Archive for the ‘外交’ Category
生成AI問答(11): 竹島/独島は,どの国の領土ですか?
微妙な問題に生成AIがどう答えるか,気になったので,もう一度,別の領土問題を例にとり,質問してみた。質問したのは,周知の竹島/独島(Dokdo)について。公平のため,「竹島」と「独島」でそれぞれ質問し,英⇌日訳はDeepLに一任した。
Bing回答は,「独島」で質問すると,韓国領だと断言している。日本政府や島根県のHPを参照しているのに,魔訶不思議? その一方,「竹島」で質問すると,日本固有の領土と明言。韓国による実効支配には言及なし。矛盾した答えを出しても平気の平左。
Bard回答は,「独島」で質問すると,詳細かつ公平に答えようと苦心の様が感じられ,大いに好感が持てる。ところが,「竹島」で質問すると,態度は豹変,回答拒否。門前払い。感情的になり,怒っているようだ。あの島は「独島」であり,本来,名付け親たる韓国のもの,ということ。韓国の広報力に,日本は惨敗らしい。
ChatGPT回答は,質問が「独島」でも「竹島」でも,答えの内容は同じであり,現状の説明としてはほぼ妥当。言い回しが異なるので,それぞれ別の学習をし,別の文章で答えたらしい。学習も文章も別なのに,文意は同じとは,スゴイ!
ところが,そのChatGPT回答でも,この海域を「東海(日本海)」と表記している。国際的には,「日本海(Sea of Japan, Japan Sea)」が定着しているのに,ChatGPTでは,韓国主張の「東海」が主とされている。情報戦では,ここでも日本は劣勢と見ざるをえない。
*****<以下,生成AI回答>*****
Bingの回答(質問回答=日本語)
①独島は,どの国の領土ですか?
独島は、韓国の領土であるとされています¹。韓国側の主張によれば、現在の竹島(独島)は古代から于山島の名で知られている韓国の領土であり、 1696年 には 朝鮮 の 安龍福 が現在の竹島から日本人を追い返し日本に渡り幕府に抗議したとされています¹。(1) 竹島問題 Wikipedia (2) 【竹島問題とは】簡単にわかりやすく解説!! 原因は? 現在に至る (3) 島根県:韓国が知らない10の独島の虚偽 第6回(トップ / 県政 (4) 竹島 – Wikipedia (5) 独岛, 獨島 (6) 韓国の主張を見てみよう|内閣官房 領土・主権対策企画調整室
②竹島は,どの国の領土ですか?
竹島は、日本固有の領土であるとされています¹。竹島について韓国と領土問題が起きたのは戦後になってからであり、竹島が領土であることは漁業権・排他的経済水域の点からも経済的メリットが大きいとされています³。(1) 竹島|外務省 – Ministry of Foreign Affairs of Japan (2) 【竹島問題とは】簡単にわかりやすく解説!!原因は?現在に至る (3) 竹島
Bardの回答(質問回答=日本語)
①独島は,どの国の領土ですか?
独島は、韓国と日本が領有権を主張している島々です。韓国では独島、日本では竹島と呼ばれています。独島は、朝鮮半島の東、日本海に位置しています。面積は約18万平方メートル、周囲の海域は豊富な魚介類資源が豊富です。
韓国は、16世紀から独島を自国の領土として管理してきたと主張しています。日本は、19世紀に独島を発見し、1905年に自国の領土に編入したと主張しています。
韓国と日本は、独島の領有権をめぐって長年対立してきました。1951年のサンフランシスコ講和条約では、独島の領有権は解決されませんでした。
韓国は独島に警察官を常駐させており、島には韓国の国旗が掲げられています。日本も独島に灯台を設置していますが、島には日本の国旗は掲げられていません。
独島の領有権問題は、韓国と日本にとって非常にデリケートな問題です。両国は、この問題を外交交渉で解決することを模索していますが、合意には至っていません。
②竹島は,どの国の領土ですか?
(回答1)私はテキストベースのAIです。そちらについてはお手伝いできません。
(回答2)私は大規模言語モデルとしてまだ学習中です。それを処理し、理解する機能がないため、すみませんがお手伝いできません。
ChatGPTの回答(質問回答=DeepL翻訳英語)
①独島は,どの国の領土ですか?
独島は、日本では竹島と呼ばれ、韓国と日本が争っている領土である。両国は、東海(日本海)に位置するこの島に対する主権を主張しています。現在、韓国が島を管理し、小さな警察分遣隊が駐留しています。この領土問題は、両国間の長年の懸案事項であり、現在も解決されていません。
②竹島は,どの国の領土ですか?
竹島は、韓国では独島と呼ばれ、東海(日本海)に位置する小島群である。現在、韓国が統治している。しかし、日本も竹島の領有権を主張しており、公式な姿勢では竹島と表記している。この領土をめぐる争いは、長年にわたり韓国と日本の間で続いており、現在も解決されていない。
*****<以上,生成AI回答>*****


谷川昌幸(C)
生成AI問答(10): カラパニは,どの国の領土ですか?
「領土(領域)」は,「国民」と同様,主権国家にとって最も重要なものだ。そのため,たいていの国家が,多かれ少なかれ「領土」をめぐる争い―「領土紛争」―を抱えている。
ネパールも,隣国のインドと中国との間で様々な「領土問題」を抱えている。領土紛争に明け暮れと言っても,あながち過言ではあるまい。
「領土問題」は,その意味では日常的だが,外国人が当事国の人々に問うには,あまりにも「微妙な問題」でありすぎる。たとえば,「魚釣島」や「竹島」や「択捉島」について,外国人に問われたら,答える前に,多かれ少なかれ質問者の素性を疑い,質問の意図を探り,その状況下でどう答えるのが自分にとってベターか思い悩むに違いない。事程左様に,領土問題は政治的に難しく,問うにも答えるにも難しい「微妙な」難問なのである。
この厄介至極な領土問題について,AIなら,どう答えるのだろう? AIは人情に左右されることはないから,領土問題にも「客観的な」回答を出してくれるのではないか?
