ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 1月 2016

ネパール憲法,誉められたり貶されたり

ネパール政治が難しいのは,一つには,当事者でない外国や国際機関がことあるごとに介入し,それらを国内勢力がそれぞれ外圧として便利に利用することにある。たとえば,憲法について,国連事務総長と人権監視(HRW)が1月26~27日,こんなことを言っている。

潘基文国連事務総長(Daily Press Briefing, Jan 26; Himalayan, Jan 27)
  憲法第一次改正は,「憲法問題解決への重要な一歩」,「国境物資補給路の正常化に寄与」。関係者が自制し,平和的な話し合いと「包摂民主主義」に則り解決に取り組むことを願う。

 160128a■ネパール各地の国連機関

人権監視(「ネパール:政情不安が新憲法前進の妨げ」1月27日)
 タライの反憲法闘争により,50人以上が死亡し,生活必需品や医薬品が十分輸入できなくなった。震災復興も滞っている。「ネパール政府は40億ドル以上の震災復興援助金を受け取りながら,犠牲者にはまだ1ドル分すら配分していない」(ブラッド・アダムズHRWアジア局長)。
 憲法は,いくつかの重要な改善はあるものの,とくにタライの諸民族は排除されたと感じ抗議を始めた。9月には約45人が死亡したが,住民側の死亡は治安部隊の「過剰な実力行使」によるものだ。
 「ネパール政府は,反対派と交渉することなく,インド政府が対ネ経済制裁をしている――インド政府は否定――として,インド政府を糾弾した。」(同)
 「人権監視は,新憲法は国内の400万人以上の無国籍住民の問題に十分に対応するものではないばかりか,母がネパール人,父が外国人の子供たちにこれまで以上に不利な諸条件を課すものである,と指摘した。」(同)
 「ネパールは,多くの無国籍住民を含むすべての社会共同体の期待に応えるため,長年にわたって議論し憲法を準備してきた。・・・・ところが,主要諸政党は,人道危機の混乱を利用して憲法を通し,これにより市民の多くを深く傷つけ,人道危機をさらに悪化させてしまった。」(同)

 160128b■HRW「世界報告2016」

潘国連事務総長や人権監視の善意は疑わないし,それぞれの発言にもそれなりの根拠はある。しかし,それはそうとしても,独立主権国家の内政にいちいち外から介入し,絶好の外圧の口実を提供し,紛争の火に油を注ぐようなことをするのは,いかがなものであろうか?

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/28 at 18:39

カテゴリー: 平和, 憲法

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京都の米軍基地(88): 魅力的職場としての基地

米軍基地は,日本人にとって,経済的にも文化的・社会的にも極めて魅力的な職場だ。京丹後の米軍基地では,何人くらい雇用されることになるのだろう? (参照:京都の米軍基地(87): 米軍・自衛隊・監視カメラ

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160126c■在日米軍従業員募集案内(エルモ)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/26 at 17:33

ネパール憲法,改正

ネパール憲法が1月23日,改正された(第一次憲法改正)。制定・公布・施行が2015年9月20日だから,4か月足らずでの改正。
 ▼立法議会(定員601,現議員総数596)
    賛成461
    反対  7
    欠席128

改正されたのは,第42(1)条,第84(5)(a)条,第286(5)条。改正後の憲法正文がまだないので正確ではないかもしれないが,新聞報道によると,主な改正は次の通り。

第42条 社会的公正への権利
 (1)[国家諸機関への比例的包摂参加の権利を保障。ただし,包摂単位となる帰属社会諸集団から「青年」と「先住民(アディバシ)」を削除し,15集団としたことの意味は不明。]
第84条 代議院の構成
 (1)(a)[「小選挙区は,「地理と人口」によってではなく,「人口」を第一に,「地理」を第二に考慮して,区画する。]
第286条 選挙区区画委員会
 (5)[選挙区は,「人口」を第一に,「地理」を第二に考慮して,区画する。また,各郡に,少なくとも1選挙区を割り当てる。]

