ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for the ‘政党’ Category

プラチャンダ首相,TVで辞意表明

プラチャンダ(プシュパ・カマル・ダハル)首相が5月24日,テレビ番組で辞意を表明した。前日(23日)の議会で表明する予定だったが,タライ自治体増に反対する第2党UMLの抵抗で議会が開けなかったため,テレビで直接国民に辞意を伝えることになったのだそうだ。

今回のこの首相交代には,いつもの劇的な要素がまるでない。ビジネスライク。昨年8月,第1党のNC(コングレス党)と第3党のMC(ネパール共産党マオイストセンター)が政策協定を結び連立政権を発足させることになったとき,首相は地方選まではMC,そのあとはNCとする紳士協定を結んだ。今回の首相交代は,その取り決めによるもの。(首相交代が6月14日後期地方選の前か後かはまだ未定。)

しかし,それにしてもあまりにも実務的。乱闘や首相不在長期化は困るが,そうかといって政党の打算見え見えの首相交代にはシラケてしまう。政党都合による首相職のたらい回し。報道も地味。

プラチャンダMC議長から首相職を回されるのは,NCのデウバ党首。タライ紛争に対するカトマンズ中央政府の姿勢がどうなるか,特に注目される。なお,駐日ネパール大使のプラチバ・ラナさんは,デウバ党首の義母。(参照:駐日ネ大使候補プラチバ・ラナさん,議会委員会が承認) 


 ■プラチャンダ議長(2013年2月党大会ポスター)/ デウバ党首FB(5月26日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/05/26 at 17:22

カテゴリー: 議会, 政党

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キリスト教政党の台頭

ネパールでは,国家世俗化によりキリスト教会が勢力を拡大し,政治の世界にも進出し始めた。すでに政党もいくつか結成され,2013年制憲議会選挙では,「覚醒党(जनजागरण पार्टी [awareness] Party)」が1議席獲得した。党の本拠はラリトプルで,党シンボルは懐中電灯。

昨日(5月14日)の地方選挙(前期)では,この覚醒党を中心に,キリスト教会系4党が選挙協力に向け協議した。
 ・覚醒党(選管登録済,2017年3月10日現在)
 ・Rastriya Mukti Andolan Party(選管登録済,同上)
 ・People’s Party(選管登録申請中,同上)
 ・PA Christian Party(選管登録申請中,同上)

カトリック系「アジアニュース(www.asianews.it)」(2017年3月17日)によれば,この4党協議では,次のような意見が出された。
ロクマニ・ダカール(覚醒党党首)
「選挙を通してイエス・キリストのことを伝えたい。そうすれば,イエスの名で全有権者に訴えることができる。」
ジャヤワンタ・B・シャハ(Rastriya Mukti Andolan Party党首,4党協議代表)
「[選挙協力実現に向け残るのは]4党連合を誰が代表するかということと,選挙に出る政党の名称とシンボルを何にするかということだけだ。」(「アジアニュース」によれば,十字架とキリストの名を党名と党シンボルに配することを選管に打診中。)

この3月の4党協議は,結局,うまくいかなかったようだが,それにしてもキリスト教会系政党が,ここまで大っぴらにキリスト教を前面に出して選挙出馬を考えるとは,まったくもって隔世の感を禁じ得ない。

こうした宗教団体の政治活動について,現行2015年憲法は,微妙な規定を置いている。
第269条 政党の結成,登録および活動
(1)政党結成の自由  (2)選管への政党登録
(3)政党登録要件 (a)党則が民主的,(b)党役員の定期的選挙選出,(c)党役員の包摂性
(5)党名,党目標,党章および党旗がネパールの宗教的および社会的統一を損なわないこと,また国家の分裂を招かないこと

この憲法規定に,キリスト教会系諸政党は抵触しないのか? 前述のように,すでに2政党は選管登録されている。覚醒党は,懐中電灯で照らし,「目覚めよ!」と訴え,制憲議会に1議席を獲得した。しかし,前述の4党協議で出されたように,十字架を掲げキリストの教えを選挙で訴えるとなると,どうか?

