ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for 3月 2018

キリスト教とネパール政治(2)

2.キリスト教系政党と2017年5月地方選挙
ネパールには現在,キリスト教系政党が少なくとも4~5政党はあるとされている。
人民覚醒党(Jana Jagaran Party)
  党首:ロクマニ・ダカル(牧師)
  選挙シンボル:懐中電灯
  制憲議会議席:1(LM・ダカル,唯一のキリスト教徒議席)
国民解放運動党(Rastriya Mukti Andolan Party)
  党首:ジャヤワンタ・B・シャハ
APメサイア党(Amul Parivartan [AP] Messiah Party)
  議長:バラト・ギリ
人民の党(People’s Party)
PAクリスチャン党(PA Christian Party)

2017年5月の地方選挙では,キリスト教徒候補が何人か当選した(正確な人数不明)。また,ダディン郡ガンガジムナでは,女性クリスチャンのアンジェラ・タマンが副町長に当選した。彼女はこう語っている――

「私は,先住タマン共同体に属している。これまで差別されてきたが,私たちは神に祈り,福音の導きに従ってきた。いまでは,私たちは強力なキリスト教共同体となっている。私たちは,社会全体への奉仕を通して神に仕えたいと願っている。・・・・
 もし私がヒンドゥー教徒であったなら,私のような先住民女性が選出されるようなことは,決して夢にも思わなかったであろう。神が私に道を示し導かれたのだ。・・・・
 私は,宗教の別なく,社会全体のために働きたいと思う。」(Christopher Sharma, “Christians in Nepal enter politics. First Christian woman elected,” AsiaNews.it, 05/24/2017)

ネパール全国キリスト者連盟のCB・ガハトラジ会長もこう述べ祝福した。「女性がクリスチャンとして当選し政治家となったのは,クリスチャンにとって朗報だ。他のクリスチャンを勇気づけ,政治を志させることになるだろう。」(ibid)

国民解放運動党のJB・シャハ党首は,こうした状況を受け,こう檄を飛ばした。「世俗化以前は,クリスチャンとして政治に参加することは禁止されていた。・・・・今回が初の地方選であり,われわれは,福音に従い,キリスト者アイデンティティを持つ人々にもっともっと訴えかけなければならない。何千もの人々が投票を待っている。第2次投票の準備はできている。われわれは,急速に支持を拡大しているのだ。」(ibid)

この2017年5月地方選挙におけるキリスト教系政党の動向については,すでに概略を紹介しているので,一部重複もあるが,以下をご参照ください。
【参照】キリスト教政党の台頭


■人民覚醒党FB/APメサイア党FB

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/03/27 at 17:12

キリスト教とネパール政治(1)

ネパールでは2017-18年,地方(町村),州,連邦の3レベルの選挙が実施された。これにより,2015年憲法の定める地方政府,州政府,連邦政府が成立,人民戦争後新体制が名実ともに正式発足した。

選挙では,新生「ネパール共産党(統一共産党・マオイストセンター連合)」が大勝し政権を担うことになり注目されているが,ここでもう一つ,見落としてはならないのがキリスト教と新体制との関係である。

宗教と政治の関係は,ネパールでは”微妙な”テーマであり,特にキリスト教については取扱注意,報道は多くはないが,いくつか散見される資料を手掛かりに,ネパールにおけるキリスト教と政治の関係の現状の一端を見ておくことにする。

1.「キリスト教徒急増」問題の複雑さと危険性
世界各国のキリスト教系メディアでは,ネパールは「キリスト教徒急増の国」として注目され,繰り返し紹介されている。それは,いわば現代ネパールの枕詞。

ネパールのキリスト教徒は,全人口に対し1991年0.2%,2001年0.5%,2011年1.4%と増加してきたとされているが,実際にはそれ以上で,現在3~7%,あるいは2~3百万人ともいわれている(正確な教徒数は不明)。日本は1%(2012年)だから,少なめに見積もってもネパールではすでに日本以上にキリスト教徒比率が高くなっていることは確かだ。

