ネパール評論

ネパール研究会

京都の米軍基地(82): 強者の権利

経ヶ岬進駐米軍は,地元住民にとって圧倒的な強者であり,早くも「強者の権利」を享受し始めた。「強者の権利」とは,平たくいえば,弱者に対し強者が行使する自由,つまり「Might is Right(力は正義,力は権利)」という考え方である。

現代民主国家は「法治国家」であり,国民も政府もすべて「法の支配」に服する。いかなる政治的,経済的,社会的,文化的強者といえども,自分のもつ「力」ないし「実力」を法を無視して行使することは許されない。法は,事実として様々な不平等が存在する国家社会において,弱者の自由と権利を守るためのものである。現代法治国家では,「強者の権利」は認められない。

ところが,経ヶ岬進駐米軍には,地元住民には認められていない様々な特権が認められている。米軍人・軍属は,形式的にはともあれ,実質的には地元住民の服する日本の法には完全には服さず,その限りで「治外法権」を享受している。

法が弱者を守るためのものだとするなら,「治外法権」は,そこでは弱者が法により守られず,「強者の権利」が容認されていることを意味する。京丹後では,米軍人・軍属は「強者の権利」を行使することが出来る。

たとえば,これらは経ヶ岬米軍FB掲載写真。士官使用と思われる車のナンバーが完全に消されている。推測にすぎないが,おそらく掲載に当たり,米軍側が自分たちのプライバシーか何かに配慮したのであろう。もしそうなら,この車をたまたま地元住民が撮っており,ナンバーを消さずフェイスブックか何かに掲載したらどうなるか? すぐ秘密保護法などが持ち出されることはないであろうが,米軍関係情報を無断で収集し,世界にばらまく要注意人物としてマークされるといったことは十分に考えられる。米軍側は,自分たちが権利だと思うものを,弱者たる地元住民に対し一方的に主張し,それを自分たちの力で守ろうとする。「強者の権利」である。

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 ■丹後半島ラリー(8月28-29日)米軍士官使用車ナンバーは消去。(米軍FB9月22日)

経ヶ岬米軍FBは,このように士官使用車のナンバーを消す一方,地元の子供や老人の写真は,顔が写ったものも含め,無修正で多数掲載している。米軍宣伝への利用である。

しかし,この場合,そのような写真の利用を,子供たちが米軍に対し承認しているとは到底考えられない。米軍人・軍属などが,お菓子や鳴り物を携え,子ども園(保育園・幼稚園)などにやってくれば,子供たちは無邪気にはしゃぎ,喜んで写真を撮らせるであろう。が,そこには写真撮影・利用への「インフォームド・コンセント(理解を得た上での同意)」はない。米軍は,地元関係諸機関に対する強者の立場を利用し,子供たちのプライバシーの自由や肖像権をほしいままに強奪している。日本の子供たちという最も弱い立場の弱者に対する「強者の権利」の行使である。

150901a150901d■峰山子ども園・米軍FB8月28日(子供の顔引用者消去)

150929c■ハロウィーン(11月1日)招待は子供だけ(幼児~中学生以下)。(米軍FB9月24日)

老人たちについても,同じことがいえる。老人ホームなどに入居している老人たちは,多くの場合,役所や施設管理者に対し弱い立場にある。あるいは,老齢や病気などのため,自分では十分に自分の権利を守れない状況にあることも少なくない。米軍人・軍属は,そのような老人施設にも好んでやってきて,入居者たちの写真を撮り,ホームページなどに掲載し,世界中に進駐米軍の宣伝をする。この場合も,入居者たちが明確な「インフォームド・コンセント(理解を得た上での同意)」を与えたとは考えられない。弱者たる地元老人に対し,米軍は「強者の権利」を行使しているのである。

150929a■京丹後市の特養訪問(8月24日)。(米軍FB9月9日)

京丹後における米軍の「強者の権利」行使はまだ始まったばかり,いずれ地域社会の他の様々な領域にも拡大していくことは避けられない。沖縄や他の米軍基地周辺と同様に。

谷川昌幸(C)

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