ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for the ‘健康’ Category

ゴビンダ医師のハンスト闘争(35)

8.「9項目合意」の評価
  (1)リパブリカ「KC医師との合意をその文書と精神に沿い実行せよ」(2018年7月29日)

(2)リパブリカ「KC医師との合意を実行せよ」(2018年8月13日)
「オリ首相とゴビンダ・KC医師が土曜日[8月11日],会談をもち,2週間前成立した9項目合意の実施につき話し合った。オリ首相は,合意の効果的実施のため監査委員会を設置することを提案した。首相は,以前は,KC医師のハンストや医学教育改革要求に反対と見られていたので,これは歓迎すべき一歩前進である。首相は前向きの姿勢を見せており,われわれも政府が約束を守り,合意に沿いその義務を果たすことを願っている。

オリ首相は,KC医師に監査委員会の長となるよう打診したが,即座に彼は辞退したという。KC医師のような人は,わが社会の道徳的権威であり,民衆の尊敬を集めている。国家はこの事実を認めるべきだ。彼は15回もハンストを行ったが,それは個人的な理由からではない。彼の目標は,この国の医学教育や保健サ-ビスの改革にあった。KC医師がいなければ,いまごろはMBBS[医学士課程]を学ぶのに1千万ルピー以上かかっていただろう。いまの学費はその半分以下だ――KC医師の妥協なき改革努力に感謝する。KC医師は,市民すべてに利用可能な保健医療を保障する憲法の精神を政府が遵守することを求めている。都市部の医療機関は例外なく繁盛しているけれど,遠隔地の村々の住民の80%は,下痢や発熱といったありふれた病気で死に続けている。わが国の憲法が求めているように,「社会主義指向」国家では,自分には必要なとき病院に行くすべのない人々であっても,十分な手当てが受けられるようにされなければならないのである。

オリ首相とKC医師との会談[8月11日]は,この国における医学教育を医学マフィアが牛耳っており,それを首相が手助けしているとして,人々が首相を糾弾しているときに行われた。この首相の会談への姿勢は,政府とKC医師とのこれまでの合意の効率的・効果的な実行へとつながるものでなければならない。二人は同じことを目指しているように見えはする。すべてのネパール人が良好な保健医療を受けられること,そして医学教育を受けうる能力のある人々が医科大学学費を払うため全財産を売り払わなくてもよくすることである。二人が,人々のための効率的で信頼でき利用可能な医療サービスと,学びたい人が学べる医学教育制度をこの国に実現しようと願っているのなら,[政府側が]KC医師とともに署名した合意諸項目が実行されない理由は,どこにもないはずだ。政府は,KC医師が同じ理由で再び次のハンストをしなくてもよいよう保証すべきだ。さもなければ,民衆の怒りを買い,オリ政府はたちまち民衆の今ある支持すらすべて失うことになるだけだからである。KC医師と人民は,保健医療と保健医療教育が直面している諸問題に政府が次にどのような対策をとるか,いまじっと見つめている。首相がKC医師と会談したことで,いくらか希望が見えてきた。どうか,この希望を消さないでほしい。」

▼180日,6年,15回のハンスト(Republica, 17 Jul 2018)

*91 “Implement agreements with Dr KC,” Republica, August 13, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/11 at 11:25

ゴビンダ医師のハンスト闘争(34)

8.「9項目合意」の評価
オリ政府とKC医師が「9項目合意」に署名し,KC医師がハンストを終えたことにつき,メディアの大部分は社説等で歓迎を表明した。ここでは,この件につき最も詳細に報道してきたリパブリカ紙の7月29日付と8月13日付の記事のみ,紹介する。(他のメディア報道は最後に参考資料として列挙予定。)

