ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for the ‘外交’ Category

デウバ首相とインド

デウバ首相は,一般に,親印米と見られており,この方面での評判はむろん悪くはない。たとえば,印ネパール学の権威SD・ムニ氏(ネルー大学名誉教授)は,コングレス(NC)=マオイスト(CPN-M)連立維持を高く評価し,デウバ新首相への期待を次のように表明している。
 ▼SD Muni, “Deuba’s Nepal: The challenges he faces,” The Indian Express, 9 Jun 2017

1.公約を守ったプラチャンダ前首相
「プラチャンダは,NCとの約束を反故にし,UMLの支持を得て政権を維持することもできた。幸いなことに,彼はそうはしなかった。国民とNCに対する約束を,彼は守ったのだ。」

2.UMLの難点
では,議会第二党のUMLとの連立は,なぜだめなのか? 「UMLは,残念なことに『山地』上位カーストと平原マデシやジャナジャーティとを 社会的に分断・対立させることをいとわない。」そのため,UML=NC連立政権のときは,マデシ,ジャナジャーティ,ダリット,女性が疎外された。

また,UML=マオイスト連立政権のときは,UMLが自党の支持拡大のためマオイストの地盤を侵食したため,プラチャンダは連立を解消せざるをえなかった。

さらにUML=NC=マオイストの大連立も,安定と発展はもたらさなかった。

3.ベターな選択としてのNC=マオイスト連立
結局,UML抜きのNC=マオイスト連立が,現状ではベターな選択となる。「NCとマオイストの二政党は一般党員/選挙区住民レベルでの利害対立がなく,したがってこの二党連立はネパールに必要な安定と発展をもたらすものであり,ベターな選択である。」

4.デウバ首相の政治課題
(1)内政
「デウバは,首相就任後すぐに,三つの重要政策を発表した――憲法施行,周縁的諸集団のための憲法改正,そしてネパール国民の発展促進である。」これらの課題は,難しくはあるが,デウバ首相は593議員のうちの388議員の支持を得て選出されたのであり,決して不可能ではない。
(2)外交
「デウバのもう一つの課題は,彼自身にもよくわかっていることだが,印中の安定したバランスを維持することだ。」

「ネパールは,中国がスリランカ,ミャンマー,そしてもちろんパキスタンにおいて何をしてきたのか,それを見て学ぶべきである。中国は,これらの国において,経済協力やインフラ投資を手掛かりとして,その戦略的諸目的を断固として強力に推し進めて来たのだ。」

5.インドのNC=マオイスト連立支持
「いまデウバに必要なのは,故GP・コイララの決断力と,その連立相手にして継承者たるプラチャンダの柔軟な強靭さを併せ持つことだ。」

「インドは,NC=マオイスト連立を公然と支持してきたのであり,今後もその連立が継続されることを期待している。」

――以上が,ムニ氏記事の要点である。ムニ氏,あるいはインド筋が,親中ナショナリストのUMLを警戒し,NC=マオイスト連立に期待していることは明らかである。かならずしもデウバ首相その人への期待ではないかもしれないが。


 ■SD・ムニTwitterより/ムニ著『インドとネパール』表紙

【参照】ネパールの「中国カード」とインド国益:SD・ムニ

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/06/10 at 18:45

カテゴリー: インド, 外交, 政党, 中国

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中ネ共同軍事訓練の地政学的意味

ネパール国軍と中国人民解放軍が,カトマンズの「パラ軍学校」において,初の共同軍事訓練「サガルマータの友好2017」(4月16~25日)を実施している。これは,ネパールをインド勢力圏内の一小国とする伝統的な見方からすると,驚くべき新たな事態とみてよいであろう。(参照:ネ中共同軍事訓練「サガルマータの友好2017」

そのことを中国政府側から明快に分析し,その意義を高く評価しているのが,『環球時報』のこの記事:
 ▼Liu Zongyi, “Indian Worry Over China-Nepal Drill Outdated,” Global Times, 21 Apr 2017
著者のLiu Zongyi氏は上海国際問題研究院の上席研究員。以下,この記事の概要を紹介する。

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「サガルマータの友好2017」は,テロ対策と災害救助を目的とする中国とネパールの共同軍事訓練である。ネパールは,中国と緊密な経済関係を持つに至り,「一帯一路」への参加も希望している。それには,テロ対策を進め,「この地域の安全と安定」を図ることが不可欠だ。また,ネパールは地震など災害多発国であり,災害救助訓練も必要だ。

この共同軍事訓練は,こうした目的を持つものであり,当初,大隊規模での実施を予定していたが,インドの対ネ圧力により,「パラ軍学校」での小規模な訓練となってしまった。が,たとえそうであっても,この共同訓練には大きな意義がある。

インドはこれまで,冷戦的な地政学的観点から,ネパールやブータンを「自国の勢力圏内」におき,「中国との間の緩衝地帯」として利用してきた。そして,ナショナリズムが高揚し,モディ首相が就任すると,インドは「対中強硬策」をとり,「中国が南アジアやインド洋沿いの国々と経済協力を進めることを警戒し,中国の影響力を押し返そうとしてきた」。