この改正の結果,国家諸機関への社会諸集団比例包摂参加が強化され,またタライへの小選挙区議席配分が増加するとみられている。
 ▼タライ20郡=79~80議席
  丘陵・山地55郡=85~86議席

この第一次憲法改正は,比例的包摂をさらに一歩前進させたが,マデシ諸派にとっては不十分なものであり,とくにタライ2州の要求は完全に無視された。そのため,マデシ諸派は,第一次憲法改正文書を焚書にし,反憲法・反政府闘争の継続を宣言した。

他方,マデシ闘争を暗黙裡に支援しているとされるインド政府は,外務省スワラプ報道官が第一次憲法改正を「歓迎すべき前進」と述べ,一定の評価はした。しかし,おそらくこれは,訪中と訪印を天秤にかけているオリ首相への揺さぶりとみるべきだろう。もしそうなら,インドの「暗黙の」マデシ支援は続き,マデシ闘争も終息しないことになる。

ネパール憲法は,改正前でも十分に包摂的であったし,ましてや改正後はさらに包摂的となった。しかし,それでもなお,マデシや他の非主流派諸集団を満足させられない。包摂民主主義は,理念は美しいが,運用は難しい。ネパールは,本当にそれを使いこなせるのだろうか?

いずれにせよ,ほんの4か月前,制憲議会の圧倒的多数の賛成をもって制定した憲法を,その憲法による選挙もせぬまま,同じ議会,同じ議員が改正する。あまりに安易。朝令暮改! 憲法といえば,国家の根本法。それをコロコロ変えていては,憲法の権威が損なわれ,国家統治そのものへの信頼すら失われてしまうであろう。

[参照]
*1 KESHAV P. KOIRALA,”Nepal makes first amendment of its constitution four months after promulgation,” The Himalayan Times, January 23, 2016
*2 “Four months after promulgation, Parliament endorses first amendment to the constitution,” Kathmandu Post Report,Jan 23,2016.
*3 KALLOL BHATTACHERJEE, “India welcomes amendments in Nepal Constitution,” The Hindu,January 24, 2016.
*4 “INDIA SAYS AMENDMENT A POSITIVE DEVELOPMENT,” Republica,24 Jan 2016

 160125■Amit Ranjan,”Diversity and Inclusion in Nepal– Hot from Rubbles,” January 19, 2016 (MADHESI YOUTH,January 25,2016)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/25 at 18:44

オリ首相の強権化,米が警告

アメリカ国務省のブリンケン副長官が1月22日夕方(ネパール時間),オリ首相に電話し,間接的な表現がら,統治強権化への危惧の念を伝えた。

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ブリンケン副長官は,具体的な事件を直接名指ししていないが,22日夕方の電話だから,当然,その日のモランでの警官隊銃撃事件を念頭に置いていることは明白だ。(参照:マデシとUMLが衝突,3人死亡

米国務省HP(1月22日)記載の電話会談要旨によれば,ブリンケン国務副長官はオリ首相に対し――
 (1)「ネパール人すべての利益を考えること」
 (2)「一方的な手段をとらないこと」
を要請した。

たしかに,いくらなんでも自分の党(UML)の集会を守るため,反対派マデシのデモ隊に向け警官に実弾を発射させ,3人を殺し,十数人に負傷を負わせるのは,過剰防衛だ。アメリカが警告するのはもっともである。

これは深刻な大事件だが,いまのところネパール・メディアはあまり大きくは報道していない。サッカーチーム帰国報道の方がはるかに大きい。メディアも,変になりかけているのではないか。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/23 at 19:41