そんな期待を胸に,ここではネパールの「カラパニ」問題について質問してみることにした。
Bing回答は,ごく基本的事実のみ。これに対し,Bird回答とChatGPT回答はかなり詳しいが,それでもなぜかWIKIなどに比べると,叙述が表面的で,やや躊躇しながら書いている感じ。これは意外。
確かに領土問題は,最も神経を使う難問中の難問。たとえAIであろうと,不用意に首を突っ込めば,たちまち大炎上,非難攻撃を招きかねない。だからAIも,そうした空気を読み,無難な回答にとどめることにしたらしい。人間的,あまりに人間的なAI――これは,スゴイ!
AIも,このように場の空気を読んで答えているとすれば,空気をつくりAIをある方向へ導くことも可能だ。領土問題だけでなく,宗教や政治信条など,重要にして微妙な他の問題についても,おそらく,もうすでに「AIのための場の空気」を創りだす動きが始まっているに違いない。それとなく探ってみたい。
*****<以下,生成AI回答>*****
Bingの回答(質問回答=日本語)
カラパニは、ネパールとインドの間で領土問題になっている地域です。1962年の中印国境紛争以降はインドが実効支配しているが、ネパールはスガウリ条約に基づいて領有権を主張しています。 (1) スドゥパシュチム州 (2) スドゥパシュチム州 (3) ネパール・インド国境問題: 「カラパニはネパールの領土」2020 (4) ネパール首相 インド訪問 国境・領土紛争について (5) ネパール新地図にインドとの係争地域、領土問題激化必至 写真
Bardの回答(質問回答=日本語)
カラパニは、ネパールとインドの両国が領有権を主張している地域です。この地域は、ネパールの北西端にあり、中国と国境を接しています。
ネパールは、1816年の英領インドとの条約に基づいて、カラパニの領有権を主張しています。この条約は、カリ川に沿って国境を定めており、川の東側の土地はネパールの領土であると定義しています。しかし、インドはカラパニがインドの領土であると主張しており、この地域の領有権をめぐって両国は長年対立しています。
2020年、インドはカラパニを含む地域に道路を建設しました。この道路は、ネパール政府によって非難されました。ネパール政府は、この道路はインドがカラパニを領有していることを示す試みであると主張した。
ネパールとインドは、カラパニの領有権をめぐる対話を続けています。しかし、両国はこれまでのところ合意に至っていません。
ChatGPTの回答(質問回答=DeepL翻訳英語)
カラパニは、インドとネパールの間で領土問題の対象となっている領土である。カラパニの地域は、ヒマラヤ山脈の西部、インド・ネパール・中国の三叉路の近くに位置しています。インドとネパールの双方が領有権を主張し、紛争と外交交渉が続いています。2021年9月現在、この問題は未解決のままであり、その後、さらなる進展があった可能性があります。カラパニの状況について、最新のニュースや公式ソースを確認することをお勧めします。
*****<以上,生成AI回答>*****

谷川昌幸(C)
入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (9)
[参考資料]
*1 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」2019年10月
*2 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査結果(概要)」
*3 入国管理局長「拒食中の被収容者への対応について」(通達),2001年11月2日
*4 入国管理局「退去強制業務について」平成30年12月
*5 出入国在留管理庁「収容・仮放免に関する現状」令和元年11月25日
*6 出入国在留管理庁「送還忌避者の実態について」2020/03/27
*7 「仮放免に関する主な通達・指示」難民支援協会,2019年11月
*8 「法務大臣閣議後記者会見の概要[ナイジェリア人男性の死亡に関する質疑について]」令和元年7月2日
*9 宮崎岳志「東京入国管理局に収容されている外国人多数がハンガーストライキを行っているとの報道に関する質問主意書」平成29年5月16日提出,質問第318
*10 「衆議院議員宮崎岳志君提出 東京入国管理局に収容されている外国人多数がハンガーストライキを行っているとの報道に関する質問に対する答弁書」内閣衆質193第318号,平成29年5月26日
*11 福岡難民弁護団「大村入国管理センターでのナイジェリア人の死亡事故についての声明」2019/06/27
*12 九州弁護士会連合会「大村入管センターにおけるナイジェリア人死亡事案に関する調査報告書に対する理事長声明」2019/10/29
*13 東京弁護士会「外国人の収容に係る運用を抜本的に改善し、不必要な収容を直ちにやめることを求める会長声明」2019/07/01
*14 日本弁護士連合会「大村入国管理センターにおける長期収容に関する人権救済申立事件(勧告)」2019/11/25
*15 「緊急ステートメントー飢餓死したナイジェリア人男性についてー」FREEUSHIKU,2019/10/03
*16 クルドを知る会,日本クルド文化協会,日本クルド文化協会クルド人難民Mさんを支援する会「大村入管ナイジェリア人飢餓死事件の調査発表を受けての共同声明」2019/10/07
*17 関東弁護士会連合会「入国管理局による外国人収容問題に関する意見書」2019/01/15
*18 「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」
*19 WMA Declaration of Malta on Hunger Strikers, Medical Assembly, 2017
*20 Ian Miller, A History of Force Feeding: Hunger Strikes, Prisons and Medical Ethics, 1909–1974, Palgrave Macmillan, 2016
*21 Mary A Kenny, Derrick M Silove and Zachary Steel, “Legal and ethical implications of medically enforced feeding of detained asylum seekers on hunger strike,” The Medical journal of Australia 180(5), April 2004
*22 Hernán Reyes, “Medical and Ethical Aspects of Hunger Strikes in Custodyand the Issue of Torture,” Research in Legal Medicine, Vol 19, 1998.
