ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for the ‘インド’ Category

中ネ交通インフラ建設,印がますます警戒

中国が,チベットからネパールに向けての交通インフラ建設を加速させている。9月15日には,シガツェ和平空港(軍民共用)からシガツェ市内までの高規格道路が完成した。ラサからシガツェに至るG318号線の一部で幅員25m,イザというときには軍用機の離発着が可能だそうだ。

 ■シガツェ和平空港~シガツェ市(Google)

鉄道は,ラサからシガツェまではすでに完成しており,2020年までにその先の吉隆鎮(Kyrong, Gyirong, Kerung)まで延伸の予定。吉隆鎮からネパール側のラスワガディまでは30㎞ほど,カトマンズまででも120㎞余り。山岳地で難工事が予想されるが,すでに中国企業数社が事業化をネパール側に打診している。

この9月6~11日に公式訪中したKB・マハラ副首相兼外相も,このルートでの鉄道建設につき,中国側とかなり突っ込んだ話し合いをした模様だ。「一帯一路」のネパール経由ルートは,ラサ~シガツェ~ラスワガディ~カトマンズが本命となったとみてよいであろう。

 ▼シガツェから鉄道3線延伸,2030年までに(中国日報*3)
 

この中国南進に神経をとがらせているのが,インド。たとえば,国際政治学者のA・ルフ(*1)は,次のように指摘している。

「パキスタン,バングラデシュ,スリランカ,ネパールはいまや北京の衛星国家である。」
「ネパールは,旧シルクロードを今日に再生し名実ともに超大国になろうとする中国の大きな野望から最大の利益を得ている国の一つであり,これこそが,対印関係悪化を警戒しつつも,ネパールをしてインドをいら立たせても構わないという態度をとらせている理由である。」
「中国と南アジアとの経済関係は,『一帯一路』によりさらに強化され,これが安全保障関係強化にもつながるものとみられている。これを,インドは危惧しているのである。」(*1)

ネパールなどを「衛星国家」と呼ぶのはいささか言いすぎだが,「一帯一路」の旗を翻し,着々と南下する中国をインドが警戒するのは当然といえよう。

 ■吉隆鎮~ラスワがディ(Google)

*1 ABDUL RUFF, “China, Nepal to focus on cross-border Railway,” Modern Diplomacy, SEP 19, 2017
*2 Ramesh Bhushal, “Nepal dreams of railway linking China to India,” 中外対話,22.09.2017
*3 Cui Jia and Hou Liqiang, “Himalayan rail route endorsed,” China Daily, 2016-08-05
*4 Om Astha Rai, “The Tibet Train: China’s railway arrives in Kerung in 4 years, Nepal should get its border infrastructure in place by then,” https://nepalitimes.atavist.com/the-tibet-train
*5 “Feasibility study for railway projects in Nepal under way,” Himalayan Times, June 10, 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/09/25 at 14:10

インドを怒らせたデウバ首相

デウバ首相訪印(8月24~27日)の裏話を,オム・アスタ・ライが『ネパリ・タイムズ』に書いている。
 ▼Om Astha Rai, “Deuba, Delhi and Doklam,” Nepali Times, 25-31 August 2017

それによると,モディ首相は24日の公式首脳会談の前に,予定外のお茶の席にデウバ首相を招き,ドクラム問題でインド支持を要請しようとしたらしい。本当に要請したか否かはわからないが,その後の公式会談では,前述のように,ドクラム問題には全く触れられなかった。

 ■訪印団到着(在印ネ大使館HP,8月23日)

公式会談後の「インド基金」レセプションでは,こんなやり取りもあったそうだ。
R・V・パスワン消費問題担当大臣:「第三国がネパールを攻撃したらインドはネパールを守るから,もし第三国がインドを攻撃したらネパールはインドを支援すべきだ。・・・・(中国はチベットを「呑み込んだ」が)インドはネパールをそうはさせはしない」。

このバスワン大臣の発言に対し,デウバ首相は,「中国はネパールのよき友だ・・・・。中国はネパールの主権をいつも尊重してきた」と答えた。

このデウバ首相の木で鼻をくくったような返答はインド側を苛立たせたに違いない,とライはみている。

レセプションでデウバ首相の隣に座っていたのは,親中派と見られているKB・マハラ外相(MC)。そのマハラ外相に,レセプション終了後,インド側の政治家,外交官,退役軍人らが,首相にあのような発言をさせたのは外相ではないかと詰問したという。

