ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for the ‘憲法’ Category

ネパール連邦議会選挙:包摂民主主義の実証実験(3)

3.政党の本音は女性後回し
この表を見れば,各政党が女性候補を後回しにしたことは,一目瞭然。まず最初に投票される代議院小選挙区選挙では,当選165議員のうち,女性は6人だけ。三分の一ではない,たったの3%余なのだ! 各党とも男優先,女性差別丸出し。隠しようもない。隠そうともしない。本音丸出し,正直といえば正直だ。

参議院は,各州に最初から女性議席3が割り当てられているので,女性議員は当選議員の約38%。三分の一より少し多いのは,小選挙区男性優先をある程度考慮した結果でもあろう。(連邦議会各党議員の少なくとも三分の一は女性でなければならない。)

政党ごとに見ても,どの政党が特に男優先というわけではない。全政党が女性後回し。それでもひときわ目立つのが,大勝した「ネパール共産党-統一マルクス・レーニン派(UML)」で,代議院小選挙区では当選80人中,女性は2人(2.5%)だけ。その結果,最後の最後に割り当てられる代議院比例制議席は,割当41議席中の37議席(90%)が女性となった。むろん,UMLが自発的に女性を選んだわけではない。憲法の明文規定により,イヤでもそうせざるを得ないのだ。これが,マルクス・レーニン主義を党是とし,農民・労働者のために闘う人民の党の実態である。

「ネパール共産党―マオイストセンター(CPN-MC)」,「ネパール会議派(NC)」など他党も,男性優先では,UMLと大差ない。包摂民主主義を唱えながら,その第一歩といってよい,最も明確な女性の包摂ですら,現実政治の場では敬遠され,あるいは忌避されている。ネパールの政界がまだまだ男社会であり,男性優先が本音であることは隠しようもない。

といっても,そこは建前第一の形式主義の国ネパール,連邦議会(代議院と参議院)全体の各党別女性議員比率をみると,UML33.8%,MC33.8%,NC34.2%,RJP-N36.8%,FSF-N33.3%となっている。5つの国政政党のすべてが,憲法規定の女性議員三分の一の下限にピッタリ合わせている。お見事!


■UML会場雛壇は男性ばかり(UMLホームページ)

4.女性議席割当制の政治的意義
しかしながら,そうはいっても,いやまさにそうした男優先政界の現実があるからこそ,ネパール連邦議会全体でとにもかくにも女性議員三分の一を実現したことは,大きな前進であり,高く評価できる。

日本と比較してみると,その先進性は歴然。日本は,国会全体で女性議員13.1%,世界191か国中の第142位(2017年1月1日現在)。また,衆議院の女性議員は9.3%で,世界193か国下院中の第164位(2017年6月1日現在)。日本は,女性政治参加では後進国,ネパールの足元にも及ばない。頭を垂れ,先進国ネパールから謙虚に学ぶべきだ。

包摂民主主義は,繰り返し指摘してきたように,たしかに複雑で難しく,コストもかかる。しかしながら,たとえそうであっても,それが現代社会における参加・代表の公平の実現には最も有効な実効的手段の一つであることに間違いはない。

ネパールはいま,その大いなる包摂民主主義の政治的実験に取り組んでいるといってもよい。なによりもネパール自身のために,そしてまた多文化社会化せざるをえない日本のためにも,その成功を願っている。

谷川昌幸(C)

ネパール連邦議会選挙:包摂民主主義の実証実験(2)

2.連邦議会選挙の開票結果
 ・代議院(下院)=小選挙区制投票日:2017年11月26日/12月7日
          比例制(全国1区)各党への議席割当:2018年2月10日
 ・参議院(上院)=投票日:2018年2月7日
          政府推薦に基づく大統領指名:未指名

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/02/15 at 17:22

ネパール連邦議会選挙:包摂民主主義の実証実験(1)

ネパール連邦議会選挙の結果が,ほぼ出そろった。参議院(上院)の大統領指名議席など,まだ未確定の部分もあるが,選挙の大勢は,下表のとおりほぼ判明したといってよい。

1.包摂民主主義の実証実験
今回の連邦議会選挙は,憲法ないし国制(संविधान, constitution)の観点から見るならば,2015年憲法の根本理念たる「包摂民主主義(समावेशी लोकतत्र, inclusive democracy)」(憲法前文&4条)を,社会諸集団への議席割当(クォータ)により,まずは制度的に――形式的・強制的に――実現するための初の国政選挙である。いわば,包摂民主主義の実証実験。

