ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for the ‘教育’ Category

AI化社会の近未来(5)

(5)教育のAI化
教育は,積極的かつ継続的に個々の対象に関与するという点では,裁判よりもAI向きかもしれない。

もともと「学ぶ」は「まねる」ことであり,「習う」も「なれる」「まねる」ということ。AIは,つねに蓄積・更新しつつある膨大な学習情報の中から,それぞれの学習者個々人に最適なものを選んで与え,学ばせる。そして,学習者が失敗したら,その原因を分析し,誤りを修正させる。AIは怒ることも倦むこともない。人間の教師よりもはるかに懇切丁寧な個別指導が可能だ。

入試は,人間によるよりもAI入試の方が迅速,公平,安価であることはいうまでもない。AIには受験生の「人間性」が判断できないなど非難されるかもしれないが,要するそれは採点者の個々人の根拠なき「好み」による選考の自己弁護にすぎない。入試は,公正たろうとすれば,AI丸投げでよい。採点者の主観が排除されるから。


Keith Lambert, Education World, nd. / KRISTIN HOUSER, Aug. 27, 2018

Andrew George,Jul 27, 2019

(6)AIによる翻訳,文章作成,作曲,ゲーム対戦など
AIは,これまで人間にのみ可能と信じられてきた文学や音楽や絵画の創作にさえ進出し始めた。

翻訳では,AIはすでに実用レベルに達している。たとえばGoogle翻訳。無料だが,瞬時に世界のいくつもの言語に翻訳し,文字や音声で結果を知らせてくれる。まだ不自然な部分が少なくないが,いずれ日常レベルでは問題なく使用できるようになるだろう。音声翻訳機も多数販売されている。外国語学習はもはや不要。


POCETALK / Easy Talk

文章作成も,マニュアルのような実用文であればほぼ問題なく,またニュースのような報道記事であっても相当のところまで,すでにAIでやれる。むろん主観的要素の強い小説や詩ともなると,もう少し難しいだろうが,それでもAIが古今東西の作品を手あたり次第読み込み,人間心理と合わせ分析を深めていけば,いずれ人間よりもAIの方がより感動的な小説や詩を書くことができるようになるだろう。

 *「ここまでできる!AI(人工知能)によるライター代行ツール4選」2019.01.05
 *David Ibekwe & Fraser Moore, “AI will soon write better novels than humans, according to a computer scientist,” Bussiness Insider, Mar. 18, 2018,

作曲については,すでにAI作曲アプリがいくつも開発され,使用されている。音楽は,音階,和音,リズム,音色等の組み合わせだから,文章よりもはるかにAI向きだ。もしAIが既存の曲を網羅的に読み込み,音楽を聴くときの脳波変化等と組み合わせ分析していくと,人間作曲以上に人間を感動させる名曲を作曲することがAIにはできる可能性が高い。すでにAI作曲の作品を収録したCDも相当数発売されている。たとえば,”I Am AI”。

絵画についても,同じこと。「AI画家」が描いた肖像画、4800万円超で落札(CNN, 2018.10.26)。

AI勝利が明確になったのが,ゲーム対戦。チェスに始まり,将棋,囲碁でも,人間はAIには勝てなくなった。しかも,敗北後,人間側がAIの差し手をいくら分析しても,なぜ駒をそのように動かしたのか理解しきれない場合が少なくない。AIがブラックボックス化し,人間支配の外に出始めたことは明らかである。

 *「チェスではロボットに決して敵わないことを人間はほぼ受け入れたが、今度はそのロボットですら、他のロボットには決して敵わないことを受け入れざるを得なくなった。」JACKSON RYAN, CNET Japan, 2018年12月10日 

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/08/23 at 15:33

ゴビンダ医師のハンスト闘争(39)

10 参考資料
 (1)マンジート・ミシュラ「希望と恐怖の物語」
 (2)グファディ「狂気の権威主義的な医師」

(3)D・カイネー「無為無策の5か月」リパブリカ,2018年8月7日

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デイビッド・カイネーは極西部出身,トリブバン大学卒。Revival Ministry Nepal ( RMN )代表。人身売買防止,貧困救済等の社会活動に尽力。「リパブリカ」,「カトマンズ・ポスト」等への寄稿多数。この「無為無策の5か月」では,オリ政府の強権化・利権化を阻止し人民の利益を実現するには,市民社会自身が立ち上がるべきだと訴えている。
*David Kainee, “Five months of inaction,” Republica, August 7, 2018
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KP・シャルマ・オリ政府は,発足後5か月を経過した。その業績は,どう評価されるべきか? 昨年の地方,州,連邦の3選挙において,人民は共産党連合(現在は統合されネパール共産党)に未曽有の大勝利を与え,これによりオリは,近年のネパールにおいて最強の政府を率いることになった。首相は,「ネパール人の幸福,ネパールの繁栄」を約束したのであり,人民は,その約束の実現に向けての確かな前進を期待した。