 ■インド基金レセプション(ツイッター8月24日)

このようにインド側はドクラム問題についてはネパール側からインド支持の言質をとれなかったが,それでも共同声明には次の一項を加えることには成功した。

防衛・安全協力の強化
「11.両国首相は,これまでの防衛協力に満足の意を表し,そして,インド軍とネパール軍の緊密な協力をさらに推進することを確認した。」

ネパール訪印団メンバーの一人は,これはネパールをブータン化させる恐れのある約束だ,とライに語ったという。

軍事協力推進の約束が小国にとって危険な側面を持つことは事実だが,それを織り込んでも,インドは今回の印ネ首脳会談から期待したほどの成果は得られなかったのではないだろうか。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/08/28 at 21:11

中印ドクラム紛争:中立堅持のネパールと印支持の日本

アジアの核保有二大国,中国とインドが,ドクラム(ドカラム)高原問題で対立,軍を派遣して至近距離で対峙,緊張が高まっている(*13)。

1.ドクラム領有権問題
両軍が対峙しているドクラム(洞郎)は,中国(チベット)・インド(シッキム)・ブータンの国境が複雑に入り組む高原地域(標高約3千m)にあり,インドとブータンがブータン領だと主張しているのにたいし,中国は中国領だと主張している。グーグル地図が国境を実線ではなく破線で画している部分もあるように,この地域の領土問題は複雑だ。


 ■グーグル地図,赤印ドクラム高原付近[地図差替8月29日]

2.道路建設をめぐり中印が対立
このドクラムで,中国人民解放軍が道路建設を始めたのに対し,インドは6月16日,軍を派遣,以後,人民解放軍と至近距離(約100m)でにらみ合っている。いまのところ両軍の兵力は約300人。

この問題につき,インド側は,この地域の領有権はブータンにあり,そこでの道路建設は力による現状変更であり,ブータンとインドに重大な脅威を及ぼすものであって,断じて認められないと主張している。これに対し中国側は,自国領土内で道路建設をしているのであり,インドは直ちに軍を引くべきだと反論している。いまのところ両国とも譲る気配を全く見せず,国境をめぐる両国関係は,1962年中印紛争以降,最悪の状態になっているという。

3.中立堅持のネパール
この中印ドクラム紛争に対し,ネパールは,いずれの国にも組しない中立の立場をとっている。

ネパールは,新憲法制定をめぐりインドと対立,非公式ながら5か月(2015年9月~16年2月)にも及ぶ事実上の国境経済封鎖の制裁を受けた。その反動もあって,歴代ネパール政権は中国に接近,いまやネ中関係は以前とは比較にならないほど緊密になっている。

8月中旬には,汪洋副首相が訪ネ,ネパール側が「一つの中国」支持を確認し「一帯一路」推進協力を表明したのに対し,中国側は対ネ投資拡大,石油・ガス資源調査,道路・鉄道建設など広範な支援を約束した。ネパールにとって,中国はいまやインドにとって代わりうる可能性のある隣の大国となりつつあるのである。

しかし,たとえそうだとしても,いまドクラム紛争につき中国支持を明言することは,ネパールにとって得策ではない。ネパールは,長年にわたりインド勢力圏内にあり,国土の三方をインドに囲まれ,物資の大半をいまなおインド経由で受け取っている。この現状を考え合わせると,ドクラム紛争について一気に中国支持に回るのはリスクが大きすぎる。結局,両国との交渉力を拡大できる「中立」の立場を表明するのが,いまのネパールの国益には最もかなうということになったのであろう(*3)。すでに8月初旬,KB・マハラ外相が,ドクラム問題ではネパールはいずれの隣国をも支持しないと述べ,中立の立場を明らかにしている(*3)。

この中印対立激化をバックに,いまデウバ首相が訪印している(公式訪問8月23~27日)。ネパール側が対印交渉の好機とみていることは疑いない。他方,インド側がネパールに圧力をかけ,何らかの形で印支持に回らせたいと考えていることにも疑いはない。

しかしながら,インド側は,非公式経済封鎖の「失敗」を教訓に,印ネ首脳会談(8月23,24日)では,あからさまにドクラム問題を持ち出し,デウバ首相に踏み絵を踏ませることはしなかった。会談後の共同声明でも,「両国は,その領土を,相手国を害するいかなる活動にも使用させないことを再確認した」と述べるにとどめた(*2)。親印派とみられているデウバ首相が,インド側招待の意をくみ行動してくれることを期待してのことであろう。

