ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 9月 2015

京都の米軍基地(82): 強者の権利

経ヶ岬進駐米軍は,地元住民にとって圧倒的な強者であり,早くも「強者の権利」を享受し始めた。「強者の権利」とは,平たくいえば,弱者に対し強者が行使する自由,つまり「Might is Right(力は正義,力は権利)」という考え方である。

現代民主国家は「法治国家」であり,国民も政府もすべて「法の支配」に服する。いかなる政治的,経済的,社会的,文化的強者といえども,自分のもつ「力」ないし「実力」を法を無視して行使することは許されない。法は,事実として様々な不平等が存在する国家社会において,弱者の自由と権利を守るためのものである。現代法治国家では,「強者の権利」は認められない。

ところが,経ヶ岬進駐米軍には,地元住民には認められていない様々な特権が認められている。米軍人・軍属は,形式的にはともあれ,実質的には地元住民の服する日本の法には完全には服さず,その限りで「治外法権」を享受している。

法が弱者を守るためのものだとするなら,「治外法権」は,そこでは弱者が法により守られず,「強者の権利」が容認されていることを意味する。京丹後では,米軍人・軍属は「強者の権利」を行使することが出来る。

たとえば,これらは経ヶ岬米軍FB掲載写真。士官使用と思われる車のナンバーが完全に消されている。推測にすぎないが,おそらく掲載に当たり,米軍側が自分たちのプライバシーか何かに配慮したのであろう。もしそうなら,この車をたまたま地元住民が撮っており,ナンバーを消さずフェイスブックか何かに掲載したらどうなるか? すぐ秘密保護法などが持ち出されることはないであろうが,米軍関係情報を無断で収集し,世界にばらまく要注意人物としてマークされるといったことは十分に考えられる。米軍側は,自分たちが権利だと思うものを,弱者たる地元住民に対し一方的に主張し,それを自分たちの力で守ろうとする。「強者の権利」である。

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 ■丹後半島ラリー(8月28-29日)米軍士官使用車ナンバーは消去。(米軍FB9月22日)

経ヶ岬米軍FBは,このように士官使用車のナンバーを消す一方,地元の子供や老人の写真は,顔が写ったものも含め,無修正で多数掲載している。米軍宣伝への利用である。

しかし,この場合,そのような写真の利用を,子供たちが米軍に対し承認しているとは到底考えられない。米軍人・軍属などが,お菓子や鳴り物を携え,子ども園(保育園・幼稚園)などにやってくれば,子供たちは無邪気にはしゃぎ,喜んで写真を撮らせるであろう。が,そこには写真撮影・利用への「インフォームド・コンセント(理解を得た上での同意)」はない。米軍は,地元関係諸機関に対する強者の立場を利用し,子供たちのプライバシーの自由や肖像権をほしいままに強奪している。日本の子供たちという最も弱い立場の弱者に対する「強者の権利」の行使である。

150901a150901d■峰山子ども園・米軍FB8月28日(子供の顔引用者消去)

150929c■ハロウィーン(11月1日)招待は子供だけ(幼児~中学生以下)。(米軍FB9月24日)

老人たちについても,同じことがいえる。老人ホームなどに入居している老人たちは,多くの場合,役所や施設管理者に対し弱い立場にある。あるいは,老齢や病気などのため,自分では十分に自分の権利を守れない状況にあることも少なくない。米軍人・軍属は,そのような老人施設にも好んでやってきて,入居者たちの写真を撮り,ホームページなどに掲載し,世界中に進駐米軍の宣伝をする。この場合も,入居者たちが明確な「インフォームド・コンセント(理解を得た上での同意)」を与えたとは考えられない。弱者たる地元老人に対し,米軍は「強者の権利」を行使しているのである。

150929a■京丹後市の特養訪問(8月24日)。(米軍FB9月9日)

京丹後における米軍の「強者の権利」行使はまだ始まったばかり,いずれ地域社会の他の様々な領域にも拡大していくことは避けられない。沖縄や他の米軍基地周辺と同様に。

谷川昌幸(C)

ネパール震災チャリティバザー ムスムス

Written by Tanigawa

2015/09/28 at 09:51

カテゴリー: 国際協力

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バブラム・バタライ,マデシ理由に離党し議員辞職

バブラム・バタライ氏(首相:2011-13)が,9月26日午後の記者会見でUCPN-M離党と議員辞職を発表した。

 150926(バタライ氏ツイッターより)

