ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for the ‘教育’ Category

紹介:三瓶清朝『みんなが知らないネパール―文化人類学者が出会った人びと』(3)

3.「独り立ち」教育
本書の第2章17では,ネパールにおける「独り立ち」教育が,日本の場合と対比しつつ,具体的に紹介されている。たいへん興味深い。

「わたしはかねがね,ネパール社会と比べると,日本社会では親は子どもになかなか『独り立ち』をさせないし,子どもは子どもでなかなか親への依存をやめない,『独り立ち』できないというように理解している。それに反してネパールでは『独り立ち』の教育が早くおこなわれる。ネパール南部のタライ平野の先住民であるタルー族など,3歳でも『独り立ち』するように早くから教育される。」(101)

「カトマンズ市の富裕な家庭の多くは,子どもを使用人というか奉公をするというか,そういう子どもを住み込みで置いている。この子どもは,掃除をしたり料理の下ごしらえをしたり洗濯をしたり幼児の世話をしたりして家庭内の雑用をする。たとえば,オミラの家では,・・・・14歳の,山地から来ている,ネワール族の男子が家事雑用で住み込んでいて,家事雑用をしながら学校に通っていた。・・・・ギャヌー(50歳)の家にはいまから22年も前(1979年ごろ)には8歳ぐらいになる家事雑用専門の男子(多分,ネワール族)が何年も住み込んでいた。家事使用人として『独り立ち』して生きていくわけだ。・・・・シター(42歳)の家では,グルン族の12歳の男の子が家事使用人として住み込んでいて,家事雑用をしながら学校に通っていた。ネパールの子どもは,8歳や12歳,14歳ですでに『独り立ち』をする。」(104-5)

このネパールとは対照的に,日本には「『独り立ち』をさせないような社会的強制がある」と,著者はいう(106)。大学には「父母会」があり,大学側が成績表を親に送り,学習や進路につき親とも相談する。入学式や卒業式には親も出席する。このように,日本では大学生の「幼児化がはなはだしい」(107)。いやそれどころか,最近では入社式にさえ親が出席したりする(108)。

この「独り立ち」についての日ネ比較は,面白い。教育の本来の目的は,福沢諭吉が『学問のすすめ』で説いたように,物事を自分で見て判断することのできる独立した精神の確立であるはずなのに,日本では教育をその逆に向け推し進め,生徒・学生の幼児化を図ってきた。権威に従順な,使い勝手の良い「おとな子供」の育成である。

このように,ネパールの「独り立ち」教育が現代日本の「幼児化」教育とはベクトルが逆であることは明らかだが,だからといって,もしわれわれがそれを近代的な主体性教育,福沢のいう「一身独立」ないし「独立自尊」の教育のようなものとみると,基本的な点で見方を誤る恐れがある。

ネパールの子供の「独り立ち」は,むしろ戦前や高度成長以前の戦後日本の子供のそれに近い。日本でもかつては子供たちの家事手伝いや丁稚奉公が広く見られたし,農家では不可欠の働き手として農作業を分担していた。学校教育が普及し始めても,小学校を卒業すると(12~14歳),子供たちは農民として働き始めるか,繊維工場などに働きに出た。戦後になっても1970年頃までは,中学卒(16歳位)や高校卒(18歳位)で親元を離れ,都市へ集団就職する子供が少なくなかった。山陰の私の故郷でも,毎年,3月下旬になると,6~8両もの集団就職列車(先頭は蒸気機関車!)を仕立て,村々の駅で中卒や高卒の少年少女を乗せ,都市部の就職先へと送り出した。日本でも,つい半世紀前頃までは,子供たちの多くが早くして「独り立ち」していた,いやさせられていた。ネパールの「独り立ち」教育は,むしろそれに近いように思われる。

それともう一つ,ネパールの子供使用人,特に住み込みの子供使用人については(日本の場合も本質的には同じだが),注意しなければならない別の側面もあるように思われる。子供が奉公先に住み込む場合,当然,その子供使用人の立場は極めて弱い。酷使や虐待の被害を受けやすく,事実,これまでに幾度も問題にされてきた。学校にも満足に通わせてもらえない場合が少なくない。

