ネパール評論

ネパール研究会

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (7)

8.入管庁のハンスト死防止策提言
入管庁「調査報告書*1」がハンスト死防止のため提言しているのは,もう少し具体的にいうと,つぎのような方策である。

(1)説得,カウンセリングの強化。精神疾患が疑われる場合は,精神科受診(p13)。
(2)「拒食や治療拒否により・・・・危険が生じている場合には,・・・・強制的治療を行うことが可能となるよう体制を整備」(p14)。
(3)強制治療実施に不可欠の常勤医師の確保(p14-15)。
(4)「強制的治療の体制を確保できた収容施設を拒食対応拠点と定め,・・・・時機を失することなく当該被収容者を当該拠点に移収して処遇する」(p15)。

このように「調査報告書」は,強制治療・強制栄養の実施をハンスト死防止策として提言する一方,送還や仮放免についても,検討を求めてはいる。

しかし,送還については,促進のための方策の検討が必要と述べているにすぎない。

また,仮放免については,弾力的な運用の検討を提言してはいるが,ハンスト(拒食)を理由とする場合には,極めて消極的である。

・「拒食による健康状態の悪化は,拒食を中止して摂食を再開したり点滴治療を受けることなどにより解消されるべきものであり,拒食者の健康状態の悪化を理由として仮放免を行うことについては慎重な検討を要する」(p15-16)。
・「(拒食で生命が危険になり)治療・回復を図るためには一時的に収容を解いて治療に専念させることが不可欠かつ適切であると考えられる場合には仮放免を検討する必要があるところ,こうした仮放免は飽くまでも治療や健康状態の回復を目的とし,この目的に必要な限度で行うべきものである。」(p16)。
・「拒食による健康状態の悪化は,拒食の中止又は収容施設内においても可能な点滴等により改善される性質のものであり,拒食者の健康状態の回復を図るために仮放免が不可欠ということはなく,このような状態における仮放免は,仮放免許可を得ることを目的とした他の被収容者の拒食を誘発するおそれがあることに鑑みると,一般に,拒食により健康状態が悪化したものを仮放免の対象とすること自体,極めて慎重でなければならない」(p13)。

このように見てくれば,「調査報告書」が,送還困難なハンスト者(拒食者)が危険な状態になったときは,(1)医師の判断に基づき強制治療・強制栄養を実施するか,あるいは(2)健康回復のため仮釈放し,健康回復後速やかに再収容する,という立場をとっていることは明らかである。

■収監サフラジェットへの強制摂食(英紙1913年5月24日)

*1 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」2019年10月

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/06/01 @ 15:23

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