ネパール評論 Nepal Review

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クマリとミスコン:マオイストは本物か?

谷川昌幸(C)

マオイストは被抑圧諸階級,とくに女性の味方だ。ネパール女性抑圧搾取の象徴が,クマリとミスコン。当然,マオイストはこれらを廃止させようと努力している。私は,マオイストを批判しつつも,こうしたマオイストの倫理観・正義観は大いに評価し,変わることなく応援してきた。頑張れ,マオイスト! 

しかし,マオイストの女性差別への怒りは,本物なのか?

1.生き神様クマリとマオイスト
AFP(Aug14)によれば,ネパール知識人たちが,ようやく世俗共和制移行に伴う難題,政教分離に注目し始めた。インドラ祭に代表される,国家元首と宗教儀式の関係だ。

昨年のインドラ祭では,コイララ首相が少女生き神様クマリの祝福を受け,統治の正統性を宗教的に認めてもらった。

チャンダ・バジラチャリヤ教授(TU)は,こうした宗教儀式は続行すべきであり,それらこそが国家統治者に支配の正統性を与える,と主張する。サチャモハン・ジョシ氏(ネパール文化論)も,ネパールの新指導者が国王の役割を引き継ぐべきだと考え,「文化ヘゲモニーが国王から人民に移った。・・・・大統領か首相がこれらの宗教儀式を実行するのが自然だ」と主張する。

両氏のこの発言には,もちろん政治的意図がある。それを分かった上でいうのだが,こうした議論は全くナンセンスだ。政教分離の厳しさが分かっていない。いや,正確には,分かっていても分からない振りをして,愚民観に立ち,こんな幼稚な,しかし政治的には高度な議論をしているのだ。

ここはマオイストに大いに期待している。明日の首相選挙で,大統領選のようなどんでん返しがなければ,プタチャンダ議長が初代首相に選出される。

プラチャンダ議長は勇敢なマオイストであり,当然,一切の宗教儀式への参加は拒否されるはずだ。特に人権蹂躙,少女虐待の象徴クマリには近づきもされないはずだ。グロテスクな迷信の典型,生き神様クマリに女々しく拝跪しなくても,プラチャンダ首相の正統性は人民が保証する。主権はクマリにではなく人民にある。それで十分だ。

マオイスト・イデオロギーが絶対に許さないクマリに拝跪するような,みっともないことを,勇敢プラチャンダ首相がするはずがない。

ところが,マオイストの潔癖さを固く信じつつも,やや不安にさせられたのが,いま話題のミスコンだ。

miss2008

 2.ミス・ネパールとマオイスト
女性の味方マオイストは,ミス・コンテストには一貫して反対してきた。今回の「ミス・ネパール(Dabur Vatik Miss Nepal 2008)」についても,たとえばアムリタ・タパ議員は,こう述べて,開催阻止を訴えた。

「そんなイベントは認めない。新生ネパール連邦民主共和国には,女性を弄ぶようなイベントは不要だ。」ミス・ネパールは「反女性的」「資本主義的」だ。「ミスコンは,知性よりも肉体美が大切という誤ったメッセージを社会に送るものだ。」(AFP,Aug6)

タパ議員のいうとおりだ。タパ同志を熱烈支持する。

 
そもそも,この「ミス・ネパール」は,ダーバー・ネパール社(本社インド)の主催(注)であり,マオイストの反ミスコンには反インドの含意もある。インド大資本が,ネパール女性の身体を見世物として利用し,美容品等の商品を売りつけようとしている。ネパールは,あくどいインド資本に,女性も金も掠め取られる,というわけだ。マオイスト女性が怒り反対するのはもっともだ。頑張れ,マオイスト女性同志!
 (注)Mさんより,主催はネパール商工会有志,ダーブル社はスポンサーとご指摘いただきました。訂正します。(2008.8.17)

ところが,だ。8月12日になると,マオイストは一転,裏取引でミスコンを認めることにしたようだ。水着ショーはしない,ネパール文化を重視する,女性活動家らを招待する,ミスコンは8月23日に延期する,ということらしい。(PTI,Aug12; Nepalnewscom,Aug13) 何たる軟弱,人民への裏切りではないか。水着ショーなど,以前からネパールではやっていなかった。

むろん,ネパールのこと,以上の報道がどこまで本当かわからない。しかし,もし23日にミスコンが実施されたなら,大筋では報道通りということになる。そして,もしそうなら,怪しげな裏取引を続けてきた既成諸政党とマオイストは何ら変わらない,ということになる。いや,はるかに悪質だ。

マオイストは,女性に武器を取らせ,女性解放のため多くの血を流させた。それなのに,もし支配者男性の「女の美しさ」概念でネパール女性を洗脳し,身体を見世物にさせ,「美しく」なるための商品を買わせ,インド資本に儲けさせることを目的としたミスコンを容認するなら,マオイストは,ネパール女性を裏切り,その精神も身体も財産も資本家に貢がせたことになってしまう。