ところが,オリ政府は次々と問題を引き起こした。政府は権威主義だという批判もあれば,議会で三分の二を握ったため傲慢になっているという声もある。[……]

先月[2018年㋆],政府は,医学教育改革の旗手ゴビンダ・KC医師に対し,この上ない傲慢さと無神経さを示した。政府は,ケダル・バクタ・マテマ委員会勧告無視の国民保健教育法案[医学教育法案]を通そうとした。[これを阻止するための]サティアグラハを行うためKC医師がジュムラに向かうと,ジュムラ郡当局は,連邦政府の要請を受け,抗議行動禁止場所を指定した。そのため,KC医師は,地域病院の暗い部屋で抗議行動を始めざるをえなかった。

オリは,KC医師の品位を汚すようなことを言った。人民の守護者として働くのではなく,自国の高貴な魂と敵対する権力者としての立場を,オリは自ら選び取った。KC医師が意識を失ったときですら,政府はそれを無視した。市民社会やメディアからの圧力が大きくなり始めてようやく,政府は交渉に転じ,結局は彼の諸要求を受け入れることに同意した。このときまでに,以前は愛国的指導者と見られていたオリの評価は,大きく損なわれてしまった。いまや彼は,コネ資本家どもの守護者と見られるようになった。

[オリ政府は公共交通や開発基金など他の諸課題についても,当初は改革を掲げたものの,実際には実行しなかった。……]

ウジャン・シュレスタ殺害事件で]有罪判決を受けたバル・クリシュナ・ドゥンゲルに対する大統領恩赦についても,政府は,多くの人々が指摘してきたように,マオイスト幹部と結託して,これを承認した。司法は政治化されてしまった。首相をはじめ大臣たちは,言葉でも行動においても,傲慢であり不寛容である。2006年人民蜂起において中心的な役割を果たしたわれわれ市民社会は,身内第一の諸政党とは距離を取り,自らを復活させる必要がある。[……]

■RMNフェイスブック

■Jeremy Snell, “David of Nepal,” (Video)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/15 at 18:44

ゴビンダ医師のハンスト闘争(38)

10 参考資料
(1)マンジート・ミシュラ「希望と恐怖の物語」

(2)グファディ「狂気の権威主義的な医師」カトマンズ・ポスト,2018年7月7日

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鋭い風刺に満ちた興味深い論評。グファディはペンネーム。自称「偏屈老人」。カトマンズ・ポストに時評等多数寄稿。著者ブログhttp://guffadi.blogspot.com/
Guffadi, “The crazy authoritarian doctor,” Kathmandu Post, Jul 7, 2018
http://guffadi.blogspot.com/2018/07/the-crazy-authoritarian-doctor.html
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われわれは皆,KC医師にはうんざりしていると思う。われらのこの偉大な国において,保健医療制度や医学教育の質について,KC医師だけがなぜ心配しなければならないのか? 彼を除けば,われわれはすべて,途方もない高額料金の医療で十分満足しているし,またバヤパリ[商売人]どもが医大を開設し,低水準の教育を行い無能な医者を送り出すことにより巨万の富を手にしていても,まったく気にもしない。要するに,医大投資家は,よい医者の育成よりも儲けの方を優先させているのだ!

われわれは,世界最高水準の公立病院をいくつか持っている。そこには高価な医療機器があるが,医者たちはそれを使わず,自分のクリニックを患者に紹介しそこで治療するので,病院の医療機器は無用の長物と化している。われわれはまた,世界最高水準の私立病院もいくつか持っている。そこでは,患者は,必要もない検査のため毎日何千ルピーも請求され,治療費総額は何十万ルピーにもなり,患者家族はその支払いのため土地を売るか,さもなければ完済まで患者を病院に人質として留め置かれることになる。

そう,これこそが,社会主義者[コングレス党]と共産主義者[共産党]が次々と政権を握り,あらゆる分野において一般庶民よりもバヤパリ[商売人]を優遇してきた国なのだ。いったいいつになったら,人民に小便をひっかけるのではなく,本当に人民のことを考えてくれる政府を,われわれはもつことになるのだろう? 腐敗した指導者[ネタ]たちがインドやタイやシンガポール,いやアメリカ[Amrika]にさえ治療を受けに行くのではなく,国内にとどまり公立病院で治療を受ける日は,いつになったら来るのであろうか?

