ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for the ‘マオイスト’ Category

ネパール共産党の発足と課題(4)

4.権威主義
ネパール共産党(NCP)はUML系を主力としており,したがってUMLの党体質を継承する可能性が高い。高カースト寡頭支配,ナショナリズム,男性優先など。

これらのうち,いま特に問題とされているのが男性優先。先の連邦議会選挙におけるUMLの女性後回しは,際立っていた(「比例制は女性特待議席か(1),(2)」参照)。その男性優先体質が,そのまま新党NCPに継承され,NCP役員選任も男性優先となっている。

ネパール憲法269(4)条は政党役員構成を比例的包摂とすることを定め,政党登録法15(4)条は政党各委員会委員の三分の一以上を女性とすると定めている。

ところが,5月26日現在,NCP中央委員会は441委員中,女性は73人(17%)だけ。書記局は9人全員が男性。そのため,選管は,現状ではNCPの政党登録は認めない方針という(*2,3)(女性だけでなく,ダリットやマデシもNCP役員には少ない。)

NCPは,ネパール流のやり方でつじつまを合わせ,登録することにはなるだろうが,たとえそうではあっても,非包摂的男性優先権威主義の体質は牢乎として抜きがたいと見ざるを得ない。

第3州UML比例当選者全員女性(2017年州議会選挙)

5.移行期正義
UMLとMCの合併において深刻な事態となりそうなのが,人民戦争期(1996-2006)の人権侵害をどう取り扱うか,つまり移行期正義の問題である(*5,6)。

人民戦争ではUMLとマオイスト(現MC)は敵であり,非戦闘員をも巻き込み,激しいゲリラ戦を繰り広げた。双方が,暴行,強奪,拉致,虐殺,強制失踪など,多くの重大な人権侵害に直接的あるいは間接的に関与した。その多くが,いまだ未解決のままとなっている。

今回のUML・MC合併により,その人民戦争における加害者と被害者が同じ党のメンバーとなり活動することになった。これは当事者,とりわけ被害者側にとっては,極めて難しい事態である。

オム・アスタ・ライは,5月25日付記事「昨日の敵は今日の同志」(*4)において,次のように述べている。

マオイスト(現MC)は,人民戦争において,まずNCを攻撃し,次にUMLを攻撃した。UMLは,1996年ロルパで9人が焼き殺されるなど,約200人がマオイストに殺された。こうしたマオイストによる虐殺,拷問,拉致,強制失踪などの被害者や被害者家族は,事件の真相解明と責任者の処罰および損害賠償を求め裁判所や真実和解委員会(TRC)に訴えてきた。ところが,今回のUML・MC合併により,下手人と見られる人々が同志となってしまった。しかも,その中には上役や強大な権限を持つ幹部になった人々もいる。

たとえば,1999年2月マオイストに斬殺されたUML幹部ヤドゥ・ガウタムの家族の場合。彼らは裁判所や真実和解委員会に訴える一方,妻ティルタはUML議員となり政治活動をしてきた。ところが,UML・MC合併により,夫殺害に関与したMC系議員と同じNCPの議員となり,同僚として同席することになってしまった。

また,UML傘下諸組織においても,同様のことが生じている。家族を攻撃し苦しめたマオイスト傘下組織と統合し,同僚として,あるいは時には部下として行動を共にしなければならない。これはがいかに難しく苦しい事態かは,想像に難くない。

「合併によるネパール共産党(NCP)の成立は,マオイスト・ゲリラに殺されたUML党員の家族を難しい状況に陥らせた。家族は真実と正義を求めているが,下手人はいまや彼らの指導者なのである。」(*4)

以上のように,昨日の敵を同志とすることには,想像を絶する苦難が伴う。人民戦争の終結はほんの十数年前のことであり,被害はまだ生々しく記憶され残っているのだ。

そして,忘れてはならないのは,この記事では触れられていないが,人民戦争においては,政府の掃討作戦により,マオイスト戦闘員やシンパ(およびシンパと見られて人々)の側にも多大な被害が出たこと。警察,武装警察,そしてのちには王国軍の側も,拷問,拉致,虐殺,強制失踪など,多くの重大な人権侵害に関与した。そこに,UMLは体制側政党として直接的あるいは間接的に関与しており,当然,責任は免れない。