さらに,私も幾度か見たことがあるが,子供住み込み使用人は奉公先家族のいかなる指示にも従わざるをえない。たとえ小さな子供のわがままであっても,ご主人様の子供ともなれば,反抗は許されず,忍従を強いられる。そのような状態が続けば,子供住み込み使用人は,子供であるからなおさら強く,上下身分関係を刷り込まれ,屈辱的な忍従を習い性とするようになる。その場,その場の人間関係をいち早く見て取り,小狡く立ち振る舞うという意味では「独り立ち」しているが,それは福沢諭吉の唱えた「独立自尊」とは真逆の精神態度と見ざるをえないであろう。

ネパールの子供使用人には,このような側面もあるのではないだろうか?


■ネパールの子供家事労働者,約6万5千人。学校に行かせてもらえず酷使,虐待も少なくない(IPS, 2013/07/25)。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/06/19 at 14:24

ゴビンダ医師の市民的抵抗,医学部長解任事件最高裁判決に対して(4)

5.「5項目合意」とハンスト終了
最高裁法廷(P・バンダリ判事とBK・シュレスタ判事)は1月10日,ゴビンダ医師の陳述聴取後,保釈金なしで彼を保釈した。一方,パラジュリ最高裁長官については,市民登録証とSLC資格の調査を命令した。ゴビンダ医師の次の出廷は,2月20日の予定。

保釈後,ゴビンダ医師は政府側(D・ボハラ保健大臣ほか)と交渉,1月12日夜,合意に達し,両者は「5項目合意」に署名した。

5項目合意(1月12日)
(1)「医学教育委員会」を組織するための準備委員会を7日以内に設立。
(2)JP・アグラワル医師はトリブバン大学(TU)医学部長の職にそのまま留まる。
(3)TU医学部に権限を戻すために必要なTU役員会を開催。
(4)TU教育病院改革に必要な予算の計上。
(5)ゴビンダ医師のハンスト終了。

この10日の最高裁決定と12日の「5項目合意」をみると,パラジュリ最高裁長官の辞任ないし解任については何も述べていないが,他の重要な点ではゴビンダ医師の要求が大幅に認められていることがわかる。自らの命をかけハンストで抗議したゴビンダ医師の「市民的抵抗」の勝利といってよいだろう。

しかしながら,ネパールでは,ここからが難しい。合意が成立しても,それが誠実に実行されない場合が少なくないからだ。ゴビンダ医師も,パラジュリ長官が辞任しなければハンストを再開する,と警告している。近く発足するであろう左派連合政府が,この問題とどう取り組むか,注目されるところである。

 ■D・ボハラ保健大臣(保健省HP)

参照資料
* “Police Arrests Dr KC on Charge Of Contempt Of Court,” New Spotlight Online, Jan. 9, 2018
* “Dr KC begins hunger strike demanding resignation of CJ Parajuli,” Republica, Jan 8, 2018
* “Dr KC warns of 14th hunger strike demanding authentication of HPE ordinance, Gives 7-day ultimatum to prez,” Kathmandu Post, Nov 6, 2017
* “Dr KC begins 14th hunger strike Demands resignation of Chief Justice Gopal Parajuli,” Kathmandu Post, Jan 8, 2018
* “Contemptible actions – Supreme Court acted harshly in ordering arrest of Dr KC who was only exercising right to protest,” Editorial, Kathmandu Post, Jan 10, 2018
* “Leaders express their solidarity,” Kathmandu Post, Jan 10, 2018
* “Will continue hunger strike till chief justice resigns: Dr KC,” Kathmandu Post, Jan 10, 2018
* “Protesters demand Nepal Chief Justice’s resignation,” Outlook, 09 JANUARY 2018
* “Nepal Medical Association demands immediate release of Dr KC,” Kathmandu Post, Jan 9, 2018
* “Leaders support Dr KC while major parties keep mum,” Republica, Jan 10, 2018
* “Dr Govinda KC says will continue hunger strike,” Himalayan Times, Jan 12, 2018
* “Govinda KC’s charges,” Nepali Times, 12-18 Jan 2018
* “Dr KC continues his fast, Says struggle goes on until remaining demands for reforms in medical education are met – The SC ordered his release on a general date in a contempt of court case on Wednesday, while calling for an investigation into the authenticity CJ Parajuli’s papers,” Kathmandu Post, Jan 12, 2018
* “I assure that the court will be made justice imparting body: Dr KC,” Kathmandu Post, Jan 13, 2018
* “Nepal Bar Association defends CJ Gopal Parajuli, urges Dr Govinda KC to end fast,” Onlinekhabar, Jan 12 2018
* “Bar unhappy with Dr KC’s protest, urges him to end hunger strike,” Kathmandu Post, Jan 12, 2018
* “I don’t need to display my credentials out in the road: CJ,” Republica, Jan 13, 2018
* “Dr KC ends 14th fast-unto-death protest after agreement with govt,” Himalayan Times, Jan 13, 2018
* “Dr KC ends hunger strike following 5-point deal with govt,” Kathmandu Post, Jan 13, 2018
* Baburam Bhattarai, “Struggle for reforms” Republica, Jan 15, 2018
* “Dr KC ends 14th hunger strike ‘Another fast if Chief Justice Parajuli does not resign’,” Kathmandu Post, Jan 14, 2018
* “Dr Govinda KC released without bail,” Kathmandu Post, Jan 10, 2018
* “A written reply furnished by Dr KC to the Supreme Court on Tuesday,” Kathmandu Post, Jan 10, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/01/23 at 15:04