ネパールには牛をシンボルとする有力なヒンドゥー教政党があり選挙でもヒンドゥー国家復帰を訴えているのだから,論理的にはキリスト教政党が選挙でキリスト教国家建設を説いてもよいことになる。矛盾はない。

しかし,こうした行き方には大きな問題がある。もし,これが認められるなら,政治は宗教対立の場と化し,ネパールは際限のない宗教紛争の泥沼に陥る。これまで,キリスト教が不当に抑圧されてきたことは事実だが,だからといって無原則に宗教を政治に持ち込むべきではない。それは,あまりにも危険である。ここはやはり,原理原則に立ち戻るべきであろう――政教分離の。

▼覚醒党FB

 ■FB表紙/2013年選挙用。政党シンボルにマンジ印をつけ投票(2017年4月2日付FB投稿)

▼地方選への覚醒党立候補(選管HPより)

 ■ラリトプル/バクタプル(赤印)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/05/15 at 16:48

百党斉放のネパール地方選挙

今日5月14日は,前後2回に分けて実施予定のネパール地方選の前期投票日。
 ●前期選挙 5月14日
  選挙実施州:第3,4,6州
  市町村数:283  有権者数:496万人
 ●後期選挙 6月14日
  選挙実施州:第1,2,5,7州
  市町村数:461  有権者数:910万人

今日投票の前期選挙は,カトマンズなど大都市が含まれているが,自治体数も有権者数も後期選挙に比べ,はるかに少ない。また,後期選挙地域は,インド国境沿いのタライや少数民族問題を抱える山地が多い。このような選挙方法の採択には,有力諸政党の政治的思惑が絡んでいるように思われる。

それはそれとして,選管発表の投票用紙を見ると,まさに百花斉放ならぬ「百党斉放」,さすが「何百もの花からなる我ら」を国歌とするネパールだ。このような「百党斉放」をどう見るか? 多文化包摂の理念への前進か,それとも政党に名を借りたコネ利権の露骨な政治的解放か? 成り行きが注目される。

▼地方選投票用紙(選管HPより)

 ■カトマンズ/カスキ


 ■ドラカ/ナワルパラシ

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/05/14 at 12:43

カテゴリー: ネパール, 選挙, 政党

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得票率3%以上&議席1以上,全国政党の要件

立法議会は3月22日,5月地方選のための改正政党法を可決したが,その中には,全国政党の要件を,比例制で3%以上の得票がありかつ議会に1議席以上を有すること,とする規定が含まれている。いわゆる阻止条項つき選挙制(election threshold)の採用である。

この阻止条項採用が,政府与党やUMLの大政党としての党利党略によるものであることは言うまでもないが,その一方,包摂民主主義選挙の弊害が拡大し,その修正を余儀なくされた結果であることもまた否定できない事実である。

これまでの2回の制憲議会選挙では,包摂民主主義の理念に基づく比例制と社会諸集団クォータ制を採用したため,百数十もの政党が候補を立て,30以上の政党が実際に議会に議席を得た。その結果,選挙は複雑にして煩雑となり経費も著しく増大した。また,この包摂主義選挙により登場した小政党の多くは,国民を代表する公党というよりはむしろ身内政党・コネ政党であり,議会では利権配分による多数派工作の格好の標的とされてきた。議会政治は,混乱し停滞。現状は,包摂主義の現実が効率的な議会制民主主義を蚕食しているといった状況らしい。

今回の阻止条項採用には,このように,政府与党やUMLの思惑のほかに,それなりの理由もあるのだが,小政党の側は当然,猛反発,阻止条項は憲法の包摂民主主義理念に反し,憲法の保障する政党の自由と権利を不当に制限するものだとして,各地で激しい反対運動を繰り広げている。