(1)リパブリカ「KC医師との合意をその文書と精神に沿い実行せよ」(2018年7月29日)(*90)
「ゴビンダ・KC医師に何が起こるのか? 政府は彼の要求に応えるのか? 彼の生命は救われるのか? トリブバン大学教育病院の長老整形外科医が15回目のハンガーストライキを始めた6月30日からこれまで,一般民衆はこれらのことを心配し続けてきた。KP・オリ政府は,ネパールの医学教育・保健衛生分野の抜本的改革への要求に消極的と見えるときもあれば,KC医師の体調悪化についても同様に冷淡と見えるときもあった。カトマンズ内外で政府に対する抗議行動が始まったのは,そのためだ。そうしたなか,この木曜日[7月26日]夕方,政府とKC側が合意に達したことを知らされ,われわれはみなホッと安堵した。KC医師の生命は救われ,医学教育分野の改革がようやく緒に就いた。政府は,遅くなったとはいえ,高い目標を持つ重要な訴えを聞き入れたのであり,称賛されてしかるべきだ。オリ首相が自らこの交渉に深く関与し,合意に達したおかげで,KC医師は今回のハンガーストライキを終えることが出来たし,またそればかりか,KC医師がこれまでと同じ理由で再びハンガーストライキをする必要はもはやなくなったという新たな希望をも持つことが出来るようになった。ありがとう,首相。・・・・

しかしながら,これまでそうであったように,政府がまたまた合意を反故にするかもしれないという疑念は,払拭できない。KC医師と交渉したこれまでの政府はすべて,彼の要求を受け入れると約束し,合意書に署名した。が,いまの首相が率いていた2015年の政府を含め,それらいずれの政府も合意した約束を実行しなかった。KC医師が15回目の決死のハンストに訴えざるをえなかったのは,そのためである。われわれは,オリ首相がKC医師を欺き引き延ばしを図ることのないよう願うし,また,そうあるはずだと信じている。首相は自らの意思により,KC医師の要求の受け入れとその実行のための合意書への署名を行わせた。これは注目すべき成果である。首相が本当に評価されるのは,合意が実行されたときであり,また老サチヤグラヒ[真理希求者]がその生命を,政府が追求し実現すべきなのにそうしない事柄のために危険にさらす必要のない状況をわれわれがつくりだすときである。わが国の政治家たちは,あまりにもしばしばKC医師を困難な状況に追いやってきた。そのようなことが,もはや二度と起きないことを願う!」
 
 ■Republica, 26 Jul 2018

*90 “Implement agreements with Dr KC, in letter and spirit,” Republica, July 29, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/10 at 16:23

ゴビンダ医師のハンスト闘争(33)

7.ハンスト:開始から終了まで
 (1)ジュムラでハンスト開始
 (2)体調悪化
 (3)ゴビンダ医師支持の拡大
 (4)カトマンズへの強制移送
 (5)カトマンズでのハンスト継続
 (6)人権団体等のKC支持声明
 (7)メディアの報道

(8)「9項目合意」成立・ハンスト終了
オリ政府は,KCハンスト支持運動の急拡大に押され,KC側との交渉を進め合意を急がざるをえなくなった。政府側交渉団はラジ・バラル教育省事務局長(代表)ら関係各省幹部,KC側はJ・チェットリ医師,S・バンダリ医師,OP・アルヤル弁護士,AR・シン弁護士,S・パンディNMA代表。交渉が始まると,重要局面ではオリ首相自身を含む双方の有力者らが,当然ながら,様々な形で交渉に関与した。(*82)

カトマンズでの最初の交渉は,7月24日,教育省で始まった。この時は,カトマンズ盆地内での医大10年間新設禁止と,1大学の連携医大開設認可5校以内の2項目を中心に交渉されたが,相手側への非難攻撃に終始し進展は全く見られなかった。(*82,83)

次の交渉は,7月26日,いよいよ切羽詰まって,場所は首相官邸,しかもオリ首相自身も出席した。街では,医師・看護師や医学生も参加したデモや集会,外来休診など,激しい抗議活動が続いている。議会では,NCの抵抗で,議事停止。(*84)

オリ政府は追い詰められ,ついに26日夕方,KC側要求をほぼ全面的に受け入れ,これを文書化した「9項目合意」に署名した。(合意項目数は,数え方により「22項目」とされることもある。)(*85)

この合意成立を受け,26日夜おそく,KCはハンスト終了を決め,訪れたKB・マテマやS・ネムワン元議長らから手渡されたジュースを飲んだ。こうして,27日間にも及ぶKC最長のハンストは,KC側のほぼ完勝という結果をもって終了したのである。(*85)

