ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for the ‘教育’ Category

良書廃棄へ向かう自治体図書館

近くに中規模の市立図書館分館(蔵書約20万冊)がある。便利なので月2,3回は利用するが,行くたびに相当数の蔵書が廃棄されているのを目にし,驚いている。

蔵書廃棄は,一応,「リサイクル」の名で実施されている。図書館で不要とされた(と思われる)本が,リサイクル棚に並べられ,誰でもタダで持ち帰ることが出来る。「捨てる」のではなく,「リサイクル」であり「再利用」だという名目で,行われているのだろう。

しかし,図書館利用者の側からすれば,たとえ「リサイクル」名目であれ,廃棄されれば,もはやその本は無くなり,利用できなくなる。不便だ。(同じ本の新版買い替え所蔵もあろうが,多いとは思われない。また,複本所蔵で廃棄後何冊か残る場合でも,後述のような問題がある。)

図書館の蔵書廃棄は,書庫不足が最大の理由であろう。限られた収納スペースに,どの本を並べておくか? 悩ましい問題である。

図書廃棄は大学図書館ですら行っているので,自治体図書館だけの問題ではないが,廃棄される本(と残される本)の質という点では,自治体図書館の方がはるかに深刻だと思われる。

図書館が新しい本を買い不要な本を廃棄するときの評価基準は,大学図書館の場合は教育研究にとっての必要性だろうが,自治体図書館の場合は何であろうか?

自治体図書館の選書には,一市民としての推測にすぎないが,選書委員会のようなものがあるにせよ,実際には地元住民からの要望が強く働いているのではないかと思われる。自治体図書館は,身近な施設なので,住民の声をまず第一に聞かざるをえない。その結果,優先的に購入されるのは――
・受賞,映画化などで話題になっている本。
・地元利用者からの購入希望の多い本。
・住民自身は自分の金では買いたくはないが,ちょっと見てみたいハウツー本や実用書。旅行案内,料理本,生活相談,健康本,人生訓,冠婚葬祭解説など。

自治体図書館は,民主的であればあるほど,住民の声を聞けば聞くほど,これらの本を重点的に買う。しかも,ベストセラーなど,話題になり要望が強ければ強いほど,同じ本を10冊,20冊と大量に買い込む(複本購入)。

その結果,書架(書庫)はすぐ満杯になり,利用の少ない本が押し出され,リサイクル(廃棄)に回される。そして,書架は,ベストセラー本(すぐ忘れられ,残されるのは結局1,2冊だが)や「すぐ役に立つが自分では買いたくない」実用書,あるいは一定の政治的傾向をもつ――政治的要望の根強い――時事政界本などに席巻されるということになる。

自治体図書館が,実際に,どのような本を新たに購入し書架に並べているかについては,図書館に行って直にご覧いただくか,あるいは各図書館ホームページの新規購入図書案内でお確かめ下さい。

以下は,最近,近所の上記中規模市立図書館分館に行ったとき,たまたま目にし,タダでもらってきた本のごく一部である。私にとって,図書館は,館内書架よりもリサイクル(廃棄)本棚の方が魅力的になりつつある。

宮原寧子『ヒマラヤン・ブルー』
ヤンツォム・ドマ『チベット・家族の肖像』
重廣恒夫『エベレストから百名山へ』
シュタイニッツァー『日本山岳紀行』
坂田・内藤・臼田・高橋編『都市の顔・インドの旅』
渥美堅持『イスラーム教を知る事典』
梅棹忠夫『二十一世紀の人類像』

太田昌秀『沖縄の民衆意識』
萱野茂『イヨマンテの花火』
野口武彦『江戸のヨブ』
戸沢行夫『江戸がのぞいた<西洋>』
大林太良編『岡正雄論文集 異人その他』
加賀乙彦『ザビエルとその弟子』
ライシャワー『ライシャワーの見た日本』
佐竹靖彦『梁山泊』

