ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Archive for the ‘議会’ Category

迷路のような選挙区割り

ネパール国会・州会ダブル選挙は,小選挙区の区割りがそれぞれ別であるにもかかわらず,1枚の小選挙区投票用紙を使うため,はなはだややこしくなっている。

小選挙区の区割り赤線=国会小選挙区,青線=州会小選挙区追加区画)
 
 ■カトマンズ/モラン(選管HP)

 
 ■ゴルカ/イラム(選管HP)

ゴルカやイラムのような地方はまだましだが,カトマンズやモラン(ビラナガルなど)のような人口密集地があるところだと,まるで迷路。ゲリマンダーが横行しているのではないか? 選挙実施は大丈夫か? 有権者は戸惑わないか? いささか気になる。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/22 at 18:26

カテゴリー: 選挙, 議会, 政治, 民主主義

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国会&州会ダブル選挙まで1か月余

ネパールでは,連邦議会代議院(下院)と州議会の選挙が,11月26日と12月7日の2回に分け,実施される。あとひと月少々だが,準備は万端とは言えないようだ。そもそも選挙制度が極めて複雑。欧米諸国が援助がらみで実験的な代表制度を押し付けたからだ。

代議院(下院)
 (1)構成
  定数275(小選挙区選出165,比例制[全国1区]選出110)
  *女性枠:各党議員の1/3以上。
  *国政政党の要件:比例区で3%以上の得票,かつ小選挙区選出議員1名以上。
 (2)比例制全国区の立候補者割当
  ダリット13.8%,先住民28.7%,カス/アーリア31.2%,マデシ15.3%,タルー3.6%,ムスリム4.4%。
  *障碍者も考慮すること。
  *女性候補者,50%以上。

州議会(1院制)
 定員:その州割当代議院議員数の2倍。小選挙区選出60%,比例制選出40%
 各党候補者割当:人口と地域を考慮し,次の集団に割り当てる。女性,ダリット,先住民,カス/アーリア,マデシ,タルー,ムスリム,後進地域,少数者集団,障碍者
 *各党議員の1/3以上は女性。

こんな複雑な制度による選挙を,連邦議会だけでなく州議会をも併せて同時に行うというのだ。各党の立候補者選考が混乱しているのは当然だし,そもそも投票用紙からして,もめている。(日本では,22日の衆議院選のため,混乱を恐れ,地方選を延期した自治体もある。)

選管は,投票用紙は比例制1枚,小選挙区制1枚の2枚とすることにし,すでに印刷準備に入っている(遅すぎはするが)。

投票用紙
 ・比例制1枚:上部=連邦議会用  下部=州議会用
 ・小選挙区1枚:上部=連邦議会用  下部=州議会用

ところが,この投票用紙だと,連邦議会選挙では共闘するが,州議会選挙ではそれぞれ独自候補者を立て闘う政党があれば有権者は混乱するし,小政党や地域政党にとっては不利となる。そのため,これらの政党はこの投票用紙による選挙に反対し,連邦議会選挙用2枚(比例区用/小選挙区用),州議会用2枚(比例区用/小選挙区用)の計4枚とすべきだと主張している。

これはたしかに合理的な案だし,費用も大してかかるわけではない。が,選管は,最高裁による見直し申し立て棄却を受け,投票用紙2枚による選挙を予定通り実施することにした。

いまのところ連邦議会比例区立候補届け出政党は55。かなり少なくなったが,それでもスゴイ数だ。これら政党の相当数が1枚の投票用紙に,連邦議会用と州議会用にズラリと並んで印刷される。政党シンボルマークのオンパレード。選管ホームページに投票用紙がアップロードされるのが待ち遠しい。

 ■8月4日バラトプル市再選挙用投票用紙(選管HP)

*1 “SC refuses to issue interim order in writ demanding separate ballot papers,” Republica, October 18, 2017
*2 Kamal Dev Bhattarai, “Nepal Set for 3-Way Competition in Upcoming Legislative Elections, A surprise alliance between Nepal’s two main communist parties has China excited and India dismayed,” The Diplomat, October 19, 2017
*3 “Separate ballot papers unlikely for upcoming polls: CEC Yadav, The Himalayan, October 20, 2017
*4 “‘Four types of ballot paper needed’,” The Himalayan, September 24, 2017
*5 “RJP objects to same ballot paper for two polls. But Election Commission clarifies ballot papers cannot be changed,” Kathmandu Post, Sep 25, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/21 at 19:13

