ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 10月 2015

対ネ封鎖非難声明,ネパール有識者12名

マテマ元駐日大使,KC・ガウタム元国連事務次長補,MK・デクジット「ヒマール」編集長など,ネパールの著名な有識者12名が連名で,インドによる非公式対ネ経済封鎖( de facto economic blockade)を非難する声明を,インド紙The Hindu(10月30日付)に発表した。

“Independent Citizens’call on international community to address humanitarian crisis in Nepal,” The Hindu, October 30, 2015

論旨はきわめて明快。インド政府が厳しく批判されているが,その一方,インド非難が厳しければ厳しいほど,国内抗争に明け暮れるネパールのみじめな現状が浮き彫りとなり,よくよく読むと,皮肉なことに,ネパール国民への自己批判の呼びかけとすら思われてくる。要旨は以下の通り。

声明要旨
インドの対ネ経済封鎖の解除への努力を,ネパールの諸政党と,インドを含む国際社会に向け訴えたい。

ネパールは,震災,タライ・マデシ紛争,経済封鎖により,経済的・人道的危機に陥っている。社会生活マヒ,病院の医薬品不足,学校休校など。

「われわれ12市民は,インドによる封鎖を非難する。国境通過困難はもっぱらネパール国内の紛争が原因,とする主張には納得できない。明白な反証がいくつもある。たとえば,通関の遅滞,石油独占供給の印石油(IOC)によるネパール・タンクローリーへの石油積み込み拒否,印国境警備隊(SSB)に対し石油積み込みを妨害するよう要請があったこと――印メディアがSSB幹部の話として報道――など。」

インドによる対ネ経済封鎖は,震災復興を妨げ,また冬に向かってネパールの人々をさらに苦しませることになるだろう。「地震被害は70億ドルほどだが,経済封鎖は,それをはるかに上回る損害をネパールに及ぼすとみられている。」

「世界の他のすべての憲法と同様,2015年ネパール憲法も完全なものではない。この声明を出したわれわれもまた,そう考え,憲法を改正し,それを多元的・民主的規範に完全に適合させるよう要求している。」主要諸政党もすでに改正案を提出している。州区画など,難しい問題があっても,ネパールは法の支配する「主権的国民国家」なのだから,それらの国内問題は,民主的な交渉により自らの手で平和的に解決されるべきだ。

「ネパールの社会諸集団は,強い連帯意識を持っており,外からの介入がなくても,より大きな利益のために自分たちの相互関係を調整することができる。」

「インドによる経済封鎖は,1991年印ネ通行通過条約の定めるインドの諸義務ばかりか,平和五原則,南アジア地域協力連合(SAARC)とベンガル湾多分野技術経済協力イニシアティブ(BIMSTEC)の下での地域協力の精神,内陸国に国際社会が認めている諸権利にも反している。」「インドのネパール封鎖は,いかなる理由をもってしても正当化はできない。」

「われわれは,対ネ経済封鎖を直ちに解除し善隣関係を回復することを要求する。国際社会には,ネパールの国家と国民が直面しているこの人道危機を終わらせるため,必要なあらゆる手段をとることを要請する。」

署名:Nilamber Acharya, Megh Ale, Kanak Mani Dixit, Kul Chandra Gautam, Chandni Joshi, Dr. Arjun Karki, Anuradha Koirala, Dr. Bhagwan Koirala, Kedar Bhakta Mathema, Sushil Pyakurel, Kapil Shrestha and Dinesh Tripathi

参照】(フェイスブックまたはツイッターより)
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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/10/31 at 20:26

大統領にも国会議長にも,女性議員選出

世界最新憲法国ネパールが,大統領と連邦議会(立法議会)議長に、いずれも女性議員を選出した。快挙!

