ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for the ‘中国’ Category

オリ首相就任と共産党統一

1.オリ首相就任
「統一共産党(CPN-UML)」のKP・オリ(खड्ग प्रसाद शर्मा ओली)議長が2月15日,ネパール第41代首相に就任した。

オリは,1952年2月22日,東部テラトゥム生まれのブラーマン。1970年頃から共産主義運動に参加,ジャパ闘争を闘い,73年から87年にかけ14年間投獄された。出獄後,UMLルンビニ地区代表(1990年就任)などを経て,UMLジャパ郡選出下院議員となり,党や政府の要職を歴任した。
・下院議員初当選 1991
・内相 1994-95
・副首相/外相 2006-07
・UML議長 2014.07-
・首相 (1)2015.10.11-2016.08.03 (2)2018.02.15-

2.共産党統一
オリUML議長が首相に就任できたのは,2017-18年の連邦議会選挙において,議会三大政党のうちの二党たるUMLと「ネパール共産党・マオイストセンター[マオイスト](CPN-MC)」が選挙後の統一を掲げ,安定と繁栄を訴え,選挙共闘により勝利したからである。

連邦議会代議院(下院)は議員定数275。このうちUMLは121(44.0%),MCは53(19.3%)の議席を獲得した。未曽有の大勝利である。

この選挙共闘の成功を受け,UMLとMCは選挙前に約束していた両党の統一に向け最後の詰めを行い,2月19日「7項目合意」に署名して一つの共産党となった。仮称「ネパール共産党(Communist Party of Nepal[CPN])」。

この新生「ネパール共産党」は,代議院(定数275)において174議席(63.3%)をもつ。これだけでも絶対多数を優に超えるが,もしマデシ系のRJP-N(17議席)かFSF[SSF]-N(16議席)の協力が得られるなら,三分の二を超え,憲法改正ですら可能となる。強力な安定政権の確立・維持に,形式的には十分な議席数である。

3.新生「ネパール共産党」の先行き?
しかしながら,新生「ネパール共産党」のオリ政権が強力な長期安定政権となるかどうかは,まだ何とも言えない。

(1)党名。新生政権党は「ネパール共産党(Communist Party of Nepal[CPN])」を名乗りたいらしいが,ネパールには共産党が多数あり,「ネパール共産党」もむろんすでに登録使用されている。看板にすぎないとはいえ,名は体を表す,おろそかにはできない。新党の名称はどうなるか?

(2)党是。「マルクス・レーニン主義」には異論はないが,「毛沢東主義(マオイズム)」はどうするか? 多数派のUML系は,もちろん由緒ある「人民多党制(複数政党制)民主主義」を党是とすることは当然と考え,譲る気はない。これに対し,人民戦争を戦い抜き事実上勝利したMC系は,多かれ少なかれ原理主義的な「毛沢東主義(マオイズム)」を放棄しはしないであろう。

(3)権益配分。議席,政府役職,党役職等の権益をどう配分するか? 政治闘争の赤裸々な本音部分。今回,MCが「ネパール会議派(NC)」との連立を解消してUMLに乗り換えたのも,NCがMCへの役職配分30-40%を拒否したのに対し,UMLは40%を約束したからだといわれている(*1)。身近な現世利益は現実政治を動かす大きな要因である。
*1 Kamal D. Bhattarai, “The (Re)Birth of the Nepal Communist Party,” The Diplomat, 21 Feb 2018.

新生「ネパール共産党」は,いまのところUML系6対MC系4の取り決めを守り,議席や主要な役職を配分しつつある。

党議長は,UML系のオリとMC系のプラチャンダ(PK・ダハル)が第一回党大会まで共同で務める(共同議長)。ただし,党大会がいつになるかは不明。

首相は,前半3年をオリ,後半2年をプラチャンダが務める。ただし,政権たらいまわし批判を恐れ,密約になっているともいわれており,約束通り政権が回されるかどうかは不明。

大統領と下院副議長はUML系,副大統領と下院議長はMC系に割り振る予定。

大臣ポストは,UML系11(61%),MC系7(39%)と,約束通り,6対4にきっちり割り振った(2018年2月24日現在)。しかし,これで不満はないのか? 以前であれば,大臣ポストをいくらでも増やし,ばら撒くことができたが,いまは憲法66(2)条により25大臣以下に制限されている。

(4)対印・対中関係。メディア,特に日本の新聞は,「親中安定政権誕生」などと書き立てているが,ネパールの対印・対中関係は,そう簡単ではない。

そもそも,いまや昇竜・中国を無視しては,世界の大半の国々は自国国益を守りえない。嫌中・日本ですら,中国無視や敵視は観念論,中国をよく観察し互恵関係を深めていかざるを得ない。ましてや国境を長く接し歴史的関係も深いネパールが中国に接近するのは,国益を考えるなら,当たり前。問題は,中国にどう接近し,どのような関係を構築していくかだ。

オリ首相はブラーマンで,もともと親印。親中の国王と闘い,14年間も投獄された。そのオリが,グローバル化の下での中国台頭により中国カードを手にし,使い始めたので,親中と見られているに過ぎない。国益第一なら,他の政治家であっても,多かれ少なかれ同じことをするはずだ。

一方,プラチャンダもブラーマンで,もともと親印。ネパール・マオイストは,中国共産党をニセ毛沢東主義者と非難し,激しく攻撃していた。中国側も,ときにはネパール体制側を支援しマオイスト弾圧に加担したことさえあった。いまはプラチャンダも中国に接近しているが,オリ同様,それは国益の観点からの戦略的な選択とみてよいだろう。

そこで問題は,オリ首相がたとえ戦略とはいえ,中国により接近した場合,インド筋が何らかの形で介入し,オリ政権打倒を画策するのではないかということ。そして,その際,働きかけのターゲットとなるのは,「ネパール共産党」反主流派のMC系,つまり親印・親マデシのプラチャンダではないか,ということ。

政権党「ネパール共産党」においては,オリ首相の率いるUML系が多数派。プラチャンダ率いるMC系は少数派であり,どうしても冷や飯を食わされ,不満がたまる。そこにインド筋が働きかけ,MC系の造反,連立組み換えによりオリ政権を崩壊させることは十分に考えられることだ。