ゴビンダ医師の市民的抵抗,医学部長解任事件最高裁判決に対して(3)

4.市民的抵抗としてのゴビンダ医師ハンスト
(1)ハンスト支持
ゴビンダ医師が今回のハンストで訴えていることについては,賛成し支持する声が圧倒的に多い。

主要3党は,党としてではないが,幹部がそれぞれパラジュリ最高裁長官を批判し,ゴビンダ医師支持を表明した。またナヤシャクティ(新しい力)党のバブラム・バタライ(元首相)も,長文コメント「改革の闘い」(1月15日付リパブリカ)を発表,ゴビンダ医師の司法改革要求は全く法廷侮辱には当たらないと述べ,彼を全面的に支持した。なにかにつけ不仲のネパール諸党がこれほど意見の一致をみるのは,珍しい。

新聞各紙も,ニュアンスの違いはあれ,ゴビンダ医師の主張を支持している。「カトマンズ・ポスト」は1月10日付社説「見下げ果てた行為:最高裁は抗議の権利を行使したにすぎないKC医師の逮捕を命令した」において,次のように述べている。

「KC医師は,強く求められてきた医学教育改革のために,命がけで繰り返し闘ってきた。その平和を愛し腐敗と闘う改革の闘士が留置され,法廷侮辱容疑で法廷に引き出された。なんたるお粗末な決定か。」

(2)ハンスト反対
政界も市民社会もゴビンダ医師支持が圧倒的多数なのに対し,いわば身内の法曹社会は意見が割れている。

ゴビンダ医師支持の法律家も少なくないが,代表的法曹組織の「ネパール法律家協会(NBA[Nepal Bar Association])」は,法廷陳述後のゴビンダ医師釈放(後述)は歓迎しつつも,彼の最高裁攻撃の方法については,許されないと批判する。

NBAによれば,ゴビンダ医師は,最高裁長官に対し不適切な言葉で人格攻撃をし,ハンストで脅し,司法を混乱させている。ハンストはやめ,憲法の定める「司法委員会」などを通し問題は解決されるべきだ。「独立した司法の尊厳は守られなければならない」(“Bar unhappy with Dr KC’s protest, urges him to end hunger strike,” Kathmandu Post, 20 Jan 2018)。

このNBAの反対にも一理はある。憲法は第101(2)条で連邦代議院による最高裁長官弾劾を,また第153条では「司法委員会」による裁判官の資格審査や腐敗および職権乱用の調査・裁判を認めている。法治国家では,これが裁判官の責任を問う通常の法手続きであることに間違いはない。

しかしながら,もしこの裁判官弾劾手続きが,憲法の規定通り機能しない場合,市民はどうすればよいのか?