吉田洋一『零の発見』
筒井清忠編『新しい教養を拓く』
吉本隆明『世界認識の方法』
小田実『生きとし生けるのものは』
田口裕史『戦後世代の戦争責任』
佐渡龍己『テロリズムとは何か』
中村光男『風俗小説論』
日野啓三『書くことの秘儀』

D・ブアスティン『クレオパトラの鼻』
N・サーダヴィ『イヴの隠された顔』
ユング『タイプ論』
池上俊一『動物裁判』
カリエール『外交談判法』
ヴァイツゼッカー『良心は立ち上がる』
W・J・パーマー『文豪ディケンズと倒錯の館』
M・ブーバ=ノイマン『カフカの恋人 ミレナ』
デカルト『方法序説』
トマス・ペイン「コモン・センス」
J・S・ミル『ミル自伝』
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■最近入手の図書館リサイクル本

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/11/03 at 16:37

カテゴリー: 教育, 文化,

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京都の米軍基地(118):現場に切り込まない朝日「現場へ!」(3)

4.戦略としての米語会話
このことは,米軍側が熱心で,地元の要望も強い米語会話(英会話)交流を見ると,よくわかる。米軍人・軍属が,米語(英語)を地元の子供や大人に教える。米軍はお手本とすべき先生,住民は無知な生徒!

そもそも言語は,米語に限らず,どの言語であれ,その言葉を使う人々や社会と不可分の関係にある。言葉は,それを使用する人々にとっては,自らの「精神」や「魂」の表現である。そして,使用される言語をそれ自体として見るならば,それは,その言葉が使用される社会それぞれに固有の文化にほかならない。各社会に固有の価値観やイデオロギーとは無縁の,完全に価値中立的・技術的な道具としての自然言語は存在しない。

米語もむろん,そうした固有文化を体現した自然言語の一つにすぎない。米語は全体として,アメリカのイデオロギーや価値観によって大きく方向づけられている。その米語を,しかも米軍人・軍属が,地元住民に教える。それが何を意味するか? 特に,子供たちにとっては?

駐留米軍が自国語たる米語を教えるということは,言葉の正誤・優劣の規準はつねに彼らの側にあり,それに従って住民側の誤りを指摘し,正しい米語を使うようにさせるということだ。しかも,住民側がいくら努力し上達しようが,お手本はいつまでも本家たる米軍側にある。住民側の精神の最も深く根源的なところでの自発的隷従化!

もう少し具体的に言い換えるなら,米軍人・軍属が住民側に教えるのは,単なる道具としての米語ではなく,実際には米国の,しかも米軍に多かれ少なかれ偏った考え方,暮らし方,ものの見方を体現している特殊文化としての米語である。その米国文化,米軍文化としての米語を,駐留米軍は米語会話学習を通して住民の心の中に刷り込んでいく。駐留米軍が米語会話交流に熱心なのは,もっともだ。

ちなみに,米軍基地との連絡は,米語優先。2018年には,急患ドクターヘリを呼ぶためレーダー停波を要請したが,日本側の米語が通じなかったため停波されず,結局,ヘリは飛来できなかったことがあった。


■高校での米語会話支援(14MDB:FB2020/3/6,一部修正)/公民館での米語会話交流(在日米軍USFJツイッター, 2017/9/26,一部修正)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/10 at 11:10

ネパール中西部大学の意欲的コロナ対策(3)

3.「E大学」化への取り組み
もう一つ注目すべきは,コロナ拡大防止ロックダウンに対応するためのEラーニングと,それと組合せの国際的教育連携の推進。欧米や中国・韓国のようなEラーニング先進国であれば驚くに当たらないが,ネパールの,それも開発の最も遅れた中西部の中規模新設大学での意欲的な取り組みであり,興味深い。

NB・シン学長は4月4日,OERU(Open Education Resource for Universities)との連携協定に調印した。OERUはユネスコ機関の一つであり,世界で41,アジアでは13の大学等が参加している。ネパールでは,Nepal Open Universityにつぎ,2校目。

