ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 12月 2017

左派連合政権への期待:KM・ディクシト

ネパール議会選挙については,従来とは比較にならないほど多くの報道がなされ,しかも長く詳細なものが少なくない。

論調は,この2週間ほどで,かなり変化した。開票が進み左派連合の勝利が明らかになると,各メディアは,左派連合の地滑り的圧勝,ネパールの赤化,親中共産党長期政権の成立へ,インドの対ネ政策の失敗などといった,一方的な趣旨のセンセーショナルな記事があふれた。

しばらくすると,コングレス党(NC)の比例制での善戦が明らかになったこともあり,親中左派連合完勝といった一面的な報道を修正し,新政権の構成や対印・対中関係の在り方などと関連付けた冷静な分析が現れ始めた。

ここでは,この間のおびただしい様々な報道にすべて目を通し総合的に論評することは困難なので,いくつか注目すべき記事を選び,紹介することにしたい。

まず最初に取り上げるのは,ネパールの代表的知識人の一人,カナク・マニ・ディクシト「民主主義安定への正道」
 ▼Kanak Mani Dixit, “High Road to Democratic stability,” The Hindu, 18 Dec 2017


 ■K. M. Dixit(Twitter) / K. P. Oli(FB) / S. B. Deuba(FB)

——<以下要旨>———————–
国会・州会ダブル選挙で左派連合が快勝し,中央と,7州のうちの6州で左派連合政権成立の可能性が高くなった。野党弱小化に懸念はあるものの,これで安定政権は得られることになった。

ネパール人民は,2006年人民運動,コミュナル紛争解決,2015-16年経済封鎖克服などを通して,この10年間で政治能力を向上させており,新憲法へのインドの反対も,人民意思の力により克服することができた。

新憲法は,立法・行政・財政などの諸権限を2階層ではなく3階層の「政府(सरकार)」に分割付与するものであり,これは「南アジアにおける革新」といってよい。憲法によれば,代議政府が国家(連邦政府)に加え,7つの州,17の市,276の町,460の村に設置される。これにより,長きにわたったカトマンズ中央集権と地方代議政府なしの20年間は,ようやく終わりを告げることになる。

このネパール政治の変革は,統一共産党(UML)オリ議長の手腕によるところが大きい。オリ氏は,ダサイン休暇中に,マオイストのカマル・ダハル(プラチャンダ)議長と交渉,国会・州会の獲得議席の40~60%割当を約束し,マオイストをコングレス党との連立から離脱させ,左派連合を成立させた。インド経済封鎖と果敢に闘ったナショナリスト,オリ議長は雄弁家であり,演説下手のデウバNC議長では到底太刀打ちできない。共産主義は民主主義の敵だなどという非難攻撃は,デウバ議長自身がつい最近までマオイストと連立を組んでいたのだから,まったく説得力がなかった。

オリ氏は,国民の支持を得て選挙で大勝,いまや最強の指導者となった。新しい規定によれば,新政府に対する不信任動議は2年間は提出できないので,オリ氏は5年の首相任期を全うしそうだ。そうなれば,ネパール近現代史初の長期政権首相となる。

オリ氏は,前の首相在任中に移行期正義を大きく前進させた。もしそれを継承し,完結させることが出来るなら,オリ氏は,「自由民主主義(リベラル・デモクラシー)の勝利」をもたらすことになろう。

オリ氏は,民主政治を安定させ,経済発展を図らなければならない。また,政権安定をバックに,対印関係を修復し,中国とはおもねることなく互恵関係をさらに発展させるべきだ。

国際社会においては,オリ氏には長い専制や紛争のため失墜してしまった信用の回復が期待されている。「オリ氏には,1950年代のB・P・コイララの頃のような国際社会におけるネパールへの尊敬を取り戻すチャンスがある。なお残る様々な問題が解決されれば,ネパール大統領の官邸と住居をシタル・ニワスからナラヤンヒティ元王宮に移すことも可能であろう。」

オリ新政府には,いくつか大きな難問が控えている。一つは,統治が憲法により連邦・州・地方の三階層に分権されたが,政治家や官僚がこれに抵抗すること。新設の最高裁憲法裁判所に訴訟が殺到する恐れがある。

また,この10年間,規律なき「合意による統治(コンセンサス・ガバナンス)」が拡大し,国庫は空になってしまった。統治機構複雑化による経費増大や,莫大な震災復興費,インフラ整備費などにどう対処するか?

また,新設7州のうち第1州(東部)と第3州(カトマンズ盆地など)の経済力は,他州と比べはるかに大きい。州間の大きな経済格差をどう解消していくか?