1.OG・マガル議長
ネパール立法議会は10月16日,無投票で統一共産党マオイスト(UCPN-M)議員のオンサリ・ガルティ・マガル議員を議長に選出した。ネパール初の女性議長。

マガル議長は,1977年ロルパ生まれ。人民戦争に初期から参加。和平後,ロルパ選出議員。UCPN政治局員。青年スポーツ大臣。前副議長。夫は,UCPNのバルシャマン・プン書記。

議長選挙は,ネパール会議派(NC)が対立候補を出さず,UCPNとRPP-N推薦のマガル氏が無投票で選出された。16日の時点では,まだNC・UML(ネパール共産党統一マルクス・レーニン主義派)・UCPN三党協調体制の継続が模索されていたからであろう。なお,副議長には,国民民主党(RPP-N)のガンガ・プラサド・ヤダブ議員を選出。

  151029■OG・マガル議長(同氏FB)

2.BD・バンダリ大統領
10月28日の大統領選挙では,UMLのビディヤデビ・バンダリ議員が,第二代大統領に選出された。議長選挙のわずか12日後のことだが,9月20日にマデシやインドの反対を押し切り新憲法が公布されたこともあり,諸政党の関係が流動化してしまっていた[公布日誤記訂正]。NCは下野を再確認し,党幹部のクル・バハドゥル・グルンを対立候補として擁立した。結果は次の通り。

 BD・バンダリ(UML) 327
   UML,UCPN,RPP-N,MJF-D,CPN-MLほか
 KB・グルン(NC) 214
   NCほか
 *議員総数597, 投票総数549,無効8,欠席48(マデシ系ほか)

BD・バンダリ大統領は,1961年ボジプル生まれ。学生運動を経て,GEFONT女性局長など歴任。UMLカトマンズ選出議員。防衛大臣。UML副議長。女性権利実現に努力。夫は,ネパール共産党運動の指導者の一人マダン・バンダリ(1993年没)。党内では,オリ首相(UML議長)に近い。

  151029a■BD・バンダリ大統領(UML HP)

3.UML=UCPN=RPP-N体制
これで,大統領=UML,首相=UML,議長=UCPNとなり,新政府は名実ともにこれら二大政党主導となった。これら2党に比べ,RPP-Nは一歩下がるが,それでも副首相兼外務大臣と副議長,大臣(1)を出しているので,新政府内においてキャスティングボートを握りうる位置にある。

これに対し,マデシのMJF-Dは,副首相と国務大臣(2)を出しているものの,この布陣では,あまり大きな発言権はもてそうにない。中国からの石油輸入にどう対処するか,さっそくその立ち位置が試されることになった。

いまタライ地方では,中国の対ネ石油輸出がマデシ運動への敵対行為とみなされ,反中国感情が高まっている。反中国デモが始まり、中国国旗が焼かれたという報道もある。

この新たな局面に,新政府はどう対処するのか? 真っ先に「踏み絵」を踏まされそうなのはMJF-Dだが,他の3与党とて難しい選択を迫られることに変わりはあるまい。

ネパールにおける中印の代理戦争といった最悪の事態だけは,何としても回避していただきたいものだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/10/29 at 23:09

カテゴリー: マオイスト, 議会

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柿、未曾有の大豊作の不気味

丹後の村では、柿が大豊作。こんなスゴイ実りは、これまで一度も見たことがない。

柿は、古来、日本に最適の果樹。空き地や田畑の周辺に植えておけば、勝手に育ち、実をつける。農薬、肥料、剪定など、一切不要。文句なしの100%自然農法。(資本主義化した商品作物としての柿は別物)。

それにしても、今年はスゴイ! あまりにも多くの実をつけたため、実の重さに耐えきれず、多くの枝が折れ、幹さえ裂けてしまった木も少なくない。

多くて穫りきれない。あとは、おやつとしてヒヨドリやサルに進呈しよう。クマが来ると怖いが、今年は山中の野生柿も大豊作なので、危険を冒して里まで降りてくることはあるまい。

大豊作はめでたいが、こんな異常な実りだと、天変地異の前兆かと、少々不安になる。取り越し苦労だろうが、やはり何につけ、ほどほどが、よい。面白味はないが。

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 ■無数の実をつけた柿の木/小枝にびっしり結実

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 ■折れたり裂けたりした柿の木/つるし柿

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/10/28 at 20:47

カテゴリー: 自然, 文化

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タライ再度緊迫化,巨象の尾を踏んだのか?