さらに中西部大学は,オンライン教育の充実を図るため,Turnitinとも契約した(日付不明)。学長は,こう述べている。

「地理的障害,情報不足,電力不足といった様々な困難があるが,われわれは,この大学とこの地方の教育レベルを総合的に引き上げるため,必要な協力関係や技術の向上促進のため努力している。」(“Agreement for cooperation between MU and OERU,” sajhabisaunee.comm, 4 April 2077)

中西部大学の「E大学」化は,コロナ拡大防止ロックダウンにより促進されたことは確かだが,たとえそれがなかったとしても,大学の不便な立地や低開発の現状を考えると,いずれ採らざるをえない戦略であったことは明らかである。

「E大学」化により,中西部大学は瞬時にして世界とつながり,高水準の教育・研究環境を備えることになる。学生や住民への情報機器の普及など,問題は多々あれ,この分野の変化・革新は速い。後発国の技術的優位,一気に出遅れ日本を追い越すことになるかもしれない。

■WORK FROM HOME(youtube, Apr 21)

E教育プログラム(Nepalgatha, Apr 3)

4.地方大学グローバル化の一範例
ネパール中西部大学のコロナ対策は,以上のように,たいへん意欲的なものである。その取り組み姿勢は,グローバル化時代の中小規模地方大学にとって範例の一つたりうるといってもよいであろう。課題は多々あろうが,改革の成功を期待している。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/01 at 09:32

ネパール中西部大学の意欲的コロナ対策(2)

1.中西部大学のコロナ対策
MWUのホームページを開くと,臨時のCOVID-19情報ページに自動的に移動する。ここには,学生や地域住民にとって必要なコロナ関係情報が要領よく表示され,その下方に,大学が実施してきた緊急対策が文章,画像,動画で分かりやすく紹介されている。
・学長メッセージ
・コロナ関係広報/連絡先
・コロナ対策啓蒙ポスター/動画
・大学製造消毒液の無料配布
・教職員・学生のコロナ対策ボランティア募集
・自宅Eラーニングの解説(文章/動画)


コロナ情報トップ

2.消毒液製造・配布と産学協同への展望
ここで注目すべきは,第一に,大学が自ら学生・教職員ボランティアを募集し,協力して消毒液を製造配布していること。製造は科学技術学部実験室で行われ,とりあえずボトル1千本余が地域の貧困住民や防疫関係者らに配布された。配布にあたっては,NB・シン学長が率先して現地に出向き,学内ボランティアと協力して消毒液を配り使用方法を説明した。

この消毒液の製造・配布が,直接的にはコロナ感染防止のための緊急措置であることはいうまでもないが,学長によれば,これは単にそれだけにとどまるものではない。

NB・シン学長は,こう説明している。これからの大学は,卒業証書授与に安住するのではなく,真に有能な自立的人材の育成を目標としなければならない。その第一歩として,消毒液などコロナ感染予防用品の製造配布を行っている。大学製消毒液はISO基準を満たしており,市場出荷も可能だ。この事業をきっかけとして,大学は産学協力を推進し,学生には産業と具体的に関係づけ大学での学習をしてもらう。大学は,中央省庁とも連携を強め,地域経済発展のための基盤となることを目指している。

■大学製消毒液の配布(Nepalgatha, Apr 13

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/04/30 at 15:03

カテゴリー: 経済, 健康, 教育

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ネパール中西部大学の意欲的コロナ対策(1)

ネパールの中西部大学(Mid-Western University [MWUまたはMU])が,意欲的な新型コロナ(コビド19)対策に取り組んでいる。

MWUは2010年再編新設の国立大学で,本部はカルナリ州スルケットにあり,学生は約3千人。教育学系,理工学家,人文社会系,商学系,法学系のコースはあるが,医学部はない。

MWUのあるカルナリ州は,ネパールでも最も低開発の中西部地方に位置し,教育も普及していない。中西部のHDI(人間開発指数)は0.548(2017年),識字率は43.71%(2001年)。

