ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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オリ首相就任と共産党統一

1.オリ首相就任
「統一共産党(CPN-UML)」のKP・オリ(खड्ग प्रसाद शर्मा ओली)議長が2月15日,ネパール第41代首相に就任した。

オリは,1952年2月22日,東部テラトゥム生まれのブラーマン。1970年頃から共産主義運動に参加,ジャパ闘争を闘い,73年から87年にかけ14年間投獄された。出獄後,UMLルンビニ地区代表(1990年就任)などを経て,UMLジャパ郡選出下院議員となり,党や政府の要職を歴任した。
・下院議員初当選 1991
・内相 1994-95
・副首相/外相 2006-07
・UML議長 2014.07-
・首相 (1)2015.10.11-2016.08.03 (2)2018.02.15-

2.共産党統一
オリUML議長が首相に就任できたのは,2017-18年の連邦議会選挙において,議会三大政党のうちの二党たるUMLと「ネパール共産党・マオイストセンター[マオイスト](CPN-MC)」が選挙後の統一を掲げ,安定と繁栄を訴え,選挙共闘により勝利したからである。

連邦議会代議院(下院)は議員定数275。このうちUMLは121(44.0%),MCは53(19.3%)の議席を獲得した。未曽有の大勝利である。

この選挙共闘の成功を受け,UMLとMCは選挙前に約束していた両党の統一に向け最後の詰めを行い,2月19日「7項目合意」に署名して一つの共産党となった。仮称「ネパール共産党(Communist Party of Nepal[CPN])」。

この新生「ネパール共産党」は,代議院(定数275)において174議席(63.3%)をもつ。これだけでも絶対多数を優に超えるが,もしマデシ系のRJP-N(17議席)かFSF[SSF]-N(16議席)の協力が得られるなら,三分の二を超え,憲法改正ですら可能となる。強力な安定政権の確立・維持に,形式的には十分な議席数である。

3.新生「ネパール共産党」の先行き?
しかしながら,新生「ネパール共産党」のオリ政権が強力な長期安定政権となるかどうかは,まだ何とも言えない。

(1)党名。新生政権党は「ネパール共産党(Communist Party of Nepal[CPN])」を名乗りたいらしいが,ネパールには共産党が多数あり,「ネパール共産党」もむろんすでに登録使用されている。看板にすぎないとはいえ,名は体を表す,おろそかにはできない。新党の名称はどうなるか?

(2)党是。「マルクス・レーニン主義」には異論はないが,「毛沢東主義(マオイズム)」はどうするか? 多数派のUML系は,もちろん由緒ある「人民多党制(複数政党制)民主主義」を党是とすることは当然と考え,譲る気はない。これに対し,人民戦争を戦い抜き事実上勝利したMC系は,多かれ少なかれ原理主義的な「毛沢東主義(マオイズム)」を放棄しはしないであろう。

(3)権益配分。議席,政府役職,党役職等の権益をどう配分するか? 政治闘争の赤裸々な本音部分。今回,MCが「ネパール会議派(NC)」との連立を解消してUMLに乗り換えたのも,NCがMCへの役職配分30-40%を拒否したのに対し,UMLは40%を約束したからだといわれている(*1)。身近な現世利益は現実政治を動かす大きな要因である。
*1 Kamal D. Bhattarai, “The (Re)Birth of the Nepal Communist Party,” The Diplomat, 21 Feb 2018.

新生「ネパール共産党」は,いまのところUML系6対MC系4の取り決めを守り,議席や主要な役職を配分しつつある。

党議長は,UML系のオリとMC系のプラチャンダ(PK・ダハル)が第一回党大会まで共同で務める(共同議長)。ただし,党大会がいつになるかは不明。

首相は,前半3年をオリ,後半2年をプラチャンダが務める。ただし,政権たらいまわし批判を恐れ,密約になっているともいわれており,約束通り政権が回されるかどうかは不明。

大統領と下院副議長はUML系,副大統領と下院議長はMC系に割り振る予定。

大臣ポストは,UML系11(61%),MC系7(39%)と,約束通り,6対4にきっちり割り振った(2018年2月24日現在)。しかし,これで不満はないのか? 以前であれば,大臣ポストをいくらでも増やし,ばら撒くことができたが,いまは憲法66(2)条により25大臣以下に制限されている。