史上最大のデウバ内閣,大臣56人

ネパールはいま,2007年暫定憲法体制から2015年憲法体制への移行期。憲法はすでに2015年憲法になっているが,この憲法に基づく連邦議会選挙はまだ行われておらず,現在の議会や内閣は旧2007年憲法に基づき選出されたもの。そのため移行期特有の様々な矛盾や問題が生じている。

その一つが,巨大議会と巨大内閣。制憲議会は,人民戦争を戦った諸勢力を包摂するため定数601の巨大議会となった。本会議は大ホールで開かれ,後方席からはオペラグラスでも持ち込まないと前方の様子がよく分からない。発言者のツバがかかりそうな英国議会とは対照的だ。

内閣も諸勢力包摂のため巨大化する一方。2007年暫定憲法によれば,首相は「政治的合意」に基づき,副首相,大臣,副大臣および大臣補を,原則として議会議員の中から選出する。もともと議会が巨大であり,包摂のための合意も必要だから,これだけでも内閣は大きくなりやすい。しかも,大臣ポストは分配する側にも分配される側にとっても巨大利権だから,包摂民主主義の下で内閣拡大を止めることは極めて難しい。直近の3内閣の大臣数は次の通り。
 ・オリ内閣(2015年10月~16年8月):40人
 ・プラチャンダ内閣(2016年8月~17年6月):41人
 ・デウバ内閣(2017年6月~現在):56人

現在のオリ内閣56人は,ネパール史上最大。さすがにこれは多すぎる,党利党略だ,政治の私物化だ,などと批判されているが,これに対しデウバ首相は9月21日,国連本会議出席のため滞在中の米国において,憲法は議員総数の10%まで大臣を認めているので,最大60人まで任命可能だと答えたという。(議員総数の10%までという規定は,どこかにあるのであろうが,管見の限りでは見当たらなかった。)60人とは,これはまたスゴイ! さすが包摂民主主義モデル国だ。

しかし,このような包摂を名目とした大臣職の大判振る舞いは,政治の在り方として,本当に望ましいことだろうか?

一つは,いまは新憲法体制への移行期だということ。2015年憲法に基づく連邦議会選挙が11月26日/12月7日に実施される。現在の立法議会の任期は2018年1月21日までだ。

しかも,2015年憲法は,内閣につき,次のように定めている。
 ・・・・<以下引用>・・・・
第76条 大臣会議[内閣]の構成
(9)大統領(राष्ट्रपति)は,首相(प्रधानमन्त्री)の勧告に基づき,連邦議会議員の中から包摂原理に則り選ばれた首相を含む最大25人の大臣(मन्त्री)からなる大臣会議(मन्त्रिपरिषद्)を構成する。
 解釈:本条において,「大臣」は,副首相(उपप्रधानमन्त्री),大臣,副大臣(राज्यमन्त्री)および大臣補(सहायक मन्त्री)を意味する。
 ・・・・<以上引用>・・・・

連邦議会選挙が行われ,新議会が成立すれば,大臣数は半分以下に制限される。来年早々のことだ。それなのに,デウバ首相はさらに大臣を増やすことすら考えているという。任期満了直前の大臣職利権のバラマキのように見えてならない。

もう一つは,政治的・経済的合理性があるのか,という点。内閣を拡大すればするほど,政治過程が複雑となり,直接・間接経費も増える。民主主義,とくに包摂民主主義は手間とカネがかかるものとはいえ,これほどの内閣巨大化は主権者たる人民の利益とはならないのではあるまいか。

 ■プラチャンダ前首相らと会見するデウバ首相(首相ツイッター)

*1 “Cabinet expansion a compulsion, says Prime Minister Deuba,” Himalayan, September 13, 2017
*2 “60-member cabinet could be formed as per Nepal’s constitution: PM Deuba,” Republica, September 22, 2017
*3 “Deuba hints at expanding cabinet further,” Republica, September 23, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/09/27 at 21:03

カテゴリー: 行政, 議会, 憲法, 民主主義

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連邦議会と州議会,11月26日ダブル選挙

デウバ内閣は8月21日,連邦議会と州議会の選挙を11月26日(日)に実施することを決めた。連邦議会選挙は,憲法296条により,2018年1月21日までの実施が義務づけられている。

しかしながら,連邦議会と州議会の選挙を同時に実施することは大変だし,その前には対立抗争で延期されている第2州の地方選挙(9月18日投票)も実施しなければならない。

それに加えて,議会は8月21日,マデシらが要求してきた憲法改正を,政府が選挙日を決定したあとで否決してしまった。

先行き不安。稔と祭りの秋のダブル,いや正確にはトリプル選挙となるのだろうか?