事実,この数年の政権交代は,第三党マオイストによる連立相手組み換えによるものがほとんど。マオイストは2015年,UMLと組んでオリを首相とし,2016年には相手をコングレス党(NC)と取り換えてプラチャンダを首相とし,そして今度またUMLと組んでオリをふたたび首相とした。第三党のマオイストが,キャスティングボートを握っている。

そこにマデシ問題がらみでインド筋が介入してくるかもしれない。インドは,NC,マオイスト,マデシ系諸党の連携による親印政権を期待しているとみられている。

(5)移行期正義。「ネパール共産党」内のMC系の人々にとって,人民戦争期の重大な人権侵害をどう処理するか,つまり移行期正義の問題をどう解決するかは,個々人の浮沈に直接かかわる重大問題である。人民戦争期には,国軍,武装警察など政府側だけでなく,マオイスト側にも,重大な人権侵害に加担した人が少なからずいた。被害者側は,国際社会の強力な支援をバックに,責任者の処罰と損害賠償を求めている。これを受け,UML系も移行期正義の実現には肯定的である。しかし,もしオリ政権がこの問題に一歩踏み込めば,幹部を含め加害を疑われている人の多いMC系が激しく反発し,たちまち政権は動揺するであろう。オリ首相は,この難問をどう処理するか?

(6)憲法改正。マデシ系の人々は,インドの強力な支援をバックに,彼らの権利が認められるよう憲法を改正することを要求している。この要求に対し,MC系は肯定的,UML系は否定的。この問題は,インドが非公式国境封鎖を強行せざるをえなかったほど深刻。オリ首相は,この憲法改正問題をどう考え解決を図るつもりか?

以上のように見てくると,オリ内閣が親中長期安定政権になるかどうかは,まだいずれともいえないと考えざるをえない。今後の成り行きが注目される。


■オリ首相ツイッター(2月23日)/プラチャンダ議長フェイスブック(2月18日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/02/25 at 17:46

南アジア中印オセロ対局,ネパールの「目」は中国に

2017年ネパール選挙について,抜群に「明快」で,読んで「面白い」のは,『日経アジアンレビュー』の記事「新対局において中国がインドを包囲 次々と南アジア諸国を北京が勢力圏内に」:
 ▼Yuji Kuronuma, “China has India surrounded in their new Great Game: One after another, Beijing is pulling South Asian countries into its orbit,” Nikkei Asian Review, 19 Dec 2017.

[Yuji Kuronuma, “China Has India Surrounded In Their New Great Game: Nepal, Sri Lanka, Pakistan — Beijing is pulling South Asia into its orbit,” Spotlight Nepal, 20 Dec 2017. この『スポットライト-ネパール』掲載記事では,ネパールに加え,スリランカ,モルディブ,パキスタンなど他の南アジア諸国の状況についても分析されている。ここでは,ネパールのみを扱った『日経アジアンレビュー』掲載記事について,紹介・論評する。]

著者は,南アジアを「巨大なオセロ盤」に見立て,そこで中国とインドが盤上の「目(国や地域)」をめぐって陣取り合戦をしているとみる。

このオセロ対局で,いま勝利を手にしつつあるのが中国。「つい最近,北京の勢力下にはいった目は,2018年初に親中政権が発足する見込みのネパールである。これは,地域二大国の間の定位置にいたヒマラヤのこの国にとって,大きな変化となる。ネパールのこれまでの政権は親印の立場を維持してきたからだ。」

むろん著者も,ネパールはなおインドとの関係が特に経済や出稼ぎ労働の分野で大きいことは認める。が,中国は道路や鉄道のネパール延伸などインフラ投資を積極化,ネパールへの接近を図っている。「UML幹部らもニューデリーの『管理統制』からの離脱の意思を隠そうとはしない。」

インド情報機関[RAW?]のRSN・シンも,ネパールの政権交代は「中国の後押し」によるものであり,ネパールへの影響力拡大を狙う狡賢い中国の戦略の一部だと語ったという。

記事はこう結ばれている。「インド近隣で中国に引き寄せられている国はネパールだけではない。最近まで,近隣諸国の多くは手強い交渉相手であり,ライバル二大国を競わせ,より多くの経済的支援等の約束を獲得しようとしてきた。ところが,それらの国々が,このところすんなりと中国勢力圏内に入る動きをますます強め,インドをいたく狼狽させている。」

以上のように,この記事は南アジア政治を中印対局のオセロにたとえて説明するもの。たしかに白黒ハッキリ,「明快」でスッキリし,見て読んで「面白い」。が,南アジアの政治って,そんなものなのかなぁ? 白黒がしょっちゅう入れ替わったり,あいまいだったりするのが,南アジア政治の常態のような気もするのだが?

 ■Spotlight Nepal(20 Dec 2017)より。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/01/09 at 16:42

インドはネパールの真の友人たれ:SD・ムニ(2)

3.左派連合政権の課題
(1)UMLとMCの統一または連合維持
UMLとMCは,人民戦争で敵として戦った過去を持つだけでなく,政策の違いも多い。
・マデシの要求する憲法改正への対応の違い。[UMLは否定的,MCは肯定的]
・平和移行のための「真実和解委員会」ないし「移行期正義」についての考え方の違い。[UMLは肯定的,MCは消極的]
・大統領制の在り方についての考え方の違い。[UMLは現状維持の儀式的大統領制,MCは大統領直接選挙元首化]
・権力分有に関する考え方の違い。[有力ポスト争奪,状況により流動的]

しかし,これらの違いはあっても,UMLは,結局,MCと組まざるを得ない。それが,平和と安定と開発を実現せよという人民の意思に応えることになるのである。

(2)対印中バランス外交
左派連合が,中国主導によるブディガンダキ・ダム事業の再開を表明したように,これまで親中的であったことは事実だし,また中国も左派連合に大いに期待している。

「一帯一路発足以降,中国はオリやプラチャンダの開発計画への支援をてこに,その対ネ経済政策の拡大を図ってきた。中国は左派連合の勝利を期待していたし,また左派連合が一つの党に統一され,中国の対ネ政策や対ネ戦略を強力に支援してくれることも強く期待している。」

しかし,ネパールとしては,対中関係については,慎重であるべきだ。第一に,スリランカ,ミャンマー,モルディブ,パキスタンなどのように,対中長期債務のワナに陥るような事業は避けるべきだ。