バタライ氏は,制憲議会設置の「憲法に関する政治的対話と合意形成委員会(CPDCC)」委員長として新憲法起草に努力したが,20日公布の新憲法には,彼が求めてきた社会諸集団の包摂は十分には実現されず,タライは反政府闘争激化で危機に陥ってしまった。それゆえ,人民の期待を裏切った党を離れ,議員も辞め,タライと連帯する,ということであろう。

バタライ氏は,新憲法の採決・公布の頃から,反憲法闘争に向かうマデシ諸党への支持を公言し始め,24日の記者発表では,タライの人々のため,彼らの要求の実現に努力する,と宣言した。そして,ついには26日の離党,議員辞職となったのである。

たしかに,バタライ氏がプラチャンダ議長と協力して設立したマオイストの基本理念は被差別社会諸集団の国家社会への包摂であり,10年に及ぶ人民戦争もその実現のために戦われたといっても過言ではない。ところが,バタライ氏からすれば,NC,UMLばかりかUCPN-Mまでもが,人民の期待を裏切り,非包摂的な新憲法を強引に制定・公布してしまった。だから,彼としては,もはや党も議会も離れ,マデシと連帯し包摂参加実現のために努力せざるをえない,と結論するにいたったのであろう。

が,マデシの背後には,いまはインドがいる。マデシ連帯には,党への裏切りばかりか,売国の罵声も,当然予想される。しかし,それでもインドが本気なら,マデシ側の勝利は間違いない,そうバタライ氏は腹をくくり,政治家としての勝負に打って出たのではないだろうか。

[参照]
*1 “Bhattarai quits UCPN (Maoist),” Kathmandu Post, Sep 26, 2015
*2 “Bhattarai quits Maoist party,” Nepali Times, September 26th,2015
*3 “Buburam Bhattarai severs ties with UCPN-Maoist, resigns from Parliament,” The Himalayan Times, September 26, 2015
*4 “Bhattarai expresses solidarity with demands of Madhesi parties,” Kathmandu Post, Sep 24, 2015
*5 “India and Nepal: A constitutional crisis?,” Indian Express, September 24, 2015
*6 “Why India is concerned about Nepal’s constitution,” BBC News,22 September 2015

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/09/26 at 23:58

憲法修正要求,インド政府

1.反憲法闘争激化
新しい「ネパール憲法(2015年憲法)」が9月20日公布されたが,内容的には「2007年暫定憲法」から大きく「後退」するものであり,被差別諸集団から厳しい批判を浴びている。特にタライのマデシやタルーは,民族の権利が認められていないとして,反政府・反憲法闘争を激化させている。

マデシ諸党派は,22-23日,サプタリのラジビラジで集会を開き,下記のように決議した。
 (1)憲法反対闘争の強化
 (2)東西道路の閉鎖
 (3)カトマンズ交通路の閉鎖
 (4)政府機関,銀行,通関,協同組合などの閉鎖
 (5)タルーやイスラム教徒とも共闘強化

これに呼応し,タルー諸党派も23日の集会で,東西道路の終日閉鎖,カトマンズ補給路の閉鎖を決めた。

もしマデシやタルーが,これらの決議を本当に実行に移せば,カトマンズはたちまち物資不足で干上がり,タライでは政府と反政府側との衝突がさらに激化し大混乱に陥ってしまうであろう。

 150925■ラジビラジ(Google)

2.インド政府の憲法修正要求
マデシやタルーは,なぜこれほど強硬なのだろうか? 新憲法制定により積年の差別や搾取が除去されると期待していたのに,それが裏切られたため,怒りが爆発したということに間違いはない。しかし,それだけではなく,いま彼らがこれほど強気を押し通せるのは,彼らの背後にインド政府の支援があるからではないかと思われる。

インド政府が,憲法案採決を延期し,タライの人々の要求を最大限取り入れ,コンセンサスを得た上で新憲法を制定するよう繰り返しネパール政府や主要3党に要請してきたことについては,すでに指摘した(参照:2015年憲法制定へのインドの介入)。