 ■WIKIより(2017-03-10)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/08/22 at 12:11

カテゴリー: 選挙, 議会, 憲法

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ネパール地方選における女性の大躍進

ネパール地方選は,第1次(5月14日投票)と第2次(6月28日投票)が実施され,残るは第3次(第2州対象,9月18日投票予定)のみとなった。これまでのところ,選挙は,多少の混乱はあったが予想以上に順調に行われ,全体として野党UMLがやや優勢であるものの,NC=MC連立政権の存続を脅かすほどではない(*3, *4)。

この地方選で最も注目されるのは,政党の勝ち負けよりも,むしろ女性の大躍進である。全体の正確な数字はまだ明らかになっていないが,第1次選挙では当選者の約40%が女性となった模様である。

これは,ネパールがつい最近まで女性差別の最も大きい国の一つとされてきたことを考えると,驚異的な変化である。どのようにして,地方政治への女性の進出は可能となったのであろうか?

直接の最大の要因は,選挙制度の抜本的大改正である。国政選挙では,新憲法制定の結果,すでに女性議員比率約30%となっているが,ここでは地方選挙制度の概要を見ておこう。

ネパールの地方政府(地方自治体)は,IFES「ネパールの選挙:2017年地方選挙」(*1)によれば,次のような構成になっている。(現在制度改変中であり,以下は上記資料データによる。)

郡――市/村――区
 ・郡(जिल्ला) 75
 ・市(नगरपालिका) 264
   大都市(महानगरपालिका) 28万人以上
   中都市(उप-नगरपालिका) 15万人以上
     市(नगरपालिका)  2万人以上
 ・村(गाउँपालिका) 481
 ・区(वार्ड) 各市/各村ごとに5~33
代表の構成
 ・区:区長1,議員4を選挙選出
 ・市/村:市長・副市長/村長・副村長を選挙選出
      議会は市内/村内の各区の代表(区長・区議員)により構成
 ・郡:郡議会は各市/各村の市長・副市長/村長・副村長により構成
    郡行政委員会(定数9)は郡議会議員から選出

代表選出方法
 各有権者は,次の7ポストにつき,1枚の投票用紙で投票(印を付け投票)
  市長/村長 1
  副市長/副村長 1
  区長 1
  女性区議員 1
  ダリット区議員 1
  一般区議員 2

女性候補と女性留保ポスト
 ・区選挙立候補者5人のうち2人は女性で,かつその1人はダリット
 ・市長/村長と副市長/副村長の両方に候補者を出す場合,いずれか一方は女性
 ・郡行政委員会の委員長と副委員長の両方に候補者を出す場合,いずれか一方は女性
 ・女性留保議席:市議会5,村議会4,郡行政委員会(定数9)3

投票用紙(カトマンズ用*3)
  

以上がネパール地方選挙制度の概略だが,国政選挙と同様,包摂民主主義に則っているため,要約困難なほど複雑だ(誤りがあれば,ご指摘ください)。日本でも運用困難かもしれない,これほどややこしい方法による選挙が,さして大きな混乱もなく実施できたことは,正直,たいへんな驚きである(*2)。

それはともあれ,こうした女性のためのクォータ制や留保制により,ネパールの地方自治へ女性が大量進出,ポストの40%を占めるに至ったことはまぎれもない事実。女性は副市長/副村長の方に回され,市長や村長はまだ少ないという批判もあるが,それは候補者選択の際の党内民主主義の向上に俟つべきかもしれない。

このようにネパールの政治制度改革は目覚ましい。いくつかの点で,ネパールは今や日本を追い越し,はるか先を行っている。そうした点については,日本は,謙虚に頭を垂れ,教えを乞うべきであろう。

▼バンダリ大統領(左)とマガル国会議長(右)(大統領府HP)
  

【参照】「議会と政府における女性」英下院図書館,2017年7月12日(*1)
 ・女性大統領(2017年3月現在):ネパール,スイス,台湾ほか11か国
 ・女性議長(2017年6月1日現在):ネパール,オーストリア,ベルギー,デンマークほか55か国
 ・国会女性議員比率(193国,2017年6月1日現在)
  1 ルワンダ61%,6 スウェーデン44%,12 ノルウェー40%,47 ネパール30%,161 サモア10%,164 日本9%,167 コンゴ9%,170ブータン9%,178 イラン6%,190 カタール0%