第二に,インドの安全保障にかかわるような危険な事業には手を出さないこと。この点については,オリもプラチャンダも有能な経験豊かな指導者だ。「彼らは,印ネ関係特有の構造的制約や超えるべきではない危険ラインについて,十二分にわきまえている。」

オリもプラチャンダも,南と北の隣国とはバランスの取れた協力関係をつくり上げる,と繰り返し公言してきた。ネパールには,それが期待されるところである。

4.インドの対ネ政策の課題
(1)インドの対ネ政策失敗と左派連合の勝利
インドは,一連の不適切な対ネ政策により,ネパール・ナショナリズムに火をつけ,数十年来親印だったオリを離反させ,結局,反印的な左派連合を勝利させた。
・制憲過程への強引な介入。たとえば2015年9月には,制憲作業を中断させるため外務局長を送ったりした。
・2015年にはスシル・コイララ(NC)を支援してオリと対決させ,2016年にはプラチャンダ(MC)をUMLから引き離してNCと組ませ,オリを降板させた。
・マデシの憲法改正要求に応じないオリ政権に圧力をかけるため経済封鎖を強行した。

インドのこのような対ネ介入に対し,ネパールにはすでに,これに対抗できる「中国オプション」が開けていた。「オリは,インドの圧力に勇敢に立ち向かう強力な指導者というイメージを打ち立てることに成功した。今回の選挙結果は,こうした巧妙な彼の政治行動への報奨である。」

(2)不適切な対ネ政策
左派連合が勝利し「中国オプション」を手にしたネパールに対し,インドはこの新しい状況と折り合いをつけ,何とか巧くやっていくしかない。その現実を無視する次のような政策は,避けるべきだ。

i) 左派連合を崩壊させる策謀
インドの首相官邸,外務省あるいは他の官庁には,ネパール左派連合を崩壊させるのは容易だと考え,それを画策しようとする人々がいる。「これは,近視眼的な動きであり,インドの対ネ政策を破綻させるだろう。」左派連合は崩壊するかもしれないが,それはあくまでも内部対立によって自壊するのであって,外部からそこに介入すべきではない。

ii) ヒンドゥー教君主国への復帰画策
インド政権与党BJPの中には,ネパールをヒンドゥー教君主国に復帰させ,これをもって共産主義や中国に対抗させようとする動きがある。が,これは誤り。「彼らは,ネパールの人々が選挙により封建制やヒンドゥートヴァの諸勢力を粉砕した,その結果を直視し,そこから学ぶべきである。」

(3)真の友人たれ
「インドは,これらの破滅的冒険ではなく,左派連合がネパール人民に安定と良き統治をもたらすことができるよう支援すべきだ。インドは,言葉ではなく行動によって,ネパール人民の真の友人であり,ネパール開発への協力を誠実に望んでいることを自ら積極的に実証していくべきである。」

[補足追加(1月8日):SD・ムニ「もしインドが信頼に足る開発協力国と納得させることができなければ,ネパールにおいて中国の評価が高まることは間違いないであろう。」B. Sharma, R. Bhandari & K. Schltzdec, “Communist Parties’ Victory in Nepal May Signal Closer China Ties,” New York Times, 15 Dec 2017]

—–<以上,ムニ記事要旨>——————————-

ムニのこのネパール選挙分析は,ネパール民主政治の安定化という観点から左派連合の勝利を肯定的に評価するものであり,先に紹介したKM・ディクシトの選挙分析と共通する部分が少なくない。ネパールと印中との関係についても,両者の提言は基本的には一致している。ネパールのこれまでの民主化過程や現在の地政学的条件を踏まえるなら,彼らの選挙分析評価は,新政権への期待・激励の含意が多分にあるものの,基本的には妥当とみてよいであろう。

しかしながら,左派連合による民主政治の安定化は,必ずしも容易ではない。理念やイデオロギーよりもむしろ身内やコネ(アフノマンチェ)に起因する際限なき分派抗争はネパール政界の宿痾であり,選挙大勝といえども,それですんなりオリ政権成立となるかどうか? また,オリ内閣が無事成立しても,安定的に政権を維持できるかどうか? ムニが危惧するように,内部対立抗争の激化で自壊するのではないか? ネパール政界のこれまでの動向を見ると,いささか不安である。

対印中関係も難しい。ネパール史の常識からして,どの政権であれ,親印あるいは親中一辺倒ではありえない。ネパールは,長年にわたり印中二大国の間で巧妙にバランスを取りながら,曲がりなりにも独立を維持してきた。その意味で「バランス外交」はネパールの伝統といってよい。

しかしながら,グローバル化の大波はヒマラヤの小内陸国ネパールにも押し寄せ,ネパールを呑み込もうとしている。北からの「一帯一路」の大波と,南からの「一文化一地域」の大波の間で,ネパールはどうバランスを取り大波にさらわれるのを防ぐか? これも難しい。

この意味では,ムニのこの選挙分析評価も,KM・ディクシトのそれと同様,先述のように勝利した左派連合への期待・激励の意味もあるにせよ,やや楽観的に過ぎるといってよいかもしれない。

■『インドとネパール』表紙

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/01/07 at 14:45

インドはネパールの真の友人たれ:SD・ムニ(1)

ネパールの2017年選挙は,インドでも非常に関心が高く,多くの記事や分析がネット上にあふれている。左派連合大勝によるネパールの赤化,反印親中政権成立へ,といった一面的・感情的な記事が多いなか,SD・ムニのこの長文記事「ネパールの支配的勢力となった左派連合」は,バランスの取れた選挙分析であり,印政府への提言も冷静な現実的なものである。
S D Muni, “Left Alliance Now a Dominant Force in Nepal,” The Wire, 16 Dec 2017.