ところが,ネパール政府・主要3政党は,予定を数日遅らせただけで,マデシやタルーの要求にはほとんど応えないまま,新憲法を9月20日に公布してしまった。これに対し,マデシやタルーは激怒,タライは反政府闘争で大混乱に陥り,国境を接する隣国インドにとっても放置できない事態となった。そこでインドは,ネパールの憲法制定問題により強力,より直接的に介入することを決意したものと思われる。

インド介入に関し最も衝撃的であったのは,9月23日付インディアンタイムズ紙の「憲法を7カ所修正せよ,インドがネパールに要求」という記事。それによれば,インド政府は次の7修正要求をネパール政府に突きつけた(*1,2)。
 (1)第84条: 選挙区は人口比で区画せよ。暫定憲法の規定に戻せ。
 (2)第42条: 国家諸機関への諸集団の比例的参加を保障せよ。暫定憲法の規定に戻せ。
 (3)第289条: 国家要職(大統領,首相,国会議長,最高裁長官,州首相,州議会議長など)への就任資格を血統による市民権保有者にのみ限定することをやめよ。この制限は帰化市民が多いマデシ差別。
 (4)第86条: 上院は,各州8議員ではなく,人口比で州選出議員定数を決めよ。
 (5)ジャパ,モラン,スンサリ,カンチャンプル,カイラリは,郡ごと,あるいは郡の一部を,近くのマデシ州に入れよ。
 (6)第281条: 選挙区見直しは20年ごとではなく10年ごととせよ。暫定憲法の規定に戻せ。[注:第281条の規定はすでに10年ごととなっている。]
 (7)第11(6)条: 帰化市民権は申告により与えよ。法律による制限をやめよ。

身も蓋もないとはこのこと。他国の出来たばかりの憲法に,よくもまあ,こんな厚かましい要求が出せるものだ。まるで大人が子供を叱りつけ,誤りを直させようとしているかのようだ。

インディアンエキスプレスは,この記事の情報源については,「South Block sources(外務省筋)」とか,「政府筋」としか表示していない。また,インド外務省も,最大限のコンセンサスによる解決を要望しただけで,インディアンエキスプレスの記事は正確ではない,と釈明している(Kathmaqndu Post, 23 Sep)。あるいは,サドバーバナ党カルナ共同議長は,「7修正提案」は「統一民主マデシ戦線」が作成したものだといっているが,これについては他のマデシ政党は否定している(*3,4)。

いずれにせよ,インド側がモディ首相のコイララ首相への電話や駐ネ大使などを通して,事実上,マデシ側に立ち憲法修正要求をネパール政府に出してきたことは,明白な事実である。インド政府が記事記載のような生々しい具体的な7修正要求を出したことを公式に認めるはずはないが,そうした内容の情報が「South Block」付近から何らかの形で流れ出てきたことはまず間違いないであろう(*5,6,7)。
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  ■South Block(印外務省)/S.Jaishankar(外務事務次官)/Ranjit Rae(駐ネ大使)

3.印ネ国境封鎖の圧力
インドは,ネパールの生殺与奪権を握っている。タライの印ネ国境を封鎖すれば,カトマンズはたちまち干上がってしまう。その最強の交渉カードを,今回もインド政府はチラつかせ,ネパールを脅している。

たとえば,カトマンズポスト(9月25日)「貨物,4カ所で渋滞」によれば,インド政府は治安を名目に,ビルガンジでネパール向けトラックを止め,またバイラワ,ラクサウル,ビラトナガル,カカルビッタでもネパール向け物流を止め始めた。石油,ガス,食糧などが,国境のインド側で停滞している(*8,9)。

インド政府は,道路封鎖でカトマンズとインドを遮断しようとしているマデシやタルーの闘争を,建前はどうであれ,結果的には支援していることになる。

4.マデシ=印vs体制政党=中
このようにインドがマデシやタルーの側に傾いていくと,カトマンズ政府ないし体制側諸政党は中国に接近する。これは,ネパール政府がインド介入に抵抗するため以前から使ってきた常套手段だが,いま安易にそれに走ると,以前とは比較にならないほど危険なことになりかねない(*10,11)。

ネパールは,すでに民族州的要素の強い連邦制になったのであり,したがって,いまや州が民族的に近い隣国の支援を得て「民族自決権」を行使することへのハードルは大幅に低くなっているはずだからである。