MWUは,その中西部カルナリ州の中規模新設大学だが,3月初旬着任のナンダ・B・シン学長(VC)の強力なイニシアチブの下,いち早く緊急のコロナ対策に着手する一方,それを一時的事業にとどめず,大学と地域社会の総合的開発の重要な契機ととらえ,その観点から事業を継承発展させようとしており,たいへん注目される。
【参照】「中西部大学」学長にTU教授指名 コロナ禍のネパール

■MWU HP, Top(Apr 30)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/04/30 at 11:31

「中西部大学」学長にTU教授指名

カルナリ州の「中西部大学(Mid-Western University[MWU] )の学長(Vice Chancellor[VC])に,トリブバン大学動物学部(キルティプル)のナンダ・B・シン教授が,3月1日閣議決定に基づき,オリ首相により指名された。ネパールの国立大学では,総長(Chancellor)は首相なので,事実上,学長(VC)がその大学の最高責任者となる。重責だ。

■MWUフェイスブック

ネパールは,マオイスト紛争(1996-2006)終結後,長年続いてきた王制を廃止し連邦共和制へと移行した。それに伴い,中央に集中していた諸権限が,新たに成立した州政府に可能な限り移譲されることになった。中央集権から地方分権への転換である。

教育も例外ではない。今回新学長が指名された中西部大学(MWU)も,それまでトリブバン大学傘下にあったカルナリ地域の中等・高等諸学校を再編統合し,2010年6月に設立された新設大学である。現在,学生は約3千人。学部・大学院も多く,この大学を核に,相対的に開発の遅れているカルナリ州の発展を自ら図ろうとする意欲的な試みと見てよいであろう。

とはいえMWUも,ネパールの組織の宿痾ともいうべき腐敗や混乱に当初から苦しめられてきた。たとえば,教職員についてはコネ人事や金銭不正がしばしば問題にされてきたし,学費については値上反対の学生諸団体が大学封鎖をした。前途多難と見ざるをえない。

そのMWUの学長に,このたびナンダ・B・シン教授が指名された。指名後,彼は「中西部大学を自立させ教育レベルを国際的なものに引き上げることにより,カルナリ州の在り方を変えていきたい」と,その抱負を語った(Collegenp, 3 Mar)。東京大学やTUでの豊富な教育・研究経験を踏まえ,MWUの所期の目的の実現に向け尽力されることを願っている。

ナンダ・B・シン教授著作
(1)「遊牧民ラウテの生活―ネパール最後の狩猟・採取民族」(『ネパールを知るための60章』2000)

(2) Endangered Raute Tribe: Ethnobiology and Biodiversity, 1997

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/03/07 at 16:33

カテゴリー: ネパール, 教育

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AI化社会の近未来(5)

(5)教育のAI化
教育は,積極的かつ継続的に個々の対象に関与するという点では,裁判よりもAI向きかもしれない。

もともと「学ぶ」は「まねる」ことであり,「習う」も「なれる」「まねる」ということ。AIは,つねに蓄積・更新しつつある膨大な学習情報の中から,それぞれの学習者個々人に最適なものを選んで与え,学ばせる。そして,学習者が失敗したら,その原因を分析し,誤りを修正させる。AIは怒ることも倦むこともない。人間の教師よりもはるかに懇切丁寧な個別指導が可能だ。

入試は,人間によるよりもAI入試の方が迅速,公平,安価であることはいうまでもない。AIには受験生の「人間性」が判断できないなど非難されるかもしれないが,要するそれは採点者の個々人の根拠なき「好み」による選考の自己弁護にすぎない。入試は,公正たろうとすれば,AI丸投げでよい。採点者の主観が排除されるから。


Keith Lambert, Education World, nd. / KRISTIN HOUSER, Aug. 27, 2018

Andrew George,Jul 27, 2019

(6)AIによる翻訳,文章作成,作曲,ゲーム対戦など
AIは,これまで人間にのみ可能と信じられてきた文学や音楽や絵画の創作にさえ進出し始めた。

翻訳では,AIはすでに実用レベルに達している。たとえばGoogle翻訳。無料だが,瞬時に世界のいくつもの言語に翻訳し,文字や音声で結果を知らせてくれる。まだ不自然な部分が少なくないが,いずれ日常レベルでは問題なく使用できるようになるだろう。音声翻訳機も多数販売されている。外国語学習はもはや不要。


