ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

憲法制定「特急手続き」,最高裁停止命令

1.最高裁の「特急手続き」停止命令
最高裁が6月19日,憲法制定「特急手続き」の停止命令を出した。やはりそうか。ほぼ予想通り。

前述のように,コングレス(NC),統一共産党(UML),マオイスト(UCPN-M),マデシ人民権利フォーラム(MJF-L,MPRF-D)の主要4党は6月8日,「16項目合意」に署名し,ただちに「超特急(super fast-track)」ないし「特急(fast-track)」による憲法制定手続きに着手した。(参照:新憲法の制定公布,7月中旬の予定 新憲法制定,しらける世論 憲法原案の草案の作成,22日までに

しかし,これはどうみても拙速,かなりの無理がある。震災後のドサクサ紛れ,4党談合制憲と見られても致し方あるまい。したがって,VK・カルナ弁護士(前駐デンマーク大使)らが,この「特急制憲手続き」は憲法違反だとして,その差し止め請求をしたのももっともだといえよう。

最高裁は,6月16日この差し止め請求を受理し,6月19日「特急制憲手続き」の停止命令を出した。GC・ラル裁判長は,こう判決した(h)。

「当法廷は,被告に対し,暫定憲法第1条,第82条,第138条に違反する行為の停止仮命令を申し渡す。」(a)

暫定憲法
第1条 憲法は最高法規。憲法遵守義務。
第82条 制憲議会の任務は憲法公布をもって終了。
第138条 連邦制の採用。州の区画,名称等は制憲議会で決定。制憲議会が連邦制に関する最終決定機関。

最高裁ラル裁判長は,これらの憲法規定に基づき,判決理由を次のように述べている。

「現行暫定憲法はネパールの最高法規であり,その遵守はすべての人の義務である。制憲議会,行政部,司法部,そして政党ですら,憲法の規定により基礎づけられている。したがって,国内の諸制度,あるいは国家によってつくられた諸制度は,憲法と合憲の法律に則り機能すべきである。」(c)

「現行憲法の規定を迂回して新憲法を制定すると,新憲法の正統性が怪しくなり,平和と秩序を危うくし,再び紛争を引き起こす恐れがある。」(a,c)

 150620a ■GC・ラル最高裁判事 150620b■VK・カルナ弁護士

2.統治行為論で反論
最高裁のこの停止命令に対し,政府がただちに取消を求める訴えを出す一方,4党は声明を出し「16項目合意」の正当性,停止命令の不当性を強硬に主張している。その論拠はいわゆる統治行為論。

「制憲議会は,憲法制定についての独立の権限をもつ機関であり,その決定は最終的なものである。どのような憲法を,いつつくるかを決めるのは,制憲議会の主権的権利である。いかなるものも,どのような方法をもってしても,この真実に挑戦はできない。」(b,d)

憲法制定は人民の最高の権利であり,その大権の行使は制憲議会に委ねられている。最高裁の停止命令はその大権の侵害であり,権力分立にも反する。停止命令は「政治的動機による反動」であり,陰謀である。最高裁の停止命令があっても,「16項目合意」による憲法制定手続きは進める。(b,d)

以上が4党声明要旨。同じような立場から,TR・バタライ弁護士会副会長も,「16項目合意」は政治的合意であり,最高裁はそこに介入すべきではない,と批判している。(a,c,d,e)

3.「二重特急手続き」と最高裁停止命令
「16項目合意」については,憲法規定だけを見ると,最高裁停止命令判決の方がはるかに合理的であり,したがって4党の「特急制憲手続き」は,憲法違反である。

が,そこは生臭いネパール政治のこと,最高裁判決にも,4党が批判するように,政治的思惑が見え隠れする。

怪しいのが,コイララ首相の「二重特急手続き(double fast-track)」の主張。首相は6月18日,ネパール先住民族協会(NEFIN)との会合において,「単なる特急手続きでは十分ではない。二重の特急手続きで行くべきだ」と語った。つまり,いくら急ぐとはいっても,「適正手続き(due process)」をきちんと守ったうえでの「特急手続き」でなければならないということ。(i,j)

このコイララ首相の適正手続き論は正論だが,暫定憲法の規定する手続き通りではいつまでたっても憲法制定にこぎつけられず,そこでやむなく4党「16項目合意」となったのが現実。コイララ首相は,自らも同意したはずのこの「16項目合意」を,ことここに至って,またひっくり返そうとしているように見える。

コイララ首相は,新憲法制定公布後,辞職すると繰り返し明言している。「適正手続き」の強調は,結果的には,NC=UML連立コイララ政権の延命策となっている。

政権与党のNCとUMLの中には,「12項目合意」を反故にし,現体制をできるだけ継続したいと願う有力な勢力がいる。最高裁の停止命令も,コイララ首相の「二重特急手続き」論も,結果的には,それらの現体制維持勢力の政治的要求に沿うものだ。その意味では,「陰謀」とまではいえないにしても,いずれも極めて政治的であることは事実である。(f,g)

4.7月中旬の憲法制定は無理か?
このように見てくると,7月15日の新憲法制定はかなり難しい状況になった,と見ざるをえない。議会主要4党は,たしかに「16項目合意」に正式署名した。彼らは制憲議会の圧倒的多数派(8割以上)であり,多数決で「特急制憲手続き」を進めようと思えば,やってやれないことはない。

が,そうはいっても,「16項目合意」は,最高裁停止命令が言うように,現行暫定憲法違反であるし,またコイララ首相が言うように,いくら急ぐにせよ適正手続きは遵守しなければならない。

ネパールの政府と主要諸政党は,震災危機への適切な対応ができず,その統治能力不足を内外から厳しく批判されてきた。「16項目合意」は窮地に陥った現体制の窮余の一策に他ならない。

では,どうするか? いくら無理でも危機突破のためこのまま「超特急」で突っ走るか,それとも合憲・適正手続きの「鈍行」に乗り換えるか? 難しい選択である。

[参照]
(a) Ram Kumar Kamat,”Apex court stays implementation of 16-point pact,” Himalayan, 19 June.
(b) “Four parties defend 16-point agreement,” Himalayan, 19 Jun.
(c) NABIN KHATIWADA, “SUPREME COURT STAYS 16-POINT DEAL,” Republica,19 Jun.
(d) THIRA L BHUSAL & ASHOK DAHAL, “BIG 4 CHALLENGE SC ORDER, VOW TO EXPEDITE STATUTE DRAFTING,” Republica,19 Jun.
(e) “Four parties take exception to SC order, Say constitution drafting will continue,” Ekantipur, 19 JUN.
(f) “NC-UML RELATIONS GROW COLD AFTER PM’S REMARKS,” REPUBLICA, 16 Jun.
(g) “NC, UML leaders at odds over new calendar,” Ekantipur,17 Jun.
(h) “SC accepts writ against 16-point agreement,” Himalayan, 16 Jun.
(i) “New constitution through double fast track: PM,” Ekantipur, 18 Jun.
(j) “PM KOIRALA FOR STATUTE THRU ‘DOUBLE FAST TRACK’,” Republica,18 Jun.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/06/20 @ 22:46

カテゴリー: 司法, 憲法, 政党

Tagged with ,