(9)「9項目合意」の概要(*86,87,88,89)
・議会提出済みの「医学教育法案」は22か所修正。
・カトマンズ盆地内での医大新設10年間禁止。
・盆地内医大新設認可取得済みの場合は,新設準備資産を政府に売却するか,もしくは盆地外の優先地域で新設。盆地外新設には優遇措置。
・カルナリ健康科学アカデミー(KAHS)にMBBS開設のための特別委員会設置。
・ジャナキ医科大の運営妨害責任者処分と早急な授業再開。
・各州に少なくとも1医大設置。
・国立(公立)医大入学定員の75%は奨学金付き。
・病院による医大併設には,3年以上の病院運営実績が必要。
・マンモハン記念大学[共産党系]の国有化。
・医学教育問題調査委員会(MEPB)が有責とした関係者を2か月以内に処分。
・大学や他の政府学術機関の役職員選任基準を定めるための委員会設置。

▼KC支持サティアグラハ参加アピールと勝利宣言:KC連帯FB(日付は日本時間)

*82 “Talks between Dr KC and govt begins,” Republica, July 24, 2018
*83 “Talks between govt and KC’s team fail to strike deal yet again,” Republica, July 25, 2018
*84 “National Assembly adjourned for a week after obstruction,” Republica, July 26, 2018
*85 “Govt, Dr KC finally agree on disputed point, seal 22-point deal,” Republica, July 26, 2018
*86 “Oli govt bows to Dr KC’s demands,” Republica, July 27, 2018
*87 “How challenging is implementing agreement with Dr KC?,” Republica, July 28, 2018
*88 Bishnu Prasad Aryal, “Sincerity seen as key to implementing deal with Dr KC,” Republica, July 28, 2018
*89 “Editorial: Implement agreements with Dr KC, in letter and spirit,” Republica, July 29, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/09 at 15:06

ゴビンダ医師のハンスト闘争(32)

7.ハンスト:開始から終了まで
 (1)ジュムラでハンスト開始
 (2)体調悪化
 (3)ゴビンダ医師支持の拡大
 (4)カトマンズへの強制移送
 (5)カトマンズでのハンスト継続
 (6)人権団体等のKC支持声明

(7)メディアの報道
内外メディアのゴビンダ医師ハンスト関係報道はおびただしい数にのぼり,しかも,上述のKC支持声明からもわかるように,その大半がハンスト支持の立場をとっている。ここでは,有力紙3紙の記事のみを紹介する。(他の記事については,主なものを最後に列挙し紹介する予定。)

カトマンズ・ポスト社説「ぞっとする権力行使」(2018年7月20日)(*79)
「国家がジュムラにおいて,抗議行動を続ける整形外科医ゴビンダ・KC博士をカトマンズに連れ戻すため,露骨な実力行使をしたのは,まことに遺憾なことだ。民主社会ではどこでも,露骨な実力行使は,ましてや病院玄関先であればなおさらのこと,よほどのことでなければ,およそ考えられないことだ。・・・・

政府は,KC医師がハンストを止めるに必要な対応を政府が拒否し,これが人々の怒りを買い,政府への信頼を確実に失わせつつあることを,理解すべきだ。いまの危機は,KC医師第15回ハンストの精神とマテマ委員会勧告がともに尊重されることにより解決されるべきだということを,政府は理解すべきであろう。

これは,誰であれ一人の人のエゴを満足させるためではない。それは,露骨な商業化で蝕まれているわが国医学教育の改革という大きな目的のためだ。[政府提出]現行法案は,マテマ委員会案とはかけ離れている。目下,議会は8日間の休会中なので,この間に合意を形成し,誰もが受け入れられる法案を提出すべきであろう。

KC医師はカトマンズに連れ戻されている。彼の要求に応えるため,誠心誠意,努力すべきだ。政府は[政府提出]国家医学教育法案の議会からの撤回ということになろうとも,いまの危機を解決するため柔軟に対応すべきである。」

 

リパブリカ社説「かたくなな態度を改め,KC医師の話を聞くべきだ」(2018年7月24日)(*80)
「オリ首相とその諸大臣は,KC医師の要求に最大限の誠実さをもって応えるべきだ。」MCのプラチャンダと他の幹部だけでなく,UMLの幹部の何人かも,オリ首相のかたくなな態度に批判的となりつつある。