さらに,連邦政府,州政府,地方政府が権力乱用する恐れも多分にある。そうした場合,市民社会はどう監視し,権力乱用を阻止するか?

結局,それは憲法の理想をどう実現していくか,ということだ。「経済的,政治的,地政学的諸課題を背負い,未知の海図なき世界に出ていく社会には,2015年ネパール憲法に規定する民主的で,包摂的な,社会正義指向の諸理想を実現することが求められているのである。」
——<以上要旨>———————–

KM・ディクシトのオリ評価は,デウバ現首相の低評価とは対照的に,極めて高い。ただし,それはこれまでの実績を踏まえてというよりは,むしろ今後の改革への期待という意味合いのほうがはるかに大きい。

オリ政権の発足は,上院選挙との関係で,まだいつになるかはっきりしないが,いずれ成立することはほぼ間違いない。そのオリ新政権がKM・ディクシトの期待に応えられるかどうか,注目されるところである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/12/24 at 21:37

師走の村(2)

冬の村の生活は,以前ほどではないが,それでもなお厳しい。家には雪囲いがされ,道路わきの消火栓にはコモが着せられている。小道沿いの斜面には,横穴式の「芋穴」が掘られ,寒さに弱いサツマイモなどが,その中に保存されている。伝統的な村の生活だ。


 ■村遠景


 ■土蔵と三角屋根住居/雪囲いと南天


 ■土蔵の壁と雨だれ/斜面の芋穴

■コモを着た消火栓

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/12/22 at 09:17

カテゴリー: 自然, 農業, 文化, 旅行, 歴史

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ネパール下院選,各党獲得議席

ネパール連邦議会下院選挙は,11月26日と12月7日の2回に分けて実施された。投票率66%。開票も完了し,各党の獲得議席数がほぼ確定した(比例制割当議席が一部未確定)。

[政党]:[獲得議席(小選挙区+比例制)](12月18日現在)
統一共産党(CPN-UML):121(80+41)
コングレス党(NC):63(23+40)
マオイスト(CPN-MC):53(36+17)
RJP-N*:17(11+6)
SSF-N*:16(10+6)
:5(5+0)
 (注)下院議員定数275(小選挙区165+比例制110)
  *マデシ系政党

この選挙では,初めに小選挙区の当選者が確定し,そこで左派連盟(UML,マオイストなど)が大勝したため,「赤色圧勝」,「親中政権へ」など,刺激的なタイトルの記事が多数書かれた。しかも長文が多い。過熱報道といってもよいだろう。

その後,比例制の開票が進み,ここではNCがUMLとほぼ同率の得票率となったため,報道はやや沈静化したが,それでもなお依然として多い。それだけネパール政治がいま注目されている証左とみてよいだろう。

以下では,今回の選挙に関する記事のうち興味深いものをいくつか選び,順不同で紹介する。

 ■小選挙区大勝UMLのホームページ

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/12/19 at 00:03

カテゴリー: マオイスト, 選挙, 政党

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師走の村

師走の村に雪が降り始めた。大豊作の柿は、まだ枝もたわわに、あちこちに残っている。山野に、カラスやヒヨドリの餌が、まだたくさん残っているからだろう。

近くの線路沿いの農道には、山から野生の鹿が下りてきて、ゆうゆうと草を食んでいた。人口に反比例、鹿もまた増えているのだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/12/18 at 19:23

カテゴリー: 自然

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ネパールの選挙,様変わり

1.「歴史的な平和的選挙」
ネパールの選挙が様変わり,いくつかの点で日本以上に「現代的」となった。

もちろん,ネパールの選挙につきものの暴力的選挙妨害は,内務省が30万人にも及ぶ治安要員を動員したにもかかわらず,あちこちで発生した。立候補者やその支持者に対する暴力,あるいは選挙そのものを妨害するための投票所や投票箱に対する爆発物や毒物による攻撃など。

また,国会選挙と州会選挙の同時投票に加えて多党乱立,さらには識字率(特に高齢者識字率)がなお低いこともあって,選挙(投票)方法が複雑となり,無効票が増えることが懸念されている。パンチタル郡選管が11月11日実施した模擬投票によれば,実に52%が投票の全部または一部が無効だったという(*2)。

しかしながら,こうした問題はあったものの,全体としてみると,今年の選挙(国会,州会,地方自治体)は,予想以上に順調であったといえる。投票率も高かった(11月26日選挙の投票率は65%)。