カテゴリー: 民族, 民主主義

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マデシとUMLが衝突,3人死亡

ネパール各紙によれば,モランで22日,警官隊が統一民主マデシ戦線(UDMF[SLMM])デモ隊に発砲,3人が死亡し,十数人が負傷した。

モランでは22日,UML(共産党統一マルクス・レーニン派)の青年組織YAN(ネパール青年会)が集会を開いていた。UDMFはこれに反対,デモ隊をYAN集会場に向け行進させ,警官隊と衝突した。警察側は,UDMFデモ隊は刀剣,弓矢,棍棒などで武装しており,発砲はやむを得なかった,と説明している。

YAN集会には,ポカレルUML書記長,マンデル青年スポーツ相(UML)などUML幹部多数が参加しており,オリ首相(UML)も参加予定だったが,結局,取りやめになった。要人参加のため,警官多数が動員され,付近は厳重警戒されていた。

この状況から見て,これは首相を出しているUMLとUDMFとの正面衝突と考えざるをえない。UDMFないしマデシ住民側は3人の死者,十数人の負傷者を出しており,他方,UML側は車や家を焼かれたりしている。

UMLは,実力によるマデシ反政府運動の抑え込みに,さらに傾きつつある。先行きが懸念される。

 160122■モラン(タライ東部)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/22 at 19:04

カテゴリー: 政党, 民族

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興味深い憲法入門:文庫と新書

選挙権18歳引き下げや集団自衛権閣議決定もあって,このところ面白くて分かりやすい憲法入門書が次々と出版されている。たとえば,次の文庫と新書。(これらの本の記述の評価も,他の場合と同じく最終的には読者自身が批判的に行うべきことはいうまでもない。)

内山奈月・南野森『憲法主義』PHP文庫,2015年11月,760円 
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AKB48の内山奈月さんを相手に,南野森九大教授が憲法について講義。憲法の主要な論点について要領よく解説されており,分かりやすい。欲を言えば,内山さんの発言がもう少しほしい。多少大胆であっても,質問とか反論とか,若者として思うところが率直に投げかけられていると,議論がより深まり豊かになっていたのではないだろうか。
 [カバー解説]もしも国民的アイドルが,日本国憲法を本気で読んだら・・・・。本格的な内容と読みやすさで専門家からも高い評価をえた憲法入門書が,コンパクトな文庫サイズになった。気鋭の憲法学者が高校生アイドルに講義をした内容を,ほぼそのまま収録、全5講義で,憲法の重要ポイントがほぼ語り尽くされている。「恋愛の禁止は憲法違反か?」など,身近な例も豊富で,憲法の本質が誰にでもわかりやすくつかめる1冊。

木村草太『憲法の創造力』NHK出版新書,第7刷2015年8月(第1刷2013年),780円 
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著者は首都大学東京准教授で,久米宏「報道ステーション」コメンテーターのお一人。機知にとんだ面白い例を要所に織り込み,憲法の重要問題について議論。つい陥りがちな陥穽にハッと気づかされることも少なくない。
 [カバー解説]良い憲法を創るということ。それは,新憲法を制定することでも,憲法を改正することでもない。憲法の原理を理解した上で,そこから,想像力を駆使して,より良き国家・社会のルールを創造することなのである。それはいかに可能か。君が代斉唱,一票の格差,9条などホットな憲法問題を題材にして,気鋭の憲法学者が,先端的な憲法学の成果を踏まえながら精緻かつ大胆に考察する。これまでにないラディカルで実践的な憲法入門書。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/21 at 17:03

カテゴリー: 憲法

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国歌の包摂民主主義化: イギリスとネパール

イギリスにおいて,国歌(国歌の扱い)修正案が3月から議会で審議されることになった。ガーディアン,ニューステイツマン,ニューヨークタイムズなど英米各紙が伝えている。といっても,複雑怪奇な歴史の国イギリスのこと,議論は少々わかりにくい。
イギリス(グレートブリテン・北部アイルランド連合王国)[英国,UK]
  ・グレートブリテン=イングランド+スコットランド+ウェールズ
  ・北アイルランド

