ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 3月 2015

ガンジーは「企業お抱えNGO」元祖: アルンダティ・ロイ

アルンダティ・ロイが,またまたガンジー(ガンディー,ガーンディー)を批判し,猛反撃を受けている。

120903 ■ロイ

ロイは,以前からガンジーの非暴力不服従運動には懐疑的であった。ロイによれば,ガンジー主義は,観衆を前提とする劇場型抵抗であり,たとえばチャッティスガルの村でのように,完全に包囲され外部から遮断された状況ではまったく無力だというのだ。

これは,ガンジーに対するロマン・ロランの批判と原理的には同じである。すなわち,たとえ観衆がいても,聞く耳を全く持たないヒトラーのような支配者には,ガンジー主義は無力だ,ということ。

【参照】
ガンディー劇場型抵抗の限界:A.ロイ
Un-Victim: 「武器を持つガンディー」としてのロイ(1)
2010/04/23 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(8) (7) (6) (5) (4) (3) (2) (1) 

また,カースト制についても,ロイは2014年7月17日のケララ大学での講演において,「理想的バンギ(The Ideal Bhangi)」(1936)を引き合いに出し,ガンジーを「カースト主義者」と批判し,ガンジーの名を冠した大学などの機関は改名すべきだと述べ,告訴騒ぎを引き起こしていた(*3-5)。

【参照】Gandhi,”The Ideal Bhangi,” Harijan,28 November,1936
The ideal Bhangi of my conception would be a Brahmin par excellence, possibly even excel him. It is possible to envisage the existence of a Bhangi without a Brahmin. But without the former the latter could not be. It is the Bhangi who enables society to live. A Bhangi does for society what a mother does for her baby. A mother washes her baby of the dirt and insures his health. Even so the Bhangi protects and safeguards the health of the entire community by maintaining sanitation for it. The Brahmin’s duty is to look after the sanitation of the soul, the Bhangi’s that of the body of society. But there is a difference in practice; the Brahmin generally does not live up to his duty, the Bhangi does, willy-nilly no doubt. Society is sustained by several services. The Bhangi constitutes the foundation of all services. [….]

このように,ロイのガンジー批判は周知のことだったが,今回は,それらに加え,ガンジーを「企業NGO」元祖と断罪したのだ(*1-2)。

3月21日,ロイは「第10回 ゴラクプル映画祭」に出席し,開会スピーチを行った。ロイはこう述べた。インドでは,タタなど大財閥がほとんどすべてを支配し,言論表現も例外ではない。アメリカで,フォード財団やロックフェラー財団が「資本主義プロパガンダ」を支援しているのと同じこと。ところが,この映画祭は企業支援を受けず,人々の寄付で10年間にわたり運営されてきた。これは高く評価される。

そもそもガンジーは,「この国の最初の企業お抱えNGO」である。「彼(ガンジー)は,ダリット,女性,貧者について実にひどいことを書いているのに,この国では彼を崇め礼拝している。これは,この国の最大の誤りの一つだ。」

以上のようなロイの発言に対し,会場からは,偉大な国父ガンジーを「企業の手先」などと呼ぶべきではない,といった激しい反論が出された。これに対しロイは,「私は,彼(ガンジー)についてよく研究し,彼が1909~1946年に書いたものに基づき,こう述べたのだ」と答えた。ロイのガンジー批判は筋金入りだ。

ロイは,おそらく現代の最も過激で行動的な反体制知識人の一人であり,そして何より素晴らしいのは,本質を突く鋭い議論を巧みなレトリックで表現し提供してくれる,その有り余るばかりのサービス精神。こんな面白くて為になる危険な過激派知識人は,現代ではまれといってよいだろう。

*1 Abdul Jadid, “Mahatma Gandhi was first corporate sponsored NGO of the country: Arundhati Roy,” Hindustan Times, Mar 22,2015
*2 Pratishtha Khattar,”Striking Sparks: Arundhati Roy On Gandhi, Again,” 23 Mar,2015 (http://economydecoded.com/2015/03/striking-sparks-arundhati-roy-on-gandhi-again.html)
*3 Viju B,”Mahatma Gandhi was a casteist, Arundhati Roy says,” The Times of India, Jul 18, 2014
*4 Jason Burke,”Arundhati Roy accuses Mahatma Gandhi of discrimination,”The Guardian, 18 July 2014
*5 “Gandhi Looked Down upon Dalits, Says Arundhati Roy,” Express News Service,18th July 2014