POCETALK / Easy Talk

文章作成も,マニュアルのような実用文であればほぼ問題なく,またニュースのような報道記事であっても相当のところまで,すでにAIでやれる。むろん主観的要素の強い小説や詩ともなると,もう少し難しいだろうが,それでもAIが古今東西の作品を手あたり次第読み込み,人間心理と合わせ分析を深めていけば,いずれ人間よりもAIの方がより感動的な小説や詩を書くことができるようになるだろう。

 *「ここまでできる!AI(人工知能)によるライター代行ツール4選」2019.01.05
 *David Ibekwe & Fraser Moore, “AI will soon write better novels than humans, according to a computer scientist,” Bussiness Insider, Mar. 18, 2018,

作曲については,すでにAI作曲アプリがいくつも開発され,使用されている。音楽は,音階,和音,リズム,音色等の組み合わせだから,文章よりもはるかにAI向きだ。もしAIが既存の曲を網羅的に読み込み,音楽を聴くときの脳波変化等と組み合わせ分析していくと,人間作曲以上に人間を感動させる名曲を作曲することがAIにはできる可能性が高い。すでにAI作曲の作品を収録したCDも相当数発売されている。たとえば,”I Am AI”。

絵画についても,同じこと。「AI画家」が描いた肖像画、4800万円超で落札(CNN, 2018.10.26)。

AI勝利が明確になったのが,ゲーム対戦。チェスに始まり,将棋,囲碁でも,人間はAIには勝てなくなった。しかも,敗北後,人間側がAIの差し手をいくら分析しても,なぜ駒をそのように動かしたのか理解しきれない場合が少なくない。AIがブラックボックス化し,人間支配の外に出始めたことは明らかである。

 *「チェスではロボットに決して敵わないことを人間はほぼ受け入れたが、今度はそのロボットですら、他のロボットには決して敵わないことを受け入れざるを得なくなった。」JACKSON RYAN, CNET Japan, 2018年12月10日 

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/08/23 at 15:33

ゴビンダ医師のハンスト闘争(39)

10 参考資料
 (1)マンジート・ミシュラ「希望と恐怖の物語」
 (2)グファディ「狂気の権威主義的な医師」

(3)D・カイネー「無為無策の5か月」リパブリカ,2018年8月7日

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デイビッド・カイネーは極西部出身,トリブバン大学卒。Revival Ministry Nepal ( RMN )代表。人身売買防止,貧困救済等の社会活動に尽力。「リパブリカ」,「カトマンズ・ポスト」等への寄稿多数。この「無為無策の5か月」では,オリ政府の強権化・利権化を阻止し人民の利益を実現するには,市民社会自身が立ち上がるべきだと訴えている。
*David Kainee, “Five months of inaction,” Republica, August 7, 2018
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KP・シャルマ・オリ政府は,発足後5か月を経過した。その業績は,どう評価されるべきか? 昨年の地方,州,連邦の3選挙において,人民は共産党連合(現在は統合されネパール共産党)に未曽有の大勝利を与え,これによりオリは,近年のネパールにおいて最強の政府を率いることになった。首相は,「ネパール人の幸福,ネパールの繁栄」を約束したのであり,人民は,その約束の実現に向けての確かな前進を期待した。

ところが,オリ政府は次々と問題を引き起こした。政府は権威主義だという批判もあれば,議会で三分の二を握ったため傲慢になっているという声もある。[……]

先月[2018年㋆],政府は,医学教育改革の旗手ゴビンダ・KC医師に対し,この上ない傲慢さと無神経さを示した。政府は,ケダル・バクタ・マテマ委員会勧告無視の国民保健教育法案[医学教育法案]を通そうとした。[これを阻止するための]サティアグラハを行うためKC医師がジュムラに向かうと,ジュムラ郡当局は,連邦政府の要請を受け,抗議行動禁止場所を指定した。そのため,KC医師は,地域病院の暗い部屋で抗議行動を始めざるをえなかった。