「オリ首相は,KC医師の改革運動を,首相に近い幹部たちが巨額投資をしているマンモハン医科大学に対する攻撃と,以前にもまして見ているようだ。KC医師の要求をそのように見るのは誤りだろう。この6年間,KC医師は,どの党が政権をとっていようとも,医学教育の改革を一貫して訴えてきたからだ。」

オリ首相は,KC医師が話し合いの前提条件を取り下げるなら,話し合いに応じるとしている。もしKCを疲れさせるため,このような作戦をとっているのだとすると,それは民衆を怒らせることになるだろう。政府は,そのような疑念がこれ以上大きくならないうちに,KCとの話し合いに応じるべきだ。すでに反政府運動は拡大し,政府の掲げる「社会主義」は大きく傷つけられてしまっているのだ。

「政府とKC医師側交渉団は話し合いの席に着き,KC医師が同じ問題でまたハンストをしなくてもよいような解決策を見つけるべきだ。KC医師の体調は危険なほど悪化している。彼は,いかなる犠牲を払っても救われなければならない。一方,オリ首相の評判は,そのかたくなで非情な態度により悪化してしまった。オリ首相,手遅れになる前に,あなたのエゴを抑え,KC医師の言葉に耳を傾けられよ。」

ダマカント・ジェイシ「絶対的権力は絶対的に傲岸となる」(ニューヨーク・タイムズ,2018年7月24日)(*81)
「オリ[首相/共産党共同議長]やダハル[共産党共同議長]が自分自身の党のマンモハン病院を信用せず,バンコクやシンガポールに治療に行くのは,なぜか? KCの改革要求は,ネパールの病院をオリやダハルの治療に十分なレベルにすることに他ならない。・・・・ネパール共産党が,コングレス党によるKCの闘争の政治的利用を糾弾するのは,正しい。では,共産党自身のKCとの過去の合意を共産党に実行させなくしているものは,なにか? コングレス党にKCのハンストを武器として利用するチャンスを,なぜ与えるのか?」

*79 Editorial, “That was appalling: The way the state used force to bring Dr KC to Kathmandu is deplorable,” Kathmandu Post, Jul 20, 2018
*80 Editorial, “Give up rigidity, listen to Dr KC,” Republica, July 24, 2018
*81 Damakant Jayshi, “Absolute power numbs absolutely: Nepal’s Communist government is behaving like a bunch of unhinged, insensitive hypocrites,” July 24, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/08 at 18:05

カテゴリー: 健康, 政治, 教育

Tagged with , ,

ゴビンダ医師のハンスト闘争(31)

7.ハンスト:開始から終了まで
 (1)ジュムラでハンスト開始
 (2)体調悪化
 (3)ゴビンダ医師支持の拡大
 (4)カトマンズへの強制移送
 (5)カトマンズでのハンスト継続

(6)人権団体等のKC支持声明
ゴビンダ医師のハンスト闘争については,ネパール内外の人権団体等が様々なKC支持声明を発表,問題の早期解決を訴えた。

たとえば,アジア人権委員会(AHRC)は7月11付声明「医学マフィアに一人立ち向かうKC医師,健康状態悪化」において,こう要望した。「AHRCはゴビンダ・KC医師の生命を救うため,政府が直ちに対応することを求める。政府は,ネパール一般市民の利益のために,すみやかにマテマ委員会答申に沿う医学教育法を制定し,KC医師とのこれまでの合意を実行すべきである。」(*74, 75)

また,アムネスティ・ネパールも,7月20日付声明「病院玄関先での実力行使は認められない」において,KAHSでの警察実力行使に憂慮を表明し,問題の話し合いによる解決をネパール政府に対し要望した。(*76)

さらに,7月22日には,ネパールの主要メディア編集長ら十数人がKC医師と面会した後,共同でKC支持声明を出した。それによれば,主要諸政党がKCとのこれまでの合意を誠実に実行しなかったため,彼は今回,15回目のハンストに入らざるをえなかった。「その結果,KC医師はハンストの繰り返しで生命そのものの危機に陥ってしまった」。政府は,これ以上引き延ばすことなく,直ちに彼の要求に応えるべきだ。以上が声明要旨。この声明に参加ないし賛同したのは,カンティプル,カトマンズ・ポスト,ナガリク,リパブリカ,ヒマラヤン・タイムズ,アンナプルナ・ポスト,セトパティ,ナヤパトリカ,12khari.comなど(同系列メディア含む)。(*77,78)


