ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for the ‘憲法’ Category

内閣2ポストをRPPに,プラチャンダ首相

プラチャンダ首相が3月9日,RPP(国民民主党)に内閣2ポストを割り当てた。
 ・副首相,連邦問題・地方開発担当大臣=カマル・タパRPP議長
 ・文化観光交通担当大臣=ディルナト・ギリRPP院内幹事長

プラチャンダ首相は,5月14日地方選を予定通り実施するため,憲法改正を迫られており,そのための議会多数派工作の一環としてRPPを閣内に取り込んだのだ。

しかしながら,プラチャンダ首相のこの多数派工作が成功するかどうかは微妙だ。マデシ諸派の要求に近い形で憲法改正を図れば,王党派ナショナリストのRPPは政府支持をすぐ撤回するだろうし,また野党の共和派ナショナリストUMLも反政府運動をさらに強化するだろう。逆に,憲法改正を断念したりRPPやUMLの要求に近い形で改正を図れば,今度はマデシ諸派が反政府に回る。

憲法は,民主的に硬ければ硬いほど,政府は手を縛られ,二進も三進もいかなくなる。とりわけ国家再構築途上の途上国においては。ネパールの内閣は,包摂的多数派工作のため,いまや閣僚45人にまで巨大化した。副首相3人! それでも,改憲に必要な議会三分の二の確保はおぼつかないのだ。

■RPP・HPより

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/03/14 at 19:31

地方を744地区に区割り

プラチャンダ内閣は3月5日,地方再構築委員会(LLRC)提出の地方区割(local unit)案を修正のうえ採択した。

LLRCは当初,地方を719地区に区割する案を提出したが,マデシ諸党がこれに激しく反発,5月地方選挙ボイコットを宣言したため,プラチャンダ内閣は,第2州を中心にさらに25地区を追加して全国を744地区に区割することにした。この閣議決定は公報掲載をもって施行される。([3月15日追記]マハ・ナガル4,ウパ・ナガル13,ナガル246,ガウン481,計744)

▼閣議決定された地方区割(区割追加郡のみ)
  郡  LLRC案⇒閣議決定
 サプタリ 12⇒17
 シラハ 12⇒17
 ダヌサ 13⇒17
 マホタリ 14⇒15
 サルラヒ 16⇒17
 ラウタハト 15⇒16
 バラ 13⇒15
 カトマンズ 9⇒11
 マナン 3⇒4
 バジャン 11⇒12

5月14日投票のための区割追加とはいえ,いかにも泥縄。しかも,線引きの基準として人口を第一にすることにはそれなりの根拠がある半面,人為的設計主義となるおそれが多分にある。地域の伝統や文化は,この地方区割にどの程度反映されるのであろうか?

 ■WIKIより(2017-03-10)

*1 “Govt okays taskforce proposal for 744 local units,” Republica, 5 Mar, 2017
*2 “Govt brings bill for delineation of electoral constituencies,” Republica, 9 Mar, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/03/10 at 15:15

カテゴリー: 選挙, 行政, 議会, 憲法

Tagged with ,

憲法改正案,審議開始

ネパール議会は2月23日,マデシ諸党を中心とする諸要求に応えるための憲法改正案の審議に入った。
 ▼内閣提出改憲案の要旨⇒⇒憲法改正案,審議入りか

この改憲案は,すでに2016年11月29日に議会に提出されていたが,マデシ諸党は要求が反映されていないとして,また最大野党UMLは反立憲的で国益に反するとして,議会審議に反対してきた。しかし,プラチャンダ内閣が地方選を5月14日投票と決め発表したため,議会としても,その大前提としての憲法改正に着手せざるを得なくなったのである。

こうして憲法改正案の議会審議が強引に開始されたので,それに不満の諸党派が15の修正案を議会に提出した。主なものは,第2州を中心とする諸州の区画変更,上院議員の比例制選出,母語の憲法明文規定など。

これらは,民族,カースト,ジェンダー,地域など様々な利害が複雑に絡む問題であり,しかも憲法が包摂原理を採用しているため,現行憲法でもすでに十二分に複雑で長大な規定になっている。そのため,この問題に関する議論の理解は容易ではない。また,憲法改正には議会での三分の二の賛成が必要であり,改正案が通るかどうかも定かではない。