ネパールは,そのようなインドに「政治的,経済的,文化的など様々な面で依存してきた」。そのため「ネパール人の多くが,シッキムのように,自分たちも国家としての独立を失うのではないかと恐れてきた」。

そのネパールにとって,「この共同軍事訓練は,中ネ二国間関係が政治的・経済的・文化的なものから,軍事的防衛の領域にまで拡大したこと」,あるいは「ネパールが大国間バランス外交に向け前進したこと」を意味する。さらにまた,「中国との共同軍事訓練は,ネパール国内の民族的分離主義を抑止することにも役立つ」。

中国は,中国‐ネパール‐インドの三国間関係につき,明確な立場をとっている。中国は,ネパールが中国とインドの架け橋となることを願っている。中国‐ネパール‐インド経済回廊を前進させることにより,これら三国すべての発展を加速できる。インドが中国とネパールの協力をどう見るにせよ,中国とネパールとの協力は,両国民の利益となるものであり,拡大し続けるであろう。

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以上が,Liu Zongyi上席研究員の『環球時報』掲載記事の要旨。中ネ共同軍事訓練をバックに唱えられているにせよ,議論それ自体は,まったくもって正論である。ネパールが独立を堅持し,もって中印の架け橋になるとは,ネパール政府が以前から繰り返し唱えてきたネパール外交の表向きの基本方針だし,中ネ印の平和的経済発展にも反対のしようがない。

たしかに,新たな「正義と平和」は,新たな強者の側にある。ネパールは,昇竜・中国に導かれ,インドの勢力圏から脱出し,相対的により独立した「中印のバランサー」ないし「中印の架け橋」へと向かうのであろうか?


■ネ中共同軍事訓練(国軍HP)/一帯一路(Xinhua Finance Agency HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/04/25 at 19:10

カテゴリー: インド, ネパール, 経済, 軍事, 外交, 中国

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習近平『中国の統治』ネパール語版の出版

昨年末のことだが,習近平主席の『中国の統治』ネパール語版が出版され,ネパール大統領公邸で盛大な出版披露会が挙行された。
■ネパール語版披露(在ネ中国大使館HP)

『中国の統治』原本は,2014年10月(9月?)発行。習主席の2012年11月~2014年6月の演説,談話,覚書,書簡など79編を収録しており,5百頁余の大著。中国語(簡体字版・繁体字版),英語,仏語,独語,露語,アラビア語,スペイン語,ポルトガル語,クメール語,タイ語(2017年4月7日),日本語の各言語版があり,5百万部以上発行された。2017年3月25日現在,1千7百万部突破。大国の大著の世界大ベストセラーだ。

ネパール語版は,「中国研究センター」が担当した。在ネ中国大使館,中国情報部,中国外国語出版局など中国側も全面的に協力し,1年かけて慎重に翻訳し,2016年12月出版にこぎつけたのである。

ネパール語版『中国の統治』の出版は,ネパール大統領公邸で,BD・バンダリ大統領と刘奇葆中国共産党政治局委員によりにぎにぎしく披露された。その席で,バンダリ大統領はこう述べた。
バンダリ大統領:「この本は,中国の統治制度や中国指導部のビジョンについて述べており,われわれの世界理解を深めてくれる。」中国は信頼する友であり,ネパールの発展を支援してくれている(*1)。

また,翻訳出版した「中国研究センター」のマダン・レグミ所長も,出版の意義を高く評価している。
マダン・レグミ所長:「この本は,ネパールの人々,とりわけ政策担当者にとって,今日の中国を正しく理解し学ぶための完璧な手引きである。ここには中国の理念,統治と法の支配の方法,そして国の将来設計が明確に述べられており,われわれのような近隣諸国にとっては大いに勇気づけられる本である。」ネパールの指導者らは,中国の発展と改革から学ぶべきである(*1)。

ネパール語版『中国の統治』は,出版されるとすぐ500部が売れたという。すごい! これほど売れるのなら,『美しい国へ』のネパール語訳出版も考えてみてよいのではないか? 日本には著者の意を忖度できる愛国的翻訳者・出版者はいないのだろうか。(参照:安倍首相の怪著「美しい国へ


■カンボジア副首相出版披露(新華社2015年2月22日)/タイ語版出版(新華社2017年4月8日)

*1 “Nepali edition of Xi’s book on governance launched in Nepal,” Xinhua, 19 Dec. 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/04/10 at 17:17

カテゴリー: ネパール, 外交, 中国

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ネパール地方選を中国援助

プラチャンダ首相が訪中し,3月27日,習近平主席と会談した。会談後,中国政府は,ネパールの5月地方選に対し,1億3千6百万ルピーの援助をすると発表した。

あれあれ,ネパール政府は,次の選挙では外国援助を受けないと宣言していたのではなかったかな?(参照:地方選,5月14日投票)それを知ってか知らずか,よりによって人民民主主義の中国が多党制民主主義のネパールの選挙を支援する。興味深い。

