ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for the ‘憲法’ Category

改宗勧誘・宗教感情棄損を禁止する改正刑法,成立

バンダリ大統領が10月16日,改宗勧誘や宗教感情棄損を禁止する規定を含む「改正刑法案」に署名し,同法は成立した。16日は,皮肉にもネパールが国連人権理事国に選出された,まさにその日である。成立した改正刑法第9部第158条と第160条については,すでに紹介したので,それをご覧ください。参照:宣教投獄5年のおそれ,改正刑法「宗教の自由」とキリスト教:ネパール憲法の改宗勧誘禁止規定について

この刑法改正に最も強く反対してきたのは,ネパールで勢力を急拡大しつつあるキリスト教会である。たとえば,「世界キリスト者連帯(CSW)」のM・トマス委員長はこう批判している。「ネパール政府に対し,この不当な法[改正刑法]を廃止し憲法第26(3)条を改正することを要請する。それらは,宗教・信条の自由への権利を制限するものであり,ネパールの国際法遵守の立場を損なうものでもある。人権理事国になったネパールにとって,これは驚くべき矛盾である。」(*2)

また,世界の人権諸団体や人権活動家らも,この刑法改正には強く反対してきた。立法議会が改正刑法案を可決したのは8月8日だが,その直後の8月9日から12日まで,世界70か国以上の議会議員参加の「宗教・信条の自由を求める議員国際パネル(IPPFORB)」が,ネパール支部の招きに応じ,代表団をネパールに送り込んだ。彼らは,政府幹部や議員,市民団体代表らと会い,改正刑法案大統領署名への反対や,憲法第26(3)条の改正を訴えたという。(*4)

しかし,こうした内外の強い反対にもかかわらず,改正刑法は10月16日成立してしまった。この法律は,禁止する「改宗勧誘」や「宗教感情棄損」の定義(構成要件)があいまいであり,拡大解釈されやすい。運用次第では,ヒンドゥー教・仏教中心の伝統宗教以外の宗教はネパールではほとんど活動できなくなる恐れがある。

この改正刑法成立は,中長期的にみると,ネパールにとって,年末の国会/州会選挙よりも大きな意味を持つことになるかもしれない。


 ■IPPFORB FB(Oct 18) / News(Oct 25)

*1 “BILL CRIMINALISES RELIGIOUS CONVERSION,” Christian Solidarity Worldwide, 22 Aug 2017
*2 “Nepal’s President Signs Law Criminalizing Evangelism, Christian Solidarity Worldwide Warns,” Spotlight Nepal, 2017/10/22
*3 「ネパールで『改宗禁止法』成立,大統領が署名 キリスト教団体が懸念」,Christian Today(日本語版),2017年10月29日
*4 LOKMANI DHAKAL, DAVID ANDERSON, “Not secular: The government seems to have forgotten that it is bound to protect an individual’s rights to have a religion,” Kathmandu Post, Oct 29, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/31 at 20:13

カテゴリー: 宗教, 憲法

Tagged with , , , ,

ネパールの選挙:女性の制度的優遇と運用上の冷遇

ネパールでは国会(連邦代議院)と州会(州議会)のダブル選挙が,11月26日(北部山地・丘陵地)と12月7日(中南部丘陵地・タライ)に行われるが,この選挙は女性代表の観点からも注目されている。

ネパールでは,選挙制度的にはアファーマティブ(ポジティブ)アクションにより,女性はかなり優遇されている。国会,州会とも,選挙においては比例制政党候補の1/2以上が女性に割り当てられ,議会では各党議席の1/3以上が女性に割り当てられている。

また立候補の際の供託金は,国会議員選挙1万ルピー,州会議員選挙5千ルピーだが,女性候補およびダリットなど周縁的諸集団所属候補は50%引きとなっている。制度上の女性優遇は明らかだ。

ところが11月27日投票の小選挙区立候補者802人のうち,女性はわずか41人(国会18人,州会23人)にすぎない(10月23日現在)。そのうち,主要3党の女性候補は次の通り。
 ▼小選挙区女性立候補者数
  NC連合:国会2,州会1
  UML:国会0,州会1
  マオイスト:国会1,州会3

主要3党は,女性候補が少ない理由として,先の地方選(5/14,6/28,9/18)で女性候補を多数出してしまったからだとか,女性は小選挙区よりも比例制の方を希望するからだとか説明しているが,どうみても苦しい言い訳に過ぎない。

2015年憲法は,国会,州会とも女性議員1/3以上を定めている。主要3党は,比例制に女性候補を多数立て,あとで数合わせをするつもりなのだろうか?