オリは,KC医師の品位を汚すようなことを言った。人民の守護者として働くのではなく,自国の高貴な魂と敵対する権力者としての立場を,オリは自ら選び取った。KC医師が意識を失ったときですら,政府はそれを無視した。市民社会やメディアからの圧力が大きくなり始めてようやく,政府は交渉に転じ,結局は彼の諸要求を受け入れることに同意した。このときまでに,以前は愛国的指導者と見られていたオリの評価は,大きく損なわれてしまった。いまや彼は,コネ資本家どもの守護者と見られるようになった。

[オリ政府は公共交通や開発基金など他の諸課題についても,当初は改革を掲げたものの,実際には実行しなかった。……]

ウジャン・シュレスタ殺害事件で]有罪判決を受けたバル・クリシュナ・ドゥンゲルに対する大統領恩赦についても,政府は,多くの人々が指摘してきたように,マオイスト幹部と結託して,これを承認した。司法は政治化されてしまった。首相をはじめ大臣たちは,言葉でも行動においても,傲慢であり不寛容である。2006年人民蜂起において中心的な役割を果たしたわれわれ市民社会は,身内第一の諸政党とは距離を取り,自らを復活させる必要がある。[……]

■RMNフェイスブック

■Jeremy Snell, “David of Nepal,” (Video)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/15 at 18:44

ゴビンダ医師のハンスト闘争(38)

10 参考資料
(1)マンジート・ミシュラ「希望と恐怖の物語」

(2)グファディ「狂気の権威主義的な医師」カトマンズ・ポスト,2018年7月7日

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鋭い風刺に満ちた興味深い論評。グファディはペンネーム。自称「偏屈老人」。カトマンズ・ポストに時評等多数寄稿。著者ブログhttp://guffadi.blogspot.com/
Guffadi, “The crazy authoritarian doctor,” Kathmandu Post, Jul 7, 2018
http://guffadi.blogspot.com/2018/07/the-crazy-authoritarian-doctor.html
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われわれは皆,KC医師にはうんざりしていると思う。われらのこの偉大な国において,保健医療制度や医学教育の質について,KC医師だけがなぜ心配しなければならないのか? 彼を除けば,われわれはすべて,途方もない高額料金の医療で十分満足しているし,またバヤパリ[商売人]どもが医大を開設し,低水準の教育を行い無能な医者を送り出すことにより巨万の富を手にしていても,まったく気にもしない。要するに,医大投資家は,よい医者の育成よりも儲けの方を優先させているのだ!

われわれは,世界最高水準の公立病院をいくつか持っている。そこには高価な医療機器があるが,医者たちはそれを使わず,自分のクリニックを患者に紹介しそこで治療するので,病院の医療機器は無用の長物と化している。われわれはまた,世界最高水準の私立病院もいくつか持っている。そこでは,患者は,必要もない検査のため毎日何千ルピーも請求され,治療費総額は何十万ルピーにもなり,患者家族はその支払いのため土地を売るか,さもなければ完済まで患者を病院に人質として留め置かれることになる。

そう,これこそが,社会主義者[コングレス党]と共産主義者[共産党]が次々と政権を握り,あらゆる分野において一般庶民よりもバヤパリ[商売人]を優遇してきた国なのだ。いったいいつになったら,人民に小便をひっかけるのではなく,本当に人民のことを考えてくれる政府を,われわれはもつことになるのだろう? 腐敗した指導者[ネタ]たちがインドやタイやシンガポール,いやアメリカ[Amrika]にさえ治療を受けに行くのではなく,国内にとどまり公立病院で治療を受ける日は,いつになったら来るのであろうか?