人民戦争は,内戦でありゲリラ戦であった。その傷は広く深く,わずか十数年で癒えるはずがない。その状態での,かつての不倶戴天の敵との合併統一には大きな困難が伴うのは当然と覚悟しなければならないであろう。

これは,戦時から平時への移行期正義の問題。複雑で難しい課題なので,後日,改めて考えてみることにしたい。

ウジャン・シュレスタ殺害事件

*1 “Fringe party raps ruling party for copying its name,” Republica, 21 May 2018
*2 “EC likely to reject NCP registration,” Republica, 26 May 2018
*3 “Only 16 pc representation for women,” Himalayan, 22 May 2018
*4 Om Astha Rai, “Yesterday’s enemies, today’s comrades,” Nepali Times, 25 May 2018
*5 選挙と移行期正義(1):ウジャン・シュレスタ殺害事件
*6 選挙と移行期正義(2):マイナ殺害事件

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/06/05 at 14:30

ネパール共産党の発足と課題(3)

3.UML系とMC系の派閥争い
党名以上に問題なのが,新生ネパール共産党(NCP)のキメラ体質。党内2大派閥のUML系とMC系は,合併を機に差異解消・融合に向かうというよりも,むしろ対立抗争の継続・激化に陥る危険性の方が大きそうだ。

(1)UMLによるMC吸収合併
ネパール共産党は,UMLとMCの対等合併を建前としているが,議会第1党であったUMLと第3党であったMCの間には大きな力の差があり,実際には,この合併はUMLによるMCの吸収合併の色彩が濃い。そのため,あちこちで無理が生じ,軋轢が激化し始めている。

そもそも合併調印・新党発足は,マダン・バンダリ追悼日の5月17日のこと。マダン・バンダリは,1991年発足のUMLの初代書記長。「人民多党制民主主義(जनताको बहुदलीय जनवाद People’s Multiparty Democracy)」を提唱し,それをUML党是として確立,以後の党勢拡大への礎とした。ところが,1993年5月16日,バンダリを乗せた車がトリスリ川に転落,彼は死亡してしまった。UMLはこれを事故に見せかけた暗殺と考え,KP・オリを長とする調査委員会をつくり調べたが,国王政府は結局それをうやむやにしてしまった。しかし,UMLを中心にバンダリを尊敬し慕う人は今も多い。彼らはバンダイは暗殺されたと信じ,命日前後には彼を追悼するための文書を発表したり催事を催したりしている。今年は5月17日が,そのバンダリ追悼記念日。そして,まさにその日,UMLとMCは合併し,「ネパール共産党」を発足させた。これが偶然の一致とは,とうてい思えないであろう。

 
 ■第25回マダン・アシュリト追悼記念式典(アシュリトは同乗死亡党幹部,NCP-Facebook, 2018-05-17)

UMLによる吸収合併の印象は,ネパール共産党(NCP)の基本理念やシンボルを見ると,さらに強くなる。むろん,これらは暫定的なものであり,正式には最初の党大会(1~2年後?)で議論され決定されることになっているが,暫定的なだけにかえって合併時の力関係をストレートに反映しており,興味深い。

NCPはマルクス・レーニン主義を党イデオロギーとし,人民多党制民主主義を党是とする。毛沢東主義(マオイズム)はとりあえず外されており,UMLの人民多党制民主主義が前面に出る結果となった。

次にNCPの党旗や選挙シンボルを見ると,ここでもUML優位は明白だ。むろん党旗は,赤地に鎌・槌が共産党の基本で,ネパールのように共産党乱立だと,党名同様,他党と区別できる斬新なものをゼロから考案するのは難しい。(同じデザインの党旗は,中国共産党など他にもいくつかある。)それはそうだが,それにしてもUML党旗・選挙シンボルの新党NCPへの継承は,あまりにも象徴的,今回の党合併の実態をビジュアルにシンボライズしている。