そこで,ここでは改正問題の詳細に立ち入ることは控え,議会審議の行方を見守ることにしたい。

 170301■ネパール政府HPより

*1 “Constitution Amendment Bill gets 15 amendment proposals,” Himalayan Times, February 26, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/03/01 at 11:58

カテゴリー: 選挙, 議会, 憲法, 民族

Tagged with ,

地方選,5月14日投票

プラチャンダ内閣は2月20日,地方選挙(ナガル[市町]ガウン「村」議会選挙)の5月14日実施を決定した。
[地方選日程]
  4月29日:立候補受付開始
  4月30日:立候補への異議申立受付開始
  5月1日:立候補者仮名簿発表
  5月2日:立候補者確定名簿発表。選挙シンボル配布。選挙運動開始。
  5月12日: 選挙運動終了
  5月14日:投票
 (注)
  *地方自治体総数 旧制度3334(ナガル217+ガウン3117)/新制度714
   旧制度から新制度への移行が可能かどうか不明(参照:地方選,5月実施?
  *議席総数:約3万4千 投票ブース:約2万1千
  *選挙実施要員:約26万人

この発表通り地方選が実施されれば,20年ぶりとなる。前回選挙は1997年5月に実施され,任期は2002年まで。その後,ギャネンドラ国王が2005年選挙実施を試みたが,国王親政に反対する諸政党がボイコットし,事実上,実施できなかった。

現行2015年憲法で現議会の任期が2018年1月21日までと限定されているので,それまでに市町村,州,連邦の3レベルの議会選挙を実施せざるをえない。地方選挙の5月14日実施は,切羽詰まったギリギリの日程である。

政府は2月20日,選管に地方選実施予算103億ルピーを割り当て,さらに必要な予算は追加支出することを決めた。ちなみに,リパブリカ記事(2月25日)によると,2013年制憲議会選挙の総経費は46億ルピー,そのうちネパール政府支出は12億6千万ルピー,外国援助が30億ルピーだったという。(他に日本が投票箱5万個,印が車輌48台,UNDPが有権者ID票作成など,諸外国が様々な選挙支援を行った。)

このように2013年制憲議会選挙ではネパールは諸外国に多くの選挙支援を仰いだが,今回は,外国支援は受けないことを決め,選管が2月23日,内外の関係諸機関にその旨通知した。選管筋によれば,諸外国はそれほどカネを出さないのに,援助宣伝の方は熱心にやるという。選挙は,国家の重要任務だから,国家予算で実施する,というのである。

選挙支援の過度の宣伝利用の真偽は別として,主権国家の選挙への外国支援は,あまり好ましいことではない。自分たちの代表を自分たちだけでは選出できないという事態は,国民として情けなく自尊心を著しく傷つけられる。選挙は,やはり自分たちで実施すべきだ。

たしかに,それはそうだが,この地方選のあとには,州議会選挙と連邦議会選挙が控えている。外国援助なしで,本当に実施できるのだろうか?

さらに,これに加えて,より難しいのが,マデシ諸勢力が要求している憲法改正。第2州を中心に,州や市町村の区画が不利だとして,彼らは選挙以前に憲法を改正することを要求している。もしこの要求が通らなければ,彼らは選挙をボイコットし,抗議行動を展開すると警告している。

この憲法改正は,選挙費用よりもはるかに難しい課題だ。またまたインドが介入するかもしれない。地方選挙までに,マデシ諸勢力を納得させられるような憲法改正が本当に出来るのであろうか?

 170227■選管HPより

*1 “Nepal to hold first local elections in 20 years,” AFP, Feb 21, 2017
*2 “NEPAL TO HOLD FIRST LOCAL ELECTIONS IN 20 YEARS,” REUTERS, 2/23/17
*3 “Nepal to hold elections in local bodies on May 14,” Himalayan Times, February 20, 2017
*4 “Local elections on 14 May,” Nepali Times, February 20th, 2017
*5 “EC releases 16-day schedule for local elections,” Kathmandu Post, Feb 22, 2017
*6 “EC not to accept foreign aid for local polls,” Republica, February 25, 2017
*7 “EC prefers local resources over external help for upcoming polls,” Himalayan Times, February 24, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/27 at 10:59

カテゴリー: 選挙, 憲法, 民族, 民主主義

Tagged with

包摂民主主義の訴え,米大使(3)