*1 International Foundation for Electoral Systems, “Elections in Nepal: 2017 Local Elections,” May 10, 2017
*2 百党斉放のネパール地方選挙
*3 地方選:2大政党善戦と選挙運動の変化
*4 地方選,3回に分けて実施

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/08/10 at 09:54

カテゴリー: 選挙, 行政, 議会, 人権

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プラチャンダ首相,TVで辞意表明

プラチャンダ(プシュパ・カマル・ダハル)首相が5月24日,テレビ番組で辞意を表明した。前日(23日)の議会で表明する予定だったが,タライ自治体増に反対する第2党UMLの抵抗で議会が開けなかったため,テレビで直接国民に辞意を伝えることになったのだそうだ。

今回のこの首相交代には,いつもの劇的な要素がまるでない。ビジネスライク。昨年8月,第1党のNC(コングレス党)と第3党のMC(ネパール共産党マオイストセンター)が政策協定を結び連立政権を発足させることになったとき,首相は地方選まではMC,そのあとはNCとする紳士協定を結んだ。今回の首相交代は,その取り決めによるもの。(首相交代が6月14日後期地方選の前か後かはまだ未定。)

しかし,それにしてもあまりにも実務的。乱闘や首相不在長期化は困るが,そうかといって政党の打算見え見えの首相交代にはシラケてしまう。政党都合による首相職のたらい回し。報道も地味。

プラチャンダMC議長から首相職を回されるのは,NCのデウバ党首。タライ紛争に対するカトマンズ中央政府の姿勢がどうなるか,特に注目される。なお,駐日ネパール大使のプラチバ・ラナさんは,デウバ党首の義母。(参照:駐日ネ大使候補プラチバ・ラナさん,議会委員会が承認) 


 ■プラチャンダ議長(2013年2月党大会ポスター)/ デウバ党首FB(5月26日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/05/26 at 17:22

カテゴリー: 議会, 政党

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得票率3%以上&議席1以上,全国政党の要件

立法議会は3月22日,5月地方選のための改正政党法を可決したが,その中には,全国政党の要件を,比例制で3%以上の得票がありかつ議会に1議席以上を有すること,とする規定が含まれている。いわゆる阻止条項つき選挙制(election threshold)の採用である。

この阻止条項採用が,政府与党やUMLの大政党としての党利党略によるものであることは言うまでもないが,その一方,包摂民主主義選挙の弊害が拡大し,その修正を余儀なくされた結果であることもまた否定できない事実である。

これまでの2回の制憲議会選挙では,包摂民主主義の理念に基づく比例制と社会諸集団クォータ制を採用したため,百数十もの政党が候補を立て,30以上の政党が実際に議会に議席を得た。その結果,選挙は複雑にして煩雑となり経費も著しく増大した。また,この包摂主義選挙により登場した小政党の多くは,国民を代表する公党というよりはむしろ身内政党・コネ政党であり,議会では利権配分による多数派工作の格好の標的とされてきた。議会政治は,混乱し停滞。現状は,包摂主義の現実が効率的な議会制民主主義を蚕食しているといった状況らしい。

今回の阻止条項採用には,このように,政府与党やUMLの思惑のほかに,それなりの理由もあるのだが,小政党の側は当然,猛反発,阻止条項は憲法の包摂民主主義理念に反し,憲法の保障する政党の自由と権利を不当に制限するものだとして,各地で激しい反対運動を繰り広げている。

たしかに,選挙制における阻止条項は本質的に小政党の切り捨て条項であり,論理的には,少数派の包摂を大原則とする2015年憲法の包摂主義の理念には反している。しかしながら,民主主義国でありながら阻止条項を置いている国は少なくない。たとえば次のような国々:
  5%=独,台湾,ニュージーランド
  4%=ノルウェー,スウェーデン
  3%=伊,韓
したがって,阻止条項を置くことが,即,反民主的ということにはならない。政治は実践であり,包摂民主主義を原則とするにせよ,現実政治の場では,他の諸要因をも考慮し,より望ましい現実的な包摂制度の在り方を探り,それを用いることにせざるを得ない。ネパールも,紆余曲折はあれ,結局はそのような方向に向かって前進していくのではあるまいか。

■2013年選挙比例区投票用紙サンプル

*1 “One FPTP seat, 3 pc PR votes necessary to get recognition as nat’l party,” Kathmandu Post, 22 Mar 2017
*2 “Fringe parties boycott House to protest threshold provisions,” Kathmandu Post, 22 Mar 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/03/25 at 18:34