(3)市民的抵抗としてのハンスト
こうした場合,国家社会の構成員たる市民には,市民として悪政に抵抗する権利,すなわち「市民的抵抗(civil disobedience)」の権利がある。

ネパールでは,現行2015年憲法が世界最高水準の民主的司法制度を定めているが,残念ながら実際にはまだそれが規定通り運用されない場合が少なくない。今回のゴビンダ医師法廷侮辱事件裁判も,その典型である。

ゴビンダ医師は,パラジュリ最高裁長官の行為を職権乱用と確信し,自らの市民としての良心に基づき一人でハンストを行い,憲法の認める言論の自由を行使して長官を批判し辞任を要求した。

もしかりに彼のこの行為のある部分が法の定める異議申し立て手続きに形式的には反しているとしても,それは市民的抵抗として,近現代社会では正当な(legitimate)行為と認められるはずである。

ゴビンダ医師自身が,1月9日の法廷において,こう述べている。「私は,法廷侮辱罪のことはよくわきまえている。職務を正しく遂行する裁判官を尊敬してもいる。しかし,不当な判決を下し誤った行為をする裁判官に反論するのは,決して法廷侮辱には当たらない。それこそが,法廷を尊重することに他ならないのだ。」(“Dr KC: Criticism of controversial judgement not contempt of court,” Kathmandu Post, 10 Jan 2018)

ゴビンダ医師は,裁判官や判決の批判は法廷侮辱ではない,あくまでも合法的ないし合憲的行為だ,とここでは弁明している。これは「市民的抵抗」を根拠とする主張ではない。

しかしながら,ゴビンダ医師の対最高裁長官ハンスト闘争は,たとえ形式的には罪に問われようが正義のために命をかけて闘いぬく,それが市民としての義務であり,またそれこそが司法を本来の姿に戻すことになるという固い信念に基づくものだ。これは「市民的抵抗」に他ならない。

(4)「市民的抵抗」嫌いの市民的抵抗
「市民的抵抗」は,ガンジーが唱え実践したことで知られているが,なぜかネパールでは人気がない。ネパールはガンジー嫌い? インド嫌いが高じて「市民的抵抗」嫌いになってしまったのか? ここのところは,いまのところよくわからないが,いずれにせよネパールの政治や学界において真正面から「市民的抵抗」が掲げられ,あるいは議論されることは,少ない。

ところが,実際には,内容的には「市民的抵抗」に他ならない闘争が,各地で繰り返し行われてきた。「市民的抵抗」だらけ。これは,市民の諸権利が形式的に合法的な手段では守られないことが少なくなかったからである。形式的合法性(legality)よりもむしろ実質的正当性(legitimacy)に訴える。日常茶飯事だったから,あえて「市民的抵抗」として理論化する必要がなかったのかもしれない。

そのネパールで「2015年憲法」が制定された。民主的な法制度や政治制度を定めた世界最高水準の憲法。その憲法に基づき2017年には連邦,州,市町村の選挙も実施された。形式的合法性のための諸制度は,ほぼ実現された。

ネパールの次の課題は,この形式的合法性により実質的正当性を実現していくこと。憲法の実践ないし具体化。

この2015年憲法体制の下で,皮肉なことに,憲法と現実との矛盾は,むしろ以前以上に鮮明となるであろう。形式的合法性だけに依拠していては,実質的正当性が確保できない事例の先鋭化。そうした場合,闘いの理論的根拠として,「市民的抵抗」が要請されることになるであろう。ガンジーはどうも,インドは嫌い,などと言ってはいられない。

その現代ネパールにおける「市民的抵抗」の範例の一つとして,ゴビンダ医師の抗議ハンストは位置づけられてよいであろう。

 
■敵をも愛したガンジー/巨大ガンジー像の前で学ぶ学生と教師(ニューデリー,2010年3月撮影)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/01/22 at 14:55

ゴビンダ医師の市民的抵抗,医学部長解任事件最高裁判決に対して(2)

3.ゴビンダ医師の法廷陳述
ゴビンダ医師は,1月9日の法廷(P・バンダリ判事とBK・シュレスタ判事)において,11項目に分け陳述を行った。趣旨は抗議ハンスト時の発言と同じ。激しい言葉でパラジュリ最高裁長官を容赦なく徹底的に糾弾している。もしこの中に事実に反する部分があれば,法廷侮辱の動かぬ根拠とされかねないほど際どい陳述だ。陳述(弁明書)要旨は,カトマンズポスト記事*によれば,以下の通り。
*”A written reply furnished by Dr KC to the Supreme Court on Tuesday,” Kathmandu Post, 10 Jan 2018.