国連のグレーテス事務総長も12月8日,ネパールの「歴史的な平和的選挙」を歓迎する談話を発表した。事務総長は,この選挙を2015年憲法規定の連邦制実現への歴史的前進として高く評価し,ネパールの政府,政党,市民社会が包摂代表制政治の実現に向けさらに努力を継続することを期待し,そのための支援を国連は惜しまないと約束した(*1)。

2.選挙の情報化
ネパール選挙の様変わりは,なんといっても情報化。選挙情報化は前回の2008年制憲議会選挙のころから急速に進み始めたが,今回は,日本でネット情報を見ているだけでも,その激変ぶりがよく見て取れる。

ネパールのネット・サイトを見ると,マス・メディアばかりか,国際機関や民主化支援NGOなど,様々な機関が報道合戦を繰り広げている。そこには,お役所の選挙管理委員会も,堂々,参戦している。ネパールでも選挙情報があふれ,選挙は一挙にショー化,イベント化してきた。(テレビも選挙報道合戦を繰り広げているのであろうが,日本からはその実情はよくわからない。)

ネパールでも選挙は万人に見られるようになった――このことがネパール選挙激変の大きな要因の一つではあるまいか。


■選挙管理委員会HP(12月11日)/ Gorkhapatra(12 Dec)


■Kathmandu Post(9 Dec) / Republica(9 Dec)

■Annapurna(9 Dec)

*1 “SECRETARY-GENERAL STATEMENTS AND MESSAGES,” https://www.un.org/press/en/2017/sgsm18820.doc.htm
*2 “52pc votes invalid in mock election,” The Himalayan, November 19, 2017
*3 RAJNEESH BHANDARI and KAI SCHULTZ, “Violence Flares as Nepal Heads to Landmark Elections,” NOV. 25, 2017
*4 “Voting polls experience violence during Nepal’s historic vote,” AFP(https://www.enca.com/world/voting-polls-experience-violence-during-nepals-historic-vote), 26 November 2017
*6 “Voters in Nepal undeterred by election-related violence,” Al Jazeera, 8 Dec 2017
*7 Prabin Manandhar, “Electoral Violence And Security In Nepal,” Spotlight, Nov. 27, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/12/11 at 18:57

カテゴリー: 選挙, 情報 IT, 政党

中印の対ネ政策:「一帯一路」vs「一文化一地域」

KR・コイララの「リパブリカ」記事(*1)によれば,中国の「一帯一路(One Belt One Road: OBOR)」に対し,インドは「一文化一地域(One Culture One Region: OCOR)」で対抗しようとし始めたという。これは興味深い指摘だ。

■中国「一帯一路」(UNDP in Nepal Twitter 2017-05-14)

1.中印とネパール下院選
中国とインドは,いまネパール下院選(投票11月26日/12月7日)に従来見られなかったほど大きな関心を示している。

一つは,中印にサンドイッチのように挟まれたネパールが,政治経済のグローバル化とともに,両国にとって地政学的にますます重要になってきたこと。そして,もう一つは,それと関係するが,今回の下院選はネパール新憲法(2015年憲法)による初の選挙であり,選出議員は任期5年,新体制の今後の方向性を決める重要な役割を果たすとみられていること。選挙でどのような政権が生まれるか,それを中印は注視しているのである。

選挙結果は,開票を待たねばならないが,いまのところ統一共産党(CPN-UML)とマオイスト(CPN-MC)を中心とする左派連合が優勢。もし勝利すれば,共産党系諸党は合同して一つの共産党となり,安定政権の樹立を目指すことになる。

2.親中の左派連合
選挙優勢を伝えられる左派連合は親中とされ,中国もその勝利を期待しているという。歴史的にみると,UMLやマオイストが親中一辺倒であったわけではないが,少なくともここ数年,中国寄りになってきたことは確かだ。

特にUMLのオリは,首相だったとき,中国との間で重要な協定をいくつも締結した。そして,インドによる事実上の国境封鎖の際は,対印強硬策を貫き,中国接近を際立たせた。

左派連合の選挙マニフェストにも,たとえばネパールに不利な「1950年印ネ平和友好条約(通商・通過条約)」を破棄し,新条約を締結することが目標として掲げられている。

3.ブディガンダキ・ダム問題
親中左派と親印コングレス党との確執を象徴するとされる最近の事例の一つが,ブディガンダキ・ダム問題(*3)。

ネパールは,プラチャンダ首相(マオイスト)のとき,ブディガンダキ水力発電事業を中国国有企業に請け負わせ,中国政府にはこれを「一帯一路」計画に組み込んでもらうことにした。中国政府はこの要請を受け入れそれを「一帯一路」に組み込み,中国企業も事業準備を進めてきた。