この包摂民主主義の実証実験は,ネパール自身はむろんのこと,多文化化・多民族化が進む他の諸国にとっても,あるいは「一民族一文化」にこだわり続ける包摂民主主義後進国の日本にとっては特に,重要な意味をもちうる興味深い政治的試みである。

しかしながら,多種多様な社会諸集団の「比例的包摂(समानुपातिक समावेशी)」(憲法前文)を目標とする包摂民主主義は,諸集団の利害が錯綜し,制度が複雑化し,コストがかかり,運用が難しい。そのような高度な制度を,ネパールは本当に使いこなせるのか? 世界が注目している。

そこで,以下では,「比例的包摂」の基本中の基本たる女性の包摂が,今回の連邦議会選挙において,どのように具体化されたのかを見てみることにする。ネパールにおける包摂民主主義の初の本格的な実証実験が,どこまで成功したのか?


 ■民族/カースト分布地図(トリブバン大学社会人類学部, 2014)。社会諸集団包摂のため,この種の集団同定資料が,多くの場合国際機関や先進諸国の支援を得て,多数出版されてきた。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/02/14 at 17:56

比例は女性特待議席か?(2)

3.女性特待の比例制選出議席
選挙で女性が後回しにされる現実は,選挙経過をみるとすでに明らかである。2017年選挙の結果は,上院選がまだこれからで(2月7日投票),下院比例制当選者も未発表なので,すべて判明しているわけではないが,それでも各メディアの報道を見ると全体の傾向は十分にうかがい知ることができる。(報道数字のばらつきは選挙結果確定後,修正する。)

(1)小選挙区は男性,比例は女性
代議院(定員275)選挙では,小選挙区(165)で当選した女性は6人(3.6%)だけ。その結果,比例制の方は,議席110のうち85議席(77%)以上を女性とせざるをえない。これで代議院議員の三分の一を何とか女性とすることができる。(*1)

それでも女性議員三分の一が達成できなければ,参議院(上院)の女性議員比率を高め,連邦議会全体として女性三分の一を実現しなければならない。いわば奥の手,はたして繰り出されるか?

州議会選挙(7州総定数550)では,小選挙区(330)で当選した女性は18人(総定数の3.3%)だけ。その結果,比例制(220)の方は164議席(75%)以上を女性とせざるをえない。これでようやく女性三分の一に達する(*1)。

以上は,むろん連邦議会や州議会をそれぞれ全体としてみた場合であって,実際には連邦議会では各党ごとに,また州議会では各州ごとに加え各党ごとに,女性議員三分の一以上を達成しなければならない。これは大変!

(2)男性最優先の統一共産党
選挙における女性後回しが特に顕著なのが,民主的なはずの「ネパール共産党‐統一マルクス・レーニン主義派(統一共産党:UML)」。

UMLは下院小選挙区制で大勝したが,そのため皮肉なことに他党以上に男性優先が際立つことになった。州議会小選挙区制でもほぼ同じ。各メディアが報道している具体例を,未確定の途中経過もあるが,いくつか紹介すると,以下の通り。
・下院小選挙区制への立候補者は,総数1742,そのうち女性126(7.2%)。左派連合(UML,マオイストなど)は女性9(12%以下),コングレス連合は7(9%以下)。主要3党は女性候補が極めて少ない。(*2,3)
・UMLの下院小選挙区制当選76人中,女性はなんと2人だけ。そのため比例制候補者(40名余)の大半を女性とせざるをえなかった。(*1,6)[UML最終確定議席は小選挙区制80,比例制41となった。]
・第6州では,下院選挙でも州議会選挙でもUMLの女性候補はゼロだった。UML女性幹部ミナ・ラカール「わが党は,私の働きを評価しなかった。指導者の多くは縁故やコネで選ばれてきた。」(*4)
・UMLは,第6州議会選挙小選挙区(24)において14人当選したが,全員男性。そのため比例制は女性候補のみとなった。(*1,5)