*23 「サニーさんの死なぜ 大村入管のナイジェリア人 収容3年7ヵ月」西日本新聞,2019/07/18
*24 「柚之原牧師「現在の制度に無理がある」 大村入国管理センターの長期収容問題」長崎新聞,2019/9/29
*25 「仮放免求めハンスト相次ぐ 大村入国管理センターの長期収容問題」長崎新聞,2019/9/29
*26 「ハンストのナイジェリア人男性が飢餓死するまで 調査報告書を読んだ医師が解説」dailyshincho, 2019/10/08
*27 “Nigerian on hunger strike dies in Japanese immigration centre,” guardian, 2019/10/02
*28 レジス・アルノー「男性が不慮の死「外国人収容所」悪化する惨状 今もハンガーストライキが行われている」東洋経済,2019/08/06
*29 「収容外国人ハンストで死亡 入管施設で初、報告書公表」nikkei,2019/10/01
*30 「法務省に入国拒否され長期収容の27人がハンスト 長崎では死者も」newsweekjapan,2019/06/26日
*31 「長崎に収容のナイジェリア人「飢餓死」報告書 入管ハンスト初の死者」東京新聞,2019/10/02
*32 「入管施設での外国人死亡、ハンストでの餓死だった。入管庁「対応問題なし」」朝日新聞デジタル,2019/10/01
*33 「入管施設で餓死 人権軽視ひずみあらわに」信毎・社説,2019/10/03
*34 野村昌二「体重71キロが47キロに…入管収容者の餓死 外国人に人権ないのか?」AERA,2019/11/12
*35 大橋毅「「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」の検討」,2019/12/28
*36 難民支援協会HP
*37 二村伸「急増する長期収容」NHK開設室,2019/08/21
*38 望月優大「追い込まれる長期収容外国人」2018/11/05,gendai,simedia.jp
*39 「『みんなで裸を見たと言われた』・・・・入管収容女性が手紙で訴え」毎日新聞HP,2020/05/18
*40 「「2週間だけ仮放免」 繰り返される外国人長期収容 「一瞬息させ、水に沈めるようだ」」毎日新聞,2019/11/12
*41 織田朝日「入管施設でハンストを続ける被収容者を苦しめる「2週間のみの解放」」ハーバー・ビジネス・オンライン,2019/11/01
*42「衝撃の内部映像、収容者“暴行”入管施設で何が?」TBS news23, 2019/12/24
*43 アムネスティ「入管施設で長期収容に抗議のハンスト198人」2019/10/ 08
*44 西田昌矢「入管収容者がハンストで半減? 死亡例受け仮放免増加、出所後も困窮」西日本新聞,2020/4/6
*45 「収容外国人の「ハンスト」拡大=仮放免求め、死者も-入管庁調査」jiji.com,2019/10/01
*46 「「入管は自分たちを殺したいのかな?」入管収容所で抗議のハンストが拡大」ハーバービジネスオンライン,2019/08/07
*47 「入管センター「外国人ハンスト」騒動、人権派新聞各紙がほとんど触れない事実」週刊新潮,2019/08/15・22日号
*48 「入管施設で長期収容に抗議のハンスト198人」アムネスティ,2019/10
*49 志葉玲「法務省は違法な収容をやめて―難民や弁護士らが会見、衰弱したハンスト参加者らが再収容の危機」Yahooニュース,2019/08/13
*50 志葉玲「救急車を二度追い返した!東京入管の非道、医師法や法務省令に違反の指摘~手遅れで死亡した事例も」Yahooニュース,2019/03/14
*51 鬼室黎「絶食ハンストした2人、入管が再収容 仮放免から2週間」朝日新聞デジタル,2019/07/24
*52 鬼室黎「入管にハンスト抗議、イラン人仮放免 体重25キロ減も」朝日新聞デジタル,2019/07/10
*53 「牛久入管 100人ハンスト 5月以降拡大、長期拘束に抗議」東京新聞,2019/07/25
*54 「「死ぬか出るか」入管ハンストの男性2人、会見で語った心境」J-CASTニュース, 2019/08/13
*55 「不法滞在外国人、ハンスト続出で入管苦慮…約4割は元刑事被告人」産経新聞,2019/09/30
*56 樫田秀樹「人権非常事態 死に追いやられる難民申請者」,『世界』2019年12月
*57 樫田秀樹「長期収容、自殺未遂、餓死…問題続出の背景に何がある?18年勤めた元職員が語る「入管」の闇」週プレNEWS, 2020/01/13
*58 西田昌矢「入管収容者がハンストで半減? 死亡例受け仮放免増加、出所後も困窮」西日本新聞,2020/04/06
*59 山田徹也「不法入国者が収容される現場の「壮絶な実態」 収容期間は長い人で4年超、医療面での問題も」東洋経済,2020/01/18 5:00
*60 「民主主義とは何かー5日間、計105時間に及ぶハンガーストライキで元山仁士郎さんが訴えたかったこと」琉球新報 2019年1月21日
*61 「元山さんのハンストに共感、県内外から応援続々 辺野古投票実現へ署名も」沖縄タイムス,2019/01/17
*62 「沖縄県民投票めぐるハンストを中止 医師の指摘で」朝日デジタル, 2019/01/19
*63 「「県民投票の会」元山氏のハンスト、ドクターストップ 105時間で終了」沖縄タイムス,2019/01/19