わが国の前大統領[RB・ヤダブ]の前立腺ガン治療には,アメリカから医者を招かねばならない(引用者注)。わが国の政治家たちはまた,われわれ自身の国の医師よりインドの医師の方が優秀とも信じている。わが国の首領[チョラ・ネタ]たちは,この国に世界水準の公立病院を開設するためではなく,外国での治療のため何百万ルピーも費やす。にもかかわらず,われわれ人民は不平も言わず,街頭に出て抗議することもせず,腐敗した首領どもに過ちの責任を取らせもしない。われわれは,われらが小マハラジャたちが武装警官のお供を引き連れ豪華高級車でカトマンズを動き回るのを見て,せいぜい,恨みがましく不平を漏らすだけだ。
 [引用者注:ラム・バラン・ヤダブ氏は前大統領(在職2008年7月~2015年10月)。2013年,健康診断のため来日。2016年8月,前立腺ガン治療のため政府が600万ルピー支給を決定,翌9月にアメリカで手術。]

しかし,お医者様[Dr Saheb]はちがう。金も,権力も,特待特権も求めはしない。この国に良い医者が生まれることを願うのみ。貧しい人々でもよい保健医療が受けられること,それがお医者様の願いだ。彼は,この国にとって最善のものを医療の分野で求めているのだ。が,われらが政治屋たちは,彼が好きではない。というのも,彼らの多くが私立病院に投資しているか,あるいは医科大学を開設しお金をもっと儲けようと考えているからだ。

われらが偉大な共産主義者たちは,お医者様を狂気,権威主義,全身痛のようなものとみている。たしかに,体制に一人で立ち向かう改革者は狂気だ。いま,市民社会の人々は,いったいどこにいるのだろう? いわゆるフェイスブック活動家は,どこにいるのか? われわれが求めるのは,財布からいつも盗み取っている常習スリたちではなく,この国を導いてくれるお医者様,そう,まさにそのような人なのだ。

要するに,わが国では,いわゆる共産主義者のほとんどが大学や病院,いやNGOにすら投資しているということだ。お医者様は,この国の医学マフィアと闘っている。政府には,商売人たちが私立医大でしこたまゼニ儲けするのを許すのではなく,各州に医大を開設することが,なぜできないのか?

この人には,体制と闘うのではなく,何の心配もなく自分の仕事に邁進していただくべきだと思う。そうでしょう,お医者様,ハンストを幾度も繰り返すことにお疲れではないですか? 狂気のお医者様はジュムラに行き,いまはカルナリ健康科学アカデミー[KAHS]の救急室に収容されている。われらが偉大なオリ政府は,この国の医科大学の質は気にしていない。政府の面々は,身近のお気に入りの人々が医者を目指す医学生から大金をとりお金儲けできるようにしたいだけなのだ。

われらが無能政府は,KC医師の死を願っている。そう,これが真実であり,もしKC医師が天国に行けば,われらがミニ・マハラジャたちに対し抗議し,ハンストを行い,闘う者は一人もいなくなる! KC医師も死は恐れていない。カルナリで死ぬ覚悟はできている,と彼は言っているのだ!

お医者様は,要求が入れられるまでジュムラに留まると誓った。この狂気の医者は,この国のために最善の保健医療と医学教育を求めているにすぎない。われわれは,なぜ立ち上がり彼を支持できないのか? この孤独の改革者が医学マフィアとたった一人で闘っているのに,われわれはほとんどそれを気にも留めていない。恥ずかしくないのか!