■州議会比例制UML当選者 第3州/第6州(選管HP)

*1 “PRo-women,” Nepali Times, 15-21 Dec 2017, #888
*2 “7 pc women FPTP candidates for parliament,” Republica, Nov 4, 2017
*3 “No female Muslim FPTP candidate in Province 1 Elections 2017,” Kathmandu Post, 2017-11-10
*4 “No women candidates in Province 6 for FPTP vote,” Kathmandu Post, 2017-11-05
*5 “Left alliance picks female candidates only,” Himalayan, Dec 30, 2017
*6 “UML may have to elect all women candidates under PR,” Himalayan, Dec 12, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/02/07 at 16:39

ゴビンダ医師の市民的抵抗,医学部長解任事件最高裁判決に対して(3)

4.市民的抵抗としてのゴビンダ医師ハンスト
(1)ハンスト支持
ゴビンダ医師が今回のハンストで訴えていることについては,賛成し支持する声が圧倒的に多い。

主要3党は,党としてではないが,幹部がそれぞれパラジュリ最高裁長官を批判し,ゴビンダ医師支持を表明した。またナヤシャクティ(新しい力)党のバブラム・バタライ(元首相)も,長文コメント「改革の闘い」(1月15日付リパブリカ)を発表,ゴビンダ医師の司法改革要求は全く法廷侮辱には当たらないと述べ,彼を全面的に支持した。なにかにつけ不仲のネパール諸党がこれほど意見の一致をみるのは,珍しい。

新聞各紙も,ニュアンスの違いはあれ,ゴビンダ医師の主張を支持している。「カトマンズ・ポスト」は1月10日付社説「見下げ果てた行為:最高裁は抗議の権利を行使したにすぎないKC医師の逮捕を命令した」において,次のように述べている。

「KC医師は,強く求められてきた医学教育改革のために,命がけで繰り返し闘ってきた。その平和を愛し腐敗と闘う改革の闘士が留置され,法廷侮辱容疑で法廷に引き出された。なんたるお粗末な決定か。」

(2)ハンスト反対
政界も市民社会もゴビンダ医師支持が圧倒的多数なのに対し,いわば身内の法曹社会は意見が割れている。

ゴビンダ医師支持の法律家も少なくないが,代表的法曹組織の「ネパール法律家協会(NBA[Nepal Bar Association])」は,法廷陳述後のゴビンダ医師釈放(後述)は歓迎しつつも,彼の最高裁攻撃の方法については,許されないと批判する。

NBAによれば,ゴビンダ医師は,最高裁長官に対し不適切な言葉で人格攻撃をし,ハンストで脅し,司法を混乱させている。ハンストはやめ,憲法の定める「司法委員会」などを通し問題は解決されるべきだ。「独立した司法の尊厳は守られなければならない」(“Bar unhappy with Dr KC’s protest, urges him to end hunger strike,” Kathmandu Post, 20 Jan 2018)。

このNBAの反対にも一理はある。憲法は第101(2)条で連邦代議院による最高裁長官弾劾を,また第153条では「司法委員会」による裁判官の資格審査や腐敗および職権乱用の調査・裁判を認めている。法治国家では,これが裁判官の責任を問う通常の法手続きであることに間違いはない。

しかしながら,もしこの裁判官弾劾手続きが,憲法の規定通り機能しない場合,市民はどうすればよいのか?

(3)市民的抵抗としてのハンスト
こうした場合,国家社会の構成員たる市民には,市民として悪政に抵抗する権利,すなわち「市民的抵抗(civil disobedience)」の権利がある。

ネパールでは,現行2015年憲法が世界最高水準の民主的司法制度を定めているが,残念ながら実際にはまだそれが規定通り運用されない場合が少なくない。今回のゴビンダ医師法廷侮辱事件裁判も,その典型である。

ゴビンダ医師は,パラジュリ最高裁長官の行為を職権乱用と確信し,自らの市民としての良心に基づき一人でハンストを行い,憲法の認める言論の自由を行使して長官を批判し辞任を要求した。

もしかりに彼のこの行為のある部分が法の定める異議申し立て手続きに形式的には反しているとしても,それは市民的抵抗として,近現代社会では正当な(legitimate)行為と認められるはずである。

