ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 10月 2017

改宗勧誘・宗教感情棄損を禁止する改正刑法,成立

バンダリ大統領が10月16日,改宗勧誘や宗教感情棄損を禁止する規定を含む「改正刑法案」に署名し,同法は成立した。16日は,皮肉にもネパールが国連人権理事国に選出された,まさにその日である。成立した改正刑法第9部第158条と第160条については,すでに紹介したので,それをご覧ください。参照:宣教投獄5年のおそれ,改正刑法「宗教の自由」とキリスト教:ネパール憲法の改宗勧誘禁止規定について

この刑法改正に最も強く反対してきたのは,ネパールで勢力を急拡大しつつあるキリスト教会である。たとえば,「世界キリスト者連帯(CSW)」のM・トマス委員長はこう批判している。「ネパール政府に対し,この不当な法[改正刑法]を廃止し憲法第26(3)条を改正することを要請する。それらは,宗教・信条の自由への権利を制限するものであり,ネパールの国際法遵守の立場を損なうものでもある。人権理事国になったネパールにとって,これは驚くべき矛盾である。」(*2)

また,世界の人権諸団体や人権活動家らも,この刑法改正には強く反対してきた。立法議会が改正刑法案を可決したのは8月8日だが,その直後の8月9日から12日まで,世界70か国以上の議会議員参加の「宗教・信条の自由を求める議員国際パネル(IPPFORB)」が,ネパール支部の招きに応じ,代表団をネパールに送り込んだ。彼らは,政府幹部や議員,市民団体代表らと会い,改正刑法案大統領署名への反対や,憲法第26(3)条の改正を訴えたという。(*4)

しかし,こうした内外の強い反対にもかかわらず,改正刑法は10月16日成立してしまった。この法律は,禁止する「改宗勧誘」や「宗教感情棄損」の定義(構成要件)があいまいであり,拡大解釈されやすい。運用次第では,ヒンドゥー教・仏教中心の伝統宗教以外の宗教はネパールではほとんど活動できなくなる恐れがある。

この改正刑法成立は,中長期的にみると,ネパールにとって,年末の国会/州会選挙よりも大きな意味を持つことになるかもしれない。


 ■IPPFORB FB(Oct 18) / News(Oct 25)

*1 “BILL CRIMINALISES RELIGIOUS CONVERSION,” Christian Solidarity Worldwide, 22 Aug 2017
*2 “Nepal’s President Signs Law Criminalizing Evangelism, Christian Solidarity Worldwide Warns,” Spotlight Nepal, 2017/10/22
*3 「ネパールで『改宗禁止法』成立,大統領が署名 キリスト教団体が懸念」,Christian Today(日本語版),2017年10月29日
*4 LOKMANI DHAKAL, DAVID ANDERSON, “Not secular: The government seems to have forgotten that it is bound to protect an individual’s rights to have a religion,” Kathmandu Post, Oct 29, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/31 at 20:13

カテゴリー: 宗教, 憲法

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投票用紙の分離印刷,最高裁命令

国会議員/州会議員選挙の前期投票日(11月26日)まであとわずかだというのに,投票用紙の書式をどうするかで,もめている。

選管は,投票用紙は小選挙区用1枚,比例制用1枚の2枚とすることにし,準備を進めてきた。投票用紙の上部が国会用,下部が州会用。ところが,これでは小政党に不利だし有権者も混乱するという批判が高まり,10月8日にはRJP-Nが,国会用と州会用とに分けそれぞれ2枚印刷することを求める訴えを最高裁に出した。

この訴えに対し,最高裁は10月18日,比例制用はすでに印刷に入っているとして投票用紙分離仮命令の請求は棄却したが,投票用紙分離の必要性は認め,選管に対し小選挙区用の準備進捗状況の報告を命令した。

この最高裁命令は,報道通りだとすると,あいまいで不明確。そのため選管は,分離印刷仮命令請求が棄却されたので,それ以外の部分も法的拘束力をもつものではないと考え,既定方針通り比例制用1枚,小選挙区用1枚を印刷することにした。