たしかに,選挙制における阻止条項は本質的に小政党の切り捨て条項であり,論理的には,少数派の包摂を大原則とする2015年憲法の包摂主義の理念には反している。しかしながら,民主主義国でありながら阻止条項を置いている国は少なくない。たとえば次のような国々:
  5%=独,台湾,ニュージーランド
  4%=ノルウェー,スウェーデン
  3%=伊,韓
したがって,阻止条項を置くことが,即,反民主的ということにはならない。政治は実践であり,包摂民主主義を原則とするにせよ,現実政治の場では,他の諸要因をも考慮し,より望ましい現実的な包摂制度の在り方を探り,それを用いることにせざるを得ない。ネパールも,紆余曲折はあれ,結局はそのような方向に向かって前進していくのではあるまいか。

■2013年選挙比例区投票用紙サンプル

*1 “One FPTP seat, 3 pc PR votes necessary to get recognition as nat’l party,” Kathmandu Post, 22 Mar 2017
*2 “Fringe parties boycott House to protest threshold provisions,” Kathmandu Post, 22 Mar 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/03/25 at 18:34

駐日ネ大使候補プラチバ・ラナさん,議会委員会が承認

議会聴聞委員会(PHSC)が3月22日,政府推薦の12大使候補を全会一致で承認した。駐日大使候補は,プラチバ・ラナさん。

プラチバ・ラナさんは,1948年生まれ。コングレス党デウバ党首の義母だが,ラナさん自身は国民民主党(RPP)中央委員。制憲議会議員,科学技術副大臣(state minister),超党派女性同盟(IPWA)創立者副議長などを歴任されている。

 ■プラチバ・ラナさん(ネパールTV,2015/07/30)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/03/23 at 23:32

カテゴリー: 外交, 政党

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RPP党則から「ヒンドゥー国家」と「君主制」を削除,選管

ネパール選挙管理委員会(EC)が3月17日,5月地方選のための政党登録にあたって,国民民主党(RPP)の党則から,同党のもっとも根本的な基本理念たる「ヒンドゥー国家」と「立憲君主制」の部分を削除した。報道からは,具体的な削除文言や削除手続きは分からないが,RPPは長い歴史を持ち,現在議会第4党,そのれっきとした公党の党則を,選管がいわば「検閲」したのだ。大胆な,恐るべき権力行使!

選管のナレンドラ・ダハール委員長は,RPP党則からの「ヒンドゥー国家」と「立憲君主制」の文言削除につき,それらは憲法の定める「世俗国家」と「共和制」に反しているし,また憲法は政党が国民間の憎悪を煽ったり国家の安全を脅かしたりすることを禁じてもいるから,同党党則からそれらの文言を削除したのだと説明している(*4)。

たしかに,ネパール憲法は「第29編 政党に関する規定」において,次のように定めている(関係部分要旨)。
 第269条 政党の結成,登録および活動
 (2)政党は,選管に「政党名」を登録する。
 (3)政党は,党則(党規約),会計報告書,およびその他法律に定める文書を選管に提出する。
 (4)政党登録の要件。(a)政党の党則や党規約は民主的でなければならない。
 (5)政党の名称,目的,シンボルおよび旗が,この国の宗教的ないし共同体的統一を損なうか,または対立をもたらす恐れがあるときは,その政党は登録されない。
 
これらの憲法規定を見ると,もし選管が「ヒンドゥー国家」と「立憲君主制」の党則記載を理由としてRPPの政党登録を拒否したとしても,それには全く根拠がないというわけでもなさそうだ。しかしながら,報道によれば,今回,選管は政党登録拒否ではなく,RPP党則の中のそれらの文言を一方的に削除したらしい。