ゴビンダ医師自身が,1月9日の法廷において,こう述べている。「私は,法廷侮辱罪のことはよくわきまえている。職務を正しく遂行する裁判官を尊敬してもいる。しかし,不当な判決を下し誤った行為をする裁判官に反論するのは,決して法廷侮辱には当たらない。それこそが,法廷を尊重することに他ならないのだ。」(“Dr KC: Criticism of controversial judgement not contempt of court,” Kathmandu Post, 10 Jan 2018)

ゴビンダ医師は,裁判官や判決の批判は法廷侮辱ではない,あくまでも合法的ないし合憲的行為だ,とここでは弁明している。これは「市民的抵抗」を根拠とする主張ではない。

しかしながら,ゴビンダ医師の対最高裁長官ハンスト闘争は,たとえ形式的には罪に問われようが正義のために命をかけて闘いぬく,それが市民としての義務であり,またそれこそが司法を本来の姿に戻すことになるという固い信念に基づくものだ。これは「市民的抵抗」に他ならない。

(4)「市民的抵抗」嫌いの市民的抵抗
「市民的抵抗」は,ガンジーが唱え実践したことで知られているが,なぜかネパールでは人気がない。ネパールはガンジー嫌い? インド嫌いが高じて「市民的抵抗」嫌いになってしまったのか? ここのところは,いまのところよくわからないが,いずれにせよネパールの政治や学界において真正面から「市民的抵抗」が掲げられ,あるいは議論されることは,少ない。

ところが,実際には,内容的には「市民的抵抗」に他ならない闘争が,各地で繰り返し行われてきた。「市民的抵抗」だらけ。これは,市民の諸権利が形式的に合法的な手段では守られないことが少なくなかったからである。形式的合法性(legality)よりもむしろ実質的正当性(legitimacy)に訴える。日常茶飯事だったから,あえて「市民的抵抗」として理論化する必要がなかったのかもしれない。

そのネパールで「2015年憲法」が制定された。民主的な法制度や政治制度を定めた世界最高水準の憲法。その憲法に基づき2017年には連邦,州,市町村の選挙も実施された。形式的合法性のための諸制度は,ほぼ実現された。

ネパールの次の課題は,この形式的合法性により実質的正当性を実現していくこと。憲法の実践ないし具体化。

この2015年憲法体制の下で,皮肉なことに,憲法と現実との矛盾は,むしろ以前以上に鮮明となるであろう。形式的合法性だけに依拠していては,実質的正当性が確保できない事例の先鋭化。そうした場合,闘いの理論的根拠として,「市民的抵抗」が要請されることになるであろう。ガンジーはどうも,インドは嫌い,などと言ってはいられない。

その現代ネパールにおける「市民的抵抗」の範例の一つとして,ゴビンダ医師の抗議ハンストは位置づけられてよいであろう。

 
■敵をも愛したガンジー/巨大ガンジー像の前で学ぶ学生と教師(ニューデリー,2010年3月撮影)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/01/22 at 14:55

ゴビンダ医師の市民的抵抗,医学部長解任事件最高裁判決に対して(2)

3.ゴビンダ医師の法廷陳述
ゴビンダ医師は,1月9日の法廷(P・バンダリ判事とBK・シュレスタ判事)において,11項目に分け陳述を行った。趣旨は抗議ハンスト時の発言と同じ。激しい言葉でパラジュリ最高裁長官を容赦なく徹底的に糾弾している。もしこの中に事実に反する部分があれば,法廷侮辱の動かぬ根拠とされかねないほど際どい陳述だ。陳述(弁明書)要旨は,カトマンズポスト記事*によれば,以下の通り。
*”A written reply furnished by Dr KC to the Supreme Court on Tuesday,” Kathmandu Post, 10 Jan 2018.