この選管の動きに対し,RJP-Nは,それは法廷侮辱にあたるとする訴えを出した。これを受け最高裁は10月25日,小選挙区投票用紙は国会用と州会用の2枚に分け印刷すべきだと判事した。

しかし,選管は10月27日,やり直していては間に合わないとして,既定方針通り印刷して選挙を実施することを決め,最高裁には後日それにつき弁明することにした。

以上がこの件の概要だが,いつものこととはいえ,この件にも報道からだけではよく分からないところがある。投票直前になって,なぜ投票用紙の書式で,これほどもめるのであろうか?

一つの要因は,選挙直前に決まった共産党系諸党の選挙協力への警戒がある。この選挙協力がうまくいけば,UML=マオイスト連合は大勝する可能性大だ。しかも,選挙後,共産党系諸党は大同団結し一つの「共産党」を立ち上げる構想もある。選挙優勢とみてか,最高裁命令を理由とする選挙延期には,UMLもマオイストも絶対反対を唱えている。

もう一つは,これと関連するが,インドの影。UML=マオイスト連合が大勝すれば,選挙後,強力な共産党政権が成立する。これまでの経緯からして,この共産党新政権は親中政策をとる可能性が高い。これは,インドとしては避けたいところだ。むろん,インド政府が表立って何か言っているわけではないが,インド・メディアの方は選挙延期をさかんに書き立てている。インドとしては親中派政権の誕生を阻止したいと考えているとみるのが,やはり自然であろう。

▼投票用紙分離決定(10月30日追加)
選管は10月27日,小選挙区用投票用紙を国会用と州会用に分け,それぞれ1枚ずつ印刷することを決めた。(上記報道と一部矛盾するが,諸機関への配慮と混乱の結果,分離印刷決定発表が遅れたらしい。)前期選挙は,予定通り11月26日に実施される。選管も,最高裁命令を無視することは,さすがに出来なかったらしい。切羽詰まっても,やればできる――いかにもネパールらしい。

■8月4日バラトプル市再選挙用投票用紙(選管HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/29 at 19:14

カテゴリー: 選挙, 政党

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ネパールの選挙:女性の制度的優遇と運用上の冷遇

ネパールでは国会(連邦代議院)と州会(州議会)のダブル選挙が,11月26日(北部山地・丘陵地)と12月7日(中南部丘陵地・タライ)に行われるが,この選挙は女性代表の観点からも注目されている。

ネパールでは,選挙制度的にはアファーマティブ(ポジティブ)アクションにより,女性はかなり優遇されている。国会,州会とも,選挙においては比例制政党候補の1/2以上が女性に割り当てられ,議会では各党議席の1/3以上が女性に割り当てられている。

また立候補の際の供託金は,国会議員選挙1万ルピー,州会議員選挙5千ルピーだが,女性候補およびダリットなど周縁的諸集団所属候補は50%引きとなっている。制度上の女性優遇は明らかだ。

ところが11月27日投票の小選挙区立候補者802人のうち,女性はわずか41人(国会18人,州会23人)にすぎない(10月23日現在)。そのうち,主要3党の女性候補は次の通り。
 ▼小選挙区女性立候補者数
  NC連合:国会2,州会1
  UML:国会0,州会1
  マオイスト:国会1,州会3

主要3党は,女性候補が少ない理由として,先の地方選(5/14,6/28,9/18)で女性候補を多数出してしまったからだとか,女性は小選挙区よりも比例制の方を希望するからだとか説明しているが,どうみても苦しい言い訳に過ぎない。

2015年憲法は,国会,州会とも女性議員1/3以上を定めている。主要3党は,比例制に女性候補を多数立て,あとで数合わせをするつもりなのだろうか?