一方,この中国による選挙支援には,世界最大の選挙民主主義国インドをバックにするマデシ諸党が猛反発,中国政府を激しく非難している。ネパールでは,地方選ですら,国際政治と密接不可分なのだ。難しい。

■在中ネ大使館HPより

谷川昌幸(C)

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2017/03/31 at 22:40

駐日ネ大使候補プラチバ・ラナさん,議会委員会が承認

議会聴聞委員会(PHSC)が3月22日,政府推薦の12大使候補を全会一致で承認した。駐日大使候補は,プラチバ・ラナさん。

プラチバ・ラナさんは,1948年生まれ。コングレス党デウバ党首の義母だが,ラナさん自身は国民民主党(RPP)中央委員。制憲議会議員,科学技術副大臣(state minister),超党派女性同盟(IPWA)創立者副議長などを歴任されている。

 ■プラチバ・ラナさん(ネパールTV,2015/07/30)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/03/23 at 23:32

カテゴリー: 外交, 政党

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包摂民主主義の訴え,米大使(3)

テプリッツ駐ネ米大使が,こうした観点から,国交70周年メッセージにおいて厳しく批判しているのが,起草中の新しい「社会福祉開発法」。それは,民主主義に不可欠の市民社会諸組織(CSOs: Civil Society Organizations)の活動を不当に拘束するものであり,ネパール憲法にも国際法(結社の自由を保障する国際人権規約)にも違反するというのである。

テプリッツ大使は,国際法については違反するとだけしか述べていないが,憲法との関係についてはかなり詳しく説明し批判している。すなわち,ネパール憲法51(j)条は,社会的公正と包摂のための政策を政府に義務づけたうえで,それに不可欠のCSOsの透明で効率的な運営のための「単一窓口制(single door system)」の採用を規定している。ところが,起草中の新しい「社会福祉開発法」には,この「単一窓口制」に反する規定がある。もしこのまま制定されれば,CSOsは,設立・運営のため様々な役所の認可を得なければならないし,また外国援助事業には社会福祉委員会のややこしい認可が必要になる。

「単一窓口制は,適切に運用されるなら,CSO関係政府諸機関の間の軋轢や混乱を防止し,CSOsをしてその本来の役割を果たさせ,そして市民社会と国家の間の健全な関係を促進することになるだろう。ところが,起草中の新しい社会福祉開発法は,CSOsの活動に対し様々な機関から様々な認可を取得することを義務づけるものであり,これは憲法の定める『単一窓口制』に反する規定である。」

たしかに,ネパールの行政手続きは,「単一窓口制」が不可欠と思わせるに十分なほど不効率で,汚職腐敗も少なくないが,他方,ネパールにおけるCSOsの乱立,不正も目に余る。ネパール政府がCSOs,とりわけ外国支援CSOsの活動を把握し規制したいと考えるのは,独立国家の政府としては,当然のことだともいえる。圧倒的な超大国アメリカの駐ネ大使,テプリッツ氏のメッセージからは,独立国ネパールへのそのような配慮は全く感じ取れない。

テプリッツ大使は,国交70年メッセージをこう結んでいるが,この趣旨のことは,ネパール政府というよりはむしろ,本国アメリカのトランプ大統領にこそ向けて,まずは訴えられるべきではあるまいか。

「合衆国は,ネパールが人民の,人民による,人民のための民主国家として進歩することを支援するため,ネパールに関与し続ける。われわれは,すべてのネパール人が性,民族,宗教,カースト,居住地,そして経歴にかかわりなく,学習や健康や繁栄への平等な機会を共有するという国家理念を共有しているが,これは,米国のネパール支援継続により,単なる願望や夢ではなく,すべての人のために実現されるべき約束となるであろう。」

170224■在ネ米国大使館HPより

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/24 at 21:45

包摂民主主義の訴え,米大使(2)

テプリッツ米国大使は,国交70周年メッセージにおいて,「市民社会(civil society)」につき,こう述べている。

市民社会で重要な役割を担うのは,NGO(非政府組織),専門職団体,地域社会組織,シンクタンク,労働者組織,学術団体,メディアなどである。それらは,包摂参加を促進し,また統治を公的に監視する。市民社会は,人民の,人民による,人民のための政府の理念の実現に不可欠である。

「市民社会は,メディアも含め,ときとして政府にとって都合の悪い目障りな存在となるが,だからこそ民主主義には市民社会の様々な組織が必要であり,またわれわれが他国の民主政府と協力して市民社会の強化を図るのもそのためである。」

これは,ネパール政府よりもむしろ本国のトランプ大統領にこそ向けられた諫言であるかのようだ。赴任先で米国政府を代表すべき大使が,いまこんなことを公言して,大丈夫だろうか?

170220■テプリッツ大使(在ネ米大使館HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/22 at 08:57