■AHRC声明(同HPより)/アムネスティ・ネパール声明(同HPより)

*74 AHRC, “NEPAL: Deteriorating health of Dr. KC, lone crusader fighting against medical mafia,” AHRC HP, July 11, 2018
*75 “AHRC urges govt to save Dr Govinda KC’s life,” Himalayan, July 12, 2018
*76 Amnesty International Nepal Section, “Use of force at the Hospital Premises Unacceptable,” 20 Jul 2018
*77 “Editors of mainstream media express solidarity to Dr KC’s demands, appeal govt to meet his demands,” Republica, July 22, 2018
*78 “Editors support Dr KC’s demands, urge govt to act soon,” Republica, July 23, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/07 at 10:20

カテゴリー: 健康, 政治, 教育

Tagged with , ,

ゴビンダ医師のハンスト闘争(30)

7.ハンスト:開始から終了まで
 (1)ジュムラでハンスト開始
 (2)体調悪化
 (3)ゴビンダ医師支持の拡大
 (4)カトマンズへの強制移送

(5)カトマンズでのハンスト継続
ゴビンダ・KC医師は2018年7月19日,軍ヘリによりジュムラからカトマンズへ強制移送され,午後4時にはトリブバン大学教育病院(TUTH)に収容された。

ゴビンダ医師の体調は,20日以上にも及ぶハンストのため極度に悪化,生命すら危険な状態になっていた。7月20日にKCを見舞ったデウバNC党首は,こう述べている。「彼は危険な状態だ。何か言いたそうだったが,話すことはできなかった。・・・・彼の背後には何百万人もの支持者がいる。政府は直ちにKCとの話し合いに応じ,彼の要求を聞き入れるべきだ。」(*67)

7月22日には,KCの母(80歳)が彼と面会し,精密検査受診を訴えた。この母の懇願を受け,KCが検査を受けると,冠疾集中治療室(CCU)での治療が必要なほど危険な状態であった。(*68)

7月25日付報道では,TUTH医師が,KCは危険な状態にあると警告した。白血球数,血糖値,カリウム値が,いずれも基準から著しく外れ,記憶喪失もある。このままでは,痙攣(seizure)を引き起こし,意識喪失(coma)になるという。

まさに極限状態。この文字通りの「決死のハンスト」は人々の関心をさらに高め,メディアが連日,大きく報道し,KC支持の集会やデモ,医療機関のストなどが拡大していった。

7月21日には,マイティガルでKC支持大集会が開催された。参加したのは,ガンガ・タパ元保健大臣らNC幹部数名,「新しい力」党のバブラム・バタライとヒシラ・ヤミ,ビベカシール・サージャ党幹部,スシル・カルキ元最高裁長官,人権活動家のクリシュナ・パダディ,女優のクリシュナ・マナンダールといった有力者・著名人をはじめとする多数の人々(参加者数詳細不明)。

マイティガル集会後,ニューバネスワルに向け,「マフィアのお友だち政府はいらない」などと書かれたプラカードを掲げ,風船を手にした「風船デモ」が行われた。このデモ隊は,ニューバネスワルで警官隊と衝突,デモ隊側数十人と警官11人が負傷した。この知らせを聞き,デウバNC党首はオリ首相に会い,警官隊の実力行使を非難し,KCの要求に応えなければ,闘争をさらに強化すると警告した。(*69, 70, 71)

翌22日には,「ゴビンダ・KC医師連帯同盟」主催のKC支持集会がダーバー広場で開かれ,医師,看護師,医学生ら約300名が参加した。さらに23日には,国民民主党,ビベカシール・サージャ党,ネパール医学協会を中心とするKC支持集会が開かれ,数百人が参加した。こうしたKC支持集会やデモは,ポカラなどでも実施され,全国へと拡大していった。(*72, 73)

■風船デモ(Republica, 22 Jul 2018)