RPPは,この選管のやり方に猛反発,選管の行為を違憲として最高裁に訴える一方,選管本部前に押しかけ激しい抗議活動を展開した。

RPPのカマル・タパ党首は,党則からの「ヒンドゥー国家」と「立憲君主制」の削除は党から魂を抜くようなものだと述べ,もしこのような党則削除が許されるのなら,UML,マオイストなど多くの共産党系諸政党の党則からも憲法原理に反する「共産主義」の規定を削除すべきだが,選管にそんなことができるのか,と皮肉を込め鋭く反撃している。(*5)

また,モハン・シュレスタRPP広報委員も,こう批判している。「選管には政治問題を論評する権利はない。憲法は政党が政策を訴えることを禁じてはいない。憲法は表現の自由を保障している。」もし「ヒンドゥー国家」と「立憲君主制」を訴えることができないのなら,RPPが選挙に出ることは無意味だ。「選管は,地方選挙の無意味化を企んでいるのではないか。」(*4)

RPPのこのような選管批判は,もっともである。「ヒンドゥー国家」や「立憲君主制」が国益にかなうと信じる政党が,それらを党の政策理念として掲げて選挙を戦い,主権者たる国民の審判を仰ぐことは,政治的行為であり,政党に当然許されてしかるべきである。民主主義は国家理念をめぐる自由な政治闘争を認めている。もしネパール憲法がそのような政治的自由をすら許容せず,異論の行政的権力的排除を求めているのであれば,憲法のそのような規定,あるいは憲法規定のそのような解釈は,民主的とはいえないであろう。

*1 “EC removes ‘Hindu state’, ‘monarchy’ from RPP’s statute,” Republica, March 17, 2017
*2 “RPP to move SC against EC’s decision,” Kathmandu Post, Mar 18, 2017
*3 “EC’s decision may affect local poll: DPM Thapa,” Kathmandu Post,Mar 18, 2017
*4 “EC removes Hindu state, monarchy from RPP’s statute,” The Himalayan Times, March 18, 2017
*5 “Election Commission robbed us of our soul, says Kamal Thapa,” The Himalayan Times , March 18, 2017
*6 “RPP to seek “constitutional remedy” to protect charter RPP to seek “constitutional remedy” to protect charter,” The Himalayan Times, March 18, 2017
*7 “Police fire tear gas during RPP protest,” Kathmandu Post, Mar 20, 2017
*8 “DPM Thapa stages sit-in outside EC’s office, Thapa’s participation comes after police used force to clear RPP protesters,” Kathmandu Post, Mar 20, 2017

■RPP・HPより 

谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2017/03/21 at 19:00

内閣2ポストをRPPに,プラチャンダ首相

プラチャンダ首相が3月9日,RPP(国民民主党)に内閣2ポストを割り当てた。
 ・副首相,連邦問題・地方開発担当大臣=カマル・タパRPP議長
 ・文化観光交通担当大臣=ディルナト・ギリRPP院内幹事長

プラチャンダ首相は,5月14日地方選を予定通り実施するため,憲法改正を迫られており,そのための議会多数派工作の一環としてRPPを閣内に取り込んだのだ。

しかしながら,プラチャンダ首相のこの多数派工作が成功するかどうかは微妙だ。マデシ諸派の要求に近い形で憲法改正を図れば,王党派ナショナリストのRPPは政府支持をすぐ撤回するだろうし,また野党の共和派ナショナリストUMLも反政府運動をさらに強化するだろう。逆に,憲法改正を断念したりRPPやUMLの要求に近い形で改正を図れば,今度はマデシ諸派が反政府に回る。

憲法は,民主的に硬ければ硬いほど,政府は手を縛られ,二進も三進もいかなくなる。とりわけ国家再構築途上の途上国においては。ネパールの内閣は,包摂的多数派工作のため,いまや閣僚45人にまで巨大化した。副首相3人! それでも,改憲に必要な議会三分の二の確保はおぼつかないのだ。

■RPP・HPより

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/03/14 at 19:31