       党旗      選挙シンボル     党シンボル
NCP 
UML 
M C 

これら党旗・選挙シンボルのうち特に問題となりそうなのが,他党との識別のために用いられる選挙シンボルの方。選挙になればいたるところ選挙シンボルマークで埋め尽くされるし,選挙時以外でも選挙シンボルマークは政党をアピールするものとして好んで用いられている。その選挙シンボルマークとして,NCPがUMLのものをそのまま継承することにしたという事実からだけでも,今回の合併がUML優位であったことは明らかである。これから先,MC系党員は本当に,太陽マークの下で政治活動を続けたり,選挙を戦ったりするのであろうか?

(2)役職の対等配分
このように党是や選挙シンボルではUMLに大きく譲歩したMCだが,政府と党の役職については,対等を目指して頑張った。名を捨て実を取る作戦であろう。

党役職については,上掲NCP概要をご覧いただきたい。議長はオリ(UML)とプラチャンダ(MC)の共同議長制,常任委員会はUML58%対MC42%,中央委員会はUML55%対MC45%と,ほぼ互角に配分されている。代議院議員はUML121対MC53と,圧倒的にUMLが多いのと対照的だ。(ただし書記局だけは,議長と書記長を含むためか,いまのところUMLがやや多い。)

公職ポストも割当はまだ流動的だが,合併の基本方針を取り決めた「7項目合意」(2月19日)によれば,これも対等に近い配分が予定されている。首相は任期前半がオリ,後半はプラチャンダ。大統領と下院副議長はUML,副大統領と下院議長はMC。大臣の割当は今後協議。このように,MCには下院議席とは不釣り合いなほど多くのポストが約束されている。

しかし,こうしたポストのMC優遇が割を食うUML有力者の反発を招くのは避けがたい。そこに他党やインド筋などが介入すれば、政権不安に陥る恐れもなしとはしない。ネパール政治は、そうした混乱の繰り返しであったと言っても過言ではないであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/06/04 at 10:38

ネパール共産党の発足と課題(2)

2.党名強奪?
このように,議会第1党のUMLと第3党のMCが合併して議会絶対多数を占める「ネパール共産党」が成立したが,これですんなりと長期安定政権となるかどうかは,必ずしもはっきりしない。そもそも党名の「ネパール共産党」からして,もめている。

周知のように,ネパールは世界に冠たる共産党天国。大中小さまざまな共産党が無数にある。そのため党名選びも大変,どう工夫しようが既成政党と重なってしまう。ましてや「ネパール共産党」のような,歴史的に由緒のある名称となれば,すでに他党が選挙管理委員会に登録し使用していても何ら不思議ではない。

事実,「ネパール共産党」の名称も,すでに選管登録され,同党は昨年の連邦議会選挙にも出ている(当選者なし)。「ネパール共産党」は既に存在し,その党名使用は憲法で認められた同党の権利なのである。

憲法269条(2) 政党は,・・・・法に定める手続きに従い,選挙管理委員会に党名を登録しなければならない。

ところが,UMLとMCは,合併後の新党にこの「ネパール共産党」という,一国全体を代表する党たるにふさわしい―UMLとかMCといった限定のない――党名をどうしても使用したかったらしく,既存の「ネパール共産党」に党名の譲渡を申し入れた。が,この申し入れは,経緯は不明だが,断られてしまった(*1)。

そこで,これも詳細は不明だが,UMLとMCは,彼らのネパール共産党の党名の下に下線を引くことにして,選管に政党登録を申請したらしい。これに対し,既存の「ネパール共産党」のリシラム・カテル議長は激怒し,UMLとMCによる新党名登録を憲法違反として訴えることにしたという(*1)。

 ■NCP文書ロゴ(アンダーライン必須?)