むろん,首脳会談以外の場では,当然ながら,ドクラム問題へのネパールの対応に関心が集まった。しかし,そうした場でも,デウバ首相はインド支持を明言しなかった。たとえば,「インド基金」主催の会(8月24日)において,デウバ首相はこう答えている。

「われわれは中国と極めて良好な関係をもち,中国とのいかなる問題にも直面していない。・・・・そのことにつき,インドは全く懸念するに及ばない。もちろん,いかなるときも,ネパールは国土を反印活動に利用させはしない。」(*4)

中国は,ネパール政府のこうした対印外交努力を評価し,習近平主席の訪ネ(9月中旬予定)をもって報いようとしている。

4.インド支持へ前のめりの日本
ドクラム紛争につき,「中立」堅持のネパールとは対照的に,日本は世界に先駆け,インド支持の立場を表明した。インド各紙はこれを絶賛,平松駐印大使(駐ブータン大使兼任)の発言を詳細に伝えている。

たとえば,ヒンドゥスタン・タイムズは,平松大使が8月17日の会見で次のように語ったと伝えている。

<ヒンドゥスタン・タイムズの取材(8月17日)に対し,平松大使はこう答えた。「ドクラムはブータンと中国との係争地であり,両国は国境交渉をしている,とわれわれは理解している・・・・。また,インドはブータンと協定を結んでおり,これに基づきインド軍はこの地域に派遣された,ともわれわれは理解している。」/平松大使は,ドクラムの現状を力により一方的に変えるべきではない,と語った。/日本は,ドクラム紛争につき,明確に見解を述べた最初の大国である。(*9)>

また,インディアン・エクスプレスのS・ロイも,こう述べている。<インド政府筋はこう語った。「国際社会の主要メンバーが“中立”の立場をとる中で,日本がインド支持を表明したことは,インドの立場を強くしてくれるものだ。」(*7)

このような日本称賛記事は,インド他紙にも多数みられる。そして,その際,ほぼ例外なく言及されるのが,尖閣問題である。たとえば:

Prabhash K. Dutta (*11)
日本はインドを「全面的に支持」している。「もしドクラムでの中国の行為が許されるなら,東シナ海の尖閣を失うことになる,と東京は考えているからだ。」

Geeta Mohan(*12)
日本は,中国膨張主義と対峙しており,他のどの国よりもインドの立場をよく理解している。ブータンとの関係も深い。だから日本は「インドとブータンへの明確な支持」を外交チャネルを通して表明したのだ。

このように日本のインド支持はインドを喜ばせているが,当然,中国はそれに激しく反発している。華春蛍報道官は,こう批判した。

「駐印日本大使は,(軍事的対峙につき)インドを本気で支持するつもりのようだ。彼に対しては,事実関係を確認することなく,でたらめなことをいうべきではない,と忠告しておく。・・・・ドクラムには領土問題はない。国境は両国(インドと中国)により確定され承認されている。・・・・現状を不法に変えようとしているのは,インドであって,中国ではない。」

日本は,このような中国の激しい反発を押して,インド支持を貫くのか? 安倍首相の訪印は9月中旬の予定。インドで,日本国首相がどのような発言をするか,これも注目されるところである。

【参照】(8月28日追加)
安倍首相訪印の狙いは?(人民網日本語版2017年08月23日)
 インドの各メディアは18日、「ドクラム対峙問題で日本がインドを支持」と誇示した。この2カ月でついにインドが「主要国」の支持を得たことを証明するものだ。だが同日遅く、時事通信は、平松賢司駐印大使が「インド支持」を表明したとの見方を在インド日本大使館が否定したと報じた。
 「中国とインドの国境問題は中印両国の事だ」。北京大学の姜景奎南アジア研究センター長は「南アジア諸国と他の西側国がいずれも『一方の側につかない』中、日本はじっとしていられず、先駆けて傾斜を示した。たとえ後で釈明しても、安倍内閣がインドに公然と良い顔を見せていることは隠せない」と語る。

 ■在ブータン日本大使館HP

●ドクラム対峙,終了(8月29日追加)
印中は8月28日,ドクラム軍事対峙の終了に合意,直ちに印軍は撤退した。中国の道路建設も停止された模様だが,中国軍は引き続きこの地方の軍パトロールを継続する。中国にとっては,要するに,道路建設の(たぶん一時的)中断にすぎないということか?。
 