SD・ムニは,「防衛研究分析センター」(ニューデリー)名誉研究員,ネルー大学名誉教授。主な研究分野は国際関係論,安全保障論,南アジア地域研究。印ネパール学の権威の一人。ネルー大学,シンガポール国立大学,バナラシ・ヒンドゥー大学などで研究・教育にあたったのち,駐ラオス印大使など重要な外交実務も担った。「地域戦略研究所」(コロンボ)創立メンバー。主要著書(ネパール関係ほか):
 ・Foreign Policy of Nepal, 1973(2016)
 ・India and Nepal: A Changing Relationship, 1992
 ・Maoist Insurgency in Nepal, 2003(2004)
 ・India’s Energy Security, 2002
 ・Creating Strategic Space: China and Its New ASEAN Neighbours, 2003
 ・India’s Foreign Policy: The Democracy Dimension, 2009

以下,ムニの上記ネパール選挙分析記事の要点を紹介する。


 ■SD・ムニ(防衛研究分析センターHP)/『ネパールの外交政策』表紙/『ネパールのマオイスト反乱』表紙

—–<以下,ムニ記事要旨>——————————-

1. 左派連合の勝因,NCの敗因
2017年国会・州会選挙では,統一共産党(CPN-UML:UML)とマオイスト(マオイスト・センター,CPN-MC:MC)からなる左派連合が大勝,国会(連邦議会)下院の圧倒的多数派となり,州議会でも7州のうちの6州で強固な第一党となる見込み。選挙前夜急造にもかかわらず,左派連合が大勝できたのは,なぜか?

(1)党首のカリスマ。UMLのKP・オリとMCのPK・ダハル(プラチャンダ)は,ともに雄弁で,政治的機知に富み,強力な組織を持ち,統率力も豊か。カリスマを持つ2党首が,「ネパール人民に安定,平和,繁栄を実現すると訴えた」こと。

(2)UMLとMCは,人民戦争で激しく敵対していたので選挙協力は実際には難しいのではないかとみられていたが,選挙が始まると予想以上に協力がうまく出来たこと。

(3)NC党首の不人気。現議会第一党で政権党のコングレス党(NC)は,党首SB・デウバ首相の弁舌が貧弱で,左派連合のNC批判に効果的に反論できなかった。

(4)NC選挙キャンペーン作戦の失敗。NCは,選挙戦を通して,左派連合は全体主義だと非難攻撃したが,まったくの的外れ。UMLやMCは,これまでに党内から極左を排除する一方,政権担当も経験,民主化し他党との権力分有の術を学び取ってきた。

また,NCはUMLがマオイストと組むことを批判したが,選挙直前までは,NC自身がマオイストと連立しており,これも説得力はまるでなかった。

その一方,NCは開発計画についてはほとんど触れず,また自党による開発成果も十分には訴えられなかった。

(5)NCと他の諸党との選挙協力の失敗。NCは,左派連合に対抗するため,マデシ系や他の非共産党系諸党との選挙協力を試みたが,いずれも失敗。

(6)マデシ系諸党は,いくつかの選挙区で予想以上に善戦したものの,いつもの分裂・乱立に陥り,結局,左派連合の大勝は阻止できなかった。

(7)国民民主党(RPP)など,立憲君主制ヒンドゥー教国家への復帰を唱える諸党の惨敗。多くの党幹部が落選し,比例区でも3%以下となり全国政党の資格喪失。

2.ネパール人民の選択は「新しいナショナリズム」
左派連合の大勝は,ネパール人民が「共産主義」を選択したことを意味しない。選挙で示されたネパール人民の意思は,「新しいナショナリズム」である。

「この新しいナショナリズムは,政治の安定と平和,速やかで総合的な開発,そしてインドに対する正当な権利の主張の三つを柱としている。」「新憲法を採択したネパール人民は,いま秩序と安定と開発を求めているのである。」

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/01/06 at 15:25

左派連合政権への期待:KM・ディクシト

ネパール議会選挙については,従来とは比較にならないほど多くの報道がなされ,しかも長く詳細なものが少なくない。

論調は,この2週間ほどで,かなり変化した。開票が進み左派連合の勝利が明らかになると,各メディアは,左派連合の地滑り的圧勝,ネパールの赤化,親中共産党長期政権の成立へ,インドの対ネ政策の失敗などといった,一方的な趣旨のセンセーショナルな記事があふれた。

しばらくすると,コングレス党(NC)の比例制での善戦が明らかになったこともあり,親中左派連合完勝といった一面的な報道を修正し,新政権の構成や対印・対中関係の在り方などと関連付けた冷静な分析が現れ始めた。

ここでは,この間のおびただしい様々な報道にすべて目を通し総合的に論評することは困難なので,いくつか注目すべき記事を選び,紹介することにしたい。

まず最初に取り上げるのは,ネパールの代表的知識人の一人,カナク・マニ・ディクシト「民主主義安定への正道」
 ▼Kanak Mani Dixit, “High Road to Democratic stability,” The Hindu, 18 Dec 2017


 ■K. M. Dixit(Twitter) / K. P. Oli(FB) / S. B. Deuba(FB)

——<以下要旨>———————–
国会・州会ダブル選挙で左派連合が快勝し,中央と,7州のうちの6州で左派連合政権成立の可能性が高くなった。野党弱小化に懸念はあるものの,これで安定政権は得られることになった。

ネパール人民は,2006年人民運動,コミュナル紛争解決,2015-16年経済封鎖克服などを通して,この10年間で政治能力を向上させており,新憲法へのインドの反対も,人民意思の力により克服することができた。

新憲法は,立法・行政・財政などの諸権限を2階層ではなく3階層の「政府(सरकार)」に分割付与するものであり,これは「南アジアにおける革新」といってよい。憲法によれば,代議政府が国家(連邦政府)に加え,7つの州,17の市,276の町,460の村に設置される。これにより,長きにわたったカトマンズ中央集権と地方代議政府なしの20年間は,ようやく終わりを告げることになる。

このネパール政治の変革は,統一共産党(UML)オリ議長の手腕によるところが大きい。オリ氏は,ダサイン休暇中に,マオイストのカマル・ダハル(プラチャンダ)議長と交渉,国会・州会の獲得議席の40~60%割当を約束し,マオイストをコングレス党との連立から離脱させ,左派連合を成立させた。インド経済封鎖と果敢に闘ったナショナリスト,オリ議長は雄弁家であり,演説下手のデウバNC議長では到底太刀打ちできない。共産主義は民主主義の敵だなどという非難攻撃は,デウバ議長自身がつい最近までマオイストと連立を組んでいたのだから,まったく説得力がなかった。

オリ氏は,国民の支持を得て選挙で大勝,いまや最強の指導者となった。新しい規定によれば,新政府に対する不信任動議は2年間は提出できないので,オリ氏は5年の首相任期を全うしそうだ。そうなれば,ネパール近現代史初の長期政権首相となる。

オリ氏は,前の首相在任中に移行期正義を大きく前進させた。もしそれを継承し,完結させることが出来るなら,オリ氏は,「自由民主主義(リベラル・デモクラシー)の勝利」をもたらすことになろう。