まさかそんなことを,世界女性の希望の星ネパール・女性マオイストが許すはずがない。23日には,会場まで飛んでいって,しかとこの目で見定めるつもりだ。

(参考)

 

Written by Tanigawa

2008/08/14 at 13:36

カテゴリー: マオイスト

ネパール性治学試論

谷川昌幸(C)

1.政治学から性治学へ
春が来て回春。関心が「政」から「性」に移った。「性治学」への転進。困った現象だが,自然には逆らえない。

2.インドの性的虐待
ということで,今朝も真っ先に目にとまったのが,この記事。

 「子供の5割 性的虐待 インド実態調査 大半,被害伝えず」
        (朝日新聞,ニューデリー=木暮哲夫,2007.4.14)

記事によれば,インド女性・子供開発省調査で次の事実が判明した。インドでは,5~18歳男女の5割が何らかの性的虐待を受け,2割はレイプやヌード撮影など「深刻な虐待」だという。

とんでもない数字だ。事実とすれば,インド社会は根底から病んでいることになる。そして,これは当然,同じことがネパールでも起こりつつある,あるいは少し遅れて起こる,ということを示唆している。

3.先進国の退行的性ニヒリズム
インド=ネパールの性アナーキーは,先進国のそれとは区別して考える必要がある。たしかにプリモダンとポストモダンの性現象はよく似ており,紙一重の差だ。特に古代では,インド=ネパールに限らず,どこでも性的なものがあふれていた。

 (プリモダン)      (ポストモダン)
 多種多様な女神たち  ミスコン,半裸モデル
 男女性器・交合図像  ポルノ写真
 カーマスートラ      ポルノ動画

しかしその後,西洋ではキリスト教が,日本では儒教が性を抑圧し,性を私的領域に押し込め,そして近代に入ると理性が性から野生を奪い,人々をインポテンツにしてしまった。

だから,西洋や日本で性タブーを解除しても,野生を奪われてしまった性にはもはや暴力的革命性はなく,せいぜい退行的性ニヒリズムが蔓延し,社会をじわじわ根腐れさせていくくらいのことだ。(これを恐れた安倍首相がアナクロ貞操論を唱えているが,ポストモダン・ニヒリズムには勝てるはずがない。)

4.インド=ネパールの破壊的性ニヒリズム
これに対し,インド=ネパールがプリモダンの性タブーを解き,性アナーキーになると,これは恐ろしい。

日常生活の場にあふれている性的なものが,その本来的無拘束性,暴力性,破壊性を解き放たれ,まずはインドに見られるように社会的弱者たる女性や子供への性暴力をもたらし,最悪の場合,社会崩壊をもたらすだろう。インポテンツ西洋人・日本人とは違い,インド=ネパール人はまだまだ元気なのだ。

5.校門横の交合像をどう説明するか
上掲写真の即物的巨大男根や交合像を,隣の小学校や数軒先の私の交流校の生徒たちは毎日見ながら登下校している。

当然,「先生,あれは何?」となる。神のタブーがあれば,「あれは神様。いたずらしてはダメ! 罰が当たりますよ」で,万事OK。

ところが,神のタブーが無くなると,もはやその手は使えない。そもそも人間の性行為など合理的に説明できるわけがなく,いくら説明しても子供は納得せず,ましてや大人は納得しない。

ネパールの性は,タブーを解かれると,攻撃的性ニヒリズムになり,まずは弱者の女性・子供に襲いかかり,悪くすると社会すらも破壊する恐れがある。

6.マオイストと性
この性タブーについては,マオイストは二面性を持つようだ。男根(リンガ)破壊などをやっているらしいが,その反面,性タブーを巧みに利用しているようにも思われる。

マオイストは,一方では,女性解放を唱え人民戦争に女性を大量動員してきた。しかし,人民解放軍の女性比率が高い(40%位?)のをみて,女性の解放・地位向上の実現などとバカなことをいうフェミニストは一人もいないだろう。子供を兵士にすることが子供の解放にならないのと全く同じことだ。(1家族1名の徴兵割り当てがあれば,家族内弱者の女性や子供が人民解放軍に送られるのは当然だ。人民解放軍に女性兵士が多いのは女性解放ゆえではない。)

女性解放のリップサービスの一方,マオイストはどうやら裏口からこっそりと前近代的「封建的」性タブーを引き入れているようだ。もしそうした強力な性タブーがなければ,性衝動最強の青年男女3万余が雑居する人民解放軍は維持できるはずがない。

以上は,もちろん推測にすぎない。マオイストの性についての報告は,管見の限りではまだ見当たらない。

しかし,常識的に見て,男女混成軍で戦争なんかやってられない。人殺しよりもまず恋だ。性管理がはるかに容易なハイテク戦争中心のアメリカ軍ですら,兵士の性問題にはお手上げだ。ましてや人間くさいローテク人民戦争。人民解放軍が秩序を保ち戦ってこれたのは,強力な宗教的「封建的」性タブーを隠し持っているからにちがいない。実証はこれからだが,きっとそうだとにらんでいる。

Written by Tanigawa

2007/04/15 at 13:14

カテゴリー: 文化

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