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/03/31 at 14:20

エベレストでも丸裸,グーグルストリートビュー

グ-グルストリートビューが,ルクラ,ナムチェからエベレスト・ベースキャンプにまで進出した。こんなところにまで侵出し,秘境を脱神秘化することもあるまいに,秘所のぞきは金になり,やめられないらしい。

プライバシーは,もはやエベレスト界隈でも,ないものと覚悟せざるをえない。たとえば,これらの写真を見よ(解像度を下げ掲載)。一応,申し訳程度のモザイクをかけているが,本人は言うに及ばず,多少とも本人を知っている人であれば,写っているのが誰かはすぐわかる。なぜ,人体全部を消さないのか? このような醜い顔修正写真の無断無期限世界公開は,名誉毀損,人格権侵害だ(下記参照)。

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 ■エベレスト・ベースキャンプ

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 ■タンボチェ/シャンボチェ空港

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 ■エベレストビューH・/ナムチェ

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 ■ナムチェ

こうした批判は,世界各地から日々おびただしく寄せられているらしく,グーグルもメシのタネを死守するため,言い訳,弁明にこれつとめている。「ストリートビューの画像を収集する際に、顔やナンバープレートをぼかすなど、個人のプライバシーと匿名性を保護するための対策を行っています。保護すべき画像や問題のある画像を見つけた場合は、ストリートビュー チームにご連絡ください。」

まるで逆だ。時間も専門的な知識や技術もない一般市民は,世界中をのぞき回り,ネットに掲載していくグーグルを常時監視することなど,およそ不可能だ。そのような不可能な注意義務の一方的要求は,正義に反する。圧倒的な強者のグーグルこそが,写る人,あるいは写ってしまった人一人一人の許可を取得してから,撮影し,あるいは公開すべきだ。
   150328i■「強者の権利」表示
 
そもそもプライバシー(privacy, private)は,公共・公開(public)の対概念。隠れて在ることは,人権の基本の基本であり,秘密をすべて暴かれてしまえば,人は人ではなくなる。人は,隠れるために顕れ,顕れるために隠れる。隠すために見せ,見せるために隠す。

ヒマラヤの秘境ですらグーグルを意識せざるをえないとなれば,他は推して知るべし。現代人は,もはや隠れて在る自由をあらかた喪失してしまったといわざるをえないだろう。

参照1国際人権法のプライバシー保護
「国際人権法は、あらゆる人のプライバシーへの権利と恣意的または違法な干渉からの保護を保障している。国際法では、プライバシーへの権利は一般的に、自身に関わる情報がどのように取り扱われているのかを知り、それを不当な遅延や代償なく、かつ分かりやすい形で取得し、そして違法、不必要または不正な記載がある場合には適宜訂正や消去をしてもらえる権利として定義されている。ある人の私生活に関する情報が第三者に渡り、国際人権法に反した目的で使用されることのないよう、効果的な措置を取る必要がある。」(UNHCR「庇護情報の秘密保持の原則に関する助言的意見」2005年3月)

参照2「ウェブカメラ、ネットで丸見え3割」朝日新聞デジタル 2015年3月16日
「[調査したウェッブカメラの]35%にあたる769台がパスワードを設定することによって第三者からのアクセスをブロックする対策をとっておらず、映像を見たり音声を聞いたりできた。・・・・ほとんどが防犯や監視用として設置され、レンズが向けられている対象と状況から書店や美容院、飲食店、スーパーなどとみられた。事業所の従業員控室、幼い子どもたちがいる託児所のようなスペースもあった。」

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/03/29 at 10:41

出入国管理事務の民間委託

出入国管理事務の民間委託をめぐり,もめている。提案は,内務省(バンデム・ゴータム副首相兼内務相[UML])。内務省によれば,現行出入国管理事務は不効率であり,ICAO(国際民間航空機関)の要請しているe-VISAの発行にも対応しきれないので,ビザ申請関係書類のとりまとめ作業を民間委託する。委託期間は当面15年間。ビザ発行そのものを民間委託するわけではない。こうした作業は英国も,VFS Globalに委託している。

こうした内務省提案に対し,議会では,治安などを理由に反対が噴出し,ゴータム内相やパンディ外相を3月29日に「国際関係・労働関係委員会」に呼び,説明を求めることになった。