ゴビンダ医師の法廷陳述要旨
(1)パラジュリ最高裁長官は,2か所から市民登録証を取得している。これは万人周知の事実。市民登録証を1通だけでなく,それ以上取得する人物は,不道徳で不法。これは犯罪。それゆえ,彼を取り調べ処罰すべきだ。

(2)パラジュリ長官は年齢を偽っている。最高裁長官には,カトマンズ郡役所発行の2枚目の市民登録証の年齢に基づき,在職している。ところが[別の市民登録証によれば],彼は2074年アサド月(2017年6-7月)に,すでに満65歳に達している。法定の停年は65歳。この種の行為は「司法商売」も同然だ。

(3)パラジュリ長官は,LS・カルキ職権乱用委員会(CIAA)委員長を無罪にした後,甥をCIAA顧問に採用してもらった。権威ある司法が売り買いされた。彼は職権乱用罪で処罰されるべきだ。

(4)パラジュリ長官の中等教育終了試験(SLC)合格資格には疑義がある。この件にはスシラ・カルキ前長官の関与も疑われている。裁判官に必要なSLC合格資格を持たずに,どうして最高裁長官たりうるのか? これは,国家や裁判所を暗闇に引き込む犯罪ではないか?

(5)パラジュリ長官は,SLC以外の学歴や資格についても,疑義がある。司法委員会や憲法委員会での審査資料に基づき,調査せよ。

(6)ジャグディシュ・アチャルヤ土地関係事件の裁判で,パラジュリ長官は政府の土地政策を否定し「土地マフィア」有利の判決を下した。「司法が売られた」のではないか?

(7)パラジュリ長官のホテル・カジノ税免除判決は,「司法の死」をもたらすものだ。国家は税収を失った。「司法を殺す」人物に司法の独立が守れるのか?

(8)パラジュリ長官は,Ncell[通信事業会社]事件など様々な事件の裁判において,腐敗を助長した。Ncellの場合,600億ルピーの納税を免れた。これは法の支配に対する嘲笑ではないか。彼の下した判決は見直されるべきだ。

(9)パラジュリ長官は,義理の甥を半年の間に補助裁判官から補助裁判官長,高裁裁判長へと昇進させた。名誉ある最高裁長官たるに不可欠のモラルなし。関心を持つ市民の一人として,彼の辞任を求める。さもなくば,司法の独立と自由が妨害され続けるだろう。

(10)パラジュリ長官の就任は夜の10時半。前任のスシラ・カルキ長官に対する弾劾動議が提出されたその夜のことだった。どの法がこのようなことを認めているのか? 不法行為に関与する人物に司法の尊厳は守れない。彼は辞任すべきだ。

(11)『日刊カンチプル』は,その記事「ゴパル・パラジュリあれば,医科大訴訟あり」を理由に法廷侮辱罪で訴えられたが,無罪となった。記事の記述は司法的に認められたのだ。そのような人物が名誉ある最高裁判所長官の職にとどまることは適切ではない。

[結び]「ゴパル・パラジュリ最高裁長官は,司法への信頼および司法の尊厳と独立に対し挑戦してきたのであり,その行為は法廷侮辱罪にあたるので,私は裁判所に対し,彼を法廷侮辱罪に問うことを要請する。私に対する告発には根拠がない。パラジュリを除く他のすべての最高裁判事からなる法廷に,この事件の審理を求めたい。」

■最高裁(同HPより)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/01/21 at 14:25

左派連合政権への期待:KM・ディクシト

ネパール議会選挙については,従来とは比較にならないほど多くの報道がなされ,しかも長く詳細なものが少なくない。

論調は,この2週間ほどで,かなり変化した。開票が進み左派連合の勝利が明らかになると,各メディアは,左派連合の地滑り的圧勝,ネパールの赤化,親中共産党長期政権の成立へ,インドの対ネ政策の失敗などといった,一方的な趣旨のセンセーショナルな記事があふれた。

しばらくすると,コングレス党(NC)の比例制での善戦が明らかになったこともあり,親中左派連合完勝といった一面的な報道を修正し,新政権の構成や対印・対中関係の在り方などと関連付けた冷静な分析が現れ始めた。

ここでは,この間のおびただしい様々な報道にすべて目を通し総合的に論評することは困難なので,いくつか注目すべき記事を選び,紹介することにしたい。

まず最初に取り上げるのは,ネパールの代表的知識人の一人,カナク・マニ・ディクシト「民主主義安定への正道」
 ▼Kanak Mani Dixit, “High Road to Democratic stability,” The Hindu, 18 Dec 2017


 ■K. M. Dixit(Twitter) / K. P. Oli(FB) / S. B. Deuba(FB)