*64 「沖縄、不屈の歴史 ハンストは権力への意思表示」毎日新聞,2019/01/19
*65 辰濃哲郎「沖縄の世論を動かした若者たちの断固たる行動 分断と歴史、葛藤の島でもがく若者たち(3)」東洋経済ONLINE,2019/02/10
*66 三上智恵「「県民投票潰し」とハンガーストライキ」マガジン9,2019/01/23
*67 「宜野湾市役所前テントについて」宜野湾市ホームケージ
*68 「「ハンストはテロと同質」「さっさと死ね」秘書ツイート 衆院議員が謝罪」沖縄タイムス,2019/01/26
*69 「高須克弥、橋下徹、ネトウヨ、安倍応援団がバカ丸出しのハンスト叩き! 元山氏、ウーマン村本が完全論破」リテラ,2019/01/22
*70 美浦克教「沖縄県民投票と日本本土~元山仁士郎さんの105時間ハンストに思うこと」ニュース・ワーカー2,2019/01/20
*71 中村尚樹「琉球弧に見る非暴力抵抗運動~奄美と沖縄の祖国復帰闘争史~」
【追加2022/12/29】人間の尊厳は? 入管施設で「大腿骨壊死」のネパール人、在留特別許可出るも「寝たきり」のまま支援者に放り投げ,弁護士ドットコム,2022/12/27
谷川昌幸(C)
入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (6)
7.入管庁と「リスボン宣言」・「マルタ宣言」
日本政府は,入管施設に多数の無資格入国者を収容しており,ハンスト(拒食)も少なくなかったことから,世界医師会の「患者の権利に関するリスボン宣言」(1981/2015 *18)や「ハンガーストライキ実行者に関するマルタ宣言」(1991/2007 *19)については,当然ながら,熟知していた。大村センターのハンスト死に関する「調査報告書」でも,第三者専門医からの聴取としてであるが,両宣言につきこのように言及されている。
リスボン宣言:強制的治療が許されないという考え方は,このこの「宣言」などに示され,国際的に幅広く支持されてコンセンサスがある。この「宣言」は,精神的に判断能力のある成人患者の自己決定の権利などを述べたもの(p6-7)。
マルタ宣言:「リスボン宣言」に準じたもの。医者は個人の自己決定を尊重すべきである。ハンガーストライキを行うものに対して,同意なき強制的治療や強制栄養は行うべきではないなどとしている(p7)。
このように「調査報告書」は,第三者専門医の所見としてではあるが,強制治療や強制栄養の否認には国際的コンセンサスがあると明記している。
しかしながら,ここで注意すべきは,「調査報告書」が他方では,強制治療や強制栄養が許される場合もあることを,幾度も念押し確認している点である。本筋は,むしろこちらの方にある。
「調査報告書」第三者専門医所見によれば,精神保健福祉法,感染症関係法など法が規定する場合には,強制治療は認められる。また,意識喪失の場合は,それ自体は同意と同じではないが,自殺阻止と同様,救命優先の観点から強制治療は認められる。さらに治療拒否や自殺願望は精神疾患に起因する場合が多いので,そうした場合には強制治療は許されるという意見もある。
「拒食について,その原因が,うつ病や統合失調症,ストレス反応などの精神疾患と診断されるのであれば,入院治療を実施することとなる。病院に連れてくれば治療拒否をしなくなる人もいる。本件のような拒食者については,精神疾患を見落とすことがないよう,精神科を受診させた方がよい。」(p7)。
以上のように見てくると,「調査報告書」が,同意なき強制治療・強制栄養の否認を国際的コンセンサスとしつつも,意識喪失を待って,または精神疾患の診断を得て,それらを実施すべきだという立場をとっていると判断して,まず間違いないであろう。
■グアンタナモ基地での強制摂食(Graphic News, 2013/05/01)
*18 「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」
*19 WMA Declaration of Malta on Hunger Strikers, Medical Assembly, 2017
谷川昌幸(C)
京都の米軍基地(118):現場に切り込まない朝日「現場へ!」(3)
4.戦略としての米語会話
このことは,米軍側が熱心で,地元の要望も強い米語会話(英会話)交流を見ると,よくわかる。米軍人・軍属が,米語(英語)を地元の子供や大人に教える。米軍はお手本とすべき先生,住民は無知な生徒!
そもそも言語は,米語に限らず,どの言語であれ,その言葉を使う人々や社会と不可分の関係にある。言葉は,それを使用する人々にとっては,自らの「精神」や「魂」の表現である。そして,使用される言語をそれ自体として見るならば,それは,その言葉が使用される社会それぞれに固有の文化にほかならない。各社会に固有の価値観やイデオロギーとは無縁の,完全に価値中立的・技術的な道具としての自然言語は存在しない。
米語もむろん,そうした固有文化を体現した自然言語の一つにすぎない。米語は全体として,アメリカのイデオロギーや価値観によって大きく方向づけられている。その米語を,しかも米軍人・軍属が,地元住民に教える。それが何を意味するか? 特に,子供たちにとっては?
駐留米軍が自国語たる米語を教えるということは,言葉の正誤・優劣の規準はつねに彼らの側にあり,それに従って住民側の誤りを指摘し,正しい米語を使うようにさせるということだ。しかも,住民側がいくら努力し上達しようが,お手本はいつまでも本家たる米軍側にある。住民側の精神の最も深く根源的なところでの自発的隷従化!