*1 Om Astha Rai, “Deuba, Delhi and Doklam,” Nepali Times, 25-31 August 2017
*2 “Nepal, India issue joint statement, ink 8-pt deal (with full text),” Republica, August 25, 2017
*3 Prabhash K Dutta, “Doklam standoff continues, India and China jostle to win over Nepal,” India Today, August 24, 2017
*4 Suhasini Haidar & Kallol Bhattacherjee, “On Doklam, Nepal walks a tightrope,” The Hindu, AUGUST 24, 2017
*5 “Nepal’s Non-Aligned Stand On Doklam Issue,” http://businessworld.in/, 24-08-2017
*6 Narayani Basu, “What the India-China Doklam Standoff Means for Nepal,” The Diplomat, July 19, 2017
*7 Shubhajit Roy, “India-China standoff at Doklam: Japan throws weight behind India and Bhutan, says no side should try to change status quo by force,” Indian Express, August 19, 2017
*8 “China rebukes Japan for comment on Doklam,” Times of India, Aug 19, 2017
*9 Jayanth Jacob, “Doklam standoff: Japan signals support to India over border row with China,” Hindustan Times, Aug 18, 2017
*10 Sutirtho Patranobis, “Doklam standoff: China dismisses Japan’s support for India,” Hindustan Times, Aug 18, 2017
*11 DuttaPrabhash, “Why Japan lent support to India against China over Doklam standoff,” India Today, August 18, 2017
*12 Geeta Mohan, “Doklam standoff: Japan backs India, says no one must use unilateral force in bid to change status quo,” India Today, August 18, 2017
*13 「中国はインドと争ってでもチベットから南下したい」,北の国から猫と二人で想う事,http://blog.livedoor.jp/nappi11/archives/4812343.html

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/08/27 at 19:19

デウバ首相とインド

デウバ首相は,一般に,親印米と見られており,この方面での評判はむろん悪くはない。たとえば,印ネパール学の権威SD・ムニ氏(ネルー大学名誉教授)は,コングレス(NC)=マオイスト(CPN-M)連立維持を高く評価し,デウバ新首相への期待を次のように表明している。
 ▼SD Muni, “Deuba’s Nepal: The challenges he faces,” The Indian Express, 9 Jun 2017

1.公約を守ったプラチャンダ前首相
「プラチャンダは,NCとの約束を反故にし,UMLの支持を得て政権を維持することもできた。幸いなことに,彼はそうはしなかった。国民とNCに対する約束を,彼は守ったのだ。」

2.UMLの難点
では,議会第二党のUMLとの連立は,なぜだめなのか? 「UMLは,残念なことに『山地』上位カーストと平原マデシやジャナジャーティとを 社会的に分断・対立させることをいとわない。」そのため,UML=NC連立政権のときは,マデシ,ジャナジャーティ,ダリット,女性が疎外された。

また,UML=マオイスト連立政権のときは,UMLが自党の支持拡大のためマオイストの地盤を侵食したため,プラチャンダは連立を解消せざるをえなかった。

さらにUML=NC=マオイストの大連立も,安定と発展はもたらさなかった。

3.ベターな選択としてのNC=マオイスト連立
結局,UML抜きのNC=マオイスト連立が,現状ではベターな選択となる。「NCとマオイストの二政党は一般党員/選挙区住民レベルでの利害対立がなく,したがってこの二党連立はネパールに必要な安定と発展をもたらすものであり,ベターな選択である。」

4.デウバ首相の政治課題
(1)内政
「デウバは,首相就任後すぐに,三つの重要政策を発表した――憲法施行,周縁的諸集団のための憲法改正,そしてネパール国民の発展促進である。」これらの課題は,難しくはあるが,デウバ首相は593議員のうちの388議員の支持を得て選出されたのであり,決して不可能ではない。
(2)外交
「デウバのもう一つの課題は,彼自身にもよくわかっていることだが,印中の安定したバランスを維持することだ。」

「ネパールは,中国がスリランカ,ミャンマー,そしてもちろんパキスタンにおいて何をしてきたのか,それを見て学ぶべきである。中国は,これらの国において,経済協力やインフラ投資を手掛かりとして,その戦略的諸目的を断固として強力に推し進めて来たのだ。」