オリ氏は,民主政治を安定させ,経済発展を図らなければならない。また,政権安定をバックに,対印関係を修復し,中国とはおもねることなく互恵関係をさらに発展させるべきだ。

国際社会においては,オリ氏には長い専制や紛争のため失墜してしまった信用の回復が期待されている。「オリ氏には,1950年代のB・P・コイララの頃のような国際社会におけるネパールへの尊敬を取り戻すチャンスがある。なお残る様々な問題が解決されれば,ネパール大統領の官邸と住居をシタル・ニワスからナラヤンヒティ元王宮に移すことも可能であろう。」

オリ新政府には,いくつか大きな難問が控えている。一つは,統治が憲法により連邦・州・地方の三階層に分権されたが,政治家や官僚がこれに抵抗すること。新設の最高裁憲法裁判所に訴訟が殺到する恐れがある。

また,この10年間,規律なき「合意による統治(コンセンサス・ガバナンス)」が拡大し,国庫は空になってしまった。統治機構複雑化による経費増大や,莫大な震災復興費,インフラ整備費などにどう対処するか?

また,新設7州のうち第1州(東部)と第3州(カトマンズ盆地など)の経済力は,他州と比べはるかに大きい。州間の大きな経済格差をどう解消していくか?

さらに,連邦政府,州政府,地方政府が権力乱用する恐れも多分にある。そうした場合,市民社会はどう監視し,権力乱用を阻止するか?

結局,それは憲法の理想をどう実現していくか,ということだ。「経済的,政治的,地政学的諸課題を背負い,未知の海図なき世界に出ていく社会には,2015年ネパール憲法に規定する民主的で,包摂的な,社会正義指向の諸理想を実現することが求められているのである。」
——<以上要旨>———————–

KM・ディクシトのオリ評価は,デウバ現首相の低評価とは対照的に,極めて高い。ただし,それはこれまでの実績を踏まえてというよりは,むしろ今後の改革への期待という意味合いのほうがはるかに大きい。

オリ政権の発足は,上院選挙との関係で,まだいつになるかはっきりしないが,いずれ成立することはほぼ間違いない。そのオリ新政権がKM・ディクシトの期待に応えられるかどうか,注目されるところである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/12/24 at 21:37

中印の対ネ政策:「一帯一路」vs「一文化一地域」

KR・コイララの「リパブリカ」記事(*1)によれば,中国の「一帯一路(One Belt One Road: OBOR)」に対し,インドは「一文化一地域(One Culture One Region: OCOR)」で対抗しようとし始めたという。これは興味深い指摘だ。

■中国「一帯一路」(UNDP in Nepal Twitter 2017-05-14)

1.中印とネパール下院選
中国とインドは,いまネパール下院選(投票11月26日/12月7日)に従来見られなかったほど大きな関心を示している。

一つは,中印にサンドイッチのように挟まれたネパールが,政治経済のグローバル化とともに,両国にとって地政学的にますます重要になってきたこと。そして,もう一つは,それと関係するが,今回の下院選はネパール新憲法(2015年憲法)による初の選挙であり,選出議員は任期5年,新体制の今後の方向性を決める重要な役割を果たすとみられていること。選挙でどのような政権が生まれるか,それを中印は注視しているのである。

選挙結果は,開票を待たねばならないが,いまのところ統一共産党(CPN-UML)とマオイスト(CPN-MC)を中心とする左派連合が優勢。もし勝利すれば,共産党系諸党は合同して一つの共産党となり,安定政権の樹立を目指すことになる。

2.親中の左派連合
選挙優勢を伝えられる左派連合は親中とされ,中国もその勝利を期待しているという。歴史的にみると,UMLやマオイストが親中一辺倒であったわけではないが,少なくともここ数年,中国寄りになってきたことは確かだ。

特にUMLのオリは,首相だったとき,中国との間で重要な協定をいくつも締結した。そして,インドによる事実上の国境封鎖の際は,対印強硬策を貫き,中国接近を際立たせた。

左派連合の選挙マニフェストにも,たとえばネパールに不利な「1950年印ネ平和友好条約(通商・通過条約)」を破棄し,新条約を締結することが目標として掲げられている。

3.ブディガンダキ・ダム問題
親中左派と親印コングレス党との確執を象徴するとされる最近の事例の一つが,ブディガンダキ・ダム問題(*3)。

ネパールは,プラチャンダ首相(マオイスト)のとき,ブディガンダキ水力発電事業を中国国有企業に請け負わせ,中国政府にはこれを「一帯一路」計画に組み込んでもらうことにした。中国政府はこの要請を受け入れそれを「一帯一路」に組み込み,中国企業も事業準備を進めてきた。

ところが,下院選直前の11月中旬,デウバ首相(コングレス党)は,突然,中国側との合意を取り消し,ブディガンダキ水力発電事業をネパール電力公社に担当させると発表した。一方,インド企業が中心となっているアルン3・上カルナリ水力発電事業の方は,予定通り推進すると決めた。

このデウバ内閣決定に対し,中国側は,それは中国企業の正当な権利の侵害であり,反中国政策に他ならないと激しく反発している。

4.インドの「一文化一地域」
このような中国との対立競合の激化を背景に,インドでは,RSS系の人々を中心に,「一文化一地域(OCOR)」政策を推進し始めたという。南アジアは宗教的・文化的な基盤を共有しているので,これを再確認し強化していくという考え方である。
▼プーリ駐ネ印大使
「印ネ両国民の社会的,宗教的,文化的結びつきは,われわれの比類なきユニークな関係を示している。」(*1)

インドの「一文化一地域」は,ソフトパワーとしての「文化」に注目するものであり,ネパールでは文化祭の催行,文化施設の建設,遺跡の復旧などを支援し,また人的には両国民交流の活発化を図る政策である(*1)。

たとえば,モディ政府は,ネパールを「休暇旅行」の対象国にした。印政府職員がネパール旅行をすれば,休暇とチケット代が支給されるという(予算額等詳細不明)。これは,事実上ヒンドゥー教巡礼の勧めと見てよいであろう。またカトマンズ=バナラシ,ルンビニ=ブッダガヤ,ジャナクプル=アヨダヤなど,友好都市関係の強化も謳われている。

そして,印ネ国民交流の活発化が図られるのだから,交通インフラの改善も提案されている。カトマンズ=ニューデリー間バス便の開設に加え,国境付近の鉄道網の拡充が計画されている。たとえば,ルンビニ⇔ブッダガヤ,ジャナクプル⇔アヨダヤ,ビラトナガル⇔ジョグバニなど。

5.経済に文化で対抗できるか?
「一文化一地域」には鉄道建設なども含まれているが,前面に立てているのは「文化」であり,その中心は宗教,とりわけヒンドゥー教ということになろう。

たしかに南アジアにおいて宗教は大きな力を持っているが,しかしそれで経済ないしマネーに対抗できるのだろうか?