ネパールでキリスト教に改宗しているのは,ダリットなど,いわゆる「低カースト」の人々や,タマン,タルーなど差別されてきたとされる諸民族の人々が中心と見られている。そのため,キリスト教改宗問題は,カースト間闘争,貧富階級間闘争,民族闘争の様相をも多かれ少なかれ帯びざるを得ない。

さらに,ネパールのキリスト教会は,西洋やアジアの富裕な先進諸国の教会に物心両面で支援されていると見られているので,ネパールにおける改宗は外交問題でもある。たとえば,憲法の「布教禁止」規定の撤廃をあからさまに要求したスパークス駐ネ英国大使の2014年の発言は,キリスト教国の露骨な内政干渉の典型として,ネパールではいまもって繰り返し非難攻撃されている(改宗勧奨: 英国大使のクリスマス・プレゼント)。キリスト教は,ネパール・ナショナリスト,とりわけヒンドゥー・ナショナリストにとっては,不倶戴天の敵なのだ。

キリスト教布教は,このようにネパールでは,複雑で,微妙で,難しく,危険きわまりない問題である。今後,布教がさらに進めば,問題は一層深刻化するであろう。

【参照】キリスト教会ネットサイトも急増している。下掲はそれらのうちのいくつか。
  
 ■Turahi News / Churches Network Nepal

   
 ■Good News Media / Mission in Church / Assumption Church

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/03/25 at 16:43

カテゴリー: 宗教, 憲法

Tagged with , , ,

最高裁長官解任のネパール,首相無答責の日本(2)

2.安倍首相の政治責任,棚上げ
一方,日本ではいま,森友学園への国有地売却をめぐり,行政権の長たる安倍首相の責任を棚上げにしようとする動きがある。無責任きわまる首相無答責への流れ。

日本国民はつい最近まで,正直・誠実を誇りとし,諸外国からもそれを称賛されてきた。会社では社員が勤務に精励し,顧客との約束を果たすため誠実に努力してきた。役所では,公務員たちが,しばしば融通が利かないとイヤミを言われるほど規則を忠実に守り,国民のために誠実に仕事をしてきた。この規則や約束を守り最大限努力する誠実さこそが,国際社会における日本の評価を高め,日本を急速に発展させ,日本をして世界有数の豊かな国とするに至った最も根源的な文化的要因の一つである。

ところが,その日本の生命線といってもよい誠実さが,このところ急速に失われ始めた。しかも,中小諸組織よりもむしろ有名大企業や国家諸機関から。

記憶に新しいところでは,日産自動車の完成車無資格検査不正,三菱自動車の燃費データ改ざん,神戸製鋼所の製品データ改ざん,東芝会計不正など。いずれも日本の代表的企業であり,にわかには信じられないほどの不誠実さだ。

行政諸機関の不誠実も目に余る。いま問題になっている森友学園への国有地売却においては,財務省が不公正な売却手続きを取り,それを隠すため関係書類を改ざんし,国会に提出した。まだ国会審議も検察捜査も終わってはいないが,朝日新聞報道をきっかけに改ざん以前の文書が確認され公表されたことにより,改ざんはもはや疑いえない事実となった。

近現代国家の官僚制にとって,合理的な規則と文書の尊重は原則中の原則。客観的な合理的規則により割り当てられた職務を遂行し(公私分離主義),その経緯を文書に記録して残し(文書主義),他者や後世の検証・評価に供する。官僚制(行政機関・公務員)が,もしこの大原則への誠実さを失えば,統治への信頼は根本から崩れ,国民生活は危機に瀕する。民主的な「良き統治(good governance)」の崩壊だ!

森友学園国有地売却事件は,まさにこの「良き統治」崩壊の危機であり,関係者の責任は免れないが,現状では責任追及は担当部局の財務省理財局や近畿財務局の関係者にとどまりそうな雲行きだ。

そもそも近畿財務局が国有地売却にあたって森友学園を特別扱いしたのは,安倍首相夫人と学園との親密な関係からして首相夫妻がこの案件のバックにいると考えたからに他ならない。したがって,首相夫妻の具体的な土地売却関与があれば無論のこと,たとえ関係部局職員の「忖度」であったとしても,「忖度」せざるをえないような状況をつくり,あげくは文書改ざんにまで手を付けさせた首相の政治責任は免れない。M・ウェーバーが力説したように,政治は結果責任であり,首相こそが責任を取るべき行政権の長に他ならないからである。