インド国境沿い,タライ地方の反政府・反憲法闘争が,2,3日前からふたたび激化してきた。

1・タライ反政府闘争激化
各紙報道によれば,ダサイン祭日期間中も,タライの反政府闘争やインドの「非公式経済封鎖」は続き,石油・ガス類を中心に物資が不足し,帰郷は困難を極め,寺院参拝は例年の数分の一以下だったそうだ。

それでもダサイン中は,反政府闘争はやや沈静化していた。オリ新政府も,カマル・タパ副首相兼外相をインドに派遣し,モディ首相らと直談判させるなど,状況打開に向け努力しているように見えた。(10月25日には,MJF-Dに国務大臣職1を追加配分。)

やれやれ,これでようやくタライ紛争も解決に向かうかと一安心していたが,この見方は早計,やはり甘かった。ダサイン明けが近づくと,タライ紛争は再び激化,各地で激しい衝突が起こり始めた。各紙報道によれば――

 [10月24日]ダヌサで統一民主マデシ戦線(UDMF)と警官隊が衝突。警察警備中のバスに反政府派が石や火炎ビンを投げ,バス運転手に暴行。警察威嚇射撃,ゴム弾発射。バス運転手重傷,負傷数十名。
 [10月25日]シラハでバンダ破りバス放火,2人逮捕。サプタリで群衆が患者輸送中の救急車を止め,燃料抜き取り後,放火。ビルガンジで,バンダ破りバイク数台に放火,また反政府派と警察が衝突し,4人負傷。
 [10月26日]ビルガンジ近くのインド国境,ミテリ橋に女性,子供を含む多数のマデシ反政府派が押しかけ封鎖し,「独立マデシ州」,オリ首相打倒を叫ぶ。サプタリで,NC議員宅に爆弾が仕掛けられているのを発見。

2.インド政府の暗黙の支援
これらの情報は錯綜しており,不正確なものや重複もあろうが,それでも全体として,タライの反憲法・反政府闘争が再び激化してきたことは明らかである。なぜか?

それは,おそらく,タライのマデシ,タルーらがUML・UCPN・RPP-N主導のオリ政権を本質的に反タライとみなし,これに強い不信感を抱き,またその彼らを地続きのインド政府が暗黙裡に支援しているからであろう。とくに今回は,後者,インドの支援が大きいと思われる。

しかし,それではなぜインド政府は,内政干渉,国際法違反といった非難を覚悟のうえで,これほどまでにタライ反政府勢力に肩入れするのであろうか?

3・北方代替交易路の開設
これはまだ推測にすぎないが,チラチラ見え隠れするのは,やはりオリ政権の中国カード利用のナショナリズム指向。1989年の対ネ経済封鎖はナショナリスト国王政府による中国からの武器輸入が引き金となったが,今回はそれがどうやら石油類を中心とする北方代替輸入ルート開設となりそうな気配がする。

中国が,チベット経由で,道路や鉄道をネパールに向け急整備してきたことは,これまでにも幾度か指摘してきたように,周知の事実。鉄道はまだ間に合わないが,今回は道路を使って石油類や他の重要物資を緊急輸入する交渉が,いま両国政府間で急速に進んでいる。

ネパール政府は,すでにダサイン以前に,様々なチャネルを通して中国政府に石油,ガス等の供給を要請していた。10月23日になると,通商供給大臣,駐中国ネパール大使,NK・シュレスタUCPN副議長らが駐ネ中国大使と会い,石油,ガス,医薬品等の中国からの輸入を要請した。民間ベースと政府間ベースで,タトパニ経由と吉隆経由で輸入する。すでに政府間契約原案はできており,あとは価格と輸送方法の詰めが残るのみだという。

