中国カードをどう使うか,オリ政権
オリ政権が,新憲法に反対するマデシやそのマデシを支援するインドとの交渉に,「中国カード」を使用していることは明白だが,有効性が増せば増すほど,パワーゲームにおけるカードの使用は難しくなり,危険だ。ネパールは,手にした「中国カード」をどう使うべきか?
この観点から興味深いのが,11月7日付「ニューヨークタイムズ」に掲載された「カトマンズポスト」A・ウパダヤ編集長の「ネパール,竜と象の間で」という記事。概要は以下の通り(補足説明適宜追加)。
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▼ネパール,竜と象の間で(NYT,7 Nov)
ネパールの新憲法は,長らく待ち望まれていたものだが,いざ制定公布されると,それに不満をもつタライの人々が印ネ国境付近で道路封鎖など激しい反対運動を始め,しかもそれを自国への波及を恐れるインドが支援し「非公式」経済封鎖を始めてしまった。
インドの経済封鎖は過酷なものであり,石油は底をつき,燃料不足で移動は困難となり,主要工場は休止,観光業は大打撃を受けている。
「このデリーの過酷な禁輸や力の行使は,大多数のネパール人にとって耐えがたいものとなった。」しかしインドにとって,「ネパールの政府は以前から操作の対象であった」。今回,「インドは,インドと密接な関係にあるマデシの人々を,カトマンズの権力に対するデリーの戦略的手段として利用できると考え」,彼らの道路封鎖を支援しているのである。
このマデシの反憲法道路封鎖闘争へのインドの経済封鎖による支援は,「ネパールの主権に対する重大な侵害」である。
「耐えがたい屈辱を受けたネパール政府は,北の隣国との交易は(少なくとも短期的には)南の隣国との交易にとって代えられるほどのものではないと知りつつも,その交易路の中国への拡大を図りつつある。・・・・この2週間ほど前,ネパールは中国との間で石油取引協定に調印した。40年間にわたる国有インド石油会社の独占に終止符を打つものであり,ネパールの戦略的勝利である。11月5日には,中国とネパールは交易路を7か所追加開通させることにも合意した。」
「交易路を中国に伸ばすことにより,ネパールはインドと取引するに必要なカードを持ったことになる。」
他方,中国からしても,ネパールの共産主義・毛沢東主義諸政党とは良好な関係にあるし,ネパール国内のチベット難民社会の監視にも関心があるので,ネパールとの関係強化は望ましい。さらに経済的な観点からも,ネパールは重要となってきた。
「北京は,ネパールの憲法制定を強力に支援してきた。ネパールが安定すれば,中国自身よりも大きな人口をもつ巨大な南アジア市場へとつながるヒマラヤ縦断鉄道を完成させることができるからだ。」
中国もネパールを必要としている。そのことにインドは十分注意すべきだ。「インドの強硬戦術は,カトマンズを北京に接近させるだけだ。今週,ネパールは中国からトラック数台分の石油を受け取った。少量だが,象徴的意味は大きい。」
こうしてネパールは「中国カード」を手に入れたが,インドも中国もネパールとは比較にならないくらい巨大な強国であり,ネパールとしては,その使用には十分注意していなければならない。
「これまでネパールには頼るべきものがほとんどなかったので,強力な隣国の要求にはたいてい屈服せざるをえなかった。しかし,今回,ネパールは,インドのライバルたる中国に接近することにより,インドの干渉に対抗しようとしてきた。これは,ネパールとしてはスマートな[賢い]動きではあるが,強力な二大隣国の間でそうした動きをすることには十分な注意が必要である。」
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以上が,ウパダヤ編集長記事の概要である。たしかに,地政学的に,ネパールが新たな地平に立つことになったのは,事実であろう。では,その新たな状況の下で,ネパールは内政・外交をどう進めていけばよいのであろうか?
著者は,インドに対する「中国カード」の使用はスマートだといいつつも,使用には用心せよ,と警告している。では,どう用心するのか?
著者は,結びにおいて,ネパール政府は「自国の人民の要求,すなわち何世代にもわたり訴えられてきたマデシの人々の要求」に応えるべきだ,と述べている。
しかしながら,「マデシ自治州」を中心とするマデシの諸要求に応えられないからこそ,カトマンズ政府は力による新憲法施行を図り,対抗してマデシは「インド・カード」を持ち出し,そして,その「インド・カード」に今度は政府が対抗して「中国カード」持ち出したのではないのか? この状況で「中国カード」をどう使うのがスマートなのか?
「中国カード」が十分に使えなかった頃は,「インド・カード」が切り札となり,ネパール内紛は決着した。が,ジョーカーが2枚となったいま,「インド・カード」は最後の切り札ではなくなった。この新しい状況で,ネパール内紛はどのようにして決着させられるのか? これは難しい。タライ内乱とならなければよいが。
谷川昌幸(C)
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