[参照]
*1 Shubhajit Roy, “Make seven changes to your Constitution: India tells Nepal — These “amendments” have been conveyed to Nepal’s leadership by the Indian government through official channels Ranjit Rae, India’s ambassador to Nepal”, Indian Express, September 23, 2015
*2 “India wants seven amendments to Nepal’s constitution: Confidential document
Amendments list conveyed to Nepali leadership,” Kathmandu Post, Sep 23, 2015
*3 “7-point proposal put forth by Madhesi parties: Laxman Lal Karna,” Himalayan,September 24, 2015
*4 “New Delhi brushes off report on seeking changes to Nepal charter,” The Kathmandu Post, 24-09-2015
*5 “PM Koirala meets Indian Ambassador Rae,” Kathmandu Post, Sep 23, 2015
*6 “Envoy Upadhyay arriving in Kathmandu with ‘Delhi’s message’,” Kathmandu Post Sep 24,2015
*7 “NEPAL TO SEND PM’S SPECIAL ENVOY TO INDIA,” Republica,25 Sep 2015
*8 “Cargo held up at 4 points, Freight movement curtailed at Bhairahawa, Raxaul, Biratnagar and Kakarvitta borders,” Kathmandu Post,Sep 25,2015
*9 “India halting supply of goods to Nepal a rumour: leaders,” Kathmandu Post, Sep 22, 2015
*10 “China undercuts India in Nepal, plays an active role,” CNN-IBN, Sep 22, 2015
*11 “DELHI’S OPEN SUPPORT TO MADHES UNREST WILL AGGRAVATE NEPAL’S SITUATION: CHINESE EXPERT,” Republica, 24 Sep 2015

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/09/25 at 20:57

2015年憲法制定へのインドの介入

ネパール制憲議会は9月16日,新憲法案を圧倒的多数をもって可決し,これをヤダブ大統領が9月20日,「ネパール憲法2072年」(2015年憲法)として公布した。法的には,この憲法公布をもって,1990年憲法体制は正式に廃止され,2015年憲法体制に完全に移行した。

 ■1990年憲法: 立憲君主制,ヒンドゥー国家
 ⇒2007年暫定憲法: 暫定的な連邦共和制,世俗国家
 ⇒2015年憲法: 連邦共和制,世俗国家(*)
   (*注)この「世俗国家」規定は「ヒンドゥー教的世俗主義」などと批判されている。
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  ■2015年憲法/21日付リパブリカ/21日付ヒマラヤン

この2015年憲法には,包摂民主制,連邦制,世俗主義など,利害がなお対立し,反対運動が続いている規定も少なくないが,それらについては後日,検討することにする。ここでは,新憲法そのものではなく,憲法制定の最終段階におけるインドの露骨ともいえる介入について見ておきたい。

ネパールは,東南西をぐるりとインドに囲まれており(北はヒマラヤの壁),政治的・経済的・文化的に,圧倒的なインドの影響下にある。ネパールで何か大きな動きがあれば,それはインドの利害に直結し,必然的にインドがそこに介入してくることになる。今回は,憲法制定という国家主権にもろに関わる事柄であったが,インドの介入は,各新聞がかき立てているように,きわめて露骨であった。(西洋諸国も,憲法制定の初期・中期には幼児に言い聞かせるような態度で介入したが,最終段階においては,そうした直接的な介入は見られなかった。実に狡猾。)

ネパールでは,憲法起草委員会(シタウラ委員長)が憲法原案を作成し,8月21日これを制憲議会に提出すると,特に州区画をめぐり,インド国境沿いのタライ地方で,マデシ,タルー,ジャナジャーティの諸集団が激しい反対闘争を始めた。警察。武装警察,軍隊が派遣され鎮圧に当たったが,20日の新憲法公布までに40名余の犠牲者を出してしまった。

ネパール,特に国境沿いのタライ地方の混乱は,インドにとって大きな脅威となる。国境は開かれており,避難民が多数インド側に逃れてくるし,混乱をついてパキスタンやカシミールから危険な「テロリスト」も侵入してくるとインド政府は警戒している。そこで,インド政府は,ネパール政府に対し,タライの人々の要求に耳を傾け,憲法に取り入れ,タライの混乱を早く治めてほしいと強く要求することになったのである。