現在の英国国歌「女王賛歌(God Save the Queen)」は,正確には「グレートブリテン・北部アイルランド連合王国(UK)」としてのイギリスの国歌。ところが,著名な国際スポーツ大会などには,UKとしてではなく,イングランド,スコットランド,ウェールズがそれぞれ独立のチームとして参加し,それぞれの「国歌」を歌う。
 ・イングランド=「女王賛歌」
 ・スコットランド=「スコットランドの花」
 ・ウェールズ=「わが父祖の国」

あれ? ちょっと変では,とだれでもいぶかるであろう。たとえば,日本に例えるなら,こんな具合だ。
 ・東京チーム=「君が代」
 ・大阪チーム=「好きやねん、大阪」
 ・福岡チーム=「炭坑節」

イングランドは,UKの一部にすぎないのに,サッカーやラグビーなどの試合の際,特権的に「女王賛歌」を使う。あるいは逆に,イングランドはイングランド自身の「国歌」を歌うことができない。いずれにせよ,おかしいのではないか? イングランドも,「女王賛歌」の使用をやめ,スコットランドやウェールズと同じように,イングランド独自の「国歌」を制定し,それを使うべきだ。たとえば,ウィリアム・ブレイク「エルサレム」がよいのではないか。これが,英国国歌(国歌の扱い)修正案の提案理由だ。

この法案は,UK国歌としての「女王賛歌」の廃止を求めているわけではないが,もし通れば,「女王賛歌」の使用頻度が低下し,国歌としての重みや権威が大幅に低下することは避けられない。政府が反対しているので,当面この法案成立の可能性は低いが,いずれにせよ,こうした提案が堂々と提出され,議会審議に回されること自体,英国が,一人の女王(国王),一つの国歌による強力な近代的国民国家統合から,様々な地域や民族の自立的競争的共存の方向に向け大きく転換しつつあることの何よりの証と見てよいであろう。

 160120a■英王室FBより

このような地域や民族の自立的競争的共存の理念を,世界に先駆け高らかに歌い上げているのが,ネパール国歌だ。ネパールは長年使用してきたそれまでの国歌(国王賛歌)を廃止し,2007年暫定憲法により正式に新国歌(幾百の花)を制定した。これが現行国歌。

【ネパール国歌】(一部略,訳者不詳,ウィキ日本語版)
 幾百という花からなる我々は一つの花環、ネパールの民
 主権をもちメチからマハカリまで広まりある
 ・・・・
 見識の地、平和の地、タライ平原、山間地、ヒマラヤ
 分かつことのできない、我らが愛しの祖国ネパール
 多種多様なる民族、言語、宗教、文化の宝庫
 いや進む我らが国家、ネパール万歳

【ネパール旧国歌】(冒頭部分のみ,佐伯和彦訳,『南アジアを知る事典』より)
知恵深く,雄々しく,恐れを知らぬ
尊き国王よ。
大いなる国王陛下にとこしえの栄あれ,
大君の長寿を祈り,
民びとの発展を愛もて叫ばん,
ネパールの民たる我らこぞりて。
・・・・

幾百の花(地域や民族)を一つの花環(国民国家)に統合するという理念の実現可能性や,歌詞や曲の芸術的評価はさておき,すくなくともこのネパール国歌の包摂民主主義の理念それ自体は,間違いなくグローバル化時代の世界諸国の未来を先取りしている。イギリスはかなり近づいた。日本も見習うべきだろう。

ネパール憲法には世界最先端の革命的規定が他にも無数てんこ盛り。ネパール憲法は,スゴイ!

 160120b■ネパール国章(2015年憲法付則3)

[参照]
*1 Michael Wilkinson,”Replace God Save The Queen with new English national anthem, urge MPs,” Telegraph,13 Jan 2016
*2 STEPHEN CASTLEJAN,”England Weighs Its Own Anthem to Rival ‘God Save the Queen’,” New York Times,14-01-2016
*3 しっくりこない新国歌
*4 新国歌制定への疑問
*5 新国歌は試作品だ,A.グルン

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/20 at 15:12