ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

新憲法制定,しらける世論

議会主要4党が6月8日,「16項目合意」に署名し,これにより7月中旬の新憲法制定公布がほぼ確実となったとされている。むろんネパールのこと,また先送りの可能性もあるにはあるが,いまのところ4党は“Fast Tarck”すなわち「超特急手続き」ないし「無修正一括承認手続き」を宣言し,7月中旬の新憲法制定を繰り返し公言している。

もし本当にそうなら,待望久しい新憲法,世論は大いに盛り上がるはずだが,実際には,人々は冷めており,期待の声はあまり聞かれない。なぜだろう?

1.現体制の弾よけ
第一にあげられるのは,この唐突とも拙速とも思われる憲法制定への動きが,現体制を守るための窮余の策,攻撃をそらすための弾よけ,と見られていること。

現体制,つまり政府と議会主要諸政党は,4月25日大地震への対応の不手際を内外から厳しく批判され,体制崩壊さえウワサされていた。この窮地を脱するため持ち出されたのが,新憲法の制定。震災対応不手際への非難攻撃は,新憲法制定の錦の御旗で勢いをそがれ,あるいは再び連邦制などに向かうというわけだ。

それと絡んで,いつもの権力闘争もある。「超特急手続き」により新憲法が制定公布されると,それを機に大統領,首相,議長,大使など国家の主要役職者が交代するらしい。新憲法制定は,役職たらい回しの口実。

いずれにせよ,新憲法制定が,大きくは現体制を守るため,そしてその体制内では既成諸勢力の権力闘争の具として利用されていることは否めない事実であろう。

[参照]「わずかの例外を除けば,地震後の政府の行動は惨めなほどひどいものだった。」(”NEPAL: Earthquake exposes crisis in governance,” 5 May 2015. http://www.humanrights.asia/news/ahrc-news/AHRC-STM-069-2015)

2.「暫定」をとっただけの新憲法
第二に,4党合意に基づく新憲法は,内容的には,現行暫定憲法から「暫定」の文言を削除しただけのものになりそうなこと。実質的には現行憲法と何ら変わりは無く,これでは世論がしらけるのも無理はない。

憲法とは「国家構成(constitution)」のこと。現行暫定憲法でも,ネパールは「連邦民主共和国」である。つまり,どこにもいまだ「州」のない,幽霊のような連邦国家だ。逆にいえば,新憲法の最大の課題は,「州」を確定し,連邦国家を名だけではなく,実においても法的に確定すること。ところが,「16項目合意」では,その肝心かなめの「州」の確定が,先送りされている。

16項目合意」によれば,新憲法成立後,
 ・州の区画は,連邦委員会が原案を作成し,立法議会が2/3の多数により決定する。
 ・州名は,州議会が2/3の多数により決定する。

これでは,新憲法ができても,国家構造の基本はいまと同じ。「州」なしの連邦国家。そもそも制憲議会成立(2008年5月)以後,7年にわたって延々審議してきて,それでも新憲法が制定できなかった最大の理由は,「州」の区画と名称が決定できなかったこと。その難問を,「連邦委員会」に丸投げし,それではたして万事めでたく決着となるかどうか?

3.先送りの「委員会・審議会」政治
「委員会」や「審議会」は,決定権を持つ議会や政府が責任逃れをしたり,決定の先送りを図るための道具として日本でも利用されているが,ネパールは日本の比ではない。

問題が大きければ大きいほど,難しければ難しいほど,公式・非公式の「委員会」や「審議会」,そしてその子や孫や曾孫などが次々とつくられ,そのそれぞれに内外の利益集団や圧力団体が関与する。結局,ギリギリのどん詰まりとなったところで,不透明なコネ=ネゴ=ゴネで当面の危機の回避を図るため,とりあえず何らかの決定が下されるというわけだ。

ネパール世論は,今回の新憲法制定への動きも,結局は,震災復興援助国への申し開きと,大統領,首相,議長,大使といった高位顕職の再配分に終わり,州区画などの重要課題は先送りされるのではないかと疑っている。しらけるのもやむをえないだろう。

150615

[参照]
* Krittivas Mukherjee,”Killer earthquake exposes lingering lack of governance in Nepal,” Hindustan Times, 3 May 2015
* Simon Cox, “Where is Nepal aid money going?,” BBC,21 May 2015. http://www.bbc.com/news/world-asia-32817748

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/06/15 @ 13:38

カテゴリー: 行政, 議会, 憲法, 政党

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