たしかに,下線の有無で党を区別するのは,無理だ。新聞やネットでも,Nepal Communist Partyと下線を引いている記事は,見た限りでは皆無だ。たとえ選管が下線付き党名の登録を認めたとしても,「ネパール共産党」の名称は,巨大な新党が既成事実をつくり上げ,結局は乗っ取ってしまうことになるのだろう。

 ■ネパール共産党FB(5月18日)

*1 “Fringe party raps ruling party for copying its name,” Republica, 21 May 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/06/03 at 10:51

カテゴリー: マオイスト, 政党

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ネパール共産党の発足と課題(1)

1.ネパール共産党の発足
ネパール共産党(NCP)が5月17日,ネパール共産党統一マルクスレーニン主義派(CPN-UML)とネパール共産党マオイストセンター(CPN-MC)の合併により,正式に成立,発足した。

UMLとMCは2017年10月3日,合併への意向を共同発表,年末の連邦議会・州議会ダブル選挙を合併前提の選挙協力により戦い,勝利した。といっても大勝したのは相対的に大きなUMLであって,MCの方は期待したほどの成果は得られなかった。

そうしたこともあって,UML=MC連立政権は選挙後成立・発足したものの,両党合併の方は難航し,紆余曲折の末,ようやく半年近くかかって合意に達し,この5月17日正式に合併となったのである。

ネパール共産党 नेपाल कम्युनिष्ट पार्टी (नेकपा) Nepal Communist Party (NCP)
設立:2018年5月17日[CPN-UMLとCPN-MCが合併し設立]
イデオロギー:暫定的にマルクス・レーニン主義を党イデオロギー,人民多党制民主主義を党是とする。毛沢東主義の扱いは不明。正式には第一回党大会で決定。
党旗  選挙シンボル180602c
共同議長:KP・オリ[UML],PK・ダハル(プラチャンダ)[MC]
書記長:BP・パウデル[UML]
書記局:9[UML6,MC3]
常任委員会:45[UML26,MC19]
政治局:135
中央委員会:441[UML241,MC200]
大統領:BD・バンダリ[UML]
首相:KP・オリ[UML]
代議院議長:KB・マハラ[MC]
参議院[国民院]議長:GP・ティミルシナ[UML]
代議院(定数275)議員:174[UML121,MC53]
参議院[国民院](定数59)議員:39[UML27,MC12]
州議会:7州のうち第2州を除く6州で議会第1党
[*5月26日現在]

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/06/02 at 17:55

オリ首相就任と共産党統一

1.オリ首相就任
「統一共産党(CPN-UML)」のKP・オリ(खड्ग प्रसाद शर्मा ओली)議長が2月15日,ネパール第41代首相に就任した。

オリは,1952年2月22日,東部テラトゥム生まれのブラーマン。1970年頃から共産主義運動に参加,ジャパ闘争を闘い,73年から87年にかけ14年間投獄された。出獄後,UMLルンビニ地区代表(1990年就任)などを経て,UMLジャパ郡選出下院議員となり,党や政府の要職を歴任した。
・下院議員初当選 1991
・内相 1994-95
・副首相/外相 2006-07
・UML議長 2014.07-
・首相 (1)2015.10.11-2016.08.03 (2)2018.02.15-

2.共産党統一
オリUML議長が首相に就任できたのは,2017-18年の連邦議会選挙において,議会三大政党のうちの二党たるUMLと「ネパール共産党・マオイストセンター[マオイスト](CPN-MC)」が選挙後の統一を掲げ,安定と繁栄を訴え,選挙共闘により勝利したからである。

連邦議会代議院(下院)は議員定数275。このうちUMLは121(44.0%),MCは53(19.3%)の議席を獲得した。未曽有の大勝利である。

この選挙共闘の成功を受け,UMLとMCは選挙前に約束していた両党の統一に向け最後の詰めを行い,2月19日「7項目合意」に署名して一つの共産党となった。仮称「ネパール共産党(Communist Party of Nepal[CPN])」。

この新生「ネパール共産党」は,代議院(定数275)において174議席(63.3%)をもつ。これだけでも絶対多数を優に超えるが,もしマデシ系のRJP-N(17議席)かFSF[SSF]-N(16議席)の協力が得られるなら,三分の二を超え,憲法改正ですら可能となる。強力な安定政権の確立・維持に,形式的には十分な議席数である。

3.新生「ネパール共産党」の先行き?
しかしながら,新生「ネパール共産党」のオリ政権が強力な長期安定政権となるかどうかは,まだ何とも言えない。

(1)党名。新生政権党は「ネパール共産党(Communist Party of Nepal[CPN])」を名乗りたいらしいが,ネパールには共産党が多数あり,「ネパール共産党」もむろんすでに登録使用されている。看板にすぎないとはいえ,名は体を表す,おろそかにはできない。新党の名称はどうなるか?