ところが,下院選直前の11月中旬,デウバ首相(コングレス党)は,突然,中国側との合意を取り消し,ブディガンダキ水力発電事業をネパール電力公社に担当させると発表した。一方,インド企業が中心となっているアルン3・上カルナリ水力発電事業の方は,予定通り推進すると決めた。

このデウバ内閣決定に対し,中国側は,それは中国企業の正当な権利の侵害であり,反中国政策に他ならないと激しく反発している。

4.インドの「一文化一地域」
このような中国との対立競合の激化を背景に,インドでは,RSS系の人々を中心に,「一文化一地域(OCOR)」政策を推進し始めたという。南アジアは宗教的・文化的な基盤を共有しているので,これを再確認し強化していくという考え方である。
▼プーリ駐ネ印大使
「印ネ両国民の社会的,宗教的,文化的結びつきは,われわれの比類なきユニークな関係を示している。」(*1)

インドの「一文化一地域」は,ソフトパワーとしての「文化」に注目するものであり,ネパールでは文化祭の催行,文化施設の建設,遺跡の復旧などを支援し,また人的には両国民交流の活発化を図る政策である(*1)。

たとえば,モディ政府は,ネパールを「休暇旅行」の対象国にした。印政府職員がネパール旅行をすれば,休暇とチケット代が支給されるという(予算額等詳細不明)。これは,事実上ヒンドゥー教巡礼の勧めと見てよいであろう。またカトマンズ=バナラシ,ルンビニ=ブッダガヤ,ジャナクプル=アヨダヤなど,友好都市関係の強化も謳われている。

そして,印ネ国民交流の活発化が図られるのだから,交通インフラの改善も提案されている。カトマンズ=ニューデリー間バス便の開設に加え,国境付近の鉄道網の拡充が計画されている。たとえば,ルンビニ⇔ブッダガヤ,ジャナクプル⇔アヨダヤ,ビラトナガル⇔ジョグバニなど。

5.経済に文化で対抗できるか?
「一文化一地域」には鉄道建設なども含まれているが,前面に立てているのは「文化」であり,その中心は宗教,とりわけヒンドゥー教ということになろう。

たしかに南アジアにおいて宗教は大きな力を持っているが,しかしそれで経済ないしマネーに対抗できるのだろうか?

むろん,この「一文化一地域」については,RSS系の人々を中心に唱えられているが,実際に政府政策にどの程度採り入れられているかなど,具体的なことはまだよく分からない。どう展開するのか,注視していたい。

*1 Kosh Raj Koirala, “India turns to social-cultural ties as China steps up role in Nepal,” Republica, 26 Nov 2017
*2 “RSS’s counter to OBOR: One Culture One Region,” The Indian Express, July 24, 2017
*3 Kamal Dev Bhattarai, “Why India and China are Watching Nepal’s Election,” The Diplomat, 01 Dec 2017
*4 「ネパール 新印か親中か 新憲法下,初の下院選」毎日新聞,2017.11.27
*5 「中印の間で揺れる小国ネパール 26日に下院選,親中政権誕生の可能性」,sankei.com, 2017.11.26
*6 「ネパール総選挙,投票始まる 親中政権誕生なるか」,nikkei.com. 2017.11.26

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/12/07 at 23:07

政党のネット選挙運動

ネパールの選挙もネット時代に入り始めたようだ。驚いたのが,カンチプル系のサイト。ネパール語サイトも英語サイトも,開くとすぐ,政党への投票を呼び掛けるポップアップ画面が出る。効果絶大!

昨日12月2日は,コングレス党(NC)への投票呼びかけ。共産党共闘で劣勢が伝えられるので,切羽詰まってネット宣伝に走ったのかと思っていたら,今日は統一共産党(UML)の宣伝。NCだけではなかった。

二大政党が,ネパールの代表的メディアに宣伝を出しているのだから,違法ではないのだろうが,他党の宣伝はなく,どう見ても公平とは思えない。今のところ他の代表的メディアはこのような政党の選挙宣伝は掲載していない。ネパールにおいて,ネットの選挙利用は,どう規定されているのだろうか?


http://kathmandupost.ekantipur.com/
http://kantipur.ekantipur.com/
http://saptahik.ekantipur.com/
http://nari.ekantipur.com/
http://radiokantipur.ekantipur.com/
http://ktv.ekantipur.com/

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/12/03 at 10:21

カテゴリー: 選挙, 情報 IT, 政党