(4)対印・対中関係。メディア,特に日本の新聞は,「親中安定政権誕生」などと書き立てているが,ネパールの対印・対中関係は,そう簡単ではない。

そもそも,いまや昇竜・中国を無視しては,世界の大半の国々は自国国益を守りえない。嫌中・日本ですら,中国無視や敵視は観念論,中国をよく観察し互恵関係を深めていかざるを得ない。ましてや国境を長く接し歴史的関係も深いネパールが中国に接近するのは,国益を考えるなら,当たり前。問題は,中国にどう接近し,どのような関係を構築していくかだ。

オリ首相はブラーマンで,もともと親印。親中の国王と闘い,14年間も投獄された。そのオリが,グローバル化の下での中国台頭により中国カードを手にし,使い始めたので,親中と見られているに過ぎない。国益第一なら,他の政治家であっても,多かれ少なかれ同じことをするはずだ。

一方,プラチャンダもブラーマンで,もともと親印。ネパール・マオイストは,中国共産党をニセ毛沢東主義者と非難し,激しく攻撃していた。中国側も,ときにはネパール体制側を支援しマオイスト弾圧に加担したことさえあった。いまはプラチャンダも中国に接近しているが,オリ同様,それは国益の観点からの戦略的な選択とみてよいだろう。

そこで問題は,オリ首相がたとえ戦略とはいえ,中国により接近した場合,インド筋が何らかの形で介入し,オリ政権打倒を画策するのではないかということ。そして,その際,働きかけのターゲットとなるのは,「ネパール共産党」反主流派のMC系,つまり親印・親マデシのプラチャンダではないか,ということ。

政権党「ネパール共産党」においては,オリ首相の率いるUML系が多数派。プラチャンダ率いるMC系は少数派であり,どうしても冷や飯を食わされ,不満がたまる。そこにインド筋が働きかけ,MC系の造反,連立組み換えによりオリ政権を崩壊させることは十分に考えられることだ。

事実,この数年の政権交代は,第三党マオイストによる連立相手組み換えによるものがほとんど。マオイストは2015年,UMLと組んでオリを首相とし,2016年には相手をコングレス党(NC)と取り換えてプラチャンダを首相とし,そして今度またUMLと組んでオリをふたたび首相とした。第三党のマオイストが,キャスティングボートを握っている。

そこにマデシ問題がらみでインド筋が介入してくるかもしれない。インドは,NC,マオイスト,マデシ系諸党の連携による親印政権を期待しているとみられている。

(5)移行期正義。「ネパール共産党」内のMC系の人々にとって,人民戦争期の重大な人権侵害をどう処理するか,つまり移行期正義の問題をどう解決するかは,個々人の浮沈に直接かかわる重大問題である。人民戦争期には,国軍,武装警察など政府側だけでなく,マオイスト側にも,重大な人権侵害に加担した人が少なからずいた。被害者側は,国際社会の強力な支援をバックに,責任者の処罰と損害賠償を求めている。これを受け,UML系も移行期正義の実現には肯定的である。しかし,もしオリ政権がこの問題に一歩踏み込めば,幹部を含め加害を疑われている人の多いMC系が激しく反発し,たちまち政権は動揺するであろう。オリ首相は,この難問をどう処理するか?

(6)憲法改正。マデシ系の人々は,インドの強力な支援をバックに,彼らの権利が認められるよう憲法を改正することを要求している。この要求に対し,MC系は肯定的,UML系は否定的。この問題は,インドが非公式国境封鎖を強行せざるをえなかったほど深刻。オリ首相は,この憲法改正問題をどう考え解決を図るつもりか?

以上のように見てくると,オリ内閣が親中長期安定政権になるかどうかは,まだいずれともいえないと考えざるをえない。今後の成り行きが注目される。


■オリ首相ツイッター(2月23日)/プラチャンダ議長フェイスブック(2月18日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/02/25 at 17:46

中印の対ネ政策:「一帯一路」vs「一文化一地域」

KR・コイララの「リパブリカ」記事(*1)によれば,中国の「一帯一路(One Belt One Road: OBOR)」に対し,インドは「一文化一地域(One Culture One Region: OCOR)」で対抗しようとし始めたという。これは興味深い指摘だ。

■中国「一帯一路」(UNDP in Nepal Twitter 2017-05-14)

1.中印とネパール下院選
中国とインドは,いまネパール下院選(投票11月26日/12月7日)に従来見られなかったほど大きな関心を示している。

一つは,中印にサンドイッチのように挟まれたネパールが,政治経済のグローバル化とともに,両国にとって地政学的にますます重要になってきたこと。そして,もう一つは,それと関係するが,今回の下院選はネパール新憲法(2015年憲法)による初の選挙であり,選出議員は任期5年,新体制の今後の方向性を決める重要な役割を果たすとみられていること。選挙でどのような政権が生まれるか,それを中印は注視しているのである。