——<以下要旨>———————–
国会・州会ダブル選挙で左派連合が快勝し,中央と,7州のうちの6州で左派連合政権成立の可能性が高くなった。野党弱小化に懸念はあるものの,これで安定政権は得られることになった。

ネパール人民は,2006年人民運動,コミュナル紛争解決,2015-16年経済封鎖克服などを通して,この10年間で政治能力を向上させており,新憲法へのインドの反対も,人民意思の力により克服することができた。

新憲法は,立法・行政・財政などの諸権限を2階層ではなく3階層の「政府(सरकार)」に分割付与するものであり,これは「南アジアにおける革新」といってよい。憲法によれば,代議政府が国家(連邦政府)に加え,7つの州,17の市,276の町,460の村に設置される。これにより,長きにわたったカトマンズ中央集権と地方代議政府なしの20年間は,ようやく終わりを告げることになる。

このネパール政治の変革は,統一共産党(UML)オリ議長の手腕によるところが大きい。オリ氏は,ダサイン休暇中に,マオイストのカマル・ダハル(プラチャンダ)議長と交渉,国会・州会の獲得議席の40~60%割当を約束し,マオイストをコングレス党との連立から離脱させ,左派連合を成立させた。インド経済封鎖と果敢に闘ったナショナリスト,オリ議長は雄弁家であり,演説下手のデウバNC議長では到底太刀打ちできない。共産主義は民主主義の敵だなどという非難攻撃は,デウバ議長自身がつい最近までマオイストと連立を組んでいたのだから,まったく説得力がなかった。

オリ氏は,国民の支持を得て選挙で大勝,いまや最強の指導者となった。新しい規定によれば,新政府に対する不信任動議は2年間は提出できないので,オリ氏は5年の首相任期を全うしそうだ。そうなれば,ネパール近現代史初の長期政権首相となる。

オリ氏は,前の首相在任中に移行期正義を大きく前進させた。もしそれを継承し,完結させることが出来るなら,オリ氏は,「自由民主主義(リベラル・デモクラシー)の勝利」をもたらすことになろう。

オリ氏は,民主政治を安定させ,経済発展を図らなければならない。また,政権安定をバックに,対印関係を修復し,中国とはおもねることなく互恵関係をさらに発展させるべきだ。

国際社会においては,オリ氏には長い専制や紛争のため失墜してしまった信用の回復が期待されている。「オリ氏には,1950年代のB・P・コイララの頃のような国際社会におけるネパールへの尊敬を取り戻すチャンスがある。なお残る様々な問題が解決されれば,ネパール大統領の官邸と住居をシタル・ニワスからナラヤンヒティ元王宮に移すことも可能であろう。」

オリ新政府には,いくつか大きな難問が控えている。一つは,統治が憲法により連邦・州・地方の三階層に分権されたが,政治家や官僚がこれに抵抗すること。新設の最高裁憲法裁判所に訴訟が殺到する恐れがある。

また,この10年間,規律なき「合意による統治(コンセンサス・ガバナンス)」が拡大し,国庫は空になってしまった。統治機構複雑化による経費増大や,莫大な震災復興費,インフラ整備費などにどう対処するか?

また,新設7州のうち第1州(東部)と第3州(カトマンズ盆地など)の経済力は,他州と比べはるかに大きい。州間の大きな経済格差をどう解消していくか?

さらに,連邦政府,州政府,地方政府が権力乱用する恐れも多分にある。そうした場合,市民社会はどう監視し,権力乱用を阻止するか?

結局,それは憲法の理想をどう実現していくか,ということだ。「経済的,政治的,地政学的諸課題を背負い,未知の海図なき世界に出ていく社会には,2015年ネパール憲法に規定する民主的で,包摂的な,社会正義指向の諸理想を実現することが求められているのである。」
——<以上要旨>———————–

KM・ディクシトのオリ評価は,デウバ現首相の低評価とは対照的に,極めて高い。ただし,それはこれまでの実績を踏まえてというよりは,むしろ今後の改革への期待という意味合いのほうがはるかに大きい。

オリ政権の発足は,上院選挙との関係で,まだいつになるかはっきりしないが,いずれ成立することはほぼ間違いない。そのオリ新政権がKM・ディクシトの期待に応えられるかどうか,注目されるところである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/12/24 at 21:37