わが国の前大統領[RB・ヤダブ]の前立腺ガン治療には,アメリカから医者を招かねばならない(引用者注)。わが国の政治家たちはまた,われわれ自身の国の医師よりインドの医師の方が優秀とも信じている。わが国の首領[チョラ・ネタ]たちは,この国に世界水準の公立病院を開設するためではなく,外国での治療のため何百万ルピーも費やす。にもかかわらず,われわれ人民は不平も言わず,街頭に出て抗議することもせず,腐敗した首領どもに過ちの責任を取らせもしない。われわれは,われらが小マハラジャたちが武装警官のお供を引き連れ豪華高級車でカトマンズを動き回るのを見て,せいぜい,恨みがましく不平を漏らすだけだ。
 [引用者注:ラム・バラン・ヤダブ氏は前大統領(在職2008年7月~2015年10月)。2013年,健康診断のため来日。2016年8月,前立腺ガン治療のため政府が600万ルピー支給を決定,翌9月にアメリカで手術。]

しかし,お医者様[Dr Saheb]はちがう。金も,権力も,特待特権も求めはしない。この国に良い医者が生まれることを願うのみ。貧しい人々でもよい保健医療が受けられること,それがお医者様の願いだ。彼は,この国にとって最善のものを医療の分野で求めているのだ。が,われらが政治屋たちは,彼が好きではない。というのも,彼らの多くが私立病院に投資しているか,あるいは医科大学を開設しお金をもっと儲けようと考えているからだ。

われらが偉大な共産主義者たちは,お医者様を狂気,権威主義,全身痛のようなものとみている。たしかに,体制に一人で立ち向かう改革者は狂気だ。いま,市民社会の人々は,いったいどこにいるのだろう? いわゆるフェイスブック活動家は,どこにいるのか? われわれが求めるのは,財布からいつも盗み取っている常習スリたちではなく,この国を導いてくれるお医者様,そう,まさにそのような人なのだ。

要するに,わが国では,いわゆる共産主義者のほとんどが大学や病院,いやNGOにすら投資しているということだ。お医者様は,この国の医学マフィアと闘っている。政府には,商売人たちが私立医大でしこたまゼニ儲けするのを許すのではなく,各州に医大を開設することが,なぜできないのか?

この人には,体制と闘うのではなく,何の心配もなく自分の仕事に邁進していただくべきだと思う。そうでしょう,お医者様,ハンストを幾度も繰り返すことにお疲れではないですか? 狂気のお医者様はジュムラに行き,いまはカルナリ健康科学アカデミー[KAHS]の救急室に収容されている。われらが偉大なオリ政府は,この国の医科大学の質は気にしていない。政府の面々は,身近のお気に入りの人々が医者を目指す医学生から大金をとりお金儲けできるようにしたいだけなのだ。

われらが無能政府は,KC医師の死を願っている。そう,これが真実であり,もしKC医師が天国に行けば,われらがミニ・マハラジャたちに対し抗議し,ハンストを行い,闘う者は一人もいなくなる! KC医師も死は恐れていない。カルナリで死ぬ覚悟はできている,と彼は言っているのだ!

お医者様は,要求が入れられるまでジュムラに留まると誓った。この狂気の医者は,この国のために最善の保健医療と医学教育を求めているにすぎない。われわれは,なぜ立ち上がり彼を支持できないのか? この孤独の改革者が医学マフィアとたった一人で闘っているのに,われわれはほとんどそれを気にも留めていない。恥ずかしくないのか!

われらが無能政府は,KC医師を投獄すべきだ。この人物は既成政治体制の疫病神だ。彼は,医学分野のあぶく銭をねらっている商売人や政治家たちにとって,脅威だ。この男は,青年たちの悪しきお手本だ。われらが首相は大きなことを考えている。われわれは,カトマンズで列車にちょいっと乗ればケルン[吉隆鎮]に行けるようになるだろう。コルカタへは,カトマンズから船で行く。われわれは,われらが商売人や首領たちには国内にたくさん医大をつくることを認め,これにより授業料を払える者が医者になり,ここから首領たちも利益をえられるようにしなければならないのだ。

神よ,オリに祝福を。神よ,われらが偉大な同志たちに祝福を。劣悪医大の国となるのを阻止しようとするKC医師を,打倒せよ! この世の最後の日に,お医者様は,その医学分野での業績と,医学分野改革のためハンストを行ったことをもって思い起こされるだろう。オリとその廷臣たちは,何をもって思い起こされるのか? 彼らには,思い起こされるべきものなど何もない。KC医師は明日死ぬかもしれないが,腐敗した体制と力の限り闘ったと考え,幸せに死んでいくだろう。一人でも,体制を揺るがすには十分だ。ましてや,われわれ何百万人もが街頭に出て,それぞれ自らハンストを始めたら,どうなるか。そうなのだ,もしわれわれが協力して腐敗した首領どもと闘うなら,われらの腐敗した体制を破壊することは可能なのだ。政党をつくるまでもない。勇気さえあれば!