(2)党是。「マルクス・レーニン主義」には異論はないが,「毛沢東主義(マオイズム)」はどうするか? 多数派のUML系は,もちろん由緒ある「人民多党制(複数政党制)民主主義」を党是とすることは当然と考え,譲る気はない。これに対し,人民戦争を戦い抜き事実上勝利したMC系は,多かれ少なかれ原理主義的な「毛沢東主義(マオイズム)」を放棄しはしないであろう。

(3)権益配分。議席,政府役職,党役職等の権益をどう配分するか? 政治闘争の赤裸々な本音部分。今回,MCが「ネパール会議派(NC)」との連立を解消してUMLに乗り換えたのも,NCがMCへの役職配分30-40%を拒否したのに対し,UMLは40%を約束したからだといわれている(*1)。身近な現世利益は現実政治を動かす大きな要因である。
*1 Kamal D. Bhattarai, “The (Re)Birth of the Nepal Communist Party,” The Diplomat, 21 Feb 2018.

新生「ネパール共産党」は,いまのところUML系6対MC系4の取り決めを守り,議席や主要な役職を配分しつつある。

党議長は,UML系のオリとMC系のプラチャンダ(PK・ダハル)が第一回党大会まで共同で務める(共同議長)。ただし,党大会がいつになるかは不明。

首相は,前半3年をオリ,後半2年をプラチャンダが務める。ただし,政権たらいまわし批判を恐れ,密約になっているともいわれており,約束通り政権が回されるかどうかは不明。

大統領と下院副議長はUML系,副大統領と下院議長はMC系に割り振る予定。

大臣ポストは,UML系11(61%),MC系7(39%)と,約束通り,6対4にきっちり割り振った(2018年2月24日現在)。しかし,これで不満はないのか? 以前であれば,大臣ポストをいくらでも増やし,ばら撒くことができたが,いまは憲法66(2)条により25大臣以下に制限されている。

(4)対印・対中関係。メディア,特に日本の新聞は,「親中安定政権誕生」などと書き立てているが,ネパールの対印・対中関係は,そう簡単ではない。

そもそも,いまや昇竜・中国を無視しては,世界の大半の国々は自国国益を守りえない。嫌中・日本ですら,中国無視や敵視は観念論,中国をよく観察し互恵関係を深めていかざるを得ない。ましてや国境を長く接し歴史的関係も深いネパールが中国に接近するのは,国益を考えるなら,当たり前。問題は,中国にどう接近し,どのような関係を構築していくかだ。

オリ首相はブラーマンで,もともと親印。親中の国王と闘い,14年間も投獄された。そのオリが,グローバル化の下での中国台頭により中国カードを手にし,使い始めたので,親中と見られているに過ぎない。国益第一なら,他の政治家であっても,多かれ少なかれ同じことをするはずだ。

一方,プラチャンダもブラーマンで,もともと親印。ネパール・マオイストは,中国共産党をニセ毛沢東主義者と非難し,激しく攻撃していた。中国側も,ときにはネパール体制側を支援しマオイスト弾圧に加担したことさえあった。いまはプラチャンダも中国に接近しているが,オリ同様,それは国益の観点からの戦略的な選択とみてよいだろう。

そこで問題は,オリ首相がたとえ戦略とはいえ,中国により接近した場合,インド筋が何らかの形で介入し,オリ政権打倒を画策するのではないかということ。そして,その際,働きかけのターゲットとなるのは,「ネパール共産党」反主流派のMC系,つまり親印・親マデシのプラチャンダではないか,ということ。