 
 ■ネパールの女性国会議員比率(世銀HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/28 at 16:02

迷路のような選挙区割り

ネパール国会・州会ダブル選挙は,小選挙区の区割りがそれぞれ別であるにもかかわらず,1枚の小選挙区投票用紙を使うため,はなはだややこしくなっている。

小選挙区の区割り赤線=国会小選挙区,青線=州会小選挙区追加区画)
 
 ■カトマンズ/モラン(選管HP)

 
 ■ゴルカ/イラム(選管HP)

ゴルカやイラムのような地方はまだましだが,カトマンズやモラン(ビラナガルなど)のような人口密集地があるところだと,まるで迷路。ゲリマンダーが横行しているのではないか? 選挙実施は大丈夫か? 有権者は戸惑わないか? いささか気になる。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/22 at 18:26

カテゴリー: 選挙, 議会, 政治, 民主主義

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国会&州会ダブル選挙まで1か月余

ネパールでは,連邦議会代議院(下院)と州議会の選挙が,11月26日と12月7日の2回に分け,実施される。あとひと月少々だが,準備は万端とは言えないようだ。そもそも選挙制度が極めて複雑。欧米諸国が援助がらみで実験的な代表制度を押し付けたからだ。

代議院(下院)
 (1)構成
  定数275(小選挙区選出165,比例制[全国1区]選出110)
  *女性枠:各党議員の1/3以上。
  *国政政党の要件:比例区で3%以上の得票,かつ小選挙区選出議員1名以上。
 (2)比例制全国区の立候補者割当
  ダリット13.8%,先住民28.7%,カス/アーリア31.2%,マデシ15.3%,タルー3.6%,ムスリム4.4%。
  *障碍者も考慮すること。
  *女性候補者,50%以上。

州議会(1院制)
 定員:その州割当代議院議員数の2倍。小選挙区選出60%,比例制選出40%
 各党候補者割当:人口と地域を考慮し,次の集団に割り当てる。女性,ダリット,先住民,カス/アーリア,マデシ,タルー,ムスリム,後進地域,少数者集団,障碍者
 *各党議員の1/3以上は女性。

こんな複雑な制度による選挙を,連邦議会だけでなく州議会をも併せて同時に行うというのだ。各党の立候補者選考が混乱しているのは当然だし,そもそも投票用紙からして,もめている。(日本では,22日の衆議院選のため,混乱を恐れ,地方選を延期した自治体もある。)

選管は,投票用紙は比例制1枚,小選挙区制1枚の2枚とすることにし,すでに印刷準備に入っている(遅すぎはするが)。

投票用紙
 ・比例制1枚:上部=連邦議会用  下部=州議会用
 ・小選挙区1枚:上部=連邦議会用  下部=州議会用

ところが,この投票用紙だと,連邦議会選挙では共闘するが,州議会選挙ではそれぞれ独自候補者を立て闘う政党があれば有権者は混乱するし,小政党や地域政党にとっては不利となる。そのため,これらの政党はこの投票用紙による選挙に反対し,連邦議会選挙用2枚(比例区用/小選挙区用),州議会用2枚(比例区用/小選挙区用)の計4枚とすべきだと主張している。

これはたしかに合理的な案だし,費用も大してかかるわけではない。が,選管は,最高裁による見直し申し立て棄却を受け,投票用紙2枚による選挙を予定通り実施することにした。

いまのところ連邦議会比例区立候補届け出政党は55。かなり少なくなったが,それでもスゴイ数だ。これら政党の相当数が1枚の投票用紙に,連邦議会用と州議会用にズラリと並んで印刷される。政党シンボルマークのオンパレード。選管ホームページに投票用紙がアップロードされるのが待ち遠しい。

 ■8月4日バラトプル市再選挙用投票用紙(選管HP)

*1 “SC refuses to issue interim order in writ demanding separate ballot papers,” Republica, October 18, 2017
*2 Kamal Dev Bhattarai, “Nepal Set for 3-Way Competition in Upcoming Legislative Elections, A surprise alliance between Nepal’s two main communist parties has China excited and India dismayed,” The Diplomat, October 19, 2017
*3 “Separate ballot papers unlikely for upcoming polls: CEC Yadav, The Himalayan, October 20, 2017
*4 “‘Four types of ballot paper needed’,” The Himalayan, September 24, 2017
*5 “RJP objects to same ballot paper for two polls. But Election Commission clarifies ballot papers cannot be changed,” Kathmandu Post, Sep 25, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/21 at 19:13