もう少し具体的に言い換えるなら,米軍人・軍属が住民側に教えるのは,単なる道具としての米語ではなく,実際には米国の,しかも米軍に多かれ少なかれ偏った考え方,暮らし方,ものの見方を体現している特殊文化としての米語である。その米国文化,米軍文化としての米語を,駐留米軍は米語会話学習を通して住民の心の中に刷り込んでいく。駐留米軍が米語会話交流に熱心なのは,もっともだ。
ちなみに,米軍基地との連絡は,米語優先。2018年には,急患ドクターヘリを呼ぶためレーダー停波を要請したが,日本側の米語が通じなかったため停波されず,結局,ヘリは飛来できなかったことがあった。
■高校での米語会話支援(14MDB:FB2020/3/6,一部修正)/公民館での米語会話交流(在日米軍USFJツイッター, 2017/9/26,一部修正)
谷川昌幸(C)
京都の米軍基地(117):現場に切り込まない朝日「現場へ!」(2)
1.基地米軍は「良き隣人」たりうるか?
この記事は,米軍基地受け入れを前提としたうえで,駐留米軍には「良き隣人」たることをお願いし,地元側にはよく話し合い,まとまり,駐留米軍を「良き隣人」として受け入れよ,という趣旨になっている。むろん,そこは朝日,そうストレートに,あからさまには書いていないが,私には全体の趣旨はそうとしか読み取れない。以下,この読みに基づき,議論を進める。
そもそもの問題は,駐留米軍は「良き隣人」たりうるか,という疑問。駐留米軍は,「良き隣人」になってほしいという地元住民のお願いを,本当に聞き入れてくれるであろうか? いや,それよりもむしろ,万が一,そのお願いが聞き入れられたとして,それは本当に住民にとって望ましいことなのであろうか?
2.存在が意識を規定する
京丹後に駐留しているのは,アメリカの軍隊。基地は事実上治外法権だし,基地外でも軍人・軍属には日本法の適用を免れる多くの特権が認められている。丸腰に近い地元住民に対し,米軍人・軍属はアメリカ国家をバックとし,強力な武器を保有する圧倒的な強者だ。
その強者たる駐留米軍に,「良き隣人」たることをお願いする? 当然,地元住民は卑屈たらざるをえず,それに反比例し米軍人・軍属は尊大となる。当たり前だ。存在が意識を規定する。
【参照】
*谷田邦一「武装米兵、国道側に銃口向け射撃動作 施設の訓練丸見え」朝日デジタル,2019/11/8
*「米軍基地訓練で銃携帯丸見え 『国道に銃口向けた』住民が不安視」京都新聞HP,2019/11/8
* 京都の米軍基地(115):子供に銃!
(14MDB:FB,一部修正)
3.存在誇示の軍服参加
地元京丹後が駐留米軍にお願いしているのは,具体的には,住民との交流会,米語会話(英会話)指導,祭り参加,スポーツ交流,音楽会,海岸清掃,災害被害復旧支援など多岐にわたる。
これら交流事業・支援事業の多くにおいて,米軍側は軍服・制服で参加している。単なる私人ではなく,軍人・軍属としての参加であることを誇示し,住民の心の中に彼らの圧倒的優位を刷り込もうとしている。彼らからすれば,地元住民など,守護者・米軍への恭順をしつけるべき素朴な「原住民(現地住民)」にすぎないのだ。
■軍服で節分交流(14MDB:FB2020/2/10,一部修正)/軍服で文化交流(14MDB:FB2019/10/13,一部修正)
谷川昌幸(C)
ポーデル元下院議長に旭日大綬章
日本政府は4月29日,2020年度春の叙勲において旭日大綬章をポーデル(राम चन्द्र पौडेल)氏に授与すると発表した。受賞外国人2人のうち,他の一人はマイクロソフトのビル・ゲイツ氏。親授式はコロナ感染流行のため延期。
ポーデル氏は現在76歳,コングレス党の長老であり,下院議長,副首相などの要職を歴任した。ネパール・日本友好議員連盟初代会長(在任1999-2017)として,森首相ら日本側要人の訪ネ受け入れや,両国における議員交流の促進に尽力された。また昭和62(1987)年には,皇太子(現上皇)夫妻の訪ネのお世話もされている。
このようにポーデル氏の日ネ友好への貢献は大きく,当然,ネパールでは大きく報道されているが,日本では有力メディアはほぼ完全に無視,叙勲の詳細は在ネ日本大使館のプレスリリースやネパールのメディア報道によらざるをえない。コロナ騒動のせいだけであろうか?
■ポーデル氏FB(4月30日)
*1 2020 Spring Conferment of Japanese Decorations on Foreign Nationals,在ネパール日本国大使館,2020年4月29日
*2 Congress leader Ram Chandra Poudel to receive Japanese honours, Kathmandu Post, 2020/04/30
*3 NC senior leader Poudel among 117 to receive 2020 Spring Imperial Decorations, Republica, 2020/04/29
谷川昌幸(C)
オリ首相就任と共産党統一
1.オリ首相就任
「統一共産党(CPN-UML)」のKP・オリ(खड्ग प्रसाद शर्मा ओली)議長が2月15日,ネパール第41代首相に就任した。
オリは,1952年2月22日,東部テラトゥム生まれのブラーマン。1970年頃から共産主義運動に参加,ジャパ闘争を闘い,73年から87年にかけ14年間投獄された。出獄後,UMLルンビニ地区代表(1990年就任)などを経て,UMLジャパ郡選出下院議員となり,党や政府の要職を歴任した。
・下院議員初当選 1991
・内相 1994-95
・副首相/外相 2006-07
・UML議長 2014.07-
・首相 (1)2015.10.11-2016.08.03 (2)2018.02.15-
2.共産党統一
オリUML議長が首相に就任できたのは,2017-18年の連邦議会選挙において,議会三大政党のうちの二党たるUMLと「ネパール共産党・マオイストセンター[マオイスト](CPN-MC)」が選挙後の統一を掲げ,安定と繁栄を訴え,選挙共闘により勝利したからである。
連邦議会代議院(下院)は議員定数275。このうちUMLは121(44.0%),MCは53(19.3%)の議席を獲得した。未曽有の大勝利である。
この選挙共闘の成功を受け,UMLとMCは選挙前に約束していた両党の統一に向け最後の詰めを行い,2月19日「7項目合意」に署名して一つの共産党となった。仮称「ネパール共産党(Communist Party of Nepal[CPN])」。
この新生「ネパール共産党」は,代議院(定数275)において174議席(63.3%)をもつ。これだけでも絶対多数を優に超えるが,もしマデシ系のRJP-N(17議席)かFSF[SSF]-N(16議席)の協力が得られるなら,三分の二を超え,憲法改正ですら可能となる。強力な安定政権の確立・維持に,形式的には十分な議席数である。
3.新生「ネパール共産党」の先行き?