政権党「ネパール共産党」においては,オリ首相の率いるUML系が多数派。プラチャンダ率いるMC系は少数派であり,どうしても冷や飯を食わされ,不満がたまる。そこにインド筋が働きかけ,MC系の造反,連立組み換えによりオリ政権を崩壊させることは十分に考えられることだ。

事実,この数年の政権交代は,第三党マオイストによる連立相手組み換えによるものがほとんど。マオイストは2015年,UMLと組んでオリを首相とし,2016年には相手をコングレス党(NC)と取り換えてプラチャンダを首相とし,そして今度またUMLと組んでオリをふたたび首相とした。第三党のマオイストが,キャスティングボートを握っている。

そこにマデシ問題がらみでインド筋が介入してくるかもしれない。インドは,NC,マオイスト,マデシ系諸党の連携による親印政権を期待しているとみられている。

(5)移行期正義。「ネパール共産党」内のMC系の人々にとって,人民戦争期の重大な人権侵害をどう処理するか,つまり移行期正義の問題をどう解決するかは,個々人の浮沈に直接かかわる重大問題である。人民戦争期には,国軍,武装警察など政府側だけでなく,マオイスト側にも,重大な人権侵害に加担した人が少なからずいた。被害者側は,国際社会の強力な支援をバックに,責任者の処罰と損害賠償を求めている。これを受け,UML系も移行期正義の実現には肯定的である。しかし,もしオリ政権がこの問題に一歩踏み込めば,幹部を含め加害を疑われている人の多いMC系が激しく反発し,たちまち政権は動揺するであろう。オリ首相は,この難問をどう処理するか?

(6)憲法改正。マデシ系の人々は,インドの強力な支援をバックに,彼らの権利が認められるよう憲法を改正することを要求している。この要求に対し,MC系は肯定的,UML系は否定的。この問題は,インドが非公式国境封鎖を強行せざるをえなかったほど深刻。オリ首相は,この憲法改正問題をどう考え解決を図るつもりか?

以上のように見てくると,オリ内閣が親中長期安定政権になるかどうかは,まだいずれともいえないと考えざるをえない。今後の成り行きが注目される。


■オリ首相ツイッター(2月23日)/プラチャンダ議長フェイスブック(2月18日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/02/25 at 17:46

インドはネパールの真の友人たれ:SD・ムニ(1)

ネパールの2017年選挙は,インドでも非常に関心が高く,多くの記事や分析がネット上にあふれている。左派連合大勝によるネパールの赤化,反印親中政権成立へ,といった一面的・感情的な記事が多いなか,SD・ムニのこの長文記事「ネパールの支配的勢力となった左派連合」は,バランスの取れた選挙分析であり,印政府への提言も冷静な現実的なものである。
S D Muni, “Left Alliance Now a Dominant Force in Nepal,” The Wire, 16 Dec 2017.

SD・ムニは,「防衛研究分析センター」(ニューデリー)名誉研究員,ネルー大学名誉教授。主な研究分野は国際関係論,安全保障論,南アジア地域研究。印ネパール学の権威の一人。ネルー大学,シンガポール国立大学,バナラシ・ヒンドゥー大学などで研究・教育にあたったのち,駐ラオス印大使など重要な外交実務も担った。「地域戦略研究所」(コロンボ)創立メンバー。主要著書(ネパール関係ほか):
 ・Foreign Policy of Nepal, 1973(2016)
 ・India and Nepal: A Changing Relationship, 1992
 ・Maoist Insurgency in Nepal, 2003(2004)
 ・India’s Energy Security, 2002
 ・Creating Strategic Space: China and Its New ASEAN Neighbours, 2003
 ・India’s Foreign Policy: The Democracy Dimension, 2009

以下,ムニの上記ネパール選挙分析記事の要点を紹介する。


 ■SD・ムニ(防衛研究分析センターHP)/『ネパールの外交政策』表紙/『ネパールのマオイスト反乱』表紙

—–<以下,ムニ記事要旨>——————————-

1. 左派連合の勝因,NCの敗因
2017年国会・州会選挙では,統一共産党(CPN-UML:UML)とマオイスト(マオイスト・センター,CPN-MC:MC)からなる左派連合が大勝,国会(連邦議会)下院の圧倒的多数派となり,州議会でも7州のうちの6州で強固な第一党となる見込み。選挙前夜急造にもかかわらず,左派連合が大勝できたのは,なぜか?