選挙結果は,開票を待たねばならないが,いまのところ統一共産党(CPN-UML)とマオイスト(CPN-MC)を中心とする左派連合が優勢。もし勝利すれば,共産党系諸党は合同して一つの共産党となり,安定政権の樹立を目指すことになる。

2.親中の左派連合
選挙優勢を伝えられる左派連合は親中とされ,中国もその勝利を期待しているという。歴史的にみると,UMLやマオイストが親中一辺倒であったわけではないが,少なくともここ数年,中国寄りになってきたことは確かだ。

特にUMLのオリは,首相だったとき,中国との間で重要な協定をいくつも締結した。そして,インドによる事実上の国境封鎖の際は,対印強硬策を貫き,中国接近を際立たせた。

左派連合の選挙マニフェストにも,たとえばネパールに不利な「1950年印ネ平和友好条約(通商・通過条約)」を破棄し,新条約を締結することが目標として掲げられている。

3.ブディガンダキ・ダム問題
親中左派と親印コングレス党との確執を象徴するとされる最近の事例の一つが,ブディガンダキ・ダム問題(*3)。

ネパールは,プラチャンダ首相(マオイスト)のとき,ブディガンダキ水力発電事業を中国国有企業に請け負わせ,中国政府にはこれを「一帯一路」計画に組み込んでもらうことにした。中国政府はこの要請を受け入れそれを「一帯一路」に組み込み,中国企業も事業準備を進めてきた。

ところが,下院選直前の11月中旬,デウバ首相(コングレス党)は,突然,中国側との合意を取り消し,ブディガンダキ水力発電事業をネパール電力公社に担当させると発表した。一方,インド企業が中心となっているアルン3・上カルナリ水力発電事業の方は,予定通り推進すると決めた。

このデウバ内閣決定に対し,中国側は,それは中国企業の正当な権利の侵害であり,反中国政策に他ならないと激しく反発している。

4.インドの「一文化一地域」
このような中国との対立競合の激化を背景に,インドでは,RSS系の人々を中心に,「一文化一地域(OCOR)」政策を推進し始めたという。南アジアは宗教的・文化的な基盤を共有しているので,これを再確認し強化していくという考え方である。
▼プーリ駐ネ印大使
「印ネ両国民の社会的,宗教的,文化的結びつきは,われわれの比類なきユニークな関係を示している。」(*1)

インドの「一文化一地域」は,ソフトパワーとしての「文化」に注目するものであり,ネパールでは文化祭の催行,文化施設の建設,遺跡の復旧などを支援し,また人的には両国民交流の活発化を図る政策である(*1)。

たとえば,モディ政府は,ネパールを「休暇旅行」の対象国にした。印政府職員がネパール旅行をすれば,休暇とチケット代が支給されるという(予算額等詳細不明)。これは,事実上ヒンドゥー教巡礼の勧めと見てよいであろう。またカトマンズ=バナラシ,ルンビニ=ブッダガヤ,ジャナクプル=アヨダヤなど,友好都市関係の強化も謳われている。

そして,印ネ国民交流の活発化が図られるのだから,交通インフラの改善も提案されている。カトマンズ=ニューデリー間バス便の開設に加え,国境付近の鉄道網の拡充が計画されている。たとえば,ルンビニ⇔ブッダガヤ,ジャナクプル⇔アヨダヤ,ビラトナガル⇔ジョグバニなど。

5.経済に文化で対抗できるか?
「一文化一地域」には鉄道建設なども含まれているが,前面に立てているのは「文化」であり,その中心は宗教,とりわけヒンドゥー教ということになろう。

たしかに南アジアにおいて宗教は大きな力を持っているが,しかしそれで経済ないしマネーに対抗できるのだろうか?