しかしながら,それにもかかわらず,日本政界には,いまのところ安倍首相に引責辞任を迫る大きな動きは見られない。日本の統治(governance)は,企業においても国家においても,深刻な危機に陥っている。

■施政方針演説確認中の安倍首相(官邸FB:1月22日)

3.ガバナンス開発援助の危機
日本の途上国支援は,道路,橋,ダム,空港,港湾などのインフラ建設支援から,法令整備や行政改革,司法近代化などのための開発援助に力点を移してきた。ハードからソフトへ。「良き統治」のためのガバナンス開発援助である。

ところが,企業不正がはびこり,官僚制が合理性を失い,首相ら政治家が当然引き受けるべき政治責任を引き受けようとしないのが今の日本。その「良き統治」を失いつつある日本が,途上国に向かって「良き統治」を説く。まるでマンガ!

「合理的な規則をつくり,誠実にそれを守り職務を遂行しなさい。」
「はい,分かりました。そうします! で,お宅ではどうなっていますか?」

谷川昌幸(C)

最高裁長官解任のネパール,首相無答責の日本(1)

ネパールは,民主主義の運用においても,いくつかの点で日本を追い抜き始めた。その一例が,この3月14日のネパール最高裁長官解任。日本が,あたかも首相無答責であるかのように森友学園国有地売却問題における安倍首相の政治責任を棚上げし,責めをあげて首相夫妻らの意向を「忖度」したとされる財務省関係諸機関に押し付け,問題の早期幕引きを図ろうとしているのと好対照だ。

1.ネパール最高裁長官の解任
ネパールでは,憲法設置機関たる「司法委員会(न्याय परिषद Judicial Council)」が訴えに基づきパラジュリ(पराजुली)最高裁長官の資格審査を実施し,3月14日パ長官に対し司法委員会事務局長名をもって法定停年超過を通告,これによりパ長官は長官資格を喪失した。事実上の解任である(正式解任は3月18日付)。

 ■パラジュリ最高裁長官(最高裁HPより)

パラジュリ最高裁長官については,ゴビンダ・KC医師が2018年1月,トリブバン大学医学部長解任無効判決批判の中で,その不適格性を厳しく指摘していた。
 *ゴビンダ医師の市民的抵抗,医学部長解任事件最高裁判決に対して(1) (2) (3) (4)

不適格の理由はいくつか挙げられているが,最も明確なのは年齢詐称。パラジュリ長官自身は1953年4月28日生まれ(満64歳)だと主張し,彼の市民登録証にもそう記載されているが,ゴビンダ医師によると,これは虚偽であり,実際には2017年アサド月(6~7月)に彼は65歳に達しているという。もしこれが事実なら,最高裁判事の停年は憲法131条で満65歳と定められているので,パ長官はすでに停年を超えており,その事実だけでも彼は長官資格を有しないことになる。

このパラジュリ長官年齢詐称問題は各紙が報じたが,特に詳しいのはカンチプル系メディア。AFP記事(3月14日)からの孫引きだが,カンチプルはパ長官が出生日を5通り持ち使い分けてきたという。

このゴビンダ医師やカンチプルによるパラジュリ長官年齢詐称告発に対し,パ長官側は彼らを法廷侮辱の罪で告発し,その裁判を長官自らが指揮しようと画策してきた。

しかしながら,この問題は,結局,司法委員会に持ち込まれることになった。司法委員会の委員長も最高裁長官であり,審議がどう進められたのか気になるところだが,審議状況についての報道は全くない。常識的には,パ長官は当事者であり,審議の場からは外されていたと見てよいであろう。

いずれにせよ,司法委員会は3月14日,事務局長名で委員会決定を大統領,首相,最高裁,法務省等に伝えた。同委員会は,パラジュリ長官の出生日を結局1952年8月5日と認定し,すでに憲法規定停年を超過しているので彼は最高裁長官資格を有しないと通告したのである。