ネパールのビザ手続,特に延長手続は,たしかに不合理で面倒だ。ネパールの人々のパスポート取得手続のことはよくしらないが,一般の人々にとっては,これもおそらく面倒なのだろう。だから,出入国管理事務が民間委託により合理化されるのなら,その方がよいのでは,と思わないでもない。治安上も,信頼できる専門機関なら,その方がかえって安全かもしれない。

しかし,ここでややこしいのが,この問題も,ご多分に漏れず,政争がらみということ。新聞記事によれば,民間委託反対の急先鋒は,UMLのMK・ネパール幹部らしい。UML党内抗争が,内政にそのまま持ち込まれている。ネパール政治の難しさは,こんなところにもあるといってよいだろう。

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*KOSH RAJ KOIRALA, “GOVT PLAN TO OUTSOURCE IMMIGRATION SERVICES DRAWS FLAK,” Republica,25 Mar 2015
*”Visa scam rages in House Panel summons DPM Gautam,FM Pandey over ‘secret’govt deal with private firm,” Kathmandu Post,MAR 26, 2015

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/03/26 at 18:13

カテゴリー: 政党, 旅行

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「かぐや姫の物語」,リアリティの欠如

「かぐや姫の物語」が早くもTV放映されたので,派手な宣伝にのせられ,観てみた。「公式サイト」によれば,この映画は――

日本最古の物語文学「竹取物語」に隠された人間・かぐや姫の真実の物語。
姫の犯した罪と罰。
製作期間8年、製作費50億円の娯楽超大作。

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しかし,「姫の犯した罪と罰」をうたっているにもかかわらず,この映画は物語の構成が甘く,本物のフィクションの神髄たるリアリティも作品としての深みも感じられない。とくに物語の展開をナレーションや登場人物の語りで説明するのは興ざめ。

これは,先の「風立ちぬ」を観たときと同じような印象。日本のアニメは,全体的に,かつてのような想像力・構想力・創造力を失いつつあるのではないだろうか? もとより,これは趣味判断だから,他の見方や評価もありうることは言うまでもないが。

参照Sophia Pande,”The Tale of the Princess Kaguya,” Nepali Times,20-26 March 2015,#750
I have always loved Studio Ghibli’s productions, referring to them often in my reviews, especially when talking about animation that is not a product of this blessed dream factory. While Hayao Miyazaki,[…]did not direct The Tale of the Princess Kaguya (2013) which is co-written and directed by Isao Takahata, it is nevertheless one of the most charming and uplifting films to come out of the famed animation studio. […]

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/03/25 at 19:47

カテゴリー: 文化

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秀作:コウケンテツが行くネパール

ネパール関係のドキュメンタリは,遠方の小さな国の割りには多いものの,安易な作品で失望することも少なくないが,3月21日にNHK-BSで放送された「アジア食紀行 コウケンテツが行くネパール」は,なかなかよくできた秀作であった。

何よりもよかったのが,コウケンテツ(高賢哲)さんが取材対象たるネパール料理に興味津々,一緒につくり,食べ,心から楽しんでいることが,よく伝わってきた点。

また,それに加え,都市部と南部タライと北部丘陵の生活,あるいはカーストや女性の境遇など,ネパール社会の実情が,さりげなく描かれ,生活実感として「あぁ,そうなのか」と自然に感得できる点も,ドキュメンタリとして優れており,好感が持てる。ネパールのやさしさを,ほのぼのと描いた秀作。(下掲はNHK-BS放送画面より)

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/03/23 at 12:25

カテゴリー: 文化, 旅行, 民族

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信号待ちで涙した,その心は?

中島 恵「『中国はよくなっている!』信号待ちで思わず涙した私」(日経ビジネスオンライン,2015年3月20日)は,なかなか興味深い中国論だ。要旨は以下の通り。

「上海市内で私が宿泊しているホテルの近くにある横断歩道に立っていたときだ。私の斜め後ろにいた母子の会話が耳に飛び込んできた。『ほら,あそこを見てごらん。赤信号でしょう? あそこが赤のときは渡っちゃいけないんだよ。あれが青色になったらお母さんと一緒に渡ろうね。いいね』。・・・・とてもうれしくて,心がホカホカと温まる気持ちになった。そのとき,赤信号で立ち止まっていたのは私たち3人だけだった。大勢の人々は当たり前のように横断歩道をどんどんと渡っている。・・・・青信号になって,ようやく母子と一緒に堂々と道路を渡ることができたとき,目からどんどん涙があふれてきて,止まらなくなってしまった。・・・・そう,私はこの瞬間,気がついた。中国社会はだんだんと,よくなっているのだ――と。」

