ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

ネパール共産党とドゥンゲル恩赦(3)

3.ドゥンゲルへの恩赦
オリ内閣は,全国の刑務所から提出された約1000人(正確な人数不明)の恩赦候補者リストの中から816人を恩赦対象者に決定し,5月29日の共和国記念日にバンダリ大統領がその816人に恩赦を与えた。ビルクリシュナ・ドゥンゲルもその一人。

ドゥンゲルは終身刑(禁錮20年)だが,前述のように収監期間は通算8年を超え,改正されたばかりの刑務所規則の刑期40%以上経過の要件をギリギリ満たしている。そして,むろん行状も良好と認められた。こうして,ドゥンゲルは共和国記念日恩赦を与えられ,釈放されたのである。

このドゥンゲル恩赦につき,オリ首相は,それは「定められた手続きにしががったもの」だと述べた(*4)。

ドゥンゲル自身はというと,釈放されるとすぐネパール共産党事務所に行き,支持者を集め,自分は人権キャンペーンで「ドル稼ぎ」をしている人権活動家らの謀略の犠牲者だと演説し,無実を訴えた(*4)。

■ドゥンゲル(FBより)

4.ドゥンゲル恩赦への反対
(1)ウジャン親族
ドゥンゲル恩赦に対し,被害者ウジャンの妹サビトリ・シュレスタは,「政府は犠牲者家族の言葉に耳を傾けようとはしないばかりか,逆に,犯罪者への配慮をますます強めさえしている」と述べ,ドゥンゲル恩赦を非難した。家族は,国連人権委員会に,この問題を訴える予定だという(*10)。

(2)ガガン・タパ議員(NC)
コングレス党のガガン・タパ議員は,連邦議会で,ウジャン恩赦に反対し,こう演説した。

「虐殺犯釈放のような恣意的決定は,王政期にのみ行われていた。首相は,意のままに恩赦を与える国王ではない。もし政府がドゥンゲル釈放の決定を直ちに撤回しなければ,わが党は街頭に出て抗議活動を始めるだろう。」(*10,12)


 ■がガン・タパのドゥンゲル恩赦批判FB(5月29日)

(3)ユバラジ・ギミレ
ジャーナリストのユバラジ・ギミレは,ドゥンゲル恩赦をUML・MC合併によるNCP政権成立の背後にある密約の履行の一環と見る。

ギミレによれば,2005年和平交渉の頃,インドとEUがマオイストの政権参加による和平を働きかけたのに対し,アメリカは王室に期待し働きかけた。その頃,あるアメリカ外交官が「王政は権威的とはいえ民主的な制度に改めうるが,マオイストは全体主義であり変えようがない」と語ったが,その警告が,ネパール共産党が議会三分の二に近い大勢力になったいま,現実化しつつある(*4)。

そもそもUML・MC合併は,マオイスト戦争犯罪の免責が前提条件であった可能性がある。強大政権党NCPの報復を恐れ,人権活動家らは沈黙し始めたし,真実和解委員会(TRC)もいまや「牙なし」状態となってしまった。最高裁人事でさえ,NCP寄りとなっている(*4)。ギミレはこう述べている。

「絶対多数を持つ新党が結成されKP・オリ政権が成立すると,政府は虐殺の罪で終身刑に服している元マオイスト幹部の元議員に『大統領恩赦』を与えるため,権力を行使し始めた。」(*21)

「[当局筋によれば]与党幹部の指示に従い,刑務所当局は様々な罪で投獄されている他の800人の受刑者に加え,良好な態度を理由にバルクリシュナ・ドゥンゲルにも恩赦を与えるよう勧告した。」(*21)

「刑務所規則によれば,大統領恩赦を受けられる受刑者もいるが,虐殺,レイプ,人身売買および汚職の罪を犯した者は除かれる。これは,ビドヤ・デビ・バンダリ大統領にとって,一つの大きな試練となっている。バンダリ大統領は法を厳守しなければならないし,また,より重要ともいえるが,マオイスト指導者だったバブラム・バタライが6年前首相だったときドゥンゲルへの恩赦を彼女の前任者ラム・バラン・ヤダブ大統領に勧告したとき,ヤダブ大統領はそれを拒否していたからである。」(*21)

「マオイスト幹部バル・クリシュナ・ドゥンゲルの大統領恩赦釈放は,10年に及ぶ内戦期の人権侵害で有罪とされ,あるいは責任追及されているマオイスト幹部すべてに対し,恩赦を与えるか,あるいは責任免除とするかへの前兆と見られている。」(*4)

■ユバラジ・ギミレ(FBより)

(4)ディネシュ・トリパティ弁護士
ドゥンゲル恩赦に反対し法廷闘争を展開しているのが,憲法,行政法,人権問題が専門でカトマンズ大学法学部講師を務めているディネシュ・トリパティ弁護士。法廷闘争は複雑で前後関係がはっきりしない部分もあるが,報道によれば,彼の法廷闘争の大筋は以下のとおりである。

ドゥンゲル恩赦は,前述のように,かつてバブラム・バタライ首相(2011年8月29日~2013年3月14日)が2011年11月8日閣議決定したが,ウジャンの妹サビトリ・シュレスタが11月10日最高裁に閣議決定取り消しを求めて提訴,これを最高裁は11月23日認めていた。そのとき,最高裁は,恩赦は恣意的,無制限であってはならないし,また国際法で禁止されている重大犯罪への恩赦は認められないと命令していた。

今回,内閣が2018年共和国記念日恩赦にドゥンゲルを含める方針であることが明らかになると,トリパティ弁護士は5月24日,ドゥンゲル恩赦を認めないことを求める訴えを最高裁に提出した。

この訴えに対し,最高裁は5月28日,政府に対しドゥンゲル恩赦釈放に関する関係文書の提出を命令し,その審理を29日11時から行うことを決めた。ところが,審理開始直前の午前9時,政府はドゥンゲルを釈放してしまった。

そのため最高裁は6月26日,ドゥンゲルへの恩赦そのものへの最終判断は留保しつつも,ドゥンゲル釈放停止の仮処分については,すでに釈放されているとして,トリパティ弁護士の訴えを棄却した。これにつき,トリパティ弁護士はこう批判している。

「この恩赦は司法制度への攻撃である。重大な人権侵害事件が裁判所審理中であるにもかかわらず,恩赦を与えるような権限は,政府にはない。」(*9,cf.*5)

またオム・プラカシ弁護士も,こう問題提起している。

「ドゥンゲルは,いまもなお犠牲者家族を脅している。犯罪者の釈放は,犠牲者家族の安全をさらに危うくさえしているのだ。」(*10)

■トリパティ弁護士(カトマンズ大学HPより)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/07/13 @ 15:23