テプリッツ駐ネ米大使が,こうした観点から,国交70周年メッセージにおいて厳しく批判しているのが,起草中の新しい「社会福祉開発法」。それは,民主主義に不可欠の市民社会諸組織(CSOs: Civil Society Organizations)の活動を不当に拘束するものであり,ネパール憲法にも国際法(結社の自由を保障する国際人権規約)にも違反するというのである。

テプリッツ大使は,国際法については違反するとだけしか述べていないが,憲法との関係についてはかなり詳しく説明し批判している。すなわち,ネパール憲法51(j)条は,社会的公正と包摂のための政策を政府に義務づけたうえで,それに不可欠のCSOsの透明で効率的な運営のための「単一窓口制(single door system)」の採用を規定している。ところが,起草中の新しい「社会福祉開発法」には,この「単一窓口制」に反する規定がある。もしこのまま制定されれば,CSOsは,設立・運営のため様々な役所の認可を得なければならないし,また外国援助事業には社会福祉委員会のややこしい認可が必要になる。

「単一窓口制は,適切に運用されるなら,CSO関係政府諸機関の間の軋轢や混乱を防止し,CSOsをしてその本来の役割を果たさせ,そして市民社会と国家の間の健全な関係を促進することになるだろう。ところが,起草中の新しい社会福祉開発法は,CSOsの活動に対し様々な機関から様々な認可を取得することを義務づけるものであり,これは憲法の定める『単一窓口制』に反する規定である。」

たしかに,ネパールの行政手続きは,「単一窓口制」が不可欠と思わせるに十分なほど不効率で,汚職腐敗も少なくないが,他方,ネパールにおけるCSOsの乱立,不正も目に余る。ネパール政府がCSOs,とりわけ外国支援CSOsの活動を把握し規制したいと考えるのは,独立国家の政府としては,当然のことだともいえる。圧倒的な超大国アメリカの駐ネ大使,テプリッツ氏のメッセージからは,独立国ネパールへのそのような配慮は全く感じ取れない。

テプリッツ大使は,国交70年メッセージをこう結んでいるが,この趣旨のことは,ネパール政府というよりはむしろ,本国アメリカのトランプ大統領にこそ向けて,まずは訴えられるべきではあるまいか。

「合衆国は,ネパールが人民の,人民による,人民のための民主国家として進歩することを支援するため,ネパールに関与し続ける。われわれは,すべてのネパール人が性,民族,宗教,カースト,居住地,そして経歴にかかわりなく,学習や健康や繁栄への平等な機会を共有するという国家理念を共有しているが,これは,米国のネパール支援継続により,単なる願望や夢ではなく,すべての人のために実現されるべき約束となるであろう。」

170224■在ネ米国大使館HPより

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/24 at 21:45

包摂民主主義の訴え,駐ネ米大使(1)

A.B.テプリッツ駐ネ米大使が,ネパール・メディアに長文の米ネ国交70周年記念メッセージ「包摂的市民参加:民主主義のために」を寄せている。
 ▼ALAINA B. TEPLITZ, “Inclusive civic participation: Where democracies thrive,” The Himalayan Times, February 20, 2017

テプリッツ大使は1969年生まれで,2児の母。オバマ大統領により2015年3月,駐ネ大使に任命された。初の大使就任。

テプリッツ大使は,オバマ大統領任命ということもあってか,社会諸集団の包摂参加やマスコミなど「市民社会(civil society)」の自由と権利の重要性を力説している。この国交70周年記念メッセージも,そうした立場から書かれており,トランプ現政権との関係という観点からも,またネパール内政との関係(内政干渉ではないか)という観点からも,興味深い。

170220a170220b
 ■米大使FB(2月21日)/クンダ・デグジト氏ツイッター(2月21日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/21 at 11:55

真実和解委員会任期,最高裁判決無視し1年延長

プラチャンダ内閣は2月9日,「真実和解委員会(TRC: Truth and Reconciliation Commission)」と「失踪者調査委員会(COID: Commission on Investigation of Disappeared Persons)」の任期を1年延長し,2018年2月10日までとした。

TRCとCOIDは,マオイスト人民戦争(1996-2006)終結のため締結された包括和平協定(2006年11月)に基づき制定された「TRC法(強制失踪者調査および真実和解委員会法)2014年」(2014年5月11日公布施行)の規定に従い,2015年2月10日に設置された。当初の任期は,2017年2月10日まで。