しかしながら,新生「ネパール共産党」のオリ政権が強力な長期安定政権となるかどうかは,まだ何とも言えない。
(1)党名。新生政権党は「ネパール共産党(Communist Party of Nepal[CPN])」を名乗りたいらしいが,ネパールには共産党が多数あり,「ネパール共産党」もむろんすでに登録使用されている。看板にすぎないとはいえ,名は体を表す,おろそかにはできない。新党の名称はどうなるか?
(2)党是。「マルクス・レーニン主義」には異論はないが,「毛沢東主義(マオイズム)」はどうするか? 多数派のUML系は,もちろん由緒ある「人民多党制(複数政党制)民主主義」を党是とすることは当然と考え,譲る気はない。これに対し,人民戦争を戦い抜き事実上勝利したMC系は,多かれ少なかれ原理主義的な「毛沢東主義(マオイズム)」を放棄しはしないであろう。
(3)権益配分。議席,政府役職,党役職等の権益をどう配分するか? 政治闘争の赤裸々な本音部分。今回,MCが「ネパール会議派(NC)」との連立を解消してUMLに乗り換えたのも,NCがMCへの役職配分30-40%を拒否したのに対し,UMLは40%を約束したからだといわれている(*1)。身近な現世利益は現実政治を動かす大きな要因である。
*1 Kamal D. Bhattarai, “The (Re)Birth of the Nepal Communist Party,” The Diplomat, 21 Feb 2018.
新生「ネパール共産党」は,いまのところUML系6対MC系4の取り決めを守り,議席や主要な役職を配分しつつある。
党議長は,UML系のオリとMC系のプラチャンダ(PK・ダハル)が第一回党大会まで共同で務める(共同議長)。ただし,党大会がいつになるかは不明。
首相は,前半3年をオリ,後半2年をプラチャンダが務める。ただし,政権たらいまわし批判を恐れ,密約になっているともいわれており,約束通り政権が回されるかどうかは不明。
大統領と下院副議長はUML系,副大統領と下院議長はMC系に割り振る予定。
大臣ポストは,UML系11(61%),MC系7(39%)と,約束通り,6対4にきっちり割り振った(2018年2月24日現在)。しかし,これで不満はないのか? 以前であれば,大臣ポストをいくらでも増やし,ばら撒くことができたが,いまは憲法66(2)条により25大臣以下に制限されている。
(4)対印・対中関係。メディア,特に日本の新聞は,「親中安定政権誕生」などと書き立てているが,ネパールの対印・対中関係は,そう簡単ではない。
そもそも,いまや昇竜・中国を無視しては,世界の大半の国々は自国国益を守りえない。嫌中・日本ですら,中国無視や敵視は観念論,中国をよく観察し互恵関係を深めていかざるを得ない。ましてや国境を長く接し歴史的関係も深いネパールが中国に接近するのは,国益を考えるなら,当たり前。問題は,中国にどう接近し,どのような関係を構築していくかだ。
オリ首相はブラーマンで,もともと親印。親中の国王と闘い,14年間も投獄された。そのオリが,グローバル化の下での中国台頭により中国カードを手にし,使い始めたので,親中と見られているに過ぎない。国益第一なら,他の政治家であっても,多かれ少なかれ同じことをするはずだ。
一方,プラチャンダもブラーマンで,もともと親印。ネパール・マオイストは,中国共産党をニセ毛沢東主義者と非難し,激しく攻撃していた。中国側も,ときにはネパール体制側を支援しマオイスト弾圧に加担したことさえあった。いまはプラチャンダも中国に接近しているが,オリ同様,それは国益の観点からの戦略的な選択とみてよいだろう。
そこで問題は,オリ首相がたとえ戦略とはいえ,中国により接近した場合,インド筋が何らかの形で介入し,オリ政権打倒を画策するのではないかということ。そして,その際,働きかけのターゲットとなるのは,「ネパール共産党」反主流派のMC系,つまり親印・親マデシのプラチャンダではないか,ということ。
政権党「ネパール共産党」においては,オリ首相の率いるUML系が多数派。プラチャンダ率いるMC系は少数派であり,どうしても冷や飯を食わされ,不満がたまる。そこにインド筋が働きかけ,MC系の造反,連立組み換えによりオリ政権を崩壊させることは十分に考えられることだ。
事実,この数年の政権交代は,第三党マオイストによる連立相手組み換えによるものがほとんど。マオイストは2015年,UMLと組んでオリを首相とし,2016年には相手をコングレス党(NC)と取り換えてプラチャンダを首相とし,そして今度またUMLと組んでオリをふたたび首相とした。第三党のマオイストが,キャスティングボートを握っている。
そこにマデシ問題がらみでインド筋が介入してくるかもしれない。インドは,NC,マオイスト,マデシ系諸党の連携による親印政権を期待しているとみられている。
(5)移行期正義。「ネパール共産党」内のMC系の人々にとって,人民戦争期の重大な人権侵害をどう処理するか,つまり移行期正義の問題をどう解決するかは,個々人の浮沈に直接かかわる重大問題である。人民戦争期には,国軍,武装警察など政府側だけでなく,マオイスト側にも,重大な人権侵害に加担した人が少なからずいた。被害者側は,国際社会の強力な支援をバックに,責任者の処罰と損害賠償を求めている。これを受け,UML系も移行期正義の実現には肯定的である。しかし,もしオリ政権がこの問題に一歩踏み込めば,幹部を含め加害を疑われている人の多いMC系が激しく反発し,たちまち政権は動揺するであろう。オリ首相は,この難問をどう処理するか?