むろん,この「一文化一地域」については,RSS系の人々を中心に唱えられているが,実際に政府政策にどの程度採り入れられているかなど,具体的なことはまだよく分からない。どう展開するのか,注視していたい。

*1 Kosh Raj Koirala, “India turns to social-cultural ties as China steps up role in Nepal,” Republica, 26 Nov 2017
*2 “RSS’s counter to OBOR: One Culture One Region,” The Indian Express, July 24, 2017
*3 Kamal Dev Bhattarai, “Why India and China are Watching Nepal’s Election,” The Diplomat, 01 Dec 2017
*4 「ネパール 新印か親中か 新憲法下,初の下院選」毎日新聞,2017.11.27
*5 「中印の間で揺れる小国ネパール 26日に下院選,親中政権誕生の可能性」,sankei.com, 2017.11.26
*6 「ネパール総選挙,投票始まる 親中政権誕生なるか」,nikkei.com. 2017.11.26

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/12/07 at 23:07

中ネ交通インフラ建設,印がますます警戒

中国が,チベットからネパールに向けての交通インフラ建設を加速させている。9月15日には,シガツェ和平空港(軍民共用)からシガツェ市内までの高規格道路が完成した。ラサからシガツェに至るG318号線の一部で幅員25m,イザというときには軍用機の離発着が可能だそうだ。

 ■シガツェ和平空港~シガツェ市(Google)

鉄道は,ラサからシガツェまではすでに完成しており,2020年までにその先の吉隆鎮(Kyrong, Gyirong, Kerung)まで延伸の予定。吉隆鎮からネパール側のラスワガディまでは30㎞ほど,カトマンズまででも120㎞余り。山岳地で難工事が予想されるが,すでに中国企業数社が事業化をネパール側に打診している。

この9月6~11日に公式訪中したKB・マハラ副首相兼外相も,このルートでの鉄道建設につき,中国側とかなり突っ込んだ話し合いをした模様だ。「一帯一路」のネパール経由ルートは,ラサ~シガツェ~ラスワガディ~カトマンズが本命となったとみてよいであろう。

 ▼シガツェから鉄道3線延伸,2030年までに(中国日報*3)
 

この中国南進に神経をとがらせているのが,インド。たとえば,国際政治学者のA・ルフ(*1)は,次のように指摘している。

「パキスタン,バングラデシュ,スリランカ,ネパールはいまや北京の衛星国家である。」
「ネパールは,旧シルクロードを今日に再生し名実ともに超大国になろうとする中国の大きな野望から最大の利益を得ている国の一つであり,これこそが,対印関係悪化を警戒しつつも,ネパールをしてインドをいら立たせても構わないという態度をとらせている理由である。」
「中国と南アジアとの経済関係は,『一帯一路』によりさらに強化され,これが安全保障関係強化にもつながるものとみられている。これを,インドは危惧しているのである。」(*1)

ネパールなどを「衛星国家」と呼ぶのはいささか言いすぎだが,「一帯一路」の旗を翻し,着々と南下する中国をインドが警戒するのは当然といえよう。

 ■吉隆鎮~ラスワがディ(Google)

*1 ABDUL RUFF, “China, Nepal to focus on cross-border Railway,” Modern Diplomacy, SEP 19, 2017
*2 Ramesh Bhushal, “Nepal dreams of railway linking China to India,” 中外対話,22.09.2017
*3 Cui Jia and Hou Liqiang, “Himalayan rail route endorsed,” China Daily, 2016-08-05
*4 Om Astha Rai, “The Tibet Train: China’s railway arrives in Kerung in 4 years, Nepal should get its border infrastructure in place by then,” https://nepalitimes.atavist.com/the-tibet-train
*5 “Feasibility study for railway projects in Nepal under way,” Himalayan Times, June 10, 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/09/25 at 14:10

ネパールの国際空港,二つとも中国企業が建設

1.ポカラ国際空港
ポカラ国際空港の起工式が8月2日,催行された。新空港は2500m滑走路を備え,ボーイング757,エアバス320クラスが離着陸できる。2021年7月完成予定。

中国輸出入銀行が2億2千万ドル融資。全融資額の25%が無利子,75%が年2%の利子で,期限20年。空港工事も,中国のCAMCエンジニアリングが2014年5月,受注している。

 
 ■ポカラ国際空港建設予定地(右下)/CAMLエンジニアリング

2.ゴータマ・ブッダ国際空港
ゴータマ・ブッダ国際空港は,既存のバイラワ空港を拡張し国際空港に格上げするもの。2017年12月完成予定であった。

この工事は2014年10月,中国のNorthwest Civil Aviation Airport Constructionが受注し,2015年6月15日に工事を開始したが,地震や経済封鎖があったため工事が遅延し,開港予定は2018年6月に延期されていた。

ところが,ここにきてまた別の問題が生じた。建設元受けの中国企業が,ネパール政府に無断でネパール企業と下請け契約を結び工事をさせていたが,代金の支払いをめぐって争いとなり,この春から工事が止まってしまった。そのため2018年6月の開港も危ぶまれている。

 ■ゴータマ・ブッダ空港FB

3.元気な中国企業
中国企業のネパールでの仕事は,カトマンズの道路建設のように,信じられないほど荒っぽいものが目に付く。ブッダ空港のトラブルも,地元政治家の介入があったにせよ,中国企業の大雑把な事業の進め方にそのそもの原因があるのだろう。別の会社だが,ポカラ国際空港の建設工事の方も気がかりだ。