10月25日ネパール石油公社発表によると,中国政府は11月25日までに1千トンの石油類を吉隆‐ラスワガディ経由でネパール政府に供与する。(ちなみにネパールの石油類消費は1日1万トンだという。)ネパール側のタンクローリーがラスワガディ国境で中国側タンクローリーから石油類を受け取り,カトマンズまでピストン運送する予定。また,別のメディア報道によれば,この10月28日から,ネパール石油公社がタンクローリー25台以上で,毎日,ラスワガディからカトマンズまで石油類を運ぶことになったそうだ。これは,極めて具体的で,真否はすぐ判明する。

この北方代替輸入の件でも情報が錯綜しており,日程や数字など合わないところがあるかもしれないが,ただ,ネパールと中国が石油,ガス,医薬品などの生活必需品の中国からの,あるいは中国経由での大量輸入に基本合意し,近くそれが実行に移されることはほぼ間違いないであろう。

4.巨象の尾を踏む?
しかし,これは長年にわたってネパールへの物資供給をほぼ独占してきたインドにとっては,由々しき事態である。北方の本格的な代替交易路の開設により,インドのネパールに対する独占的・宗主国的地位が根底から崩れていく。そのインドの泣き所,インドという恐ろしい巨象の尾を,ついにいま,オリ政権は踏みつけてしまったのではないだろうか?

以上は,初めにお断りしたように,まだ現状からの単なる推論にすぎない。しかし,いまのネパール情勢は,そうとでも考えないと,あまりにも不可解であることもまた紛れもない事実である。

▼ネパールの民族分布
 151027■S.H. Shrestha, Nepal in Maps, 2005, p.99

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/10/27 at 11:19

京都の米軍基地(83): レーダー性能リークによる半身内形成と反対派析出

京都新聞が,経ケ岬Xバンドレーダーによるミサイル追尾成功を大きく報道している。「米軍レーダー ミサイル追尾 北朝鮮3月発射」(10月24日付)。

Xバンドレーダーのミサイル追尾能力は,極秘情報であり,まず間違いなく「特定秘密」。そんな軍機中の軍機を,今回,外部に漏らした人や,それを取材し掲載した京都新聞は,特定秘密保護法違反容疑で捜査・起訴され,重罪に処される恐れはないのだろうか? もしそんなことになれば,初の特定秘密保護法違反事件!

件の京都新聞記事は,情報源を示さない伝聞記事。記事によれば,10月23日,空自経ケ岬駐屯基地において,米軍第14ミサイル防衛中隊の発足1周年と司令官交代を記念する式典が行われた。日本側出席者は,地元区長,防衛省職員,自衛隊協力会地元会員ら。この式典で,米軍第94対空ミサイル防衛コマンドのサンチェス司令官が,3月2日北朝鮮発射の短距離ミサイル2発を経ケ岬Xバンドレーダーにより「追尾することができた」と話したという。

この米軍記念式典は,報道機関にも非公開。では,レーダー追尾能力という極秘情報を,ごく限定された出席者中の誰が外部に漏洩したのか? また,その誰か,またはその誰かの近辺の他の誰かから取材し報道した京都新聞の行為は,合法か?

米軍やその御用聞き日本政府がその気になれば,この極秘情報漏洩の式典出席者と,それを取材・報道した京都新聞は,特定秘密保護法か他の関係法令違反の容疑で捜査,起訴されうるであろう。有罪となれば,重罪だ。

が,今回は,たぶん,そうはならない。なぜなら,米軍は,非公開式典を巧妙に利用して希少価値のある極秘情報を意図的にリークし,出席日本人に秘密共有の隠微な特権的身内意識を醸成する一方,出席の誰かから非公式に極秘情報が外部に漏れ,新聞報道され,日本国民,とくに基地周辺住民に知られ,Xバンドレーダーの威力と有用性への理解が広がり,基地運用・拡大が容易になることを期待していると思われるからだ。

 経ケ岬米軍―秘密共有の半身内日本人仲間―基地容認多数派住民反基地少数派

米軍は,どこでもこの種の住民分断作戦を使っている。どこでも有効だからだ。米軍には,実力とカネがある。反対派には,どちらもない。これからも米軍関係情報が巧妙にリークされ,半身内応援団が強化され,その外に容認多数派社会が育成されていくことは,まず間違いない。