*67 Bishnu Prasad Aryal, “180 days, 6 years, 15 hunger strikes,” Republica, July 18, 2018
*68 “Dr KC agrees to checkup at mother’s request,” Republica, July 24, 2018
*69 “For Dr. Govinda KC, Against Govt’s Decision,” Republica, July 21, 2018
*70 “Dozens including 11 police injured in protests over Dr KC’s demands,” Republica, July 22, 2018
*71 “Civil society takes to the street over Dr KC’s demands,” Republica, July 22, 2018
*72 “Civil society starts mass sit-in supporting Dr KC’s demands,” Republica, July 23, 2018
*73 “Civil society’s mass sit-in continues Monday,” Republica, July 24, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/06 at 09:41

ゴビンダ医師のハンスト闘争(29)

7.ハンスト:開始から終了まで
(1)ジュムラでハンスト開始
(2)体調悪化
(3)ゴビンダ医師支持の拡大

(4)カトマンズへの強制移送
ゴビンダ・KC医師が,「医学教育令2017年」の継承発展たる「医学教育法」の制定を求めジュムラでハンストを開始したのに対し,オリ共産党政府は,医療格差象徴の場として選ばれたジュムラでの交渉を忌避,彼を首都カトマンズに連れ戻し,そこで説得しハンストを止めさせようとした。政府側は次のように主張した(19日カトマンズ移送後報道も含む)。

オリ首相:①「納税者のカネから給料をもらっている者が,自分に割り当てられた義務を果たしもせず,政府を独裁的などと,どうして非難できるのか?」(7月9日頃,官邸での第2州共産党議員との会談において*46)。②「KC医師は,問題解決ではなく,問題をつくり出そうとしてきた。」そして,様々な勢力がそれを利用し,彼の治療を妨害してきた。医者や公務員が職務を放棄して街頭に出てよいのか? 医学教育法は,議会で審議すれば,修正に応じる用意はある。(7月24日付報道*47)

プラチャンダ共産党共同議長:KCのハンストには慣れっこ。政府は彼の生命を救おうとしているのに,反民主的勢力が彼を殺そうとしている。一個人の街頭運動で決められてしまうのなら,政府も議会も不要。反革命勢力がKCを政治的に利用している。コングレス党はKCの死体を踏みつけ利用するような恐ろしい政治をするつもりか。(7月24日付報道 *47)

GM・ポカレル教育大臣:①医学教育法は議会提出済。「座り込みで何でも変えようとする伝統は終わりにしなければならない。議論してはならないことは何一つないが,解決はハンスト以外の方法で見出すべきだ。」(7月10日付報道*48)②「KC は主権的上院に圧力をかけ自分の命令に従わせようとしているが,これは許されないことだ」(7月11日付報道*49)③7月13日,KCを強制的にカトマンズに連行することもありうると発言(7月17日付報道*50)④7月14日ジャーナリスト協会でのコメント。政府はKCの生命を救いたいと考えている。「天候の回復を待っている。拒否されても,KC医師をここカトマンズに連れてこざるをえないかもしれない。」(*51)

政府は,このような対KC強硬姿勢を維持しつつも,U・ヤダブ保健大臣が7月6日,医師2名,看護師数名をジュムラに派遣した(*52)。が,KCは,地元ジュムラの医師らに看てもらうとして彼らを拒否,退去を要求した(*52,53,54)。また,政府側はKR・バラル教育省事務局長を長とする政府交渉団を派遣したが,この交渉団は政府方針通りKCにカトマンズ帰還を要求するだけであったため,実質的な交渉には入れなかった(*55,56)。

そうこうするうちに,KC支持運動はますます拡大・過激化,政府は追いつめられKCのカトマンズ移送強行に急傾斜していった。カルナリ州政府が7月17日,KAHSでは治療困難だとしてKCのカトマンズ移送を中央政府に要請したのも,おそらく中央政府のそうした意向を受けてのことであろう(*57)。そして,ついに7月19日午前8時ころ,政府はKCカトマンズ移送を発表,軍ヘリをジュムラに派遣した。ヘリは同日午前9時半ころジュムラ軍駐屯地に着陸。(*58)

このヘリによるKC移送の知らせを受け,KC支持派はハンスト中のKAHSに多数集結,移送を阻止しようとした。彼らは,KCに移送を伝えるため訪れたカルナリ州のMB・シャヒ首相,N・バンダリ内務法務大臣らを阻止し,追い返した。