しかし,それはそれとして,社会の現状との適合性という点では,大きく見ると,中国企業のようなやり方の方が,いまのネパールには案外適しているのかもしれない。

これと対照的に,日本企業は日本流に固執しすぎてきたような気がする。たとえば,タパタリのバグマティ川に架かっている橋は,日本企業が建設したものだが,竣工当時,あまりにも立派・豪華で,本当にこんなものが必要かなぁ,と疑問に思ったものだ。橋の手前の複雑精緻を極める交通信号システムもしかり。

これから先当分は,ネパールでは,多少のゴタゴタはものともせず,蛮勇をもって前進する中国企業がますます事業を拡大していくであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/09/01 at 18:54

カテゴリー: ネパール, 経済, 旅行, 中国

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インドを怒らせたデウバ首相

デウバ首相訪印(8月24~27日)の裏話を,オム・アスタ・ライが『ネパリ・タイムズ』に書いている。
 ▼Om Astha Rai, “Deuba, Delhi and Doklam,” Nepali Times, 25-31 August 2017

それによると,モディ首相は24日の公式首脳会談の前に,予定外のお茶の席にデウバ首相を招き,ドクラム問題でインド支持を要請しようとしたらしい。本当に要請したか否かはわからないが,その後の公式会談では,前述のように,ドクラム問題には全く触れられなかった。

 ■訪印団到着(在印ネ大使館HP,8月23日)

公式会談後の「インド基金」レセプションでは,こんなやり取りもあったそうだ。
R・V・パスワン消費問題担当大臣:「第三国がネパールを攻撃したらインドはネパールを守るから,もし第三国がインドを攻撃したらネパールはインドを支援すべきだ。・・・・(中国はチベットを「呑み込んだ」が)インドはネパールをそうはさせはしない」。

このバスワン大臣の発言に対し,デウバ首相は,「中国はネパールのよき友だ・・・・。中国はネパールの主権をいつも尊重してきた」と答えた。

このデウバ首相の木で鼻をくくったような返答はインド側を苛立たせたに違いない,とライはみている。

レセプションでデウバ首相の隣に座っていたのは,親中派と見られているKB・マハラ外相(MC)。そのマハラ外相に,レセプション終了後,インド側の政治家,外交官,退役軍人らが,首相にあのような発言をさせたのは外相ではないかと詰問したという。

 ■インド基金レセプション(ツイッター8月24日)

このようにインド側はドクラム問題についてはネパール側からインド支持の言質をとれなかったが,それでも共同声明には次の一項を加えることには成功した。

防衛・安全協力の強化
「11.両国首相は,これまでの防衛協力に満足の意を表し,そして,インド軍とネパール軍の緊密な協力をさらに推進することを確認した。」

ネパール訪印団メンバーの一人は,これはネパールをブータン化させる恐れのある約束だ,とライに語ったという。

軍事協力推進の約束が小国にとって危険な側面を持つことは事実だが,それを織り込んでも,インドは今回の印ネ首脳会談から期待したほどの成果は得られなかったのではないだろうか。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/08/28 at 21:11

中印ドクラム紛争:中立堅持のネパールと印支持の日本

アジアの核保有二大国,中国とインドが,ドクラム(ドカラム)高原問題で対立,軍を派遣して至近距離で対峙,緊張が高まっている(*13)。

1.ドクラム領有権問題
両軍が対峙しているドクラム(洞郎)は,中国(チベット)・インド(シッキム)・ブータンの国境が複雑に入り組む高原地域(標高約3千m)にあり,インドとブータンがブータン領だと主張しているのにたいし,中国は中国領だと主張している。グーグル地図が国境を実線ではなく破線で画している部分もあるように,この地域の領土問題は複雑だ。


 ■グーグル地図,赤印ドクラム高原付近[地図差替8月29日]

2.道路建設をめぐり中印が対立
このドクラムで,中国人民解放軍が道路建設を始めたのに対し,インドは6月16日,軍を派遣,以後,人民解放軍と至近距離(約100m)でにらみ合っている。いまのところ両軍の兵力は約300人。

この問題につき,インド側は,この地域の領有権はブータンにあり,そこでの道路建設は力による現状変更であり,ブータンとインドに重大な脅威を及ぼすものであって,断じて認められないと主張している。これに対し中国側は,自国領土内で道路建設をしているのであり,インドは直ちに軍を引くべきだと反論している。いまのところ両国とも譲る気配を全く見せず,国境をめぐる両国関係は,1962年中印紛争以降,最悪の状態になっているという。

3.中立堅持のネパール
この中印ドクラム紛争に対し,ネパールは,いずれの国にも組しない中立の立場をとっている。

ネパールは,新憲法制定をめぐりインドと対立,非公式ながら5か月(2015年9月~16年2月)にも及ぶ事実上の国境経済封鎖の制裁を受けた。その反動もあって,歴代ネパール政権は中国に接近,いまやネ中関係は以前とは比較にならないほど緊密になっている。

8月中旬には,汪洋副首相が訪ネ,ネパール側が「一つの中国」支持を確認し「一帯一路」推進協力を表明したのに対し,中国側は対ネ投資拡大,石油・ガス資源調査,道路・鉄道建設など広範な支援を約束した。ネパールにとって,中国はいまやインドにとって代わりうる可能性のある隣の大国となりつつあるのである。

しかし,たとえそうだとしても,いまドクラム紛争につき中国支持を明言することは,ネパールにとって得策ではない。ネパールは,長年にわたりインド勢力圏内にあり,国土の三方をインドに囲まれ,物資の大半をいまなおインド経由で受け取っている。この現状を考え合わせると,ドクラム紛争について一気に中国支持に回るのはリスクが大きすぎる。結局,両国との交渉力を拡大できる「中立」の立場を表明するのが,いまのネパールの国益には最もかなうということになったのであろう(*3)。すでに8月初旬,KB・マハラ外相が,ドクラム問題ではネパールはいずれの隣国をも支持しないと述べ,中立の立場を明らかにしている(*3)。

この中印対立激化をバックに,いまデウバ首相が訪印している(公式訪問8月23~27日)。ネパール側が対印交渉の好機とみていることは疑いない。他方,インド側がネパールに圧力をかけ,何らかの形で印支持に回らせたいと考えていることにも疑いはない。

しかしながら,インド側は,非公式経済封鎖の「失敗」を教訓に,印ネ首脳会談(8月23,24日)では,あからさまにドクラム問題を持ち出し,デウバ首相に踏み絵を踏ませることはしなかった。会談後の共同声明でも,「両国は,その領土を,相手国を害するいかなる活動にも使用させないことを再確認した」と述べるにとどめた(*2)。親印派とみられているデウバ首相が,インド側招待の意をくみ行動してくれることを期待してのことであろう。