「次の3日間[17~19日]が決定的に重要だ。タライ抜きで憲法を通せば,新しい民族紛争の種をまくことになる。そして,結局は,ニューデリーが何らかの形でそこに引き込まれてしまう。インドには隣国の新たな分離運動に関わる余裕はない。そのような紛争は蕾のうちに摘み取るべきであり,それにはニューデリーはその影響力を行使し,憲法にタライの諸要求を新たに取り入れさせるべきだ。インド政府は,必要なら特使を送り,ネパール諸政党に分別を説き,もって彼らに政府声明を実行させるべきである。」(“India must persuade Nepali parties for constitutional compromise,” Hindustan Times, 16 Sep.2015)

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憲法原案の逐条採決が始まる直前の9月11日,ラエ駐ネ印大使がオリUML議長(次期首相と見られている)に会い,逐条採決の延期を求めた。その後,プラチャンダUCPN議長らにも同様の要請をしている。これに対し,主要3党は,11日午後から予定していた逐条採決を2日間延期し,13日からとした。そして,その一方,オリUML議長は,特使をインドに送り(9月15~18日),新憲法制定とその後の体制への理解と支援をインド側に要請した。

こうして逐条採決が9月13日から始まり,16日になってようやく憲法最終案が制憲議会で採決され,圧倒的多数をもって可決された。そして,公布は19日までにとされた。しかし,それでもタライの反対闘争は収まるどころか,むしろ激化する一方だった。そこでインド政府は9月17日,ラエ大使を急遽呼び戻しネパール情勢を聴取し,翌17日ジャイシャンカラ外務事務次官をモディ首相特使としてカトマンズに送った(9月18~19日)。ラエ大使も同行しカトマンズに帰任した。

ジャイシャンカラ特使は,カトマンズに着くと,真っ先にオリUML議長と会い,その後,コイララ首相らネパール側要人と会う一方,マデシなど反政府側諸党派の幹部とも会い,彼らの要求を聞き取った。

ジャイシャンカラ特使は,ネパール側,特にオリ議長に対し,タライの混乱への憂慮を伝え,最大限の合意を得て新憲法を公布するよう要請した。これに対し,オリ議長は,新憲法公布後でも反対派の要求は受け入れる用意があると答え,またプラチャンダ議長も新憲法の改正により反対派の要求に応えたい,と答えた。そして,新憲法公布前日の19日,コイララ首相(NC),オリUML議長,プラチャンダUCPN議長が共同声明を出し,「この憲法を改正により完全な効果的な憲法にしていく」と約束した。そこには反対派の最大の要求である州区画の変更さえ含まれている。驚くなかれ,公布前の改正約束である。

このように見てくると,新憲法制定にインド政府が直接的に深く介入していたことは明白である。諸集団包摂の連邦制や世俗国家(タライにはイスラム教徒が多い)は,インド政府の要求でもあったのである。

印外務省報道官声明(2015年9月20日)
Statement on the situation in Nepal

Throughout the process of Constitution making in Nepal India has supported a federal, democratic, republican and inclusive Constitution. We note the promulgation in Nepal today of a Constitution.

We are concerned that the situation in several parts of the country bordering India continues to be violent. Our Ambassador in Kathmandu has spoken to the Prime Minjster of Nepal in this regard. We urge that issues on which there are differences should be resolved through dialogue in an atmosphere free from violence and intimidation, and institutionalized in a manner that would enable broad-based ownership and acceptance. This would lay the foundation of harmony, progress and development in Nepal.

We extend our best wishes to the people of Nepal.

在ネ印大使館ツイッター(一部削除編集)
2015-9-19
We hope that Nepal’s political leaders will display the necessary flexibility and maturity at this crucial time to ensure a durable and resilient Constitution that has broad-based acceptance.- India’s Foreign Secretary

2015-9-22
We note the promulgation in Nepal today of a Constitution.

Throughout the process of Constitution making in Nepal, India has supported a federal, democratic, republican and inclusive Constitution.

We are concerned that the situation in several parts of the country bordering India continues to be violent.

Our Ambassador in Kathmandu has spoken to the Prime Minister of Nepal in this regard.