(1)党首のカリスマ。UMLのKP・オリとMCのPK・ダハル(プラチャンダ)は,ともに雄弁で,政治的機知に富み,強力な組織を持ち,統率力も豊か。カリスマを持つ2党首が,「ネパール人民に安定,平和,繁栄を実現すると訴えた」こと。

(2)UMLとMCは,人民戦争で激しく敵対していたので選挙協力は実際には難しいのではないかとみられていたが,選挙が始まると予想以上に協力がうまく出来たこと。

(3)NC党首の不人気。現議会第一党で政権党のコングレス党(NC)は,党首SB・デウバ首相の弁舌が貧弱で,左派連合のNC批判に効果的に反論できなかった。

(4)NC選挙キャンペーン作戦の失敗。NCは,選挙戦を通して,左派連合は全体主義だと非難攻撃したが,まったくの的外れ。UMLやMCは,これまでに党内から極左を排除する一方,政権担当も経験,民主化し他党との権力分有の術を学び取ってきた。

また,NCはUMLがマオイストと組むことを批判したが,選挙直前までは,NC自身がマオイストと連立しており,これも説得力はまるでなかった。

その一方,NCは開発計画についてはほとんど触れず,また自党による開発成果も十分には訴えられなかった。

(5)NCと他の諸党との選挙協力の失敗。NCは,左派連合に対抗するため,マデシ系や他の非共産党系諸党との選挙協力を試みたが,いずれも失敗。

(6)マデシ系諸党は,いくつかの選挙区で予想以上に善戦したものの,いつもの分裂・乱立に陥り,結局,左派連合の大勝は阻止できなかった。

(7)国民民主党(RPP)など,立憲君主制ヒンドゥー教国家への復帰を唱える諸党の惨敗。多くの党幹部が落選し,比例区でも3%以下となり全国政党の資格喪失。

2.ネパール人民の選択は「新しいナショナリズム」
左派連合の大勝は,ネパール人民が「共産主義」を選択したことを意味しない。選挙で示されたネパール人民の意思は,「新しいナショナリズム」である。

「この新しいナショナリズムは,政治の安定と平和,速やかで総合的な開発,そしてインドに対する正当な権利の主張の三つを柱としている。」「新憲法を採択したネパール人民は,いま秩序と安定と開発を求めているのである。」

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/01/06 at 15:25

ネパール下院選,各党獲得議席

ネパール連邦議会下院選挙は,11月26日と12月7日の2回に分けて実施された。投票率66%。開票も完了し,各党の獲得議席数がほぼ確定した(比例制割当議席が一部未確定)。

[政党]:[獲得議席(小選挙区+比例制)](12月18日現在)
統一共産党(CPN-UML):121(80+41)
コングレス党(NC):63(23+40)
マオイスト(CPN-MC):53(36+17)
RJP-N*:17(11+6)
SSF-N*:16(10+6)
:5(5+0)
 (注)下院議員定数275(小選挙区165+比例制110)
  *マデシ系政党

この選挙では,初めに小選挙区の当選者が確定し,そこで左派連盟(UML,マオイストなど)が大勝したため,「赤色圧勝」,「親中政権へ」など,刺激的なタイトルの記事が多数書かれた。しかも長文が多い。過熱報道といってもよいだろう。

その後,比例制の開票が進み,ここではNCがUMLとほぼ同率の得票率となったため,報道はやや沈静化したが,それでもなお依然として多い。それだけネパール政治がいま注目されている証左とみてよいだろう。

以下では,今回の選挙に関する記事のうち興味深いものをいくつか選び,順不同で紹介する。

 ■小選挙区大勝UMLのホームページ

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/12/19 at 00:03

カテゴリー: マオイスト, 選挙, 政党

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