ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

国連瞳認証と世界監視のユートピア=デストピア

朝日新聞(5月9日)が,特集「2030 未来をつくろう」を大々的に掲載している。1面トップの「脱貧困 分かち合うバッグ」や,特集に寄せられた各界識者・著名人の提言は,おおむねもっともだと首肯できるものだったが,国際面の記事「難民支える瞳認証 UNHCR,中東で活用」を読んで,愕然とした。そして,朝日新聞とビル・ゲイツ氏らが,いまなぜこのキャンペーンで手を組んだかも,なんとなく見当がついた。

1.UNHCRの瞳認証
朝日記事「難民支える瞳認証」によれば,瞳(虹彩)認証は,見ただけ(カメラを通すだけ)で個人が識別でき,同一人物の確率は「10の78乗分の1」だというから,システムが整えば,世界中の人々が一人ひとり間違いなく見分けられることになる。

この瞳認証をUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が採用したのは,大量の難民を救援するため。公平で効率的な難民救援には,難民一人一人の正確な認定・識別が不可欠であり,そこで2013年頃から,ヨルダンなどで3歳以上の難民の瞳(虹彩)登録がはじめられた。その結果,今では,ヨルダンの難民は,瞳認証で銀行から生活支援金を引き出したり,キャンプ内スーパーで買い物をしたり出来るようになっているという。

2.瞳認証のユートピア=デストピア
これは便利といえば便利。そして,便利だから,しかも国連さえも使用しているのだから,いずれ日本でも導入され,普及していくであろう。そうなれば,私たちは,印鑑もサインも暗証番号も,個人識別のための面倒な道具や手続きは,一切不要となる。お札や硬貨は廃止。カメラの前を通るだけで,買い物ができ,電車や飛行機に乗れ,劇場やテーマパークにも入れる。

これは,健全な暮らしをする善人にとっては,悪人やテロリストをことごとく発見・排除し,安心して効率的に暮らしていけるユートピアだ。

しかし,その反面,地域・国家・世界のどのレベルにおいても,「健全」とされている生き方に異を唱えようとする人々にとっては,それは完全監視の無影室のような社会,すなわち,どこにも逃げ場のないデストピア(dystopia)となるであろう。

3.2030年のユートピア=デストピア?
国連機関による瞳認証採用は,意図するとせざるとにかかわらず,このユートピア=デストピアに向け世界を先導することになるのではないか? そして,朝日新聞は,瞳認証(生体認証)を次の巨大ビジネスチャンスととらえる先見の明のある実業家らと手を組み,「2030 未来をつくろう」と呼び掛けることにより,そのユートピア=デストピアへの流れに掉さすつもりではないのだろうか?

160509(朝日新聞5月9日)

【参照】嵐アリーナコンサートで顔認証(5月10日追加)
「生体認証」は,日本でも,銀行やスマホの「指紋認証」など,すでに広く使用され始めている。

「顔認証」でいま話題になっているのが,嵐アリーナコンサート(4月23~8月10日)。チケットを持っていても,「顔認証」で本人と確認されなければ,入場できない。究極の「顔パス」だ。

こうした「生体認証」は,リオ・オリンピックでも使用予定という。

160509a■NEC顔認証システム(同社HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/05/09 @ 18:00