ゴビンダ・KC医師,10項目合意でハンスト中止

ゴビンダ・KC医師は10月18日,政府との間で10項目合意を締結し,13回目のハンストを14日目で中止した。

10項目合意要旨
 ・医学専門職教育に関する政令を10月23日までに閣議決定する。
 ・トリブバン大学医学部授業料の値下げ。
 ・トリブバン大学とカトマンズ大学における医学教育不正調査および責任者処分。
 ・医大新設にあたっては,特に人口と地域を考慮する。

この合意要旨からはKC医師の要求が大幅に認められているように見えるが,政府が約束を守るかどうかは定かではない。

最大の問題点は,医学専門職教育に関する規定が法律ではなく政府政令とされたこと。この政令は3か月以内に議会の承認が必要とされているが,立法議会の会期はすでに10月14日に終了しているし,新議会開会は連邦議会選挙後,おそらくは2018年1月末以降となる。選挙結果がどうなるかも全く分からない。たとえ10月23日までに現内閣が政令を制定しても,3か月以内(1月23日まで)に新議会で承認が得られるかどうか,皆目見当もつかないのだ。

KC医師も,そのことは十分わかっているはずだ。「私は,医学教育の改善と医学部の国内における公平な配置のため,これまで闘ってきた。・・・・いまや,議員の多くが人民の利益のために働いていないことが誰の目にも明らかになったに違いない。彼らは,特定の諸集団の利益に奉仕しているのだ。」(*2)

それでも,KC医師は,政府が10月23日までに閣議で医学専門職教育令を制定すると約束したことを大きな前進と認め,ハンストを中止した。そして,政府がもし約束を破ればハンストを再開する,と宣言した。長期ハンストで身体は衰弱していても,意気はますます軒昂である。

■カトマンズ大学医学部(同HPより)

*1 “Dr KC ends hunger strike after 10-pt pact with govt,” Kathmandu Post, 18 Oct 2017
*2 “Dr KC breaks 13th fast after 14 days,” Kathmandu Post, 19 Oct 2017
*3 “Dr KC ends fast after Deuba pledges ordinance from cabinet,” Republica, 19 Oct 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/20 at 15:39

ネパール,UNHRC理事国に

国連総会は10月16日,ネパールを国連人権理事会(UNHRC)の理事国に選出した。アジア地域最多の166票をネパールは獲得。この結果につき,ドゥルガ・プラサド・バタライ国連大使は,こう述べている。

「ネパールは,内発的な国民参加型平和構築により2015年には人権を原理とする憲法を採択し,国を挙げてその施行を固く決意するに至った。今回の人権理事国への選出は,このユニークな成功経験を持つネパールには人権理事会事業に貢献する能力がある,と認められたことを意味する。」「紛争後ネパールにとって,この選出は,内外における人権への国際的貢献国としてのネパールの意義を実証していくまたとない機会である。」(*2)

これは,人権・平和・民主主義へのネパールの内発的努力を強調しその世界的意義を訴えており,先に紹介したカナク・マニ・デクシト「民主主義をネパールに誰が教えてくれるのか?」のネパール・ナショナリズムと相通ずるところがある。

DP・バタライは現国連大使,KM・デクシトは元国連職員。国際社会と対峙すると自国の自主性や独自性を強調するナショナリズムに傾くのは自然な流れであり,そこは割り引かなければならないが,その一方,彼らが訴えるネパール現代政治の独自の経験の中に世界が学びうるものがあることもまた事実であろう。

 ■バタライ国連大使「人権の日」挨拶(国連HPより)

*1 “General Assembly, by Secret Ballot, Elects 15 Member States to Serve Three-Year Terms on Human Rights Council,” OHCHR HP
*2 “Nepal elected to UN Human Rights Council.” Kathmandu Post, Oct 17, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/18 at 16:19