 
 ■ネパールの女性国会議員比率(世銀HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/28 at 16:02

日本のドタバタ政治悲喜劇,ネパールでも見られている

安倍首相の「もりかけ隠蔽」解散と,これを神風と見る小池都知事の「希望の党」急造は,当座のワイドショー的観点からは面白おかしく取り上げ視聴率が稼げる格好のドタバタ喜劇だが,歴史的にみると,戦後民主主義終焉への悲劇の幕開けとなりそうだ。

このドタバタ悲喜劇は,グローバル情報化の現在では,世界中で見られている。ネパールでも,扱いは大きくはないが,各メディアが報道している。そうした中,ネパールにとっては外国のものだが,読まれているに違いない有力メディアの一つにNikkei Asian Reviewがある。日経の英字紙だが,「もりかけ隠蔽」解散についての批判的記事も多い。たとえば,次の記事。
 ▼W・ペセック「安倍晋三の利己的選挙ギャンブル」2017年9月25日
 William Pesek, “Shinzo Abe’s selfish Japan election gamble,” Nikkei Asian Review, 25 Sep 2017

著者は東京在住ジャーナリスト。元ブルンバーグ・コラムニスト。著書に『ジャパナイゼーション 日本の「失われた数十年」から,世界は何を学べるのか?』(作品社2016年)がある。以下,Nikkei Asian Review記事の要旨。

 ・・・・・<以下要旨>・・・・・
安倍は,「経済改革」を掲げながら,結局は「ご都合主義と憲法小細工」に陥ってしまった。

「安倍政権は各方面からの攻撃にさらされている:金正恩のミサイルの脅威,ドナルド・トランプの貿易戦争のトゲ,お友達スキャンダル,そして経済政策の不調。包囲された日本の指導者は何をなすべきか? いうまでもあるまい,選挙だ。」

これまで安倍は,ことあるごとに選挙の必要を訴え,成功してきたが,今度の選挙は「それが実際には何のためかを暴露している――自己保存のためだ。」

2012年12月,安倍は三本の矢でデフレ不況を克服すると約束し,有権者の支持を得た。が,放たれたのはおもちゃの矢で,現状の克服ではなく,そこから目を逸らさせただけだった。「人々がうんざりすると,そのつど安倍はアベノミックスを売り込み,世界に向け約束し,そして選挙の必要を訴えかける。」

自民党は,もう一度投票してくれれば,賃上げも教育無償化も子供手当も対北朝鮮圧力強化も全部やりますと約束している。「が,実際に進行しているのは,安倍が10年前の首相就任の時から歌い続けてきた白鳥の歌――日本の平和憲法を改正し軍隊保有をはっきり認めるようにすること――にほかならない。この視野狭窄が,これ以上ない最悪の状況の下でも継続すれば,それは彼の名誉を損なうことになってしまうだろう。」

「安倍が狙っているのは日本国憲法の書き換えであって,それ以外のことはほとんど眼中にはない。」「安倍は,レーガン/サッチャー流改革の政治家としてではなく,日本の民主主義を破壊した政治家として記憶されることになろう。」

「安倍の三大勝利:ジャーナリストや告発者を投獄できる過酷な特定秘密保護法,可能的犯罪者を犯行以前に逮捕できるあいまいな治安関係諸法,そして政府は海外派兵を認められているとみなす憲法解釈。・・・・日本が,憲法の平和条項第9条を改正し他国同様の軍隊を保有し運用できるようにする権利をもっていることは,間違いない。しかしながら,安倍は,国民投票の機会を待ち,それを通して適正に9条改正を行うべきであって,そうする以前に9条解釈を変え右派の人々を喜ばせるようなことはすべきではない。」

「アベノミックスには,レーガノミックスやサッチャーノミックスと共通するところが一つある。それは,取り残されつつある中産階級家族のためのものではなく,富裕者のためのものだということである。」
 ・・・・・<以上要旨>・・・・・