むろん,この「一文化一地域」については,RSS系の人々を中心に唱えられているが,実際に政府政策にどの程度採り入れられているかなど,具体的なことはまだよく分からない。どう展開するのか,注視していたい。

*1 Kosh Raj Koirala, “India turns to social-cultural ties as China steps up role in Nepal,” Republica, 26 Nov 2017
*2 “RSS’s counter to OBOR: One Culture One Region,” The Indian Express, July 24, 2017
*3 Kamal Dev Bhattarai, “Why India and China are Watching Nepal’s Election,” The Diplomat, 01 Dec 2017
*4 「ネパール 新印か親中か 新憲法下,初の下院選」毎日新聞,2017.11.27
*5 「中印の間で揺れる小国ネパール 26日に下院選,親中政権誕生の可能性」,sankei.com, 2017.11.26
*6 「ネパール総選挙,投票始まる 親中政権誕生なるか」,nikkei.com. 2017.11.26

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/12/07 at 23:07

HMIHS法案撤回,ゴビンダ医師ハンストを受け

ガガン・タパ保健大臣が9月29日,「マンモハン記念保健インスティチュート(MMIHS)法案」の撤回を閣議決定した,と発表した。また,これと関連する医療制度・医科教育改革諸法令が成立するまで,医科大学(カレッジ)は認可されないことになった。

これらは,医療制度・医科教育の抜本改革を求め9月26日から9回目のハンストに入っているゴビンダ・KC医師(TUTH)が,一貫して強く要求してきたことだ。

ハンストは,ネパールではやはり政治的に有効な闘争手段のようだ。先日,ガンガマヤがハンストで要求してきた,マオイストによる息子虐殺事件の裁判も,ルンビニ地裁で再開されている。

谷川昌幸

Written by Tanigawa

2016/10/02 at 13:14

カテゴリー: 司法, 教育, 民主主義, 人権

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仏陀と印中の三角関係

仏陀をめぐる印中の三角関係がこのところ怪しくなってきた。信仰というよりは,カネと政治の思惑から。

インド側は,釈迦が育ったとされるカピラバストゥ城はネパール側のティラウラコートではなく印側のピプラワにあると主張し,ブッダガヤを目玉とするインド仏教遺跡巡りを宣伝し,そこに釈迦生誕地ルンビニを組み込もうとしている。

これに対し,中国側はネパール政府に急接近し,ルンビニ空港建設やチベット鉄道延伸により中国人旅行客をルンビニ付近に大量に送り込もうとしている,といわれている。ネパール=中国主導のルンビニ仏教遺跡巡りだ。

この仏教遺跡をめぐる印とネ中の争いは,直接的には観光開発の主導権争いだが,それは同時にネ印国境付近への中国進出をめぐる地政学的な争いでもある。

仏様の「現世利益」利用。バチ当たりなことだ。

160607■The Upper Ganges Valley(http://www.buddhanet.net/)

*1 ELLEN BARRY, “India and Nepal in Not-Very-Enlightened Spat Over Buddha’s Childhood Home,” New York Times, JUNE 1, 2016
*2 “Trans-national route from India to Nepal on the anvil: Buddhist circuit,” Kathmandu Post, Jun 1, 2016

谷川昌幸(C)

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2016/06/07 at 16:37

象と竜の喧嘩も恋もネパールの災禍:HB・ジャー

オリ首相訪中の評価は大きく分かれている。SD・ムニは,前述のように,過大評価を戒め,中国も参加した南アジアの経済統合の促進はむしろこの地域の利益になるとして,インド国益の重要部分を確保しマデシの正当な要求を支持しつつ,ネ中接近への冷静な対応を勧めている。(ネパールの「中国カード」とインド国益:SD・ムニ

これに対し,マデシ勢力に近いと思われるSB・ジャー(ICCR 研究員)は,オリ首相訪中・「中ネ共同声明」の歴史的重要性を認め,インドとネパールに警告を発している。以下,その要旨。
 ■Hari Bansh Jha , “Chinese Strategic Deal with Nepal,” The Vivekananda International Foundation, 5 Apr 2016 ( http://www.vifindia.org/article/).

1.オリ首相訪中の成果
SB・ジャーによれば,オリ首相訪中によりネパールは,(1)広州の港の利用,(2)中国からの石油供給,(3)鉄道建設計画(チベット―カトマンズ―ポカラ―ルンビニ)など,大きな成果をえた。

一方,中国は,とくに戦略面で大きな成果をえた。オリ首相訪中後,さっそくネパール国軍参謀総長に対し,許基亮中央軍事委員会副主任が中ネ防衛戦略協力の強化を申し入れ,房峰輝人民解放軍総参謀長はネパールにおける自由チベット運動の阻止を求めている。

「中ネ協定は,中国と南アジアを結び付ける歴史的な動き。それは,この地域の地政学的関係を変えることを目的としている。」(Hu Shisheng, Director, the Institute of South and Southeast Asian and Oceanian Studies at the China Institutes of Contemporary International Relations)

