facebook,2014-12-15
(c)”Govt Summons UK Official Over ‘rights To Change Religion’,” Republica, 2014-12-16
(d)”Mahat Says Conversion Through Inducement A Crime,” Republica, 2014-12-15
(e)”Misunderstanding regretted: Embassy,” HIMALAYAN,2014-12-15
(f)LEKHANATH PANDEY,”Govt seeks clarification on Sparkes’ conversion remarks,” Himalayan,2014-12-15
(g)DAMAKANT JAYSHI,”Koirala to look into U.K. envoy’s conversion remarks,” The Hindu,2014-12-14
(h)SHIRISH B PRADHAN, “UK Envoy in Nepal Under Fire for Advocating Right to Conversion,” Outlook India, 2014-12-15
(i)”UK Envoy Under Flak For Advocacy Of Conversion, Govt prepares to seek clarification,” Republica,2014-12-14

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/12/16 @ 21:22