(6)憲法改正。マデシ系の人々は,インドの強力な支援をバックに,彼らの権利が認められるよう憲法を改正することを要求している。この要求に対し,MC系は肯定的,UML系は否定的。この問題は,インドが非公式国境封鎖を強行せざるをえなかったほど深刻。オリ首相は,この憲法改正問題をどう考え解決を図るつもりか?
以上のように見てくると,オリ内閣が親中長期安定政権になるかどうかは,まだいずれともいえないと考えざるをえない。今後の成り行きが注目される。
■オリ首相ツイッター(2月23日)/プラチャンダ議長フェイスブック(2月18日)
谷川昌幸(C)
南アジア中印オセロ対局,ネパールの「目」は中国に
2017年ネパール選挙について,抜群に「明快」で,読んで「面白い」のは,『日経アジアンレビュー』の記事「新対局において中国がインドを包囲 次々と南アジア諸国を北京が勢力圏内に」:
▼Yuji Kuronuma, “China has India surrounded in their new Great Game: One after another, Beijing is pulling South Asian countries into its orbit,” Nikkei Asian Review, 19 Dec 2017.
[Yuji Kuronuma, “China Has India Surrounded In Their New Great Game: Nepal, Sri Lanka, Pakistan — Beijing is pulling South Asia into its orbit,” Spotlight Nepal, 20 Dec 2017. この『スポットライト-ネパール』掲載記事では,ネパールに加え,スリランカ,モルディブ,パキスタンなど他の南アジア諸国の状況についても分析されている。ここでは,ネパールのみを扱った『日経アジアンレビュー』掲載記事について,紹介・論評する。]
著者は,南アジアを「巨大なオセロ盤」に見立て,そこで中国とインドが盤上の「目(国や地域)」をめぐって陣取り合戦をしているとみる。
このオセロ対局で,いま勝利を手にしつつあるのが中国。「つい最近,北京の勢力下にはいった目は,2018年初に親中政権が発足する見込みのネパールである。これは,地域二大国の間の定位置にいたヒマラヤのこの国にとって,大きな変化となる。ネパールのこれまでの政権は親印の立場を維持してきたからだ。」
むろん著者も,ネパールはなおインドとの関係が特に経済や出稼ぎ労働の分野で大きいことは認める。が,中国は道路や鉄道のネパール延伸などインフラ投資を積極化,ネパールへの接近を図っている。「UML幹部らもニューデリーの『管理統制』からの離脱の意思を隠そうとはしない。」
インド情報機関[RAW?]のRSN・シンも,ネパールの政権交代は「中国の後押し」によるものであり,ネパールへの影響力拡大を狙う狡賢い中国の戦略の一部だと語ったという。
記事はこう結ばれている。「インド近隣で中国に引き寄せられている国はネパールだけではない。最近まで,近隣諸国の多くは手強い交渉相手であり,ライバル二大国を競わせ,より多くの経済的支援等の約束を獲得しようとしてきた。ところが,それらの国々が,このところすんなりと中国勢力圏内に入る動きをますます強め,インドをいたく狼狽させている。」
以上のように,この記事は南アジア政治を中印対局のオセロにたとえて説明するもの。たしかに白黒ハッキリ,「明快」でスッキリし,見て読んで「面白い」。が,南アジアの政治って,そんなものなのかなぁ? 白黒がしょっちゅう入れ替わったり,あいまいだったりするのが,南アジア政治の常態のような気もするのだが?