2.戦略的合意のネパールにとっての重さ
「中ネ合意は,ネパールと中国の間の経済的取り決めというよりは戦略的取り決めの意味の方がはるかに大きい。それは,ネパールのインド依存を少なくすることにより,ネパールを中国の傘に近づけることを目的としている。この合意により,中国のネパールに対する影響力は増大するだろう。それは,ネパールの社会経済や安全保障に対してばかりか,インドに対しても,大きな影響を与えるだろう。

この新しい状況の下で,インドはネパールにおけるインドの利益を守ろうとするだろう。そうなったとき,ネパールは自国における近隣二大国の利害をうまく調整できるであろうか。もしバランスを欠けば,ネパールは破滅ということになりかねない。巨象二頭が争っても愛し合っても,ネパールは踏みつけられ苦しめられることになる。」(SB・ジャー)

160409■在ネ中国大使館HPより

谷川昌幸(C)

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2016/04/09 at 21:05

カテゴリー: インド, ネパール, 軍事, 中国

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中国・ネパール共同声明

オリ首相が3月20-27日,中国を公式訪問,その成果を取りまとめた共同声明(3月23日付)が発表された。経済協力を中心に内容は広範に及ぶが,主なものは以下の通り。
 *Joint Press Statement between the People’s Republic of China and Nepal, Beijing,March 23, 2016

共同声明の概要
・平和5原則の確認
・中国側:ネパール憲法公布を歴史的前進として歓迎
・ネパール側:「一つの中国」政策支持。「ネパール領土をいかなる反中国活動にも使わせない」
・中国側:ネパール治安関係機関の能力強化支援 
・ネパール側:総領事館を広州開設決定,成都開設予定
・中国側:「一帯一路」推進
・中国側:石油製品の商業ベースでの供給。ネパールに中国石油・ガス基地建設
・アラニコ道路,シャブルベシ-ラスワガディ道路,カトマンズ・リング道路などの改修・改良
・中ネ国際鉄道およびネパール国内鉄道(タスワガディ‐カトマンズ,カトマンズ‐ポカラ‐ルンビニなど)計画の推進
・中ネ自由貿易協定交渉および国境経済ゾーン計画の推進
・30億人民元(2016-2018)の対ネ経済援助
・自家用ソーラー発電装置3万2千セットの対ネ援助
・中ネ送電線架設,アルン‐キマタンカ等の水力発電所建設援助
・中国側:ネパール観光開発支援(観光関係者への中国語教育など)
・中国系銀行支店のネパール国内開設
・中国文化センター等による中ネ文化交流の促進,ネパール人留学生の受け入れ

これらの中には,約束されたものと要望として出されたにすぎないものとが混在しており,どこまで実行可能か,よくわからない。しかし,経済分野を中心に中ネ関係が大きく前進したように見えることは,たしかだ。これをどう評価するか? インドからの見方なども交え,見ていくことにしたい。

160331■ネパール外務省FB3月23日

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/03/31 at 20:03

カテゴリー: 経済, 外交, 中国

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ヌアコットの山村,壊滅状態

震源に近い山村は,壊滅に近いところが少なくないようだ。情報は,現地と長年にわたり深く関わってきたNGOのものが,詳しい。

たとえば,ヌアコット(ヌワコット)郡を中心に植林活動を続けてきた「NGOカトマンドゥ」。その「NGOカトマンドゥ日記」によれば,現状は以下の通り。

【トゥプチェ】1,2軒を除いて、全戸が倒壊した。植林センターも倒壊。母の橋は健在。死者6名。行方不明、多数。
【マネ村】全戸が倒壊。死者はミンクマリさん他10人以上。
【カウレ村】死者15人。ほとんど全戸が倒壊。グンバ(チベット仏教の寺)は壁にひび割れがあるものの、健在。

救援義援金については,参照:「NGOカトマンドゥ日記」(http://nkathmandu.exblog.jp/)

150502a■ヌアコット(wiki)

150502b150502c
 ■カカニの急斜面::開墾/枝採取の女性(谷川:2002年)

また,ネパールとの交流を続けてこられた名古屋の徳林寺でも,救援チャリティーが開催される。(以下転載)