反対派は隔離され,孤立し,荒野へと向かわざるをえない。権力に抵抗するものへの非情な預言である。

初代司令官オルブライト少佐の防衛省表彰 
 151025
 経ケ岬米軍基地の設立運営と日米同盟強化への貢献(経ケ岬米軍FB,10月21日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/10/25 at 18:06

オリ首相選出とその包摂的政治算術

1.首相選挙
ネパール立法議会において10月11日,新憲法に基づく初の首相選挙が行われ,ネパール共産党統一マルクス・レーニン主義派(CPN-UML/UML)のオリ議長が第38代首相に選出された。

[投票結果](投票総数587)
 KP・オリ(UML) 338
   UML,UCPN-M,RPP-N,MJF-D,RPP,サドバーバナ党,CPN-MLなど計15党ほか
 スシル・コイララ(NC) 249
   NC,統一民主マデシ戦線(UDMF)など計10党ほか
   *議長,欠席議員を除く。
   *主要政党議席数:NC196,UML175,UCPN-M80,RPP-N24,MJF-D14,RPP13,MJF10,TMLP11

 151023a■KP・オリ(UML第9回党大会)

2.NC: 禅譲から対立候補擁立・落選へ
このように,今回,新首相は選挙で選出されたが,新憲法制定のころまでは,NCはコイララ首相の下で新憲法を制定すれば,次はUMLへと政権を禅譲するとみられていた。

ところが,9月16日制定,20日公布の新憲法について,タライ地方のマデシ,タルー,ジャナジャーティ諸勢力が激しく反発し,インドもその支援に回ったため,NCは主要3党体制の継続を放棄し,急遽,スシル・コイララ党首(前首相)を対立候補として立て,UMLのオリ議長と首相選挙を戦うことになったのである。

NCには,タライの反憲法諸勢力やそれを暗黙裡に支援するインドへの期待があったのであろう。事実,首相選挙では,マデシ系諸党の多くは,コイララ候補に投票した。が,MJF-D(マデシ人民権利フォーラム‐民主,ガッチャダル議長)の,土壇場での寝返りもあって,支持は広がらず,大差で落選となってしまった。

151023b■スシル・コイララ(NC HP)

3.UML: 左派・右派・民族派の大包摂
禅譲が期待できなくなった議会第2党のUMLは,左派のマオイストと右派の国民民主党(RPP-N)と民族派のMJF-Dを囲い込む大包摂作戦にでた。反包摂主義と非難攻撃されてきたUMLの,アッと驚くような素早い転進・変身。

UCPN-M(統一ネパール共産党マオイスト)は,議会政党化し柔らかくなったとはいえ,極左過激分子をまだたくさん抱えている。一方,カマル・タパ議長の率いるRPP-Nは,いわずとしれた王制復古,ヒンドゥー教国家復帰を唱える筋金入りの右派政党。そして,ガッチャダル議長のMJF-Dは,タライのマデシ民族主義政党だ。そんな三勢力を,マルクス・レーニン主義の共産党たるCPN-UMLが,寛容に包摂したのだ。お見事!

 151023c 151023d■カマル・タパ(同氏FB)/ガッチャダル(同氏FB)

4.包摂の政治算術
包摂は,現実政治においては,理念ではなく,力学ないし算術である。首相選挙にあたって,議会第2党のUMLは投票前日の10月10日,第3党のUCPNと「14項目協定」を締結した。
[主な合意事項]
 ・新憲法の施行。
 ・ただし,タライ紛争には,必要な場合には憲法を改正し,対処する。
 ・国家主権と領土の保全,外国介入阻止。
 ・包摂民主主義の推進。
 ・包括和平協定の遵守。
 ・震災復興の推進。

この協定を結んだUMLは,UCPNとともに,MJF-Dと連立交渉をし,投票直前,わずか30分前に,「8項目合意」を締結することに成功した。
[主な合意事項]
 ・社会諸集団のあらゆる分野での比例的包摂。
 ・州区画の見直し
 ・人口に基づく選挙区見直し

