ネパール評論

ネパール研究会

欧印共同声明の釈明おおわらわ,駐ネEU大使

R・ティーリンク駐ネEU大使が4月5日,カマル・タパ副首相兼外相と会談し,先日の欧印首脳会談共同声明につき,釈明にこれ努めた。

1.ネパールの抗議とEU大使の釈明
新聞報道によれば,タパ外相はこう抗議した。――ネパール憲法が欧印首脳会談でなぜ取り上げられたのか? EUはネパール憲法の評価を変えたのか? 問題があっても,ネパールは自力で解決できる。内政干渉は認めない。

また,ネパール外務省もつぎのような声明を出した。インドとEUは「ネパールの主権を尊重し,・・・・無用な声明を出すことは控えるべきだ。・・・・[声明は]内政不干渉の基本原則[に反し],国連憲章と国際法規範を侵害している。」(Nepali Times, 3 Apr)

これに対し,ティーリンクEU大使は,半時間にわたり釈明した。その要旨は,大使フェイスブックによれば,次の通り。「EUはつねにネパールの平和構築を強く支持し,憲法を歴史的成果として歓迎してきた。この立場に変わりなない。」

かなり苦しい言い訳だ。人民戦争中ならいざ知らず,ネパールはすでに平時,新憲法は制憲議会において平和的かつ民主的に制定された。それなのに,欧印が外からネパール憲法に対し注文を付けた。明白な内政干渉。訪ネ中の独議員団(4人)ですら,共同声明は「不適切だ」と語ったという。

 160406a ■EU大使FB(4月5日)

2.EUの介入慣れとインドの外交力
それにしても,なぜEUは,こんな余計なことをしてしまったのだろうか? その理由の一つとして考えられるのは,EUないし西洋諸国の無際限とも思える対ネ介入が日常化し,この程度のことが問題になるとは思いもよらなかったのではないか,ということ。いつもの善意のネパール支援の一環。

もう一つは,やはりインドの外交力。新憲法については,インド国境沿いのマデシの人々が,自分たちの権利が十分に認められていないとして激しい反対闘争を繰り広げ,これを陰に陽にインド政府が支援してきた。インドは,マデシの要求に沿うようネパール憲法は改正されるべきだと考えてきた。その立場から,インドは欧印首脳会談の場にネパール憲法問題を持ち出し,共同声明にそれを書き込むようEU側を説得し,それに成功したということであろう(Nepali Times, 3 Apr)。さすが,外交のインド!

[補足]マデシは欧印共同声明を歓迎。
スレシュ・マンダル(タライ・マデシ民主党):「共同声明に対する抗議は不要だった。・・・・われわれに対する不正義について国際社会が声を上げるのは当然である。」(Nepali Times, 3 Apr)
R・ライ(タライ・マデシ・サドバーバナ党):「これこそ,周縁化された社会諸集団に対する差別を国際社会は容認しえない,ということの証である。」(同上)

3.ネパール関与の難しさ
このように見てくると,欧印側にも,ネパール側にも,それぞれそれなりの言い分があることが分かる。

そもそもネパールは,低開発問題や人民戦争を自力では解決できず,国際社会の支援を求め続けてきた。国際社会は,ネパール側の要請を受け,経済的にも人的にも大きな負担を引き受けてきた。憲法制定も,ネパール側が要請し,国際社会がそれにこたえ,支援し続けて来たことである。

ネパールの主要諸政党は,その国際社会の全面的支援を受け,2015年9月,新憲法を制定公布した。ところが,その憲法は,国際社会,とくに西欧諸国やインドにとっては,マデシや他の周縁的諸集団を十分には包摂しておらず,不十分なものであった。そこでインドとEUは,彼らが支援してきた憲法制定をそもそもの目標通り包摂的なものにするよう,共同声明で要請した。印欧からすれば,至極当然の要請であったわけだ。

ところが,オリ政権にとっては,新憲法は自分たちが成立させたものであり,自分たちにとってはこれで十分なものであった。そこで,「欧印共同声明」でのネパール憲法言及を内政干渉として激しく非難し,拒否することになったのである。

こうした政権の都合による支援要請と,一転してのその拒否は,ネパールでは決して珍しいことではない。最も極端な例は,人民戦争解決のため要請され介入したUNMIN(国連ネパール政治ミッション)。UNMINの本格展開で人民戦争の終結のめどがほぼ着いた最終局面で,ネパール政府は突如,UNMINを「無能」と非難して追い出し,時の政府に都合のよい戦後体制をつくった。「それはないよな。お気の毒なUNMIN」と同情しきりだった。(参照:ネパール派兵、7月末まで延長

ことそれほどまでに,ネパールへの関与は難しい。逆に言えば,インドと中国に挟まれ地政学的に難しい状況の下で曲がりなりにも独立を維持し続けてきたネパールは,島国の日本では想像もできないほど,したたかな国だ,ということでもあろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/04/06 @ 15:26

カテゴリー: インド, 外交, 憲法

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