ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

「ヒマール」休刊と「オープンソサエティ」とのかかわり

「ヒマール(Himal Southasian)」が休刊に追い込まれた大きな理由の一つは,同誌刊行の「南アジア財団(South Asia Trust)」への「オープンソサエティ財団(Open Society Foundation)」からの助成金だ,とされている。たとえば,「ヒマール」寄稿者の一人でインドのジャーナリスト,A・チョーダリは,次のように説明している(*1)。(参照:「ヒマール」休刊,体制右派の圧力か?

彼によれば,南アジア財団が8月24付声明で休刊理由の一つとして挙げている海外からの送金の未承認は,具体的にはオープンソサエティ財団からの助成金2016年2月~2017年2月分である(金額不明)。彼に対し,「ヒマール」編集長A.モジュンダル(Mojumdar)はこう語った。

「この助成金を承認しない正式の理由説明はなかった。・・・・しかし,上からの圧力があった,と非公式に告げられた。」

編集長は,未承認の理由の説明を繰り返し求めたが,関係当局は,口頭での応答に終始し,文書による回答は一切拒否してきたという。

これは,外国人スタッフの扱いについても,同じこと。昨年(2015年)まで何の問題もなく労働ビザが更新できていたのに,2016年1月からは,情報省の推薦状があるスタッフのビザ更新さえされなくなった。正式な拒否通告はなく,手続きは棚上げのままだという。

以上は,「ヒマール」編集長がチョーダリに話したとされる状況説明だが,内容は具体的であり,信ぴょう性は高い。休刊の主な理由は,おそらくそのようなことであろう。

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 ■チョーダリTwitter8月29日/オープンソサエティHP

「ヒマール」を発行する「南アジア財団」については,海外諸機関との関係が,これまでにも問題にされてきた。チョーダリによれば,2014年4月には,ノルウェー大使館からの6千万ルピーの助成金につき,マオイストが問題にしたという。(これは同大使館とカナクマニ・デクシトの釈明で決着。)これに対し,今回は,オープンソサエティ財団との関係。かなり,厄介だ。

オープンソサエティ財団(Open Society Foundation, Open Society Institute)は,ジョージ・ソロスが創設した財団で,世界各地の慈善活動や人権・民主主義運動に巨額の資金援助をしている。ネパールでも,海外留学奨学金,NGO助成,人権・民主化支援など,さまざまな事業を行っている。

イデオロギー的には,オープンソサエティ財団は,その名称からすぐ想像できるように,カール・ポパー(Karl Popper)『開かれた社会とその敵たち』(1945年)にごく近い。「開かれた社会」支援事業のための財団なのだ。その一方,CIAとの関係もウワサされ,おそらくそうだろうが,こればかりはよくわからない。

いずれにせよ,オープンソサエティ財団がそのようなものなら,財団のネパールでの活動を快く思わない勢力がネパール国内にも近隣諸国にもいることは,想像に難くない。

「ヒマール」休刊に限らず,ネパールにおけるこの種の問題は,ほぼ例外なく外国がらみ。ネパールにとって,内政は外交であり,外交は内政である。そこが難しい。

【参照】
*1 Abhishek Choudhary , “Why Did Nepal Shut Down Himal?,” Aug 29, 2016 (http://www.newslaundry.com/2016/08/29/why-did-nepal-shut-down-himal/)
*2 HIMALSOUTHASIAN, “Himal Southasian to suspend publication,” 24 AUG 2016 (http://himalmag.com/himal-southasian-to-suspend-publication/)
*3 Yubaraj Ghimire, “Why Himal magazine was suspended in Nepal,” Indian Express, August 26, 2016
*4 「ヒマール」休刊,体制右派の圧力か?

【追加(8月30日)】
「開かれた社会(open society)の支柱が沈黙の餌食になるとき,本物の危機が生まれる。」(Bidushi Dhungel , “Sanctity of silence,” Nepali Times, 26 Aug – 1 Sep 2016 #823)
160830b■カナク・マニ・デクシトTwitter(8月30日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/08/30 @ 11:37