ネパール大地震義援金チャリティーイベント@徳林寺
40年以上ネパールとおつきあいしてきた徳林寺、ネパールの友人から地震 の悲惨なニュースが毎日届けられています。
この度GW限定のネパール大地震義援金チャリティーイベントを開催致します。飲食や雑貨販売、ワークショップなど売り上げをネパールの義援金と致します。期間中 ネパール罹災者への思いを捧げる<祈りの献灯>も開催いたします。

日程:5月2、3、6日12時から日没まで;4日9時から日没まで
【イベント参加者】ナンとカレー:ネパール・タマン協会中部北陸支部,ネパールの定食:徳林寺花まつりルンビニフェアグループ,ベトナム料理:ベトナム寺院福慧寺in徳林寺のみなさん,トーク・ワークショップ:名古屋パーマカルチャー塾,土釜のパン:パン亀の会。そのほか個人のチャリティー店有ります

チャリティーに出店して下さる方、ボランティア募集中 物資も受け付けます。
5月3、4日午後6時から— ネパールの罹災者へ祈りを込めて— 百八灯明を点して祈ります

会場: 相生山 徳林寺 名古屋市天白区天白町野並相生28-340  地下鉄「鳴子北」「相生山下車」徒歩十分
主催:ネパール大地震義援金ST @徳林寺(http://www.aioiyama.net/)

高岡住職、徳林寺境内を案内 @みんなの家プロジェクト
徳林寺 つながりの朝市
150502d(徳林寺HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/02 at 14:12

カテゴリー: ネパール, 社会, 国際協力

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エベレスト・トンネルと「新シルクロード経済圏」盟主,中国

AFP,テレグラフ,デイリーメールなど西洋メディアが,チベット鉄道延伸はエベレスト・トンネル経由だと派手に報道し,ヒマラヤンなどネパールメディアや時事など日本メディアが,これを後追いしている。世界最高峰エベレスト(チョモランマ,サガルマータ)の横っ腹をぶち抜き,トンネルを通す! メディアが飛びつきそうなネタだ。が,本当かなぁ? 
150411

最初の報道と思われるAFPの情報源は,おそらく中国日報のこの記事であろう。Zhao Lei,”Rail line aims for Nepal and beyond,” China Daily,2015-04-09. 読んでみると,たしかに紛らわしく不正確な記事だが,少なくとも次のことは読み取れる。
 (1)チベット自治区Losang Jamcan議長が3月,ヤダブ大統領に語ったのは,2020年までにチベット鉄道をシガツェから吉隆(Gyirong,Jilong)にまで延伸する計画があるということ。
 (2)エベレスト・トンネルについて語ったのは,中国工程院(Academy of Engineering)の鉄道専門家Wang Mengshu氏。

AFP等は,この二つの話しをはっきり区別せず,つないでしまったため,読者は次の(1)または(2),あるいはその両方と受け取ることになってしまった。
 (1)チベット鉄道ネパール延伸は,エベレスト・トンネルのコース。
 (2)チベット鉄道は2020年までにカトマンズまで延伸される。

しかし,2020年までに延伸されるのは,シガツェから吉隆までであり,ここから先は,そのままトリスリ川沿いに南下しカトマンズまで線路を敷設する方が楽だ。吉隆は国境からわずか35kmほど。経済合理性を考えるなら,中国政府はおそらくこのコースを採用するであろう。

ところが,である。中国は,目先のカネ儲けに目がくらむような,ケツの穴の小さな資本主義国ではない。かつては万里の長城を築き,いままた「新シルクロード経済圏」の盟主たらんとしている。すべてのロードは北京に通ず。そして,すべてのカネは,いずれ本家「円」(Yuan[CNY],人民元[RMB])を介し「アジアインフラ投資銀行」等を通して流通するようになる。

その21世紀の超大国・中国にとって,チョモランマ=エベレストをぶち抜き,トンネルを通し,五星紅旗はためく中国列車を走らせることほど,相応しく誇らしいことはない。

イギリスはマロリーやヒラリーに英帝国の威信を担わせローテク人力でエベレストを征服させた。ネパール・マオイストは,プラチャンダの息子に赤旗を持たせ,やはりローテク人力でエベレストを征服させようとした。

しかし,本家マオイストは,そんな前近代的な,せこいことはしない。世界最高峰エベレストを中国のカネと技術でぶち抜き,五星紅旗列車を走らせれば,中国こそが,世界最高,最先進,最強国家であることが,明白な具体的事実をもって,日々実証される。

21世紀のエベレスト征服は,まさしくこれをおいて他にはない。中国が,長大トンネル掘削でエベレストを征服すれば,魂も肝も抜かれたエベレストになど,あほらしくて誰もローテク人力で登ったりしなくなるだろう。