いやはや,なんともラディカルな過激な安倍批判ではないか! 著名記事とはいえ,これを英語版日経が掲載し,世界中に配信しているのだ。

ネパールや他の国々の人々も,当然,これを読んでいる。これからは,他国の人々と話すとき,自分たちも見られているということを,これまで以上に十分自覚したうえで議論すべきであろう。

 ■Nikkei Asian Review電子版(10月1日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/01 at 18:14

史上最大のデウバ内閣,大臣56人

ネパールはいま,2007年暫定憲法体制から2015年憲法体制への移行期。憲法はすでに2015年憲法になっているが,この憲法に基づく連邦議会選挙はまだ行われておらず,現在の議会や内閣は旧2007年憲法に基づき選出されたもの。そのため移行期特有の様々な矛盾や問題が生じている。

その一つが,巨大議会と巨大内閣。制憲議会は,人民戦争を戦った諸勢力を包摂するため定数601の巨大議会となった。本会議は大ホールで開かれ,後方席からはオペラグラスでも持ち込まないと前方の様子がよく分からない。発言者のツバがかかりそうな英国議会とは対照的だ。

内閣も諸勢力包摂のため巨大化する一方。2007年暫定憲法によれば,首相は「政治的合意」に基づき,副首相,大臣,副大臣および大臣補を,原則として議会議員の中から選出する。もともと議会が巨大であり,包摂のための合意も必要だから,これだけでも内閣は大きくなりやすい。しかも,大臣ポストは分配する側にも分配される側にとっても巨大利権だから,包摂民主主義の下で内閣拡大を止めることは極めて難しい。直近の3内閣の大臣数は次の通り。
 ・オリ内閣(2015年10月~16年8月):40人
 ・プラチャンダ内閣(2016年8月~17年6月):41人
 ・デウバ内閣(2017年6月~現在):56人

現在のオリ内閣56人は,ネパール史上最大。さすがにこれは多すぎる,党利党略だ,政治の私物化だ,などと批判されているが,これに対しデウバ首相は9月21日,国連本会議出席のため滞在中の米国において,憲法は議員総数の10%まで大臣を認めているので,最大60人まで任命可能だと答えたという。(議員総数の10%までという規定は,どこかにあるのであろうが,管見の限りでは見当たらなかった。)60人とは,これはまたスゴイ! さすが包摂民主主義モデル国だ。

しかし,このような包摂を名目とした大臣職の大判振る舞いは,政治の在り方として,本当に望ましいことだろうか?

一つは,いまは新憲法体制への移行期だということ。2015年憲法に基づく連邦議会選挙が11月26日/12月7日に実施される。現在の立法議会の任期は2018年1月21日までだ。

しかも,2015年憲法は,内閣につき,次のように定めている。
 ・・・・<以下引用>・・・・
第76条 大臣会議[内閣]の構成
(9)大統領(राष्ट्रपति)は,首相(प्रधानमन्त्री)の勧告に基づき,連邦議会議員の中から包摂原理に則り選ばれた首相を含む最大25人の大臣(मन्त्री)からなる大臣会議(मन्त्रिपरिषद्)を構成する。
 解釈:本条において,「大臣」は,副首相(उपप्रधानमन्त्री),大臣,副大臣(राज्यमन्त्री)および大臣補(सहायक मन्त्री)を意味する。
 ・・・・<以上引用>・・・・

連邦議会選挙が行われ,新議会が成立すれば,大臣数は半分以下に制限される。来年早々のことだ。それなのに,デウバ首相はさらに大臣を増やすことすら考えているという。任期満了直前の大臣職利権のバラマキのように見えてならない。

もう一つは,政治的・経済的合理性があるのか,という点。内閣を拡大すればするほど,政治過程が複雑となり,直接・間接経費も増える。民主主義,とくに包摂民主主義は手間とカネがかかるものとはいえ,これほどの内閣巨大化は主権者たる人民の利益とはならないのではあるまいか。

 ■プラチャンダ前首相らと会見するデウバ首相(首相ツイッター)