われらが無能政府は,KC医師を投獄すべきだ。この人物は既成政治体制の疫病神だ。彼は,医学分野のあぶく銭をねらっている商売人や政治家たちにとって,脅威だ。この男は,青年たちの悪しきお手本だ。われらが首相は大きなことを考えている。われわれは,カトマンズで列車にちょいっと乗ればケルン[吉隆鎮]に行けるようになるだろう。コルカタへは,カトマンズから船で行く。われわれは,われらが商売人や首領たちには国内にたくさん医大をつくることを認め,これにより授業料を払える者が医者になり,ここから首領たちも利益をえられるようにしなければならないのだ。

神よ,オリに祝福を。神よ,われらが偉大な同志たちに祝福を。劣悪医大の国となるのを阻止しようとするKC医師を,打倒せよ! この世の最後の日に,お医者様は,その医学分野での業績と,医学分野改革のためハンストを行ったことをもって思い起こされるだろう。オリとその廷臣たちは,何をもって思い起こされるのか? 彼らには,思い起こされるべきものなど何もない。KC医師は明日死ぬかもしれないが,腐敗した体制と力の限り闘ったと考え,幸せに死んでいくだろう。一人でも,体制を揺るがすには十分だ。ましてや,われわれ何百万人もが街頭に出て,それぞれ自らハンストを始めたら,どうなるか。そうなのだ,もしわれわれが協力して腐敗した首領どもと闘うなら,われらの腐敗した体制を破壊することは可能なのだ。政党をつくるまでもない。勇気さえあれば!

■ヤダブ前大統領手術後ワシントンで会見(Republica, 31 Oct 2016)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/14 at 11:01

ゴビンダ医師のハンスト闘争(37)

10 参考資料
(1)マンジート・ミシュラ「希望と恐怖の物語」リパブリカ,2018年8月1日
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ゴビンダ医師のハンスト闘争を,ガンディーやネルソン・マンデラのサティアグラハを継承するものとして高く評価。著者はラジビラジ在住の講師。リパブリカ紙にコラム等執筆。
Manjeet Mishra, “Tale of hope and fear,” Republica, August 1, 2018
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KC医師が力づくで拉致され,[KAHS] 病院が破壊された。これは,サティアグラハ[真理追求,非暴力抵抗]に対する攻撃に他ならない。

7月18日は,ネルソン・マンデラの生誕記念日。この数年と同様,今年も関心はあまり高くはなかった。トランプ,プーチン,エルドアン[トルコ大統領]のような力を振りかざす権力者たちが見出しを独占するような時代においては,マディバ[マンデラ愛称]のような平和と和解への訴えは,無力・無意味で時代遅れのように見える。世界は,もっと先へと進んでしまったように見える。

彼の訴え方は現在では現実離れしているように見えるかもしれないが,実際にはそれは間違いなくわれわれを勇気づけてくれるのであり,いまこそ,それは思い起こされてしかるべきである。……

マティバは親切で度量が大きく人々の中に入り込む力を持っており,これこそが彼の指導力の特質であった。むろん失敗――主に経済に関して――もあったが,それにもかかわらず彼が彼の国と世界にとって大きな希望となっていることは,紛れもない事実である。

そのマティバに,たとえ形だけであっても,敬意を表すべき時に,断食をしていたゴビンダ医師が,ジュムラの病院から「拉致」された。これ以上あからさまな皮肉な仕打ちはあるまい。サティアグラヒ[真理追求者・非暴力抵抗者]の強制的拉致と病院の破壊が,非暴力を象徴する人の誕生日に行われる――これはサティアグラハそのものに対する攻撃と見ざるをえない。……

私が初めてKC医師を遠くから目にしたのは,彼が2016年洪水のとき,私の故郷であるサプタリ郡ティラティ村の医療キャンプに来た時であった。村は洪水で破壊されてしまっていたが,彼は冷静沈着そのものだった。彼は余計なことをせず仕事そのものに取り組んでいた。その姿を見て私は感激し,すぐ彼を尊敬するようになった。

おそらく彼のそうした資質が,その無私の態度と相まって,彼をして[サティアグラハの]象徴としたのだろう。ハンストをジュムラで始めることにしたのも,見事な決定であった。政府は彼を強制的に「拉致」せざるをえなくなり,それが市民社会やメディアに衝撃を与え,彼らの大きな共感を呼び起こすことになったのだ。

これこそサティアグラハの力である。無私の人物が改革改善を深く確信し,断固とした毅然たる態度をとるとき,権力は暴力的手段に頼らざるをえなくなる。今回の稀有の勝利は,KC医師にして初めて獲得しえたものだ。彼の闘いは,一言でいえば,まさしくマハトマ・ガンディーのいったことに他ならない――「初め彼らはあなたを無視する,次に彼らはあなたのことをあざ笑う,そして次に彼らはあなたを攻撃する,そしてあなたが勝つ」。