■ヤダブ前大統領手術後ワシントンで会見(Republica, 31 Oct 2016)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/14 at 11:01

ゴビンダ医師のハンスト闘争(37)

10 参考資料
(1)マンジート・ミシュラ「希望と恐怖の物語」リパブリカ,2018年8月1日
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ゴビンダ医師のハンスト闘争を,ガンディーやネルソン・マンデラのサティアグラハを継承するものとして高く評価。著者はラジビラジ在住の講師。リパブリカ紙にコラム等執筆。
Manjeet Mishra, “Tale of hope and fear,” Republica, August 1, 2018
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KC医師が力づくで拉致され,[KAHS] 病院が破壊された。これは,サティアグラハ[真理追求,非暴力抵抗]に対する攻撃に他ならない。

7月18日は,ネルソン・マンデラの生誕記念日。この数年と同様,今年も関心はあまり高くはなかった。トランプ,プーチン,エルドアン[トルコ大統領]のような力を振りかざす権力者たちが見出しを独占するような時代においては,マディバ[マンデラ愛称]のような平和と和解への訴えは,無力・無意味で時代遅れのように見える。世界は,もっと先へと進んでしまったように見える。

彼の訴え方は現在では現実離れしているように見えるかもしれないが,実際にはそれは間違いなくわれわれを勇気づけてくれるのであり,いまこそ,それは思い起こされてしかるべきである。……

マティバは親切で度量が大きく人々の中に入り込む力を持っており,これこそが彼の指導力の特質であった。むろん失敗――主に経済に関して――もあったが,それにもかかわらず彼が彼の国と世界にとって大きな希望となっていることは,紛れもない事実である。

そのマティバに,たとえ形だけであっても,敬意を表すべき時に,断食をしていたゴビンダ医師が,ジュムラの病院から「拉致」された。これ以上あからさまな皮肉な仕打ちはあるまい。サティアグラヒ[真理追求者・非暴力抵抗者]の強制的拉致と病院の破壊が,非暴力を象徴する人の誕生日に行われる――これはサティアグラハそのものに対する攻撃と見ざるをえない。……

私が初めてKC医師を遠くから目にしたのは,彼が2016年洪水のとき,私の故郷であるサプタリ郡ティラティ村の医療キャンプに来た時であった。村は洪水で破壊されてしまっていたが,彼は冷静沈着そのものだった。彼は余計なことをせず仕事そのものに取り組んでいた。その姿を見て私は感激し,すぐ彼を尊敬するようになった。

おそらく彼のそうした資質が,その無私の態度と相まって,彼をして[サティアグラハの]象徴としたのだろう。ハンストをジュムラで始めることにしたのも,見事な決定であった。政府は彼を強制的に「拉致」せざるをえなくなり,それが市民社会やメディアに衝撃を与え,彼らの大きな共感を呼び起こすことになったのだ。

これこそサティアグラハの力である。無私の人物が改革改善を深く確信し,断固とした毅然たる態度をとるとき,権力は暴力的手段に頼らざるをえなくなる。今回の稀有の勝利は,KC医師にして初めて獲得しえたものだ。彼の闘いは,一言でいえば,まさしくマハトマ・ガンディーのいったことに他ならない――「初め彼らはあなたを無視する,次に彼らはあなたのことをあざ笑う,そして次に彼らはあなたを攻撃する,そしてあなたが勝つ」。

■M・ミシュラ「ツイッター」(2018年8月2日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/13 at 10:07