著者によれば,この信号待ち以外にも,空港係員や店員のマナーの向上,水道・トイレ等の生活インフラの改善など,他のいくつかの点で,「これまでとは明らかに違う流れ」がみられ,「中国社会がよくなっている」と感じられるというのだ。

中国は大国なので,「中国は・・・」とか「中国人は・・・・」などと一般化していうことはできないが,少なくとも私が見た限りでは,中国の航空会社や空港などは,利用のたびにサービスが目に見えて向上し,いまでは日本以上に合理的で便利な場合も少なくない。そうした実感をもつ私にとって,「中国はよくなっている!」という著者の印象は,十分によく納得できることである。

しかし,それはそれとして,少々気がかりなのは,著者の極端な上から目線である。現在の日本社会を基準として,それに合わない中国社会のあり方を一方的に切り捨てる。たとえば,「『ルール軽視』の無秩序な国」など。

しかしながら,交通ルールにせよ接客マナーにせよ,すべて文化であり,日本,しかも東京を基準として断罪するのは,あまりにも一方的すぎる。たとえば,歩行やエスカレーター利用では,一般に,東京と大阪では位置が逆であり,東京人は大阪ではマナー知らずの野蛮人となる。あるいは,水道やトイレットペーパーでも,自然保護派からは浪費の悪徳と非難されるであろう。日本を基準とする他文化批判は,ちまたにあふれる「日本はスゴイ!」合唱と同様,はしたなく,慎みなく,みっともないといわざるをえない。

恥ずかしながら,私は以前,真冬の深夜の人家もない田舎の犬一匹通らない田んぼの中の見通しのよい交差点の赤信号で止まり,青信号に変わるのをじっと待っているホンダ・カブ号の村のお年寄りを見て,思わず涙したことがある。

なお,蛇足ながら,近代的信号機システムを非人間的と考え,ロータリー式に替えつつある国々からすれば,日本の「赤は止まれ,青は進め」は機械隷従,「おくれてる~」と哀れまれることになるであろう。

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 ■ロータリー(ラウンドアバウト)交差点: イギリス / ネパール(パタン) [Google]

谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2015/03/21 at 17:14

京都の米軍基地(66): 米軍幹部,続々来訪

京丹後の米軍基地へ,米軍幹部が入れ替わり立ち替わり視察に来ている。最近(日時不明*)も,「宇宙ミサイル防衛軍」マン司令官(中将)がやってきて,基地内外を視察した。(* 米軍広報は,マーシャル諸島クェゼリン米軍基地の視察後,3月12日,グアムと日本へ向け出発と発表しているので,京丹後視察はその数日後であろう。)

「宇宙ミサイル防衛軍(Space and Missile Defense Command [SMDC])」とは名前からしておどろおどろしく,SF未来戦争を思わせる。米軍の中でも,この分野では由緒正しき最先端重要部隊なのであろう。

司令官のマン中将がどのような地位の方かは,軍のことはよく知らないので,想像するしかないが,胸の記章を見ただけでも,かなりエライ方だと見てまちがいあるまい。そんな米軍の幹部が,はるばる丹後半島くんだりまで来てくださる。これはたいへんなことだ。

一方,お隣の日本側はといえば,空自分屯基地の第35警戒中隊にすぎない。記念撮影でも,どう見ても釣り合いがとれていない。米軍がこれほど重視しているのだから,日本政府も経ヶ岬基地を大幅に拡張し,宇宙戦争に対処しうる最先端拠点軍事基地とすべきだろう。

ウワサでは,すでに日本側も空自基地の拡張を始めているそうだ。さすが積極的平和主義の日本国,イケイケドンドン,米国になど負けてはいない。

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 ■空自分屯基地記念撮影。マン司令官右隣が第35警戒隊長

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 ■マン司令官/胸の記章

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 ■宇宙ミサイル防衛軍章/第35警戒中隊章

[追加2015-03-21]大統領夫人,経ヶ岬駐留米兵激励
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 ■ミシェル・オバマ米大統領夫人,第14ミサイル防衛中隊の米兵らを激励。伊丹空港,3月20日。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/03/20 at 19:31