■M・ミシュラ「ツイッター」(2018年8月2日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/13 at 10:07

ゴビンダ医師のハンスト闘争(36)

9.合意成立後の動き
「9項目合意」が成立しKC医師がハンストを終了した後,政府は合意文書を教育省に回す一方,与党共産党議員にも合意について説明した。そして,政府提出の「医学教育法案」は,議会において,「9項目合意」に沿って修正するとした。(*92)

しかし,いくら合意し文書に署名しても,その合意が実行されず反故にされることは,少なくない。合意反故は,ネパール政治文化の宿痾といってもよい。「医学教育法案」の場合も,利害が大きく絡むだけに,合意直後から,その約束を反故にさせようとする動きが出始めた。

たとえば,「医学問題調査委員会(MEPC)報告」(2月4日提出)が勧告した有責職員43人に対する解雇等の厳罰処分については,さっそくトリブバン大学事務局が7月28日,反対声明を出した。それによると,MEPC報告は「適正手続き」で作成されておらず,「偏向」しており無効であって,それによる職員処分はできないという(*93)。これに対し,7月31日付リパブリカは,「トリブバン大学汚職職員を処罰せよ」と題する社説を掲げ,こう批判した。

「KP・オリ首相はトリブバン大学総長なのだから,これら有責とされた人々の処罰回避を許すべきではない。医大認可のための彼らの共謀は,さらに追及されなければならない。オリ首相には,彼自身の政府がKC医師との合意に署名したのだから,彼らに対し措置をとらせる義務がある。」(*94)

こうしたなか,オリ政府は7月31日,「9項目合意」に従い22か所を修正した「医学教育法案修正案」を議会に提出した(*95,96)。その限りで,オリ首相はKC医師との約束を守ったとはいえる。しかしながら,この修正案が実際に可決成立するかどうか,成立させる意思が本当にあるのかどうかは,この時点では,まだいずれともいえない。署名しようが,誰が立ち会おうが,約束の反故はネパール政治の常套手段なのだから・・・・。

▼リパブリカ社説(2018年7月31日,*94)

*92 “Oli govt bows to Dr KC’s demands,” Republica, July 27, 2018
*93 Bishnu Prasad Aryal, “TU dismisses MEPC report, rejects action,” Republica, July 30, 2018
*94 “Editorial: Punish tainted TU officials,” Republica, July 31, 2018
*95 “Bill amendments filed in line with Dr KC’s concerns,” Kathmandu Post, Aug 1, 2018
*96 “Bill amendments filed in line with Dr KC’s concerns,” Kathmandu Post, Aug 1, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/12 at 08:54

ゴビンダ医師のハンスト闘争(35)

8.「9項目合意」の評価
  (1)リパブリカ「KC医師との合意をその文書と精神に沿い実行せよ」(2018年7月29日)

(2)リパブリカ「KC医師との合意を実行せよ」(2018年8月13日)
「オリ首相とゴビンダ・KC医師が土曜日[8月11日],会談をもち,2週間前成立した9項目合意の実施につき話し合った。オリ首相は,合意の効果的実施のため監査委員会を設置することを提案した。首相は,以前は,KC医師のハンストや医学教育改革要求に反対と見られていたので,これは歓迎すべき一歩前進である。首相は前向きの姿勢を見せており,われわれも政府が約束を守り,合意に沿いその義務を果たすことを願っている。

オリ首相は,KC医師に監査委員会の長となるよう打診したが,即座に彼は辞退したという。KC医師のような人は,わが社会の道徳的権威であり,民衆の尊敬を集めている。国家はこの事実を認めるべきだ。彼は15回もハンストを行ったが,それは個人的な理由からではない。彼の目標は,この国の医学教育や保健サ-ビスの改革にあった。KC医師がいなければ,いまごろはMBBS[医学士課程]を学ぶのに1千万ルピー以上かかっていただろう。いまの学費はその半分以下だ――KC医師の妥協なき改革努力に感謝する。KC医師は,市民すべてに利用可能な保健医療を保障する憲法の精神を政府が遵守することを求めている。都市部の医療機関は例外なく繁盛しているけれど,遠隔地の村々の住民の80%は,下痢や発熱といったありふれた病気で死に続けている。わが国の憲法が求めているように,「社会主義指向」国家では,自分には必要なとき病院に行くすべのない人々であっても,十分な手当てが受けられるようにされなければならないのである。