*1 “Cabinet expansion a compulsion, says Prime Minister Deuba,” Himalayan, September 13, 2017
*2 “60-member cabinet could be formed as per Nepal’s constitution: PM Deuba,” Republica, September 22, 2017
*3 “Deuba hints at expanding cabinet further,” Republica, September 23, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/09/27 at 21:03

カテゴリー: 行政, 議会, 憲法, 民主主義

Tagged with , , ,

「宗教の自由」とキリスト教:ネパール憲法の改宗勧誘禁止規定について

「自由」は一般に,格差のあるところでは「強者の権利」となりがちである。格差を無視し自由を形式的に認めると,経済的,政治的,知的,身体的等々において優位にある者が,自由を名目として,劣位にある者を事実上一方的に支配することが許されてしまう。形式的自由は「強者の権利」を正当化する。最も基本的な自由の一つである「宗教の自由」もその例外ではない。このことについては幾度か議論してきたが,重要な問題であるので,ここでもう一度,ネパールを例にとり,「宗教の自由」について考えてみたい。
 【参照】世俗国家 キリスト教 改宗

 ■Church in Nepal HP

1.ネパール憲法の「世俗国家」規定と「宗教の自由」
現行2015年ネパール憲法は,「宗教の自由」について次のように規定している。

 ・・・・・<以下引用>・・・・・
第26条 宗教の自由への権利
(1)宗教的信仰を持つ何人も,自分の信じる宗教を告白し,実践し,そして守る権利をもつ。
(3)何人も,本条規定の権利の行使において,公共の健康・良俗・道徳に反する行為,公共の平和を損なう行為,他者を別の宗教に改宗させる行為,または他者の宗教を損なう行為を,自ら行うことも他の人に行わせることも為してはならない。そのような行為は法により処罰される。
 ・・・・・<以上引用>・・・・・

宗教の自由は最も基本的な人権の一つだが,無制限ではなく,他者の正当な権利の侵害までも許容するものではない。しかし,たとえそうだとしても,この26条3項による宗教の自由の制限は,あまりにも広範であり,解釈次第でどのような宗教活動であっても禁止されてしまう恐れがある。

とりわけ問題なのが,改宗勧誘の禁止である。直接的あるいは間接的な改宗勧誘が禁止されてしまえば,自発的な改宗の機会も少なくなるので,これは改宗の全面禁止に近い規定とみてよいであろう。

それでは,改宗を禁止ないし大幅制限したうえでの「宗教の自由」とは何か? それは,既存の諸宗教を前提とし,それらを信仰する自由にすぎないのではではないか? そのことを,もって回った表現ながらも,具体的に規定しているのが,憲法4条の世俗国家規定である。

 ・・・・・<以下引用>・・・・・
第4条 ネパール国家
(1)ネパールは,・・・・世俗的な(धर्मनिरपेक्ष)連邦民主共和国である。
 解釈(स्पष्तीकरण, explanation):本条でいう「世俗的」は,古くから伝えられてきた宗教や文化を含む,宗教と文化の自由を意味する。
 ・・・・・<以上引用>・・・・・

この第4条を第26条と合わせ読むと,ネパール国家の根本規定の一つたる「世俗的」は,改宗が大幅規制されているのだから,結局,「古くから伝えられてきた宗教や文化の自由」にほかならないことがわかる。世俗国家たるネパールは,古来の宗教や文化の自由を保障しなければならない。では,その古来の宗教や文化とは何か?

2011年人口調査によれば,ネパールの宗教別人口は,ヒンドゥー教81.3%,仏教9%,イスラム教4.4%,キリスト教(多数がプロテスタント)1.4%,その他4.9%。ネパール憲法は,「世俗的」を,事実上,古来の宗教文化と規定することにより,このヒンドゥー教(およびそれと習合した仏教)を中心とする既存の宗教社会の保守を義務づけているのである。

3.キリスト教徒急増と改宗勧誘禁止規定
ネパールが,外国とりわけ欧米近代諸国家との接触があまりない伝統的閉鎖社会であり続けたなら,ここまで強引な改宗禁止規定を憲法に置く必要はなかったであろう。国民のほとんどがヒンドゥー教とそれと習合した仏教を信じており,たとえ「宗教の自由」を認めても,彼らは圧倒的な多数派であり,「強者」として政治的,社会的,文化的なあらゆる権益を守ることができたに違いない。