5.インドのNC=マオイスト連立支持
「いまデウバに必要なのは,故GP・コイララの決断力と,その連立相手にして継承者たるプラチャンダの柔軟な強靭さを併せ持つことだ。」

「インドは,NC=マオイスト連立を公然と支持してきたのであり,今後もその連立が継続されることを期待している。」

――以上が,ムニ氏記事の要点である。ムニ氏,あるいはインド筋が,親中ナショナリストのUMLを警戒し,NC=マオイスト連立に期待していることは明らかである。かならずしもデウバ首相その人への期待ではないかもしれないが。


 ■SD・ムニTwitterより/ムニ著『インドとネパール』表紙

【参照】ネパールの「中国カード」とインド国益:SD・ムニ

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/06/10 at 18:45

カテゴリー: インド, 外交, 政党, 中国

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「一帯一路」にネパールも参加

「一帯一路(OBOR=One Belt One Road)」は,陸と海の現代版シルクロードによりアジア・中東・欧州を一つの緊密な経済圏にしようとする,中国主導の壮大な計画。その第1回国際会議が5月14-15日,北京で開催される。

ネパールは,すでに幾度かOBOR参加の意向を表明しており,プラチャンダ首相が3月に訪中したときにも直接その旨伝えたが,正式の了解覚書調印は今日(5月12日),ネパール外務省において行われた。北京開催のOBOR国際会議には,KB・マハラ副首相兼蔵相らが参加の予定。

OBORへのネパールの期待は大きい。了解覚書調印式に出席していたPS・マハト外相も,「道路と鉄道はネパールにとって重要であり,この分野への投資を期待している」と語っている。

一方,南隣のインドは,中国主導のOBORには消極的だという。しかし,ロシア,イラン,ネパール,スリランカなど周辺の国々はこぞって参加しそうだし,国際機関,たとえばUNDPも下掲のようなポスターをネットで拡散している。こうした状況で消極的,あるいは不参加となれば,インドは取り残されかねない。インドはどう動くか? ネパールにとっても気になるところであろう。

[追加]インド不参加。ドイツ,ハンガリー等は関係文書署名拒否(朝日新聞,5月17日)

 
 ■UNDP Nepal, Twitter, 12 May 2017/UNDP China(*3)

*1 “Nepal officially signs OBOR,” Republica, May 12, 2017
*2 “Nepal, China sign framework deal on OBOR,” Kathmandu Post, May 12, 2017
*3 Christina Pinna, “UNDP and China’s Belt and Road Initiative,” 19 Sep 2016 (isid.unido.org)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/05/12 at 19:08

中ネ共同軍事訓練の地政学的意味

ネパール国軍と中国人民解放軍が,カトマンズの「パラ軍学校」において,初の共同軍事訓練「サガルマータの友好2017」(4月16~25日)を実施している。これは,ネパールをインド勢力圏内の一小国とする伝統的な見方からすると,驚くべき新たな事態とみてよいであろう。(参照:ネ中共同軍事訓練「サガルマータの友好2017」

そのことを中国政府側から明快に分析し,その意義を高く評価しているのが,『環球時報』のこの記事:
 ▼Liu Zongyi, “Indian Worry Over China-Nepal Drill Outdated,” Global Times, 21 Apr 2017
著者のLiu Zongyi氏は上海国際問題研究院の上席研究員。以下,この記事の概要を紹介する。

—– —– —– —– —–

「サガルマータの友好2017」は,テロ対策と災害救助を目的とする中国とネパールの共同軍事訓練である。ネパールは,中国と緊密な経済関係を持つに至り,「一帯一路」への参加も希望している。それには,テロ対策を進め,「この地域の安全と安定」を図ることが不可欠だ。また,ネパールは地震など災害多発国であり,災害救助訓練も必要だ。

この共同軍事訓練は,こうした目的を持つものであり,当初,大隊規模での実施を予定していたが,インドの対ネ圧力により,「パラ軍学校」での小規模な訓練となってしまった。が,たとえそうであっても,この共同訓練には大きな意義がある。

インドはこれまで,冷戦的な地政学的観点から,ネパールやブータンを「自国の勢力圏内」におき,「中国との間の緩衝地帯」として利用してきた。そして,ナショナリズムが高揚し,モディ首相が就任すると,インドは「対中強硬策」をとり,「中国が南アジアやインド洋沿いの国々と経済協力を進めることを警戒し,中国の影響力を押し返そうとしてきた」。