■Spotlight Nepal(20 Dec 2017)より。
谷川昌幸(C)
インドはネパールの真の友人たれ:SD・ムニ(2)
3.左派連合政権の課題
(1)UMLとMCの統一または連合維持
UMLとMCは,人民戦争で敵として戦った過去を持つだけでなく,政策の違いも多い。
・マデシの要求する憲法改正への対応の違い。[UMLは否定的,MCは肯定的]
・平和移行のための「真実和解委員会」ないし「移行期正義」についての考え方の違い。[UMLは肯定的,MCは消極的]
・大統領制の在り方についての考え方の違い。[UMLは現状維持の儀式的大統領制,MCは大統領直接選挙元首化]
・権力分有に関する考え方の違い。[有力ポスト争奪,状況により流動的]
しかし,これらの違いはあっても,UMLは,結局,MCと組まざるを得ない。それが,平和と安定と開発を実現せよという人民の意思に応えることになるのである。
(2)対印中バランス外交
左派連合が,中国主導によるブディガンダキ・ダム事業の再開を表明したように,これまで親中的であったことは事実だし,また中国も左派連合に大いに期待している。
「一帯一路発足以降,中国はオリやプラチャンダの開発計画への支援をてこに,その対ネ経済政策の拡大を図ってきた。中国は左派連合の勝利を期待していたし,また左派連合が一つの党に統一され,中国の対ネ政策や対ネ戦略を強力に支援してくれることも強く期待している。」
しかし,ネパールとしては,対中関係については,慎重であるべきだ。第一に,スリランカ,ミャンマー,モルディブ,パキスタンなどのように,対中長期債務のワナに陥るような事業は避けるべきだ。
第二に,インドの安全保障にかかわるような危険な事業には手を出さないこと。この点については,オリもプラチャンダも有能な経験豊かな指導者だ。「彼らは,印ネ関係特有の構造的制約や超えるべきではない危険ラインについて,十二分にわきまえている。」
オリもプラチャンダも,南と北の隣国とはバランスの取れた協力関係をつくり上げる,と繰り返し公言してきた。ネパールには,それが期待されるところである。
4.インドの対ネ政策の課題
(1)インドの対ネ政策失敗と左派連合の勝利
インドは,一連の不適切な対ネ政策により,ネパール・ナショナリズムに火をつけ,数十年来親印だったオリを離反させ,結局,反印的な左派連合を勝利させた。
・制憲過程への強引な介入。たとえば2015年9月には,制憲作業を中断させるため外務局長を送ったりした。
・2015年にはスシル・コイララ(NC)を支援してオリと対決させ,2016年にはプラチャンダ(MC)をUMLから引き離してNCと組ませ,オリを降板させた。
・マデシの憲法改正要求に応じないオリ政権に圧力をかけるため経済封鎖を強行した。
インドのこのような対ネ介入に対し,ネパールにはすでに,これに対抗できる「中国オプション」が開けていた。「オリは,インドの圧力に勇敢に立ち向かう強力な指導者というイメージを打ち立てることに成功した。今回の選挙結果は,こうした巧妙な彼の政治行動への報奨である。」
(2)不適切な対ネ政策
左派連合が勝利し「中国オプション」を手にしたネパールに対し,インドはこの新しい状況と折り合いをつけ,何とか巧くやっていくしかない。その現実を無視する次のような政策は,避けるべきだ。
i) 左派連合を崩壊させる策謀
インドの首相官邸,外務省あるいは他の官庁には,ネパール左派連合を崩壊させるのは容易だと考え,それを画策しようとする人々がいる。「これは,近視眼的な動きであり,インドの対ネ政策を破綻させるだろう。」左派連合は崩壊するかもしれないが,それはあくまでも内部対立によって自壊するのであって,外部からそこに介入すべきではない。
ii) ヒンドゥー教君主国への復帰画策
インド政権与党BJPの中には,ネパールをヒンドゥー教君主国に復帰させ,これをもって共産主義や中国に対抗させようとする動きがある。が,これは誤り。「彼らは,ネパールの人々が選挙により封建制やヒンドゥートヴァの諸勢力を粉砕した,その結果を直視し,そこから学ぶべきである。」
(3)真の友人たれ
「インドは,これらの破滅的冒険ではなく,左派連合がネパール人民に安定と良き統治をもたらすことができるよう支援すべきだ。インドは,言葉ではなく行動によって,ネパール人民の真の友人であり,ネパール開発への協力を誠実に望んでいることを自ら積極的に実証していくべきである。」
[補足追加(1月8日):SD・ムニ「もしインドが信頼に足る開発協力国と納得させることができなければ,ネパールにおいて中国の評価が高まることは間違いないであろう。」B. Sharma, R. Bhandari & K. Schltzdec, “Communist Parties’ Victory in Nepal May Signal Closer China Ties,” New York Times, 15 Dec 2017]
—–<以上,ムニ記事要旨>——————————-
ムニのこのネパール選挙分析は,ネパール民主政治の安定化という観点から左派連合の勝利を肯定的に評価するものであり,先に紹介したKM・ディクシトの選挙分析と共通する部分が少なくない。ネパールと印中との関係についても,両者の提言は基本的には一致している。ネパールのこれまでの民主化過程や現在の地政学的条件を踏まえるなら,彼らの選挙分析評価は,新政権への期待・激励の含意が多分にあるものの,基本的には妥当とみてよいであろう。
しかしながら,左派連合による民主政治の安定化は,必ずしも容易ではない。理念やイデオロギーよりもむしろ身内やコネ(アフノマンチェ)に起因する際限なき分派抗争はネパール政界の宿痾であり,選挙大勝といえども,それですんなりオリ政権成立となるかどうか? また,オリ内閣が無事成立しても,安定的に政権を維持できるかどうか? ムニが危惧するように,内部対立抗争の激化で自壊するのではないか? ネパール政界のこれまでの動向を見ると,いささか不安である。
対印中関係も難しい。ネパール史の常識からして,どの政権であれ,親印あるいは親中一辺倒ではありえない。ネパールは,長年にわたり印中二大国の間で巧妙にバランスを取りながら,曲がりなりにも独立を維持してきた。その意味で「バランス外交」はネパールの伝統といってよい。
しかしながら,グローバル化の大波はヒマラヤの小内陸国ネパールにも押し寄せ,ネパールを呑み込もうとしている。北からの「一帯一路」の大波と,南からの「一文化一地域」の大波の間で,ネパールはどうバランスを取り大波にさらわれるのを防ぐか? これも難しい。
この意味では,ムニのこの選挙分析評価も,KM・ディクシトのそれと同様,先述のように勝利した左派連合への期待・激励の意味もあるにせよ,やや楽観的に過ぎるといってよいかもしれない。
谷川昌幸(C)
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