ところが,ネパールは,1990年と2006年の2回の人民運動(民主化運動)の成功により,近現代民主主義を受け入れ,本格的に国を開き,欧米諸国と直に向き合うことになった。その結果,ヒンドゥー教は,ネパール国内では依然として多数派強者ではあっても,世界社会では必ずしもそうとは言えなくなってしまった。

この新たな状況下で,ネパール国内の他の宗教が,国外の何らかの有力勢力と結びつき支援を受け始めるなら,ネパール・ヒンドゥー教の優位は,経済的にも国際世論的にもたちまち瓦解する。そうなれば,「宗教の自由」は,外国勢力の支援を受け,その意味で新たに強者となった他の宗教の「強者の権利」へと一変してしまうのである。

民主化後のネパールにおいて,この「宗教の自由」を最も有効に使い,急速に勢力を拡大してきたのが,キリスト教である。キリスト教徒は,2011年人口調査で全人口の1.4%だが,実際には3~7%,あるいはそれ以上ともいわれている。1991年が0.2%,2001年でも0.5%だから,政府公式調査でも大幅増,実数はそれを大きく上回る。(日本は1%[2012]。)近年のネパールは,キリスト教徒増加率が世界で最も高い国だといわれている。

では,ネパールで,なぜいまキリスト教徒が急増しているのか? ヒンドゥー教の側は,ネパールのキリスト教会が直接的あるいは間接的に先進諸国の援助を受け,ネパールの人々に金銭や物品,教育や医療・福祉の機会などを提供し,キリスト教に改宗させているからだと非難している。先進諸国の教会などの支援を受けているネパールの教会は,経済,科学技術,教育,医療,福祉など宗教以外の多くの分野において優位となり,この強者の立場を利用してネパール庶民をキリスト教に改宗させているというのである。

ネパールのヒンドゥー教勢力が,2015年憲法に強引に世俗国家規定を置き,改宗勧誘禁止を書き込んだ最大の理由は,強者として「宗教の自由」を利用し信者を増やしていると彼らがみなすキリスト教会の動きを阻止することにあったとみてよいであろう。

 
 ■Churches Network Nepal HP / Nepal Church Com HP 

4.アメリカ政府によるキリスト教会支援
キリスト教会が「宗教の自由」を強者として利用し乱用しているというのは,ヒンドゥー教の側の言い分だが,この非難には全く根拠がないわけではない。たとえば,アメリカ国務省の「宗教の自由レポート2016年」をみると,アメリカ政府がネパールにおけるキリスト教会の自由のために大使館をあげて努力していることがよくわかる。
 * “International Religious Freedom Report 2016: Nepal,” US Department of State

「宗教の自由レポート2016年」は,まず,ネパールにおける「宗教の自由」の現状を批判的に要約・紹介する。
 ・2015年憲法が「世俗主義」を「古来の宗教と文化の保護」と規定していること。
 ・2015年憲法が改宗勧誘を禁止していること。
 ・仏教僧院を除き,キリスト教会などの宗教組織はNGOとして登録し,規約,役員,会計,事業活動などの詳細な報告を義務づけられていること。
 ・キリスト教系学校は公費補助を受けられないこと。
 ・ドラカ郡でキリスト教徒8人が改宗勧誘容疑で逮捕された事件(2016年8月)。
 ・ジャパ郡で外国人キリスト教徒が改宗勧誘容疑で逮捕され,国外退去処分とされた事件(2016年8月)。
 ・クリスマスが国民祭日から外されたこと(2016年3月)。
 ・キリスト教徒は墓地の購入や利用が困難なこと。
 ・様々なメディアが,キリスト教会は騙したり物品を配ったりして改宗させ,また教会行事と称して改宗勧誘を行っているなどと,さかんに報道していること。
 ・牛(オスとメス)殺害が重罰をもって禁止され,パンチタール郡では牛殺害容疑で4人が逮捕されたこと。
 ・政府が郡開発委員会に対し,改宗を勧誘する団体のNGO登録は認めてはならない,とする通達を出したこと。
 ・キリスト教に改宗したが,秘密にしている者が多数いること。