ネパールは,そのようなインドに「政治的,経済的,文化的など様々な面で依存してきた」。そのため「ネパール人の多くが,シッキムのように,自分たちも国家としての独立を失うのではないかと恐れてきた」。

そのネパールにとって,「この共同軍事訓練は,中ネ二国間関係が政治的・経済的・文化的なものから,軍事的防衛の領域にまで拡大したこと」,あるいは「ネパールが大国間バランス外交に向け前進したこと」を意味する。さらにまた,「中国との共同軍事訓練は,ネパール国内の民族的分離主義を抑止することにも役立つ」。

中国は,中国‐ネパール‐インドの三国間関係につき,明確な立場をとっている。中国は,ネパールが中国とインドの架け橋となることを願っている。中国‐ネパール‐インド経済回廊を前進させることにより,これら三国すべての発展を加速できる。インドが中国とネパールの協力をどう見るにせよ,中国とネパールとの協力は,両国民の利益となるものであり,拡大し続けるであろう。

—– —– —– —– —–

以上が,Liu Zongyi上席研究員の『環球時報』掲載記事の要旨。中ネ共同軍事訓練をバックに唱えられているにせよ,議論それ自体は,まったくもって正論である。ネパールが独立を堅持し,もって中印の架け橋になるとは,ネパール政府が以前から繰り返し唱えてきたネパール外交の表向きの基本方針だし,中ネ印の平和的経済発展にも反対のしようがない。

たしかに,新たな「正義と平和」は,新たな強者の側にある。ネパールは,昇竜・中国に導かれ,インドの勢力圏から脱出し,相対的により独立した「中印のバランサー」ないし「中印の架け橋」へと向かうのであろうか?


■ネ中共同軍事訓練(国軍HP)/一帯一路(Xinhua Finance Agency HP)

谷川昌幸(C)

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2017/04/25 at 19:10

カテゴリー: インド, ネパール, 経済, 軍事, 外交, 中国

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ネ中共同軍事訓練「サガルマータの友好2017」

ネパール国軍と中国人民解放軍が,国軍パラ訓練校(マハラジガンジ)において,初の共同軍事訓練「サガルマータの友好2017」作戦を開始した。4月16~25日実施の予定。

ネパールは,軍事的には,これまでインドや英米との関係が深かった。ところが最近,中国が急接近,資金的にも教育訓練でも中国援助が急増している。その結果,ネパール国軍の中に,有力な親中派が形成され始めたという。

中国は2002年,バングラディシュと防衛協力協定を締結し,武器も供給し始めた。そのような関係を,ネパールやスリランカとも構築したいと中国は考えているという。そうなれば,パキスタンはすでに軍事的に中国と密接な関係にあるので,インドを封じ込めつつ「一帯一路(OBOR)」を実現するという中国の野望は,大きく前進することになるであろう。

【参照】
・2008年:中国,ネパール国軍に対し260万ドルの援助約束。
・2011年:中国,ネパール国軍に対し777万ドルの援助約束。
・2013年6月:中国,武装警察隊訓練校開設のため36億ルピー援助表明。
・2017年3月:対ネ投資会議において,中国が83億ドル(ネパールGDPの40%相当)のインフラ投資表明。
・2017年3月23-25日:中国国防大臣ら軍関係幹部がスリランカ訪問を終え,訪ネ。大統領,首相,国防大臣らと会談。共同軍事訓練について協議。中国側,ネパール国軍に対し3千2百万ドル援助を表明。
・2017年3月27日:中国,訪中したプラチャンダ首相に5月地方選援助(1億3千6百万ルピー)を表明。
・2017年4月16~25日:ネパール・中国共同軍事訓練「サガルマータの友好2017」

*1 “Nepal-China Joint Military Training Commences,” Nepalese Army HP (n.d.)
*2 “10-day Nepal, China joint army drill starts today,” Kathmandu Post, Apr 16, 2017
*3 Anil Giri, “Nepal-China joint military drill begins,” Hindustan Times, Apr 16, 2017
*4 Nihar R Nayak, “China’s growing military ties with Nepal,” The Institute for Defence Studies and Analyses HP, March 31, 2017

 ■ネ中共同軍事訓練(国軍HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/04/18 at 18:14

カテゴリー: インド, ネパール, 軍事, 中国

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