むろん,首脳会談以外の場では,当然ながら,ドクラム問題へのネパールの対応に関心が集まった。しかし,そうした場でも,デウバ首相はインド支持を明言しなかった。たとえば,「インド基金」主催の会(8月24日)において,デウバ首相はこう答えている。

「われわれは中国と極めて良好な関係をもち,中国とのいかなる問題にも直面していない。・・・・そのことにつき,インドは全く懸念するに及ばない。もちろん,いかなるときも,ネパールは国土を反印活動に利用させはしない。」(*4)

中国は,ネパール政府のこうした対印外交努力を評価し,習近平主席の訪ネ(9月中旬予定)をもって報いようとしている。

4.インド支持へ前のめりの日本
ドクラム紛争につき,「中立」堅持のネパールとは対照的に,日本は世界に先駆け,インド支持の立場を表明した。インド各紙はこれを絶賛,平松駐印大使(駐ブータン大使兼任)の発言を詳細に伝えている。

たとえば,ヒンドゥスタン・タイムズは,平松大使が8月17日の会見で次のように語ったと伝えている。

<ヒンドゥスタン・タイムズの取材(8月17日)に対し,平松大使はこう答えた。「ドクラムはブータンと中国との係争地であり,両国は国境交渉をしている,とわれわれは理解している・・・・。また,インドはブータンと協定を結んでおり,これに基づきインド軍はこの地域に派遣された,ともわれわれは理解している。」/平松大使は,ドクラムの現状を力により一方的に変えるべきではない,と語った。/日本は,ドクラム紛争につき,明確に見解を述べた最初の大国である。(*9)>

また,インディアン・エクスプレスのS・ロイも,こう述べている。<インド政府筋はこう語った。「国際社会の主要メンバーが“中立”の立場をとる中で,日本がインド支持を表明したことは,インドの立場を強くしてくれるものだ。」(*7)

このような日本称賛記事は,インド他紙にも多数みられる。そして,その際,ほぼ例外なく言及されるのが,尖閣問題である。たとえば:

Prabhash K. Dutta (*11)
日本はインドを「全面的に支持」している。「もしドクラムでの中国の行為が許されるなら,東シナ海の尖閣を失うことになる,と東京は考えているからだ。」

Geeta Mohan(*12)
日本は,中国膨張主義と対峙しており,他のどの国よりもインドの立場をよく理解している。ブータンとの関係も深い。だから日本は「インドとブータンへの明確な支持」を外交チャネルを通して表明したのだ。

このように日本のインド支持はインドを喜ばせているが,当然,中国はそれに激しく反発している。華春蛍報道官は,こう批判した。

「駐印日本大使は,(軍事的対峙につき)インドを本気で支持するつもりのようだ。彼に対しては,事実関係を確認することなく,でたらめなことをいうべきではない,と忠告しておく。・・・・ドクラムには領土問題はない。国境は両国(インドと中国)により確定され承認されている。・・・・現状を不法に変えようとしているのは,インドであって,中国ではない。」

日本は,このような中国の激しい反発を押して,インド支持を貫くのか? 安倍首相の訪印は9月中旬の予定。インドで,日本国首相がどのような発言をするか,これも注目されるところである。

【参照】(8月28日追加)
安倍首相訪印の狙いは?(人民網日本語版2017年08月23日)
 インドの各メディアは18日、「ドクラム対峙問題で日本がインドを支持」と誇示した。この2カ月でついにインドが「主要国」の支持を得たことを証明するものだ。だが同日遅く、時事通信は、平松賢司駐印大使が「インド支持」を表明したとの見方を在インド日本大使館が否定したと報じた。
 「中国とインドの国境問題は中印両国の事だ」。北京大学の姜景奎南アジア研究センター長は「南アジア諸国と他の西側国がいずれも『一方の側につかない』中、日本はじっとしていられず、先駆けて傾斜を示した。たとえ後で釈明しても、安倍内閣がインドに公然と良い顔を見せていることは隠せない」と語る。

 ■在ブータン日本大使館HP

●ドクラム対峙,終了(8月29日追加)
印中は8月28日,ドクラム軍事対峙の終了に合意,直ちに印軍は撤退した。中国の道路建設も停止された模様だが,中国軍は引き続きこの地方の軍パトロールを継続する。中国にとっては,要するに,道路建設の(たぶん一時的)中断にすぎないということか?。
 
*1 Om Astha Rai, “Deuba, Delhi and Doklam,” Nepali Times, 25-31 August 2017
*2 “Nepal, India issue joint statement, ink 8-pt deal (with full text),” Republica, August 25, 2017
*3 Prabhash K Dutta, “Doklam standoff continues, India and China jostle to win over Nepal,” India Today, August 24, 2017
*4 Suhasini Haidar & Kallol Bhattacherjee, “On Doklam, Nepal walks a tightrope,” The Hindu, AUGUST 24, 2017
*5 “Nepal’s Non-Aligned Stand On Doklam Issue,” http://businessworld.in/, 24-08-2017
*6 Narayani Basu, “What the India-China Doklam Standoff Means for Nepal,” The Diplomat, July 19, 2017
*7 Shubhajit Roy, “India-China standoff at Doklam: Japan throws weight behind India and Bhutan, says no side should try to change status quo by force,” Indian Express, August 19, 2017
*8 “China rebukes Japan for comment on Doklam,” Times of India, Aug 19, 2017
*9 Jayanth Jacob, “Doklam standoff: Japan signals support to India over border row with China,” Hindustan Times, Aug 18, 2017
*10 Sutirtho Patranobis, “Doklam standoff: China dismisses Japan’s support for India,” Hindustan Times, Aug 18, 2017
*11 DuttaPrabhash, “Why Japan lent support to India against China over Doklam standoff,” India Today, August 18, 2017
*12 Geeta Mohan, “Doklam standoff: Japan backs India, says no one must use unilateral force in bid to change status quo,” India Today, August 18, 2017
*13 「中国はインドと争ってでもチベットから南下したい」,北の国から猫と二人で想う事,http://blog.livedoor.jp/nappi11/archives/4812343.html

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/08/27 at 19:19