We are deeply concerned over the incidents of violence resulting in death and injury in regions of Nepal bordering India

Our freight companies and transporters have also voiced complaints about the difficulties they are facing in movement within Nepal

We had repeatedly cautioned the political leadership of Nepal to take urgent steps to defuse the tension in these regions.

[参照]
*1 Hannah E. Haegeland, “Why India Needs to Make Itself Heard in Nepal,” September 17, 2015(http://thediplomat.com/)
*2 “India must persuade Nepali parties for constitutional compromise,” Hindustan Times, Sep 16, 2015
*3 “MODI’S SPECIAL ENVOY URGES ADDRESSING MADHES DEMANDS,” REPUBLICA, 18 Sep 2015
*4 “Adopt maximum flexibility to promulgate sustainable constitution: S Jaishankar,” Kathmandu Post, Sep 19, 2015
*5 “Modi’s message,” Nepali Times, September 18th, 2015
*6 “Statute has to address concerns of all, Modi’s envoy tells Prez,” The Himalayan Times, September 18, 2015
*7 Prashant Jha,”Protests over new Nepal constitution vindicate India’s position,” Hindustan Times,Sep 20, 2015
*8 “India’s statement,” Nepali Times,20th,2015
*9 “As Nepal adopts constitution, India concerned over border unrest,” zeenews.india.com, September 20, 2015
*10 “Nepal adopts constitution born of bloodshed, compromise,” REUTERS, 20 September 2015
*11 “More than half a century in the making: Nepal enshrines new constitution,” CNN, September 21, 2015
*12 “Nepal Adopts New Constitution, Becomes a Secular State: 5 Facts,” Reuters, September 20, 2015
*13 “Kathmandu ignores Delhi’s concerns on Constitution,” The Hindu,September 20, 2015

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/09/21 at 20:48

カテゴリー: インド, 憲法

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京都の米軍基地(81):「既成事実への屈服」のきざし

京丹後市議会の9月定例会が開かれたが,一般質問で米軍基地を取り上げたのは,なんと2議員だけ! しかも,その質問にも,以前のような鋭さや迫力はみられず,はや「既成事実への屈服」の兆しが見られる。

米軍基地はすでに完成。アメリカ軍人・軍属百数十名が赴任し,Xバンドレーダーは,日夜,騒音をまき散らし,超強力電波を発射し続けている。経ヶ岬米軍基地は,すでに「既成事実」となってしまった。

日本では,いったん事実がつくられてしまうと,それが何であれ,つくられる以前に立ち戻って根本から議論をやり直すことは,多くの場合,きわめて困難である。「既成事実」を前にすると,日本人の批判精神は萎えてしまう。

「すでに出来てしまったのだから」「もうやってしまったのだから」ーーこれは,事実をつくる権力の側の常套句であり,また,そのようなつくられた「既成事実」からの緻密な論理構成は日本官僚の得意とするところである。日本では,いったんある事実がつくられると,その事実を前提として,そこから次々と官僚制的合理性をもって新しい事実が積み重ねられていく。丸山眞男のいう「既成事実への屈服」である。

京丹後の米軍基地問題も,まさしくそうした「既成事実への屈服」の典型例の一つとなり始めた。京丹後では,米軍基地はすでに「既成事実」となり,9月定例議会一般質問でも,基地問題を取り上げたのは共産党の2議員だけ。しかも,これら2議員の質問も,既成事実化の「現実」に押され,精彩を欠き,また論理破綻ではないかと思われるような部分さえみられた。

たとえば,騒音対策や交通安全対策は,改善要望にすぎず,基地への根本的批判とつねに関連づけていないと,基地存続を逆に助長することになりかねない。

あるいはまた,網野町島津での米軍住宅建設に関する質問では,軍人・軍属用住宅(ないし軍属用住宅)という根本的な事実を見据えなかったため,市長答弁にたじたじ,惨敗してしまった。

質問者は,市長の発言「島津連合区の意向調査は法制上,倫理上[あってはならないこと],あるいは人権侵害に当たる」という発言は島津住民の自治への介入だ,と問い質した。これに対し市長は,自治は大切だが,だからといって自治の名で居住の是非を問うことは許されない,これは「働く人の住居」の問題だ,と反論した。