こうしてUMLは,UCPN,RPP-N,MJF-Dの支持を取り付け,オリ議長を首相に当選させることができた。そして,その当然の見返りとして,協力3党には,内閣の要職を配分することになった。

まず,80議席を擁する第3党のUCPNには,副首相兼エネルギー大臣(TB・ラヤマジ)と,内務大臣など7大臣を割り当てた。UMLがオリ首相と3大臣だけなので,大臣配分ではUCPNに大きく譲歩している。

24議席のRPP-Nには,副首相兼外務大臣(カマル・タパ)の要職と,大臣(所管未定)1を配分した。これも,功大なりと認めたからだろう。

さらに,MJF-Dには,副首相兼インフラ・交通大臣(ガッチャダル)の要職を割り当てた。また,他のタライ・マデシ系3小政党にも,大臣2と国務大臣(State Minister)1を配分した。(10月25日には,MJF-Dに国務大臣職1を追加配分。)

5.包摂か野合か?
包摂は,ネパールの現実政治においては,理念を棚上げにした政治算術となりがちである。むろん,算術であり打算であっても,それで「平和」が贖えるのなら,頭から否定されるべきではあるまい。政治は「妥協の術」に他ならないから。

しかし,そうはいっても,オリ内閣を構成する諸党の政治理念は,あまりにも隔絶している。さながら氷炭の如し。UML=UCPN主流派に対し,RPP-N(カマル・タパ議長)は,世俗主義を骨抜きにした新憲法第4条を死守しようとするであろうし,タライ・マデシ系諸党は,州区画の見直しや州自治権の大幅拡大を要求するだろう。

これらは政治理念の対立であり,数字合わせの政治算術では,到底,抑えきれるものではない。この情況のままでは,オリ連立政権は,理念なき野合とみられ,正統性を失い,遅かれ早かれ崩壊に向かうことは避けられないのではあるまいか。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/10/23 at 23:55

首相選挙,オリ有利だが?

10月10日,スシル・コイララ首相が正式に辞表を提出し,今日(10月11日),次期首相選挙が実施される。議会定数601,現議員総数598(欠員3)。次期首相は,299票以上の多数により選出される。

今回の首相選は,NC=UML=UCPN体制が崩れ,NC対UML=UCPN=RPP-Nの構図となった。
 ■NC候補:スシル・コイララ
 ■UML=UCPN=RPP-N候補:KP・シャルマ・オリ(UML)

UMLのオリは,現行「2015年憲法」推進派であり,対マデシ強硬派,反インド派とみられている。そのオリを,マオイスト(UCPN)が王党派の国民民主党(RPP-N)と手を組み,推薦している。左右ナショナリスト共闘ということであろうか。

議会議席は,UML+UCPN+RPP=291。この3党に加え,他の小政党の多くもオリ支持の見込みなので,オリ当選はほぼ間違いないとみられている。

しかし,王党派(RPP-N)とマオイスト(UCPN)との結託は余りにも不自然だし,反インドへの危惧もあり,UML内でもUCPN内でも,党決定への反発が高まっており,首相選では相当数の造反が出るかもしれない。そうなると,オリ落選ということもない訳ではない。

一方,NCのスシル・コイララ候補は,現状では劣勢である。NC内も割れており,NC=UML=UCPN体制の継続を求めたプルナ・カドカ書記長は,コイララ擁立に抗議し,書記長を辞職してしまった。

しかし,コイララ候補にとって有利なのは,マデシ系諸党が支持してくれそうなこと。36議席をもつ「統一民主マデシ戦線」は,すでにコイララ支持を決めた。他のマデシ系諸党派も,コイララ支持に回る可能性が高い。インドとの関係もあり,こうした支持が急速に広まれば,コイララ再選ということもありうる。

今日の首相選挙は,当初の予想以上に,今後のネパールにとって大きな意味を持つことになりそうである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/10/11 at 06:01

カテゴリー: インド, 選挙, 憲法

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