そこで郡当局(B・パウデル郡長)は,治安部隊にKC連行を命令した。抵抗する者には射撃も許可したという。銃使用については,警告はしたが,実際には実弾は発射されなかったようだ。催涙弾は使用。それでも,KAHS付近での激しい衝突により,40名にも及ぶとされる多数の負傷者が出た。(*58,59)

この衝突の知らせを受けたゴビンダ医師は,苦渋の決断を迫られた。彼は,要求が通らなければカルナリで死ぬ覚悟だと繰り返し明言していた――
「ニュース報道によると,政府は私をカトマンズに連れていくためヘリコプターを送るそうだ。私は,この聖なるカルナリの地で死を迎える覚悟をしており,カトマンズには私の要求がすべて受け入れられるまで帰るつもりはない。」(*60)
「7項目要求が満たされなければ,カトマンズには戻らない。たとえ死ぬことになろうとも,ここジュムラで死ぬことを選ぶ。」(*61,62)

ゴビンダ医師の決死の覚悟は,このように明確だったが,それではなぜ彼は,結局はカトマンズ移送に同意したのか? 理由はただ一つ,当局の強硬な実力行使によりKAHS周辺に結集していたKC支持派や治安部隊に多数の負傷者が出始めたこと。当局側は,拡声器を使い,衝突で警官死亡と放送したとさえ言われている。この放送はウソで,実際には警官は釘でけがをしただけだったようだが,もしそうした放送があったのであれば,KCにも聞こえていたであろう(*63)。KCは,こうした犠牲者続出の知らせを聞き,カトマンズ移送への同意を決断せざるをえなくなった――

MB・シャヒ州知事に対し,KCはこう訴えた。「暴力を止めよ,病院破壊を止めよ。こんな暴力を引き起こすくらいなら,カトマンズへ行く。」(*58)

こうしてKCは7月19日,軍ヘリに乗せられ,スルケット経由でカトマンズ(トゥンディケル)へ運ばれた。当初,政府は,KCを近くのビル病院に収容する予定だったが,これにはKCが断固抵抗,結局は彼の勤務先であるトリブバン大学教育病院(TUTH)に移送した(*64,65)。午後4時,KC移送作戦完了(*58)。

TUTHに収容されたゴビンダ医師は,ここでハンスト闘争をさらに継続することになる。

ジュムラ(jumlanepal.blogspot.com)

*46 “Height of cruelty,” Republica, July 9, 2018
*47 “Oli, Dahal spit venom at NC, Dr KC,” Republica, July 24, 2018
*48 “Dr KC rejects PM’s proposal for one-on-one by phone,” Republica, July 10, 2018
*49 “Centre continues to ignore Dr KC’s plight,” Kathmandu Post,Jul 11, 2018
*50 “Govt at last forms team for talks with Dr KC,” Republica, July 17, 2018
*51 “Dr KC to be brought to Capital forcibly: Minister,” Kathmandu Post, 2018-07-14
*52 “Rights bodies urge govt to take care of Dr KC,” Republica, July 6, 2018
*53 DB BUDHA, “Dr KC refuses to see docs from Kathmandu,” Republica, July 6, 2018
*54 Devendra Basnet/DB Budha, “Choice of Jumla was to draw govt attention to Karnali: Dr KC,” July 8, 2018
*55 “Govt forms talks panel led by Education Secy Baral,” Republica, July 16, 2018
*56 “Dr KC says govt is indifferent,” Republica, July 19, 2018
*57 “Dr KC appeals for medical attention,” Republica, July 17, 2018
*58 “40 injured in clash as Dr KC taken by force to Kathmandu,” Republica, July 20, 2018
*59 “Dr KC airlifted from Jumla,” Republica, July 19, 2018
*60 “Fasting surgeon refuses to leave Jumla,” Kathmandu Post, Jul 12, 2018
*61 Devendra Basnet/DB Budha, “Dr KC refuses medication,” Republica, July 10, 2018 *62 “Dr KC’s supporters to foil govt plans to airlift him to capital,” Republica, July 14, 2018
*63 “Police duped Govinda KC,” Nepali Times, August 3, 2018(Onlinekhabar, 30 July)
*64 “Dr KC brought to Surkhet,” Republica, July 19, 2018
*65 “Chopper carrying Dr KC landed at Tudikhel; rushed to Teaching Hospital,” Republica, July 19, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/04/06 at 18:21