たしかに,もしこれが一般の日本人や外国人の場合であれば,市長のいうとおりである。住民自治の名で「居住の自由」(憲法第22条)を奪うことは,許されない。しかし,島津に建設されるのは米軍住宅であり,そこに住むのは,日米地位協定で様々な特権が認められている米軍人・軍属(ないし軍属)である。いわば,一種の治外法権。彼らは,日本の法には完全には服さず,したがって彼らの居住が地域住民に危険をもたらす恐れがあることは否定できない。米軍住宅は,市長のいうような一般的な「働く人の住居」ではないのである。(参照:米軍基地建設を憂う宇川有志の会「文殊さん定期報告487」9月21日)

質問者は,このような観点から米軍住宅問題を問い質すべきだったが,なぜかそうはぜず,証拠不十分にもかかわらず,もっぱら市長の自治介入にばかり拘泥し,その結果,自治の限界としての人権尊重という市長の反撃に完敗してしまった。

質問者は,鋭い政治感覚とあふれるばかりのユーモアを兼ね備えた,卓越した魅力的な市会議員である。その議員が,なぜこのような勝ち目のない議論をすることになってしまったのか? 

推測にすぎないが,それはやはり既成事実となってしまった米軍基地の重圧であろう。正面からの基地批判は,「既成事実への屈服」文化がはびこる日本,ましてや保守的な京丹後では,もはや受け入れられそうにない。そこで,市長の島津連合区自治への介入という脇道からの米軍住宅問題追及を試みたのだろう。

が,本道あっての脇道,本道を見失うと,たちまち道に迷ってしまう。

京丹後市議会9月定例会 一般質問(クリック再生)
 ■田中邦生(日本共産党)
 2 米軍基地問題について
 (1)米軍基地の騒音対策について
 (2)軍人・軍属の交通安全対策について
 (3)Xバンドレーダーの配備は京丹後の安心・安全を損なう
 ■森 勝(日本共産党)
 1 京丹後市国民保護協議会等と戦争法案(安全保障関連法案)について
 (1)京丹後市国民保護対策本部、同協議会の役割、任務、設置の目的について
 (2)戦争法案、集団的自衛権の行使との関連性について
 (3)自治体、市民に何をもたらすのか
 2 宇川米軍基地と米軍居住地問題について 
 (1)記者会見(6月26日)における発言について
 (2)島津連合区から提出の要望事項に対する対応について

[参照]
京丹後の米軍基地問題:「住民の声、封殺するな」 集会で市長に抗議(毎日新聞2015年08月29日)
 「米軍Xバンドレーダー基地反対・京都連絡会」は28日、京丹後市役所前で基地撤去を求める集会を開いた。同市網野町島津地区の米軍属居住地問題で、島津連合区が住民の意向調査を実施したところ、中山泰市長が「調査結果の公表はあってはならない。住居の問題で賛否を問うこと自体が倫理上、人権上決してあってはならない」と発言したことに対し、「住民の意見を封殺し、民主主義社会を否定するものだ」と強い批判の声が上がった。・・・・

米軍属居住地問題:「調査自体が人権侵害」 京丹後市長、再主張(2015年09月12日 毎日新聞)
 ・・・・島津連合区が住民意向調査を実施したことについて、中山泰市長は「調査自体が人権侵害になる」との考えを改めて示した。・・・・「・・・・住民自治の名の下で人権を傷つけてはならない」と表明した。
 ・・・・市長は「私の公言した考えを島津区長が主体的に受け止め、主体的に判断した」と強調した。

■米軍の子供利用
 150919■峰山こども園(経ヶ岬米軍FB9月18日,子供の顔は引用者削除)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/09/19 at 20:45

新憲法成立,20日公布

ネパール制憲議会は9月16日,憲法案のうち未採決の120条余を一気に採決したうえで,確定した新憲法案全体につき投票,2/3以上の多数により可決した。新憲法は,条文がさらに増え,全308カ条となった。(詳細後述)

成立した「2072(2015)年憲法」は,9月20日午後5時,公布の予定。

▼制憲議会(定数601,欠員3)
 賛成: 507
 反対: 25
 投票拒否: 60
 欠席: 5
 議長: 1

150917

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/09/17 at 10:07

カテゴリー: 憲法

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