アメリカ国務省レポートは,ネパールにおける「宗教の自由」の現状につき以上のような指摘をしたうえで,「米国政府の政策」を次のように報告している。少々長く重複もあるが,要所を抜き出し紹介する。

 ・・・・・<以下引用>・・・・
ドラカ郡で改宗勧誘容疑により8人が逮捕され裁判にかけられたとき,米大使館員はネパール政府高官と会い,自分の宗教を自由に実践する人民の権利を尊重するよう要請した。米大使館員は,宗教関係図書配布容疑でのキリスト教徒の逮捕が,現行の憲法や刑法の規定が宗教の自由を大幅に制限する結果になることを実証したことを特に強調した。

2016年を通して,米大使と大使館員は,訪ネ米政府高官らとともに,ネパール政府高官や政治指導者らに対し,憲法や改正刑法案の規定が布教や改宗を含む宗教の自由を制限することにつき,憂慮の念を伝えた。米大使と大使館員は,政治指導者や政府幹部に対し,刑法改正最終案には処罰を心配せず自分の宗教を選択する権利をはじめとする宗教の自由を盛り込むことを要望した。米大使館員は,主要政党幹部とも会い,この要望を繰り返し伝えた。11月には,米国務省の近東および南・中央アジア宗教的少数派問題特別顧問がネパール政府幹部や議員らと会い,宗教的寛容を促進し,政府には改宗を犯罪としないよう働きかけることを要望した。

米国特別顧問は,宗教指導者らとも会い,宗教的少数派の宗教的諸権利に対する規制につき意見を交換した。米大使館員は,キリスト教諸団体と会い,改宗禁止の強行やヒンドゥー教政治家たちによるキリスト教社会への非難攻撃につき,意見を交換した。また大使館員は,カトマンズをはじめ国中の少数派宗教の地域代表らと定期的に会い,キリスト教徒が改宗を強制しているという糾弾につき,またキリスト教徒やイスラム教徒がそれぞれの宗教に基づく埋葬のための土地の取得に困っていることにつき,意見を交換した。大使館員は,ヒンドゥー教,仏教,イスラム教およびキリスト教の指導者らと会い,刑法改正案や改宗禁止の憲法規定の施行につき,意見を交換した。
 ・・・・・<以上引用>・・・・・

このように,米国は,ネパールに「宗教の自由」を宣べ伝えることに何の躊躇もない。「自由」の伝道は,新大陸アメリカ国家の「明白な使命(Manifesto Destiny)」なのだ。世界最強のアメリカには,格差の自覚なき「自由」は“強者の,強者による,強者のための権利”に堕してしまうことへの恐れはまるでない。

なお,蛇足ながら,ネパールのキリスト教徒が,ネパール国内に限定すれば少数派であり,弱者であることは言うまでもない。

*1 “International Religious Freedom Report 2016: Nepal,” US Department of State
*2 宣教投獄5年のおそれ,改正刑法
*3 キリスト教政党の台頭
*4 タルーのキリスト教改宗も急増
*5 キリスト教絵本配布事件,無罪判決
*6 改宗の自由の憲法保障,米大使館が働きかけ
*7 新憲法による初の宗教裁判
*8 改宗勧誘は禁錮5年,刑法改正案
*9 クリスマスを国民祭日から削除:内務省
*10 改宗勧奨: 英国大使のクリスマス・プレゼント

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/09/20 at 14:37

宣教投獄5年のおそれ,改正刑法

8月9日立法議会で可決された改正刑法には,いくつか重大な問題がある。強制失踪関係規定については前稿で触れたが,それ以上に大きく問題視されているのが,宗教に関する規定である。改正刑法が施行されると,宣教ないし改宗の働きかけ,いや解釈次第で信者らの礼拝それ自体ですら拘禁5ないし3年以下,罰金5ないし2万ルピー以下の刑に処せられる恐れがある。ヒンドゥー正統への揺り戻しの動きの一つと見てよいであろう。

