ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

制憲特急,快走か迷走か

1.新憲法制定公布は8月5日?
制憲議会は,7月2日から「特急手続き(fast-track)」ないし「超特急手続き(super fast-track)」による「憲法第一草案」審議を開始した。新憲法の制定・公布は,8月5日までにとのことだが,いまの状況では,そうすんなりとは行きそうにない。

2.「制憲特急」への期待
「制憲特急」を最も「期待」しているのは,震災復興援助を表明した援助側諸機関と,巨額復興援助に関与するネパール側関係者。たとえば,アショカ・ディクジットは,与野党とも「特急手続き」で憲法を制定しなければ外国援助が得られないと恐れている,と指摘している(*1)。

ちなみに,オーリUML議長も,訪ネ印記者団に対し次のように語っているが,これは,いつもの枕詞としてのナショナリズムの装飾を取り除けば,ディグジットの指摘するような外国援助への期待の表明とみてよいであろう。

「憲法草案の採択後,ただちに挙国一致政府を組織するつもりだ。援助諸機関も,必要な資金を必要なとき,より多く拠出すると約束してくれている。むろん,立案はネパール側でなければならない。ネパールは主権国家であり,主権国家として行動する。復興は憲法制定とはかかわりなく進められる。大震災は,ネパールの全政党を結集させた。イデオロギーにかかわりなく救援・復興を進めていくことについては,すべての政党が合意している。」(*1)

3.「制憲特急」への反対
援助諸機関と政府与野党が「制憲特急」を走らせようとするのに対し,脱線だとして,その阻止に回ったのが最高裁。すでに「特急手続き」停止命令(6月19日)を出しているが,それに加え,他にもいくつか反対の動きを見せている。

その一つが,「憲法第一草案」に規定の「憲法裁判所」設置への反対。最高裁は,もし別立て「憲法裁判所」を設置すると,司法権の独立が危うくなるし,司法の混乱も起こると主張している。

最高裁のこれらの抵抗は,憲法制定・新体制成立で既得権益を失うことになる様々な勢力や有力者により陰に陽に応援されている。最高裁も,一つの政治勢力として動き始めているような感じさえする。

これに対し,「制憲特急」側は,あれこれ対抗策を考えている。
 (1)現在のRKP・シャハ最高裁長官が7月8日で退任し,次はK・シュレスタ判事が長官となる。この長官交代に期待する。
 (2)最高裁に,「特急手続き」停止命令の取り消しを訴え,認めさせる。
 (3)憲法第138条の改正。
 (4)制憲議会を,州が確定するまで存続させる。

4.「制憲特急」完走できるか?
「制憲特急」は,大震災の非常時が生み出したものに間違いはなく,これを逆にいえば,大震災が遠ざかるにつれ,その必要性や正当性も減衰していくと見ざるをえない。「制憲特急」が完走できるか否かは,ここ数十日にかかっている。目が離せない。

[未解決の主要問題]
 (1)州の区画と名称
 (2)前文に記述する改正禁止事項
 (3)改宗の権利の扱い
 (4)議会議員の1/3を女性枠とするか?
 (5)比例制議席配分に最低得票率を設定するか?
 (6)国籍取得要件
 (7)帰化国民の大統領,首相,議会議長,最高裁長官への選任禁止の可否
 (8)憲法制定後の裁判官留任の可否
 (9)地方選挙の実施時期

[参照]
(*1)Ashok Dixit,”Post-quake, Nepal politicos, ministers admit to being under pressure to deliver Constitution quickly,”Nepal National (ANI),6th July, 2015
(*2)”Four parties for delivering statute before August 5,” Himalayan,July 4
(*3)”RPP-N ends obstruction after Sitaula clarifies on religion related provision,” Himalayan,July 4
(*4)NABIN KHATIWADA,”JUSTICES WANT MAJORITY ON JC, OPPOSE CONSTITUTIONAL COURT,” Republica,05 Jul 2015
(*5)”SC full court asks CA to revoke constitutional court provision,” Ekantipur,JUL 06
(*6)KAMAL DEV BHATTARAI,”Parties mull options to decide state delineation,” Ekantipur, JUL 05

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/07/07 @ 20:45

カテゴリー: 司法, 憲法, 政党

Tagged with , ,