ところが,TRC(とCOID)は,任期満了のこの2月10日までに,その任務を果たすことが出来なかった。幾度か指摘したように(参照:真実和解委員会),人民戦争期には,重大な人権侵害が多数行われ,加害者は政府側にもマオイスト側にもいた。しかも,包括和平協定後の現体制は,人民戦争を戦った主要諸勢力がすべて参加して構築し,維持してきたものだ。したがって,人民戦争期の人権侵害を追及していけば,必然的に主要政党政治家や政府高官など,現体制下の有力者の責任が問われることになるのは避けられない。調査を担うTRCそれ自体ですら,有力諸政党代表により構成されているといっても過言ではないのである。

そのため,TRCとCOIDは設置されたものの,調査は遅々として進まなかった。被害の受付こそ2016年2月から始められ,約6万件を受け付けたものの,2017年2月10日の任期切れまでに調査を完了したものは1件もない。重大事件であればあるほど,加害者は現体制下の有力者だからである。

この状況に被害者たちは不満を募らせ,国際人権諸団体の支援も得て,政府に対し実効的な正義の実現を強く迫っていった。プラチャンダ内閣は,この要求に押され,TRC任期を1年延長し,調査の継続を図ることにしたわけである。

しかし,この泥縄のTRC任期延長には,人民戦争被害者やその支援諸団体が,厳しい批判を加えている。たとえば,サム・ザリフィ国際法律家委員会アジア局長は,次のように指摘する。

「被害者らは正義を求め10年以上待ち続けており,もはや移行期正義の手法への希望を失いつつある。・・・・ネパール政府が,TRC法を最高裁判決と国際法に沿うよう改正し,かつ両委員会の任務遂行を2年間にわたり阻害してきた根本的諸要因を除去する具体的な対策をとらなければ,両委員会の任期延長は無意味となるであろう。」(IJC「ネパール:実効的権限付与なしの移行期正義委員会任期延長は犠牲者の信頼への裏切りである」IJC, 10 Feb. 2017)

【参照1】TRC法,2014年
第26条 アムネスティ(要旨) 委員会は,十分に合理的な理由があると認めた場合,重大な人権侵害についてもアムネスティ(赦免)を政府に勧告することが出来る。

【参照2】最高裁判決(2015年2月26日)要旨
(1)重大な人権侵害を赦免するTRC法のアムネスティ条項は不当。
(2)同意なき和解は認められない。
(3)法廷係争中の事件をTRCに移送してはならない。
(4)TRC法,特に上記(1)は,ネパール国家の国際法上の義務に違反。

また,ネパール立法議会でも,「社会正義・人権委員会」が2017年2月9日,政府に対し,TRC法を最高裁判決に沿うよう改正し,委員会には必要な予算と人員を配分せよ,と勧告している。

しかし,それでもなお,プラチャンダ内閣は,そうした要請をことごとく無視し,TRC任期の1年延長だけにとどめた。これでは,移行期正義の手続きを進め,人民戦争被害者を救済し,和解を実現していくことは,困難であろう。

 170214a

*1 ICJ, “Nepal: extending transitional justice commissions without granting real powers betrays trust of victims,” International Commission of Jurists, February 10, 2017
*2 Alexandra Farone, “Nepal extends deadlines for war crimes investigations,” jurist.org, Friday 10 February 2017
*3 “Nepal extends term of war crimes probes by one year,” Himalayan Times, February 10, 2017
*4 “AI, HRW call to extend mandates of TRC, CIEDP,” Himalayan Times, February 05, 2017
*5 LEKHANATH PANDEY, “Conflict victims question TRC’s efficacy,” Himalayan Times, February 07, 2017
*6 “House panel tells govt to amend TRC and CIEDP Act,” Republica, February 11, 2017
*7 “Nepal: Supreme Court Strikes Down Amnesty Provision in Truth and Reconciliation Law,” The Library of Congress (USA), Mar. 17, 2015
*8 Wendy Zeldin, “Nepal: Supreme Court Rules Government Ordinance on Truth and Reconciliation Commission to Be Unconstitutional,” The Library of Congress (USA), Jan. 8, 2014
*9 Monica Moyo, “Nepali Supreme Court Rejects Amnesty for War Crimes,” The American Society of International Law, March 6, 2015

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/14 at 19:52