ゴビンダ医師の法廷陳述要旨
(1)パラジュリ最高裁長官は,2か所から市民登録証を取得している。これは万人周知の事実。市民登録証を1通だけでなく,それ以上取得する人物は,不道徳で不法。これは犯罪。それゆえ,彼を取り調べ処罰すべきだ。

(2)パラジュリ長官は年齢を偽っている。最高裁長官には,カトマンズ郡役所発行の2枚目の市民登録証の年齢に基づき,在職している。ところが[別の市民登録証によれば],彼は2074年アサド月(2017年6-7月)に,すでに満65歳に達している。法定の停年は65歳。この種の行為は「司法商売」も同然だ。

(3)パラジュリ長官は,LS・カルキ職権乱用委員会(CIAA)委員長を無罪にした後,甥をCIAA顧問に採用してもらった。権威ある司法が売り買いされた。彼は職権乱用罪で処罰されるべきだ。

(4)パラジュリ長官の中等教育終了試験(SLC)合格資格には疑義がある。この件にはスシラ・カルキ前長官の関与も疑われている。裁判官に必要なSLC合格資格を持たずに,どうして最高裁長官たりうるのか? これは,国家や裁判所を暗闇に引き込む犯罪ではないか?

(5)パラジュリ長官は,SLC以外の学歴や資格についても,疑義がある。司法委員会や憲法委員会での審査資料に基づき,調査せよ。

(6)ジャグディシュ・アチャルヤ土地関係事件の裁判で,パラジュリ長官は政府の土地政策を否定し「土地マフィア」有利の判決を下した。「司法が売られた」のではないか?

(7)パラジュリ長官のホテル・カジノ税免除判決は,「司法の死」をもたらすものだ。国家は税収を失った。「司法を殺す」人物に司法の独立が守れるのか?

(8)パラジュリ長官は,Ncell[通信事業会社]事件など様々な事件の裁判において,腐敗を助長した。Ncellの場合,600億ルピーの納税を免れた。これは法の支配に対する嘲笑ではないか。彼の下した判決は見直されるべきだ。

(9)パラジュリ長官は,義理の甥を半年の間に補助裁判官から補助裁判官長,高裁裁判長へと昇進させた。名誉ある最高裁長官たるに不可欠のモラルなし。関心を持つ市民の一人として,彼の辞任を求める。さもなくば,司法の独立と自由が妨害され続けるだろう。

(10)パラジュリ長官の就任は夜の10時半。前任のスシラ・カルキ長官に対する弾劾動議が提出されたその夜のことだった。どの法がこのようなことを認めているのか? 不法行為に関与する人物に司法の尊厳は守れない。彼は辞任すべきだ。

(11)『日刊カンチプル』は,その記事「ゴパル・パラジュリあれば,医科大訴訟あり」を理由に法廷侮辱罪で訴えられたが,無罪となった。記事の記述は司法的に認められたのだ。そのような人物が名誉ある最高裁判所長官の職にとどまることは適切ではない。

[結び]「ゴパル・パラジュリ最高裁長官は,司法への信頼および司法の尊厳と独立に対し挑戦してきたのであり,その行為は法廷侮辱罪にあたるので,私は裁判所に対し,彼を法廷侮辱罪に問うことを要請する。私に対する告発には根拠がない。パラジュリを除く他のすべての最高裁判事からなる法廷に,この事件の審理を求めたい。」

■最高裁(同HPより)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/01/21 at 14:25

ゴビンダ医師の市民的抵抗,医学部長解任事件最高裁判決に対して(1)

トリブバン大学医学部教育病院のゴビンダ・KC(गोविन्द के.सी.)医師が2018年1月8日夕方,最高裁長官を侮辱した容疑で逮捕され,シンハダーバー警察署に留置,翌9日朝,最高裁に連行され(9時到着),体調悪化のため警察救急車内で待機,午後2時から法廷で尋問された。10日,釈放。