オリ首相とKC医師との会談[8月11日]は,この国における医学教育を医学マフィアが牛耳っており,それを首相が手助けしているとして,人々が首相を糾弾しているときに行われた。この首相の会談への姿勢は,政府とKC医師とのこれまでの合意の効率的・効果的な実行へとつながるものでなければならない。二人は同じことを目指しているように見えはする。すべてのネパール人が良好な保健医療を受けられること,そして医学教育を受けうる能力のある人々が医科大学学費を払うため全財産を売り払わなくてもよくすることである。二人が,人々のための効率的で信頼でき利用可能な医療サービスと,学びたい人が学べる医学教育制度をこの国に実現しようと願っているのなら,[政府側が]KC医師とともに署名した合意諸項目が実行されない理由は,どこにもないはずだ。政府は,KC医師が同じ理由で再び次のハンストをしなくてもよいよう保証すべきだ。さもなければ,民衆の怒りを買い,オリ政府はたちまち民衆の今ある支持すらすべて失うことになるだけだからである。KC医師と人民は,保健医療と保健医療教育が直面している諸問題に政府が次にどのような対策をとるか,いまじっと見つめている。首相がKC医師と会談したことで,いくらか希望が見えてきた。どうか,この希望を消さないでほしい。」

▼180日,6年,15回のハンスト(Republica, 17 Jul 2018)

*91 “Implement agreements with Dr KC,” Republica, August 13, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/11 at 11:25

ゴビンダ医師のハンスト闘争(34)

8.「9項目合意」の評価
オリ政府とKC医師が「9項目合意」に署名し,KC医師がハンストを終えたことにつき,メディアの大部分は社説等で歓迎を表明した。ここでは,この件につき最も詳細に報道してきたリパブリカ紙の7月29日付と8月13日付の記事のみ,紹介する。(他のメディア報道は最後に参考資料として列挙予定。)

(1)リパブリカ「KC医師との合意をその文書と精神に沿い実行せよ」(2018年7月29日)(*90)
「ゴビンダ・KC医師に何が起こるのか? 政府は彼の要求に応えるのか? 彼の生命は救われるのか? トリブバン大学教育病院の長老整形外科医が15回目のハンガーストライキを始めた6月30日からこれまで,一般民衆はこれらのことを心配し続けてきた。KP・オリ政府は,ネパールの医学教育・保健衛生分野の抜本的改革への要求に消極的と見えるときもあれば,KC医師の体調悪化についても同様に冷淡と見えるときもあった。カトマンズ内外で政府に対する抗議行動が始まったのは,そのためだ。そうしたなか,この木曜日[7月26日]夕方,政府とKC側が合意に達したことを知らされ,われわれはみなホッと安堵した。KC医師の生命は救われ,医学教育分野の改革がようやく緒に就いた。政府は,遅くなったとはいえ,高い目標を持つ重要な訴えを聞き入れたのであり,称賛されてしかるべきだ。オリ首相が自らこの交渉に深く関与し,合意に達したおかげで,KC医師は今回のハンガーストライキを終えることが出来たし,またそればかりか,KC医師がこれまでと同じ理由で再びハンガーストライキをする必要はもはやなくなったという新たな希望をも持つことが出来るようになった。ありがとう,首相。・・・・

しかしながら,これまでそうであったように,政府がまたまた合意を反故にするかもしれないという疑念は,払拭できない。KC医師と交渉したこれまでの政府はすべて,彼の要求を受け入れると約束し,合意書に署名した。が,いまの首相が率いていた2015年の政府を含め,それらいずれの政府も合意した約束を実行しなかった。KC医師が15回目の決死のハンストに訴えざるをえなかったのは,そのためである。われわれは,オリ首相がKC医師を欺き引き延ばしを図ることのないよう願うし,また,そうあるはずだと信じている。首相は自らの意思により,KC医師の要求の受け入れとその実行のための合意書への署名を行わせた。これは注目すべき成果である。首相が本当に評価されるのは,合意が実行されたときであり,また老サチヤグラヒ[真理希求者]がその生命を,政府が追求し実現すべきなのにそうしない事柄のために危険にさらす必要のない状況をわれわれがつくりだすときである。わが国の政治家たちは,あまりにもしばしばKC医師を困難な状況に追いやってきた。そのようなことが,もはや二度と起きないことを願う!」
 
 ■Republica, 26 Jul 2018

*90 “Implement agreements with Dr KC, in letter and spirit,” Republica, July 29, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/10 at 16:23