このチベット鉄道エベレスト路線は,つくりごとでも何でもない。以前から,シガツェから先は,吉隆路線だけでなくエベレスト路線も検討されていた。エベレストの真下ではないまでも,その近辺を通り,おそらくは何本かトンネルも掘り,カトマンズにいたる。

このエベレスト路線は,観光面から見て有利な上に,やはり中国にとって魅力的なのは,上述のような政治的価値である。中国政府が,エベレスト(の近く)にトンネルを掘り,五星紅旗列車を走らせるとなれば,中国の威信はいやが上にも上がる。だから,政治的に判断するなら,エベレスト路線優先となるわけだ。むろん,中国の国力からして,吉隆路線とエベレスト路線の両方をつくることも,決して無理ではない。長期的には,そうなる可能性大だ。北京,上海からチベット鉄道でエベレストへ行こう!!

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 ■エベレスト・トンネル線(Dailymail,9 April 2015)/シガツェ-吉隆&Yatung線(Global Times,2014-7-24) )

このように見るならば,AFP等の記事は,必ずしも全くの誤りという訳ではない。というよりもむしろ,資本主義国ジャーナリズムが,センセーショナルに騒げば騒ぐほど,中国政府は,してやったりと,ほくそ笑むことになる。「新シルクロード経済圏」や「アジアインフラ投資銀行」の願ってもない絶好の宣伝になるからである。

【中国大使館発表】  150411b
Qinghai-Tibet railway to reach Nepal in 2020
2015/04/10

China has announced that it will extend the Qinghai-Tibet railway to the border areas with Nepal within the next five years. The railway will stretch out for another 540 kilometers from Xigaze to Jilong county which sits on the border of China and Nepal.

The announcement was made earlier this month during Neapalese President Ram Baran Yadav’s visit to China.

President Yadav applauded the announcement, saying that it fitted into the main aim of his visit which was to promote road and air traffic between Nepal and China.

Nepal has long been expecting that a new Tibetan railway which would extend to the border areas to boost bilateral trade and tourism between the two countries.

Nepal is an important transit point between China and South Asia, and a major chunk of the two countries’ expanding trade has been conducted through Tibet. With this newly announced Xigaze-to-Jilong section of the railway in five years, better road and rail connections could be expected between Nepal and China.

Earlier in March when Chinese President Xi Jinping met with Nepalese President Ram Baran Yadav at the 2015 Boao Forum for Asia in south China’s Hainan province, the Nepalese President said that Nepal will support China’s initiatives of jointly building the Silk Road Economic Belt and 21st-Century Maritime Silk Road as well as the Asian Infrastructure Investment Bank, or AIIB, saying that these are great measures to promote regional connectivity.

Moreover, Nepal also calls for strengthened cooperation between the South Asian Association of Regional Cooperation, or SAARC, and China, in a bid to promote regional interconnectivity and economic development.

(http://www.fmprc.gov.cn/ce/cenp/eng/News/t1253828.htm)

【参照】
ラサ-カトマンズ,道路も鉄道も
青蔵鉄道:シガツェ10月開通,ネパール延伸へ
初夢は鉄路カトマンズ延伸?
青蔵鉄道のルンビニ延伸計画
中国の「シルクロード経済圏」,ネパールも参加
* Zhao Lei,”Rail line aims for Nepal and beyond,” China Daily,2015-04-09
*”TIBET-NEPAL RAILWAY, China may build tunnel under Everest,” AGENCE FRANCE PRESSE,2015-04-09
* “China plans rail tunnel UNDERNEATH Mount Everest,” Dailymail,9 April 2015
* “China-Nepal railway with tunnel under Mount Everest ‘being considered’,” The Telegraph, 09 Apr 2015
*”China may build tunnel under Everest,” Himalayan,2015-04-09
*”China Plans Strategic High-Speed Rail to Nepal Through Mount Everest,” sputniknews.com,2015-04-10
*「「チベット・ネパール鉄道」中国が計画、エベレストにトンネル?」,時事=AFP,2015/04/10

谷川昌幸(C)

平和のハトと,ハトを食うヒト

1.「平和の象徴」としてのハト
ハト(鳩)は,欧米でも日本でも,一般に「平和の象徴」と見られている。旧約聖書では,ハトがオリーブの小枝をくわえて箱舟に戻り,新約聖書では,聖霊がハトの姿でイエスのもとに降りてくる。