この最高裁長官主導のゴビンダ医師法廷侮辱事件は,あまりにも唐突で強引で「お粗末」(10日付カトマンズポスト社説),ネパール司法の権威を著しく損なうことになった。

1.最高裁の不可解な医学部長解任事件判決
今回の法廷侮辱事件のそもそもの発端は,最高裁法廷(ゴパル・プラサド・パラジュリ長官とDK・カルキ判事)が1月7日,トリブバン大学(TU)医学部(IoM)の当時(2014年1月)学部長であったシャシ・シャルマ医師の学部長解任を無効とする判決を下したこと。

S・シャルマ医師は2014年1月10日,医科大認可をめぐる混乱のさなか,TU理事会により医学部長に選任された。これに対し,ゴビンダ医師らが不公正選任として反対,その結果,2014年1月22日,KR・レグミ暫定内閣首相がTUに対し学部長任命の取り消しを命令,S・シャルマ医師は学部長を解任された。

シャルマ医師は直ちに解任は不当と訴えたが,最高裁法廷(S・カルキ長官)はこれを棄却した。その後も学部長人事を巡り混乱が続いたが,少しずつゴビンダ医師がネパールの現状では最も公正と主張する年功選任が認められるようになり,現学部長も年功により2016年12月3日に選任されたJ・アグラワル医師が務めている。

ところが,2018年1月7日,最高裁法廷(GP・パラジュリ長官とDK・カルキ判事)が唐突にも(少なくとも事前報道は見られなかった),4年弱前のS・シャルマ医学部長解任の政府決定を無効とする判決を下した。

この最高裁判決がそのまま適用されれば,S・シャルマ医師は医学部長に復職することになるが,たとえ復職しても医学部長任期は1月14日まで。ほんのわずかにすぎない。なぜ,こんな不自然な,不可解な判決を下したのか?

2.ゴビンダ医師の抗議ハンストと法廷侮辱容疑逮捕
1月7日のS・シャルマ医学部長解任無効最高裁判決に対し,ゴビンダ医師は猛反発,翌8日午後4時からTU教育病院前で抗議ハンスト(通算14回目ハンスト)を開始した。

ゴビンダ医師は,最高裁は「医学マフィア」とつながっているなどと激しい言葉でパラジュリ最高裁長官個人とその判決を容赦なく批判し,長官の辞任と判決の見直しを要求した。

これに対し最高裁は,担当官ネトラ・B・ポウデルに指示してゴビンダ医師を法廷侮辱容疑で告発させ,内務省を通して警察にゴビンダ医師を逮捕させた。逮捕は1月8日夕方,ハンスト開始後すぐのことであった。まさに電光石火,デウバ首相ですら,この動きを知らされていなかったという。

警察は,シンハダーバーの首都警察署にゴビンダ医師を留置し,翌9日午前9時に最高裁に連行した。担当裁判官はP・バンダリ判事とBK・シュレスタ判事。ところが,手続きが延々と続き,ゴビンダ医師の体調が悪化したため,彼は警察の救急車に移された。彼の法廷陳述が始まったのは,ようやく午後2時になってからのこと。手続きのための長時間待機はネパールの長年の慣行とはいえ,これは拷問に近い扱いである。

最高裁での法廷陳述終了後,ゴビンダ医師はビル病院に移された。次の出廷は2月20日の予定。


■ゴビンダ医師(連帯FB)/パラジュリ最高裁長官(最高裁HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/01/20 at 17:23

ゴビンダ・KC医師,10項目合意でハンスト中止

ゴビンダ・KC医師は10月18日,政府との間で10項目合意を締結し,13回目のハンストを14日目で中止した。

10項目合意要旨
 ・医学専門職教育に関する政令を10月23日までに閣議決定する。
 ・トリブバン大学医学部授業料の値下げ。
 ・トリブバン大学とカトマンズ大学における医学教育不正調査および責任者処分。
 ・医大新設にあたっては,特に人口と地域を考慮する。

