ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

秘密法のためのパノプチコン社会に向けて

特定秘密保護法(秘密法)が施行(2014年12月10日)されて1か月,指定「特定秘密」ははや382件に達した(2015年1月9日現在,朝日新聞1月9日)。⇒各行政機関における特定秘密の指定状況一覧表(平成26年末現在)

いうまでもないことだが,「秘密」は「監視」の対概念であり,秘密を守ろうとすればするほど,監視は厳しくなる。秘密法を施行するには,万人の常時監視は不可欠だ。監視により怪しい気配をいち早く察知し,秘密漏洩を防止する。それでも万が一,漏洩してしまったら,犯人を可及的速やかに捕らえ,白状させ,漏洩被害を最小限にとどめる。これは必須。国民監視なしの秘密法は張り子の虎,実用にはならない。

おそらく,こうした要請からであろう,このところ政府は,あの手この手を駆使し,日本国中に「防犯カメラ」という名の「監視カメラ」を設置させようと,躍起になっている。

すでに平々凡々たるわが住宅地にも,路上監視の「防犯カメラ」が,はっきりそれと分かるものだけでも,約300mおきに設置されている。私も毎日,無断撮影されているが,その映像がどう利用されているか,皆目,見当もつかない。いまですらそうなのに,元旦の市広報を開くと,なんと,次のような公告が出ている。ギョとし,お目出たさも吹っ飛び,背筋が寒くなった。

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防犯カメラの設置を支援します  受け付け中
安全・安心なまちづくりを進めるため、犯罪の予防を目的とした防犯カメラを設置する地域団体に対し、設置費用の一部を補助します
対象団体=次のすべての要件を満たす自治会やまちづくり協議会などの地域団体。 ▽一定の地域を基盤とし、地域に根ざした活動をしている▽活動を行う地域の多数の世帯住民で構成されている▽活動を行う地域の世帯・住民が自由に加入できる▽規約や代表者を決めている―団体
補助要件= ▽防犯カメラを設置する地域の合意が形成されている▽設置場所の所有者などの承諾・許可を得る▽市の定める「防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン」に適合する管理運用規程を定める▽設置に対し、他の法令等により国・県などから同種の補助金を受けていない。
対象経費=公道等(不特定多数の人が通行する私道等を含む)に常設する防犯カメラの購入および取り付け工事に要する費用。
補助額=防犯カメラ1台につき上限8万円
申し込み=防犯交通安全課、市民相談課
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150109b 150109a 150109c 150109d ■住民監視中の「防犯カメラ」

これは,わが市が独自にやっているのではない。日本に地方自治はない。号令をかけ,補助金を付け,各自治体にやらせているのは,むろん中央政府だ。たとえば―

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▼平成26年度G空間関連政府予算(GIS) 警察庁 予算額39百万円
犯罪情勢の時間的・空間的変化の分析手法及び犯罪抑止対策の評価手法の開発
犯罪情勢や地域環境の変化を的確に把握する時空間分析手法と、街頭防犯カメラの設置など地区単位で実施される犯罪抑止対策の評価手法を開発する。
▼経済産業省 まちづくり補助金
以下のような、地域商店街の積極的な取組に使える補助金です
①安心・安全な街をつくりたい
例)夜間も安全で安心に利用できる商店街を実現するため、街路灯や防犯カメラを設置したい。
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補助金は取らねば損が,自治体の習い性。かくて,全国津々浦々,「防犯カメラ」が普及しつつある。そして,設置された「防犯カメラ」の使用方法も,おそらく国家指導に基づき,各自治体が同じような規則を定めている。たとえば,大阪市―

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▼防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン 大阪市
画像の利用制限
 (1)画像の利用は、犯罪の抑制及び防止目的の範囲で行い、画像から知り得た情報は、外部に漏らさない。
 (2)画像は、次のいずれかに該当する場合を除き、外部に提供しない。
  ア 法令に基づく請求があった場合
  イ 捜査機関から犯罪捜査の目的により要請を受けた場合(ただし、捜査機関が画像の提出を求める場合は文書によるものとする。)
  ウ 個人の生命・身体又は財産の安全を守るため、緊急かつ止むを得ないと認められる場合
  エ 本人の同意がある場合又は本人に提供する場合
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この大阪市のガイドラインは厳格な方だが,それでも,捜査機関による利用は当然の前提とされ,それ以外でも,必要とあらば使用は可能だ。

しかも,巧妙なのは,中央政府が「防犯カメラ」を上から押しつけるのではなく,地域の自治会や他の団体等が自発的に「防犯カメラ」を設置するのを補助金により助成する,という形を取っていること。つまり,住民の自発的相互監視であり,しかし同時に,その映像記録は国家が事実上自由に使える,という形をとっている。実に巧い。

わが地域の「防犯カメラ」は,まだ300mおきだが,補助金の魅力により追加設置は必定。もし100mおきに「防犯カメラ」ともなると,もはや生活はあらかた権力の監視下におかれることになってしまう。蟻の這い出る隙間もない。

これこそ,近現代の理想としてのパノプチコン社会,すなわち万人監視社会の到来である。秘密法は,そのような社会の完成を要請している。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/01/09 @ 20:17