「旧約聖書」創世記:8-11
ノアはまた地のおもてから、水がひいたかどうかを見ようと、彼の所から、はとを放ったが、はとは足の裏をとどめる所が見つからなかったので、箱舟のノアのもとに帰ってきた。水がまだ全地のおもてにあったからである。・・・・それから七日待って再びはとを箱舟から放った。はとは夕方になって彼のもとに帰ってきた。見ると、そのくちばしには、オリブの若葉があった。ノアは地から水がひいたのを知った。さらに七日待ってまた、はとを放ったところ、もはや彼のもとには帰ってこなかった。
「新約聖書」マタイ3:16
イエスはバプテスマを受けるとすぐ、水から上がられた。すると、見よ、天が開け、神の御霊がはとのように自分の上に下ってくるのを、ごらんになった。
同上,10:16
へびのように賢く、はとのように素直であれ。

日本では,たばこの「ピース」がハトのデザイン。紫煙をくゆらせ,ハトの平和を嗜むわけだ。

150222d150222f ■UN/UNODA

150222e150222a ■ドン・ボスコ社刊/ピース

2.食用としてのハト
しかし,ハトにとって,人間社会は平和なところばかりではない。ハトは,ヒトによって食用として飼われ,殺され,食われてしまうこともある。なんて野蛮,残酷! そんな悲鳴が聞こえてきそうである。

しかしながら,ハトを食べる文化は,決して珍しくはない。中近東では一般的だそうだし,ネパールでも食用にハトを飼っているところはある。私自身,山麓トレッキングのとき,小さなハト小屋のある農家をあちこちで何軒も見ている。

食用鳩のことは,したがって私も知ってはいたが,その一方,長年にわたる西洋キリスト教文明の刷り込みにより,私の心の中には,「ハト=神聖=平和」という心象イメージができあがってしまっていた。だから,ルンビニの近くのタルー民族の村で,ハトが食用として広く飼育されているのを見て,少なからぬショックを受けた。

この村のハト小屋は,大きな立派な粘土製で,小屋というよりはマンション。そんな豪華なハト小屋マンションが,各農家の庭先にデーンと据えられ,ハトが頻繁に出入りしている。平和といえば平和な風景だが,「ハト=神聖=平和」の心象イメージが強いだけに,殺され食われるためかと思うと,「残酷,かわいそう!」という感情に捕らわれるのをどうしても禁じえなかった。

食は性と同様,文化の基底にあり,食生活の相違は,知識としては理解していても,感情としては,なかなか納得できるものではない。聖牛文化圏の人であれば,神戸牛を見てよだれを垂らすようなことは,けっしてないだろう。クジラ高等動物信者は,牛を殺して食っても,捕鯨は生理的に嫌悪するだろう。

150222b ■ハト小屋

3.異文化の実地学習
私自身,今回,イタハリの食堂で昼食中,たまたま朝食で残したゆで玉子があったので食べていたら,店員が血相を変えて飛んできた。全く気づかなかったのだが,そこは菜食主義(ベジタリアン)食堂だったのだ。

不注意を平謝りし,何とか許してもらった。内心,ゆで玉子くらい,と思わないでもなかったが,これは,インド国境付近を旅しているにもかかわらず,地元食文化に鈍感だった私の誤りである。よい勉強になった。

人類を救ったハトは,救った人間に食われることもある。不殺生の聖地ルンビニで,そんなことも実地学習した。

150222c ■巨大な保存壺

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/02/23 at 13:36

冬のヒマラヤ,あんがい見えない

ほんの3週間ほどの滞在だから,いつもはそうではないかもしれないが,1~2月には,盆地や丘からは案外ヒマラヤは見えないのではないか? 朝は霧が立ちこめ,昼頃になるとモヤかカスミがかかり,夕刻まで残る。カトマンズ付近でも,ダンクタでも,イラムでもそうだった。

よく見えたのは,キルティプールの1日,ダンクタの1日だけ。飛行機からも,国内線2往復のうち,よく見えたのはルンビニからカトマンズへ帰るときだけ。運が悪かっただけかな? (山の名に疎いので,下記は当てずっぽう。たぶんそうでは,といった程度。)

▼ダンクタから望むマカル―(?)方面
150221b150221a

▼菜の花畑と農家(ダンクタ付近)
150221c

▼飛行機の窓から望むダウラギリ・アンナプルナ(?)方面
150221d

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/02/21 at 19:23

カテゴリー: 自然, 旅行

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