この合意要旨からはKC医師の要求が大幅に認められているように見えるが,政府が約束を守るかどうかは定かではない。

最大の問題点は,医学専門職教育に関する規定が法律ではなく政府政令とされたこと。この政令は3か月以内に議会の承認が必要とされているが,立法議会の会期はすでに10月14日に終了しているし,新議会開会は連邦議会選挙後,おそらくは2018年1月末以降となる。選挙結果がどうなるかも全く分からない。たとえ10月23日までに現内閣が政令を制定しても,3か月以内(1月23日まで)に新議会で承認が得られるかどうか,皆目見当もつかないのだ。

KC医師も,そのことは十分わかっているはずだ。「私は,医学教育の改善と医学部の国内における公平な配置のため,これまで闘ってきた。・・・・いまや,議員の多くが人民の利益のために働いていないことが誰の目にも明らかになったに違いない。彼らは,特定の諸集団の利益に奉仕しているのだ。」(*2)

それでも,KC医師は,政府が10月23日までに閣議で医学専門職教育令を制定すると約束したことを大きな前進と認め,ハンストを中止した。そして,政府がもし約束を破ればハンストを再開する,と宣言した。長期ハンストで身体は衰弱していても,意気はますます軒昂である。

■カトマンズ大学医学部(同HPより)

*1 “Dr KC ends hunger strike after 10-pt pact with govt,” Kathmandu Post, 18 Oct 2017
*2 “Dr KC breaks 13th fast after 14 days,” Kathmandu Post, 19 Oct 2017
*3 “Dr KC ends fast after Deuba pledges ordinance from cabinet,” Republica, 19 Oct 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/20 at 15:39

ゴビンダ・KC医師,13回目ハンスト

ゴビンダ・KC医師が10月5日,13回目のハンストに入った。現在の立法議会の任期は来年1月21日まで。11月26日/12月7日には,現行2015年憲法に基づく初の連邦議会選挙が行われる。KC医師としては,これまでの闘争の成果をご破算にされてしまう恐れもあるので,新体制に移行する前に,医学教育/医療制度の改革に目途をつけたいと考えているのであろう。KC医師の要求は基本的には以前と同じ。(参照: 過去記事

・マテマ委員会勧告に従い,医学教育法/健康専門職教育法を制定せよ。
・カトマンズ盆地内での医大新設認可を10年間停止し,地方各地に国立医大を開設せよ。
・医学部授業料の上限を定め,私立医大にも順守させよ。
 [KC医師要求の医学部授業料上限額]
  MBBS:カトマンズ盆地内 385万ルピー,カトマンズ盆地外425万ルピー
  BDS:195万ルピー
  MD/MS:225万ルピー

ところが,こうした改革要求に対し,UMLやマオイストの議員を中心とする「医学マフィア」が強硬に抵抗,「医学教育法案」を骨抜きにし,改革を阻止しようとしている。

「主要3党は,医学マフィアの企てに加担している。これは,民衆の四分の三に医療を受けられなくし,中下層階級出身学生に医学教育を受けられなくするものだ。」また,「カトマンズ大学医学部は,政府規定額より高い授業料[500百万ルピー]を取り,これにより医学マフィアに金儲けさせる許しがたい役割を果たしてきた」。このようなことは,「断じて許せない」(*3)。

KC医師は10月12日,51名からなる対政府交渉団を組織し,政府と具体的な交渉に入ることにした。また,これに呼応して10月14日には,大規模なKC医師支援デモも行われた。連邦選挙で騒然とする中でのハンスト闘争。KC医師にとって,状況は有利とは言えない。今後どう展開するか,予断を許さない。

 連帯ツイッター(7月20日)

*1 “Dr Govinda KC launches 13th hunger strike,” Kathmandu Post, Oct 6, 2017
*2 “People should hit the streets to support Dr KC: Prof Mathema,” Republica, October 9, 2017
*3 “Dr KC on 13th hunger strike, wants KU VC sacked,” Republica, October 6, 2017
*4 “Dr KC warns of stern protest against judiciary,” Republica, October 9, 2017
*5 “Justice missing from judiciary: Dr KC,” Republica, Oct 11, 2017
*6 “Dr KC names talks team of 51 members,” Republica, October 13, 2017
*7 “Rally taken out in support of Dr KC,” Himalayan Times, October 15, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/17 at 15:31

カテゴリー: 社会, 教育

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