パラジュリ長官は司法委員会決定を不当とし,職務継続をバンダリ大統領やオリ首相に訴えたが,大統領も首相もこれを退けた。また最高裁内でも,法廷侮辱事件担当判事数名がパ長官指揮に従うことを拒否した。さらに弁護士会もパ長官に退職勧告を突き付けた。

事ここに至って,ようやくパラジュリ長官は3月15日,バンダリ大統領に辞職を願いで,辞任した。事実上,憲法設置機関の司法委員会による解任である。

本件のような年齢詐称は先進諸国では考えにくいが,1950年代のネパールではまだ住民登録が未整備で,そのころ生まれたパラジュリ長官のような人々の年齢確認は困難な場合が少なくない。したがって,パ長官側にもそれなりの言い分はあったのであろうが,ネパール現体制は司法委員会の判断を尊重し彼を解任した。

ネパール最高裁長官は日本の最高裁長官よりはるかに強大な権限を持つが,少なくとも今回のパ長官解任にあたっては,忖度のようなものは見られなかった。

*1 RAJNEESH BHANDARI, “Nepal’s Chief Justice Sacked After He Is Accused of Faking Date of Birth,” New York Times, MARCH 14, 2018
*2 “Nepal Chief Justice sacked for faked date of birth,” AFP, 14 Mar 2018
*3 “Judicial Council relieves CJ Parajuli of his duties, Apex court’s senior-most Justice Deepak Raj Joshi set to take charge,” Kathmandu Post, Mar 15, 2018
*4 “Parajuli loses chief justice job,” Himalayan, March 14, 2018
*5 “8 SC justices boycott bench to pressure CJ,” Republica, March 14, 2018
*6 “Joshee takes over as Parajuli quits,” Kathmandu Post, Mar 16, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/03/23 at 15:56

ネパール共産党政権,三分の二確保か?

マデシ系2党が,「ネパール共産党(CPN[UML+MC])」政権への参加の意向を見せている。もし実現すれば,オリ首相は議会で三分の二以上の議席を確保,政権基盤をさらに強化することになる。

政権参加に動いているのは,議会第3党の「国民[国家]人民党(RJP-N)」と第4党の「連邦社会主義フォーラム(FSF-N)」。CPNは代議院(下院)で174議席,参議院(上院)で39議席を占めているので,マデシ系2党が参加すれば無論のこと,いずれか1党だけでも上下両院とも三分の二を超え,与党だけで憲法改正さえも可能となる。

▼主要政党の議席数

マデシ系2党の政権参加の主な目的は,南部諸州の区画変更など,憲法改正により彼らの諸要求を実現すること。

政権参加交渉で先行しているのは,FSF-N。3月7日には,オリ首相が憲法改正を内諾したとして,政権参加を党決定した。また,第2州で勝利し州首相となった同党ラウト第2州代表も,中央の共産党政権への参加を支持している。RJP-Nの方の動きはあまり伝えられていないが,こちらも政権参加に向け交渉しているのは確かである。

一方,大勝したオリ首相が,マデシ系2党に政権参加を働きかけているのは,政権をさらに強化し安定させるため。

マデシ系2党が与党になれば,彼らのバックにいるとされるインドからの圧力をかわせるし,また党内(CPN内)ライバルのプラチャンダに対し優位を維持できる。むろん親マデシとされるプラチャンダの方の支持に,マデシ系2党が回ることも十分に有りうるわけだが,そこはカケ,当面は権力基盤強化をねらうオリ首相と,長期政権参加による権益確保をねらうマデシ系2党の利害が一致しているわけだ。

しかしながら,政権構成は国政最高レベルでの利権争いでもあり,スンナリとはいかない。大臣ポストの残りは現在11。マデシ系2党はそれぞれ5ポストを要求している。要求をのめば,残るは1ポストのみ。これではCPN内のUML派とMC派のポスト争奪戦を納められそうにない。タフな交渉,さてどうなるか?

 
 ■党旗と選挙シンボル RJP-N / FSF-N

*1 “FSF-N likely to join Oli-led government soon: CM Raut,” Republica, March 07, 2018
*2 “Three weeks on, Oli yet to name 11 ministers,” Republica, March 9, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/03/11 at 16:18

カテゴリー: 選挙, 議会, 憲法, 政党, 政治

Tagged with , , , ,