1.2015年憲法の宣教禁止規定
現行2015年憲法は,ネパールを「世俗国家」と規定しながら,同時に他方では,「古来の宗教文化」に特別の権利を認めている。
————————————–
憲法第4条 ネパール国家
(1)ネパールは,・・・・世俗的な連邦民主共和国である。
 解釈:本条でいう「世俗的」は,古くから伝えられてきた宗教や文化を含む,宗教と文化の自由を意味する。
————————————–
この国家の根本規定を受け,第26条では,改宗を働きかける宣教活動を大幅に規制している。
————————————–
憲法第26条 宗教の自由への権利
(3)何人も,本条の定める権利[宗教の自由]の行使において,公共の健康・礼節・道徳に反する行為,公共の平和を損なう行為,または他者をある宗教から別の宗教に改宗させる行為,もしくは他者の宗教を損なう行為や行動を自ら行い,または他者に行わせることを,なしてはならない。そのような行為は,法により処罰される。
—————————————
宗教活動は,極秘のものを除けば,多かれ少なかれ宣教の意味をもつ可能性があるとすれば,上記の規定を根拠に,国家は宗教活動をいかようにでも規制できることになる。

2.改正刑法の宣教禁止規定
2015年憲法の規定に基づき,改正刑法は宣教活動を大幅に規制し,違反には重罰を科すことを定めている(以下の条文はCSW記事[*1]からの引用)。
————————————–
改正刑法第9部
第158条 (1)何人も,文章,声ないし会話,造形物ないしシンボル,または他の同様の方法により,いかなるカースト,民族または社会集団の宗教感情をも害してはならない。
(2)(1)に定める罪を犯した者は,2年以下の拘禁および2万ルピー以下の罰金の刑に処す。

第160条 (1)何人も他者の宗教を改めさせてはならないし,またそれを自ら試み,または他の者に教唆してはならない。
(2)何人も,あるカースト,民族または社会集団が古来信奉してきた宗教,信仰または信条を否定するような行為や行動を行ってはならないし,また他の宗教への改宗の目的をもって,もしくはその目的をもたなくとも,そうした宗教,信仰または信条を害してはならないし,また他の宗教や信仰を上記目的のいずれかをもって説いてはならない。
(3)(1)および(2)に定める罪を犯した者は,5年以下の拘禁および5万ルピー以下の罰金の刑に処す。
(4)(1)および(2)に定める罪を犯した者が外国人の場合,本条の定める刑の執行後,7日以内にネパール国外へ退去させるものとする。
————————————–
複雑・難解な文章だが,宣教ないし改宗の働きかけが広く禁止されていることは明らかである。

ネパールで活動しようとする宗教,とくにキリスト教諸派が,この改正刑法に危機感を募らせ,世界各地で反対運動を繰り広げ始めたのも,彼らの立場からすれば,至極もっともなことといえるであろう。

 
 ■議会での改宗勧誘禁止条項削除要求(Nepal Church.Com,8月10日)

*1 “NEPAL BILL CRIMINALISES RELIGIOUS CONVERSION,” Christian Solidarity Worldwide (CSW), 21 Aug 2017
*2 Anugrah Kuma, “Christians Fear Crackdown on Religion Under Evangelism Ban in Nepal,” Christian Post, Aug 28, 2017
*3 Surinder Kaur, “Evangelism to be made illegal under new Nepal law,” globalchristiannews.org, 31st August 2017
*4 Prakash Khadka, “Nepal criminalizes religious conversion under new law,” ucanews.com, September 5, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/09/12 at 21:54

カテゴリー: 宗教, 憲法, 人権

Tagged with , , , ,

連邦議会と州議会,11月26日ダブル選挙

デウバ内閣は8月21日,連邦議会と州議会の選挙を11月26日(日)に実施することを決めた。連邦議会選挙は,憲法296条により,2018年1月21日までの実施が義務づけられている。

しかしながら,連邦議会と州議会の選挙を同時に実施することは大変だし,その前には対立抗争で延期されている第2州の地方選挙(9月18日投票)も実施しなければならない。

それに加えて,議会は8月21日,マデシらが要求してきた憲法改正を,政府が選挙日を決定したあとで否決してしまった。

先行き不安。稔と祭りの秋のダブル,いや正確にはトリプル選挙となるのだろうか?

 ■WIKIより(2017-03-10)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/08/22 at 12